株式会社オカムラは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを進めるオフィス家具メーカーです。2021年11月にはオフィス製品におけるカーボンオフセットプログラムを開始するとともに、サーキュラーエコノミー(循環経済)の概念に基づいたサーキュラーデザインの考え方を策定し、「製品企画・設計」から「調達」「製造」「販売」「メンテナンス」「再使用」「リサイクル」に至るまでの製品ライフサイクルの中で、限りある資源をより長く有効に使用し、廃棄物の発生を最小化するものづくりを目指しています。

2022年には、独自のリサイクルインフラを確立し、使用済みの製品を回収・分別して新たな製品の材料の一部として使用した循環型の製品の開発をする「Re:birth(リバース)」プロジェクトを開始したオカムラ。サーキュラーデザインを策定した理由や今後の展望について、執行役員 オフィス環境事業本部 マーケティング本部長の眞田弘行(さなだ・ひろゆき)さんにお話を伺いました。

Re:birthプロジェクトのリサイクル脚を使用したサーキュラーモデルをラインアップしたタスクシーティング「Potam(ポータム)」

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、循環型ビジネス構築を加速

──なぜ、そしていつ頃から循環型のビジネスモデルに着目されたのでしょうか。

2020年、日本政府が「2050年にカーボンニュートラルを目指す」と宣言したのが大きなきっかけです。政府が方針を示すことによって、メディアを通じて地球温暖化の問題が広く報道されるようになりました。そのことが製品開発を行う私たちにとても大きな影響を与えました。

以前からサーキュラーデザインの話は海外では広く話題になっていましたが、日本にはなかなか馴染まなかったのではないかと思っています。特にオフィス家具に関しては耐用年数が長いので、循環型にしていこうと思っても1回売ると10年間くらいは戻ってきません。しかし、2050年というある程度長いスパンでの数値目標ができたことによって、今動かなければ目標には届かないことがはっきりしたと思います。

──サーキュラーデザインを策定する以前から、環境に対する取り組みを行なっていたのですか?

はい。私たちはもともと、1997年にできたグリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)に則って製品開発を行ってきました。

グリーン購入法は法律ですから、購入に際して基準となる数値があります。ISOマネジメントシステム規格を取得する企業が増え始めた当時、設計に関わる部分はISO9000、環境に関わる部分はISO14000をベースに基準を設け、社内審査を経てマーケットに出すというプロセスを踏んでいました。

その中でオカムラとして、環境に関するマネージメントをする部門ができました。そこでは、オフィス家具の企業としてオカムラ独自の活動を行っていくため、GREEN(環境配慮)のWAVE(波)を自ら起こし、その波に乗るという考え方を取り入れていました。そして1997年に「GREEN WAVE(グリーンウェーブ)」という活動を始め、オカムラ独自の製品に関する環境基準を策定し、早い段階から環境配慮型製品の開発に取り組んできました。

GREEN WAVEは、単に法律にものを合わせていくことではありません。有機溶剤など害になる可能性があるものの使用を控え積極的に再生材料を使っていくことで、お客様に安全で安心なものを届けよう、という想いから始まりました。それは今も変わりません。

1997年より「GREEN WAVE」の活動を行なっている

──オフィスという、人が集まる場所づくりだからこその目線があるのですね。

はい。オフィスそのものに関する法律ではないのですが、たとえば学校に対してはより厳しい条件があります。当社はオフィス家具を製造販売していますが、お客様には教育機関の方もいらっしゃるため、非常に高い管理基準を設けているという背景があります。

──大企業の場合、サプライチェーン排出量のScope3(※)、つまりエネルギーだけではなく、家具調達のCO2も見ていかなければいけないと思います。そういったご要望も2020年以降増えているのでしょうか?

とても多いです。特に、2022年にプライム市場ができたことによる影響が大きいと感じています。Scope3に関して、今までははっきりさせなくてもよかったのですが、プライム市場にいる企業はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に則って物品の購入に関する数値と目標を出さなければなりません。

オフィスで必要な買い物のうち、オフィス家具が占める割合はとても大きいです。そして、金額が大きいだけではなくCO2排出量も多くなることにも気づいている方が多くいらっしゃいます。私たちもそれを踏まえて取り組みを行っています。

※サプライチェーン排出量
事業者自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を指す。つまり、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量のこと。
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
出典:グリーン・バリューチューンプラットフォーム|環境省

サーキュラーデザインを策定したことで「なぜサステナブルなのか」が明確になった

──オカムラでは2021年11月に、カーボンオフセットの開始とサーキュラーデザインの策定を発表されていますよね。なぜサーキュラーデザインを策定しようと考えたのでしょうか。

世の中には「脱プラスチック」や「CO2を減らしましょう」といった、環境に関する耳心地の良いワードがたくさんあります。私たちのお客様にも、環境に関する情報を求めている方が多いです。

その中で、たとえばプラスチックを一切使わずにスチールだけで作った家具を作って「脱プラだね」と言っていただいたり、従来に比べて軽い椅子を作って「CO2削減だね」と言っていただいたりしました。

ただ、一つひとつの製品で環境のキーワードで説明ができて、お客様も納得して購入してくださっていても、どうも的を射ていない感じがしていました。というのは、一つの製品の企画段階でその時に思いついたアイデアが通ってしまう部分もあり、製品開発全体のポリシーとして確立されていないという課題があったためです。

サーキュラーデザインを策定したのは、開発、生産、販売の部門も皆、同じポリシーに則って「この製品はここがサーキュラーなんです」「この部品をこう使っています」と言えないと、オカムラがサステナブルな会社だとは言えないのではないか、と思ったことが理由です。

オカムラの「サーキュラーデザイン」思考の概念図

──策定するまでにどのくらい時間をかけましたか。

具体的に動き出したのは2021年の1月頃です。ただ、各担当がアイデアをあたためていたこともあり、私が「こうしたい」と言うと「じゃあ、こういうことはどうですか」と意見を述べてくれるなど、賛同してくれるメンバーが非常に多かったです。

──それ以前から、社員の皆さんに意識が浸透していたのでしょうか?

サーキュラーエコノミーやサーキュラーデザインを調べると、エレン・マッカーサー財団のバタフライダイアグラムが出てきますよね。生物的サイクルにも技術サイクルにも、そのままの図ではオフィス家具はフィットしないのです。

私たちはものづくり企業なので、自分たちがどういうプロセスで物を作っていくか、それをマーケットに出した後にどういう循環をするかといった説明が必要です。オフィス家具の循環があり、オカムラの中でもものづくりの循環があるので、それを反映しないと、お取引先である原材料供給のパートナーにも伝わりません。お客様を含め、関係する皆様に一目で製品がどこで、どういうプロセスでできたかを理解していただける形を目指しました。

東京都千代田区にあるオカムラ ガーデンコートショールームの様子。最近ではよりオフィスの快適さを求める企業も多いという

──サーキュラーデザインを策定されて、社内全体で理解を深めるために工夫したことはありますか?

社内での勉強会を相当の時間行いました。

他社と家具の性能や価格で戦う部分はありますが、オカムラが大事にしていることを発信しきれないままに価格で勝負してしまうと、せっかくの製品価値が伝わりません。「お客様の中には製品価値を求めている人がたくさんいるはずだから、適切な説明をしましょう」と、全社で勉強し理解を深めました。

特に「サステナビリティ、SDGs、CSR、ESGという4つの言葉の最上位にサステナビリティがある」という考えのもとにオカムラが提案する家具の説明ができるよう、とても時間をかけています。また、開発側は「世の中はこの方向に向かっているから、こうしてほしい」という大義があるのですが、最前線にいる営業は短期的なビジネス思考になりがちなところがあるので、両者の考え方を混ぜ合わせないように工夫しました。

2021年にサーキュラーデザイン思考について発表した段階ではまだ説明が十分ではない部分もあったと思うのですが、そこから1年かけて勉強をしてきました。新しい図を出した今、皆が自信を持って営業している姿は本当に素晴らしいなと思います。

──策定後、お客様の反応は変わりましたか。

多くの反応がありました。それまでにも私たちのことを知ってくださっている方はいたのですが、改めてどんな取り組みによって製品が生まれているかを具体的に理解していただく機会になったと感じています。

たとえば「脱プラ」と謳っていても、「隣にプラスチックを使っている製品があるじゃないか」と言われてしまうのです。これまでは、それに対する返答が難しかったのですが、サーキュラーデザインを定めたことによって「これはプラスチックを使っているけれど、循環型の材料を使っています」と伝えることができるようになりました。

他方、グリーン購入法だけではどうしてもフィットしない循環プロセスもあります。たとえば、「ポストコンシューマー」と言われるように、一度外に出た製品を再び購入する場合には適用されるのですが、社内で出た不用品や余ったものを購入する場合はカウントされません。しかし、社内で出たロスを原料化して再利用することも、世の中全体で見れば非常にいい取り組みのはずです。

それを体現する枠組みはまだないのですが、オカムラではきちんと示していく方針です。それによって、日本に自社工場を持って材料の管理からものづくりに携わっていることが伝わり、安全安心な製品であることをお客様へ訴求する機会にもなっていると思います。

バイオマスプラスチックと3Dプリンターを使った「Up-Ring(アップリング)」の製品。ショールームでは原料と製造プロセスが展示されている

──サーキュラーデザインの中で、一口に「サステナビリティ」と言ってもCO2削減や再生素材など色々な選択肢があると思います。オカムラの中で調達の考え方や優先順位はあるのでしょうか。

一番はCO2削減です。当社も2050年のカーボンニュートラル宣言をしており、その過程である2030年に向けては2020年比で半分という数字目標を出しています。私たちの製品ユーザーには同じ目標を持っている方も多くいますので、共に貢献できるような材料を選定することが求められていると思っています。

もう一つは、枯渇原料かどうかです。有限資源からできたプラスチックをいかに長く使い続けるかは、次の世代に向けて確実に取り組んでいかなければいけない課題です。脱プラも一つの策ではありますが、やはりこれまでの生活を支えてくれているプラスチックというものの優位性は続くと思いますので、いかにしてリソースを保っていくかを考えています。

資源が枯渇してきたら、もちろんコストが上がってきますから、枯渇資源に由来した製品開発や生産は長続きしないと予測されます。当社もたくさんの製品をマーケットに出しますから、廃棄や循環してきたものをシュレッダーにかけて燃料にすることをやめて、代わりに自分たちの材料にすることによって、ユーザーにご満足いただける製品を出すことができます。なおかつその供給範囲が広いことは重要です。たとえば100個しかない商品なら個人単位になってしまいますが、1万台あれば色々な日本のオフィスが使いやすく、働きやすくもなりながら、かつ経済合理性のある製品ができると思います。

化石燃料が今後どうなるかはとても気になっています。循環させることもありますし、バイオ由来のバイオマスプラスチックの利用にも取り組んでいかなければいけないということで、2021年に実験的にバイオマスプラスチックと3Dプリンターを使った「Up-Ring(アップリング)」というプロジェクトで製品をつくりました。世の中に出ている環境に関連したワードは一通り導入してみて、市場に出せる強度や基準をクリアしたものをマーケットでご紹介するという形を取っています。

自社の物流網を活用。一社だけでは実現できない循環の輪を取引先とともにつなぐ

──Re:birthプロジェクトについて、どういった取り組みをされているか教えてください。

まさに「リバース=再生する」で、部品を材料に戻すプロジェクトです。2021年にサーキュラーデザイン策定を発表した時点では、実は一番外側に書いた円が途中から点線になっていて、まだ実現できていない状態でした。

オカムラが2021年にサーキュラーデザインの策定を発表したときの図。一番外側の「リサイクル」が点線になっている

なぜここが点線だったかというと、私たちは加工メーカーで原材料を作っているわけではないので、どうしても原材料を作るメーカーとコラボレーションしないと実線には行きつかないのです。

家具の材料で一番多いのは鉄(スチール)です。非鉄金属でいうとアルミが多くて、次にプラスチック樹脂や張り材、あとはテーブルに使う木材が主な使用材料になります。

鉄とアルミは既にインフラがあり、色々な分別方法で世の中に還元されますが、プラスチックや張り材は、私たちが自ら動かない限り循環しないのです。端材にシュレッダーをかけて細かくしたものを固めてサーマルリサイクルするのですが、プラスチックはプラスチックに戻して使いたいというのがプロジェクトの本質的な望みです。そこで今年はパートナーを見つけて、私たちが自社製品として使ったものをお渡ししてもう一度材料として使う仕組みを整えました。その第一弾がタスクシーティング「Potam(ポータム)」に使った脚です。

私たちは法人向けの販売がメインのため、一度販売した製品が廃棄になる場合は、自社の物流網を使って私たち自身がそれらを引き取ることが可能です。それが今回のRe:birthプロジェクトにおいても優位な条件になっています。その強みによってプロジェクトを実現できたことに、オカムラの力を感じました。

環境面にも機能面にも配慮した「Potam」

──ポータムのような商品は、通常の新製品よりも開発のコストは多くかかっているのでしょうか。

大きくは変わりません。むしろ既存品に対して新しい材料を使おうとする方が手間がかかります。品質や価格など、色々な条件設定が出てくるためです。

新製品の場合、初めに材料はこれを使う、と決めて設計やデザインをするのでアプローチが早く確実だと思います。マーケットに出すと「旧型の製品はないのか」と過去の製品に言及されることもあるのですが、それは宿命のようなものです。エココンシャスなお客様に製品を届けられるよう、実現できるアイデアはどんどん取り入れて新製品にしていこうと考えています。

椅子に座ったときに体重を支えるのは椅子の脚部分で材料として一番強度が要るところですが、ポータムはそんな脚部分がリサイクル素材です。安全安心な製品を作るためには、技術的に強度を出すことが一番難しい脚をクリアしないと次の段階には行けないと思っていました。ほかの部品も決して簡単ではありませんが、お客様が最も気にする部分から改良することによって、私たちも製品に自信が持てるのです。

オフィスチェアとして使用済みの樹脂脚を回収し、分別・粉砕を経て、再び新たな樹脂脚として生まれ変わったリサイクル脚

── 一番難しい部分から取り組まれたというのはすごいですね。

そこはメーカーである私たちが最も力を出せるところです。もともとプラスチックも私たちが欲しいものを化学メーカーに依頼して作っていただいてることもあるので、どうすれば実現できるか、ある程度の予想はできました。少し時間はかかりましたが、使用するプラスチック材料について理解を深めて、各メーカーに「この椅子のこの形なら、こういうものが必要」と具体的に伝えられた点も大きかったと思います。

家具はもっとサステナブルになる。様々なプロジェクトで可能性を広げていきたい

──サーキュラーエコノミーを実現するにあたって、感じている課題はありますか。

「家具はもっとサステナブルな製品になる」ということを広く理解をしていただくことが、私が今考える一番大きな課題です。基本的にオフィス家具ビジネスは法人向けが主体なので、家具にどういう材料を使っているかやマーケットの仕組みを知らない方が多いです。

広く知っていただくため、2022年には伊藤忠商事が主体で行っている「RENU®(レニュー)」プロジェクトに参画しました。アパレル産業で出る色々なロスをもう一度原料から糸にするというプロセスで、当社の工場で出る椅子の張り材の端材も使っていただいたり、オフィス家具に廃材を使っていたりすることもアピールしています。

このように、他の産業が行っているプロジェクトにも積極的に参加していき、世の中の材料を循環させる手助けになれたらいいと思っています。

──今後、目指していることを教えてください。

色々な材料が市場に出てきてそれらを循環させようという時に、私たちが出口戦略のひとつになりたいです。オカムラの活動についてお客さまにご説明をすると「オフィス家具って、こんなにたくさん材料を使うんですね」と言っていただくことが多いです。まだ一般に知られていないことをアピールしていかなければいけないと思います。

もちろん普段のビジネスでは同業との競争がありますが、業界全体でタッグを組んで進めなればいけないこともあるはずです。まだそこまで至っていないのが現実なので、2050年に向けて歩調を合わせていきたいです。

編集後記

2021年からサーキュラーデザインの策定や再生可能エネルギーへの切り替え、未利用材の活用や環境認証の取得など、サーキュラーエコノミーに関連するお知らせを続々と出していたオカムラ。今回お話を伺って、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略の策定やプライム市場ができたことによる影響など、改めて経済と環境が密接につながっていると実感しました。

オカムラさんのサーキュラーデザイン策定のストーリーで印象的だったのが、最初は点線だった循環の輪が、1年間の取り組みのなかでパートナーを見つけ、実線でつながったというお話。サーキュラーエコノミーの実践においてパートナーシップは重要な鍵を握ることはもちろん、自社が持っている技術やインフラ、今できていることとできていないことを整理し、認識することが次の一歩につながるのだと感じました。

法人向けのビジネスは一般消費者に広く知られる機会は少ないかもしれませんが、オフィス家具のように取引の規模が大きいBtoB企業や業界に目を向け、「もっとサステナブルになる」という可能性や選択肢をより多くの人が知るようになることが、サーキュラーエコノミーの実現に近づくヒントのように思います。

本記事を読んで、「自社で使ってもらいたい素材がある」「オフィス環境をもっとサステナブルにしたい」と感じた方は、まずはオカムラのWebサイトを見て、お問い合わせをしてみてはいかがでしょうか。新たなパートナーシップと循環の輪がそこから生まれるかもしれません。

【参照サイト】株式会社オカムラ
【参照サイト】GREEN WAVE
【参照サイト】RENU®Project
【参照サイト】環境省 グリーン・バリューチューンプラットフォーム
【参照記事】環境面と機能面に配慮した新しいスタンダードとなるタスクシーティング「Potam(ポータム)」を発売
【関連記事】オカムラ、「サーキュラーデザイン」を策定しカーボンオフセットプログラムを開始
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※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Yokohama」からの転載記事となります。