EU理事会と欧州議会は12月12日、自動車の設計における循環性要件および使用済み自動車(ELV)の管理に関する新たな規則案について、暫定合意に達した。
本規則案は、2023年7月に欧州委員会が提案していたもので、今回の合意により、自動車産業をサーキュラーエコノミーへ移行させるための法的枠組みがほぼ固まった。新車設計から廃棄時の処理に至るライフサイクル全体を対象とし、特にプラスチック部品における再生材の使用義務化や、年間数百万台に上る「行方不明車両」問題への対処について、具体的な導入スケジュールと厳格な要件がほぼ定まった。
段階的な導入スケジュールと「クローズドループ」
今回の合意における最大の焦点は、新車に使用されるプラスチックへの再生材含有率(リサイクル材使用率)について、具体的な達成期限と数値目標が確定した点だ。欧州委員会の提案段階から議論されていた「25%」という目標に対し、合意文書では業界の準備期間を考慮した以下の段階的な導入スケジュールが正式に設定された。
- 施行から6年後:15%
- 施行から10年後:25%
暫定合意では、目標達成のために使用される再生プラスチックのうち、最低でも20%は「クローズドループリサイクル(使用済み自動車から回収された材料)」由来でなければならないと規定された。
欧州委員会は、規則発効から1年以内に完了する実現可能性調査に基づき、将来的には鉄鋼、アルミニウム、マグネシウム、および重要原材料(CRM)についても同様の再生材含有目標を設定する権限を持つことで合意した。再生材は、市場で使用された後に回収されたPCR(ポストコンシューマーリサイクル)材の使用に焦点を当てられるとした。
トラック・二輪車も対象に
新規則の適用範囲については、当初の議論よりも対象が拡大される形で合意に至った。従来の乗用車や小型商用車に加え、トラックなどの大型車両、オートバイ、特殊車両も、回収や有害物質除去、部品の取り外し義務の対象となる(一部の小規模メーカーを除く)。
「抜け穴」を塞ぐ厳格な運用
また、EU域内では毎年約350万台の車両が行方不明となり、違法に解体されたり輸出されたりしている問題に対処するため、トレーサビリティ(追跡可能性)と輸出規制の強化策も具体化した。
- ELV認定基準の明確化:車両が「廃棄物(ELV)」とみなされる基準を厳格化し、廃棄物基準を満たす車両の輸出や中古車としての再販を禁止する。
- 所有権移転の管理:個人間の売買であっても、保険会社による全損判定が出ている場合や、実車の引き渡しを伴わないオンライン取引など、行方不明リスクが高いケースでは文書化を義務付ける。
- 輸出規制の開始時期:走行不可能な中古車のEU域外への輸出禁止措置については、規則発効の5年後から適用される。
拡大生産者責任(EPR)の強化
生産者に対し、車両のライフサイクル全体にわたる財政的・組織的責任を負わせる「拡大生産者責任(EPR)」も強化される。生産者は、ELVの無料回収や適切な処理を保証する義務を負うほか、EU単一市場内での機能を確保するため、車両がどの加盟国で寿命を迎えたかにかかわらず責任を負うクロスボーダーEPRメカニズムが導入される。
デンマークのマグヌス・ホイニッケ環境大臣は、今回の合意について次のように述べている。
「この暫定合意は、欧州自動車産業のサーキュラーエコノミー移行に向けた重要な一歩だ。抜け穴を塞ぎ、貴重な資源をEU経済圏内に留めると同時に、汚染源となる走行不能車の第三国への輸出を抑制する強固な枠組みに合意できた。新規則は、持続可能な設計におけるイノベーションを加速させ、より強力でクリーンな素材・部品市場を創出するだろう」
背景:自動車産業の資源消費とリサイクルの現状
EUでは毎年600万台以上の自動車が寿命を迎え、廃棄物として処理されている。自動車産業はEU内で最も資源集約的な産業の一つであり、鉄鋼(年間700万トン以上)、アルミニウム(約200万トン)、銅、プラスチック(600万トン)の主要な消費部門だ。
- 既存の規制により、ELVからの金属回収率は比較的高く、全体のリサイクル率は重量ベースで約85%に達している。しかし、その多くはシュレッダー処理による低品質な金属スクラップとしての回収に留まっており、高度な選別や高付加価値なリサイクルは不十分だった。特にプラスチックに関しては、ELVからのリサイクル率はわずか19%に留まっており、今回の新規則による「クローズドループ」要件の導入は、この状況を打破し、素材の質を維持したまま循環させる高度なリサイクル技術への投資を促すものとなる。
今後、この暫定合意はEU理事会および欧州議会での正式な承認を経て採択され、発効から2年後に適用が開始される予定だ。
【参照記事】
- Circular economy: Council and Parliament strike deal on rules for vehicle circularity and management of end-of-life vehicles (EU理事会)
- Circular economy: deal on new EU rules for the automotive sector(欧州議会)
- Moving towards a more circular automotive sector with agreement on end-of-life vehicles*(欧州委員会)





