世界経済フォーラム(WEF)主催のオンライン会合「ダボス・アジェンダ」が1月29日に閉幕した。同会合の開催前に発表された「グローバルリスク報告書2021年版」を改めて見ていきたい。
「グローバルリスク報告書」は、同フォーラムに加盟する650名以上のメンバーからの意見をもとに作成。第16版となる2021年版は、世界的なパンデミックや景気後退、政治的混乱、そして悪化の一途をたどる気候危機に見舞われた1年を振り返り、各国や企業がどのように行動できるかを探っている。
この一年間にリスクの面で大きな変化があったのは、やはり新型コロナウイルス感染症拡大だ。2020年に感染症は「影響が大きいグローバルリスク」の10位に位置付けられていたが、今回はトップとなった。
下記は、「発生の可能性が高いグローバルリスク」と「影響が大きいグローバルリスク」の上位10位である。
発生の可能性が高いグローバルリスク
- 異常気象
- 気候変動の適応の失敗
- 人為的な環境破壊
- 感染症
- 生物多様性の損失
- デジタルパワーの集中
- デジタル格差
- 国家間関係の崩壊
- サイバーセキュリティの失敗
- 生活破綻
影響が大きいグローバルリスク
- 感染症
- 気候変動の適応の失敗
- 大量破壊兵器
- 生物多様性の損失
- 天然資源の危機
- 人為的な環境破壊
- 生活破綻
- 異常気象
- 債務危機
- ITインフラの機能停止
世界経済は新型コロナ危機の影響で脅かされたが、地政学的な安定性も今後5年から10年の間に極めて脆弱なものとなると同フォーラムは予想する。環境リスクは引き続き脅威と捉えられ、今年の報告書では、可能性と影響度で上位のリスクとなっている。
新型コロナがもたらした社会的・経済的コスト
新型コロナウイルス感染症拡大による直接的な社会的・経済的コストは深刻である。世界の貧困と不平等の是正に向けた長年の進歩を後退させ、社会的結束と国際協力をさらに損なわせる恐れがあるという。
新型コロナは、広範囲にわたって人命を失わせただけでなく、世界の最貧地域の一部で経済発展を妨げ、社会格差を増幅させた。同時に、パンデミックとの戦いが、麻疹ワクチン接種プログラムの中断を含む、他の重要な健康課題に注力することを難しくしている。
しかし、新型コロナによる不可避な影響にもかかわらず、今年のリスクの大部分を占めるのは気候関連の問題であり、報告書は「人類にとって存続に関わる脅威」と捉えている。ロックダウンや貿易・旅行の低迷によってCO2排出量は減少しているものの、経済が回復し始めると排出量が急増することを危惧している。
今後2年以内に起こりそうな短期的な脅威としては、感染症・生活破綻・デジタル格差、若者の失望などだ。今後3~5年の中期的なリスクとしては、資産バブルの崩壊、ITインフラの機能停止、物価の不安定化、債務危機などが挙げられている。長期的には、大量破壊兵器や国家の崩壊、生物多様性の喪失、技術進歩の弊害などの懸念があるとした。
これらに加え報告書は、リストアップされたリスクと並行して、新型コロナへの対応から学び、世界のレジリエンスを強化するための教訓を導き出している。
その中には、分析枠組みの策定や新たなパートナーシップの構築、明確で一貫性のあるコミュニケーションを通じた信頼構築が含まれる。また、国や企業がリスクに直面した際に、ただ反応するのではなく、行動を促すための提言も記載されている。
【参照記事】These are the world’s greatest threats in 2021
【参照レポート】The Global Risks Report 2021