高分子学会の専門研究会として、環境に配慮した高分子素材の合成とリサイクルのあり方を探求するグリーンケミストリー研究会(運営委員長:佐々木大輔氏)は3月5日、産総研臨海副都心センターにて「アパレル業界のサーキュラーエコノミー ~サスティナブルファッション~」と題した講演会を実施した。

ファッション産業がもたらす「大量生産・大量消費・大量廃棄」の環境負荷が世界的な課題となる中、本研究会では、政府、繊維メーカー、アパレル企業、リサイクル業者、そして生活者支援団体という、動脈から静脈に至る様々な立場の専門家が登壇。それぞれの現状と課題、最新の取り組みが共有され、サステナブルファッションの実現に向けた活発な議論が交わされた。

持続可能なファッションに向けた国の指針とアクションプラン

まず、環境省 環境再生・資源循環局の村井辰太朗氏が、日本における衣類廃棄の現状と、国が主導するサーキュラーエコノミーへの移行施策について解説した。

村井氏
環境省 環境再生・資源循環局 村井辰太朗氏

日本の衣料品のライフサイクル全体で年間9,500万トンのCO2が排出され、2024年の調査では国内新規供給量82.2万トンのうち、約7割にあたる55.8万トンが未利用のまま廃棄処理されているという厳しい現状が報告された。これに対し政府は、2024年8月閣議決定の「第五次循環型社会形成推進基本計画」において、2030年度までに家庭から廃棄される衣類量を2020年度比で25%削減する目標を掲げている。

村井氏は、回収から再生、設計、販売に至る各段階での政策を推進するとともに、生活者への意識変容を促す重要性を強調。2026年1月には家庭での衣類廃棄削減に向けた「循環型ファッション推進アクションプラン」の素案を公表しており、全国どこでも衣類を分けて出せる回収システムの整備や、長く使える仕組みづくりなど、関係省庁と連携した強力な推進を誓った。

「繊維 to 繊維」の資源循環。複合素材分離への挑戦

続いて、帝人フロンティア株式会社 技術・生産本部の重村幸弘氏が、繊維メーカーの視点から「繊維 to 繊維」のリサイクル技術と課題について紹介した。

重村氏
帝人フロンティア株式会社 技術・生産本部 重村幸弘氏

同社は1995年より使用済みペットボトルを原料とした「ECOPET®」を展開し、2000年からは使用済み衣料を用いたケミカルリサイクル技術を牽引してきた。しかし、欧州の環境規制(ESPR等)が厳格化する中、日本の繊維産業が国際競争力を保つためには、従来技術だけでは限界があるという。

最大の壁は、現在流通している衣料品の70%以上が「2種類以上の繊維が混紡された複合素材」である点だ。単一素材のリサイクル技術だけでは循環システムは確立できない。そこで同社は、東レや日本毛織など国内の繊維メーカーと連携し、新たなコンソーシアム「Consortium for Fiber to Fiber」を設立。地球環境産業技術研究機構(RITE)とも協働し、ケミカル、メカニカル、さらにバイオ技術を導入した複合素材の分離技術開発に「オールジャパン」で挑んでいることを明かした。

店舗を拠点とした衣類回収と、服から広がる社会貢献

次に、青山商事株式会社 ESG推進・コーポレート本部長の長谷部道丈氏が、全国700以上の店舗網を活かしたリサイクルプロジェクト「WEAR SHiFT(ウエアシフト)」の取り組みについて語った。

長谷部氏
青山商事株式会社 ESG推進・コーポレート本部長 長谷部道丈氏

同社は1998年という早期から下取り・不要衣類の回収活動を継続している。最大の特徴は「自社ブランド以外の衣類も回収する」という点だ。2024年度の回収量は約347トンに達し、その99%がリユース・リサイクルされている。

一方で、長谷部氏によれば回収した衣類を「服から服へ」と水平リサイクル(ウールのコートやスーツ等への再生)できている割合は、まだ全体の数%に留まるという。残りの多くは、自動車の内装材や荷物の緩衝材、あるいは「防災毛布」への作り変えといったカスケードリサイクル(ダウンサイクル)が現状の重要な受け皿となっている。

同社はこうした実情と向き合いながらも、作製した防災毛布を物資が届きにくい離島や遠隔地の自治体へ寄贈したり、衣類の回収量に応じた寄付で「AOYAMAの森」を通じた森林保全活動を行うなど、現状のリサイクルスキームを社会貢献に結びつける活動を展開。これらの継続的な取り組みが評価され、グッドライフアワード「環境大臣賞 優秀賞」を受賞した経緯が紹介された。

創業92年のリサイクラーが語る、古着回収のリアルと仕組みの再設計

続いて、ナカノ株式会社 取締役の藤田修司氏が登壇し、静脈産業の最前線から、衣料品リサイクルの現状と課題を浮き彫りにした。

藤田氏
ナカノ株式会社 取締役 藤田修司氏

1934年創業、古着・古布の選別から輸出までを手掛ける同社。藤田氏は、戦前から続く日本の繊維リサイクルの歴史を紐解きながら、現代の厳しい実情を語った。現在、日本の不要衣料約130万トンのうちリサイクルされるのは約30%にすぎない。ファストファッションの普及により衣類の単価が下がる一方で複合素材化が進み、再資源化のコストを吸収できなくなっていること、また海外への古着輸出も需要と品質のミスマッチにより限界を迎えつつあることが指摘された。

藤田氏は、古着を反毛して手袋などに再生する自社の「よみがえり」シリーズなどを紹介しつつ、回収現場の切実な課題を訴えた。現在、回収された衣類の選別は人の手と感覚に頼らざるを得ず、複合素材化が進む中でリサイクル原料としての分別は困難を極めている。さらに、従来のウエスや反毛といった用途はすでに頭打ちとなっており、「ただ回収量を増やすだけでは、出口がなくあぶれてしまう」と強い危機感を提示。先進技術による「第4、第5の出口」の創出に向けた、新たな協働の必要性を強調した。

生活者を「循環の担い手」へ

最後に登壇したのは、一般社団法人unistepsの鎌田安里紗氏。生活者とファッション産業の橋渡しを行う立場から、消費者の行動変容とサプライチェーンの透明化について提言を行った。

鎌田氏
一般社団法人unisteps 鎌田安里紗氏

鎌田氏は、現代の衣服の平均使用期間が短縮し、「たくさん服を持っているのに着たい服がない」という消費者の心理状態を指摘。循環型ファッションへの移行には、技術や制度だけでなく、生活者の選択や使用のあり方が鍵を握ると語った。

unistepsでは、製造にかかわるすべての工程と関わった人々を実名で記載した「長いタグのTシャツ」の展示や、実際の縫製工場、そしてナカノ株式会社のような古着選別工場を訪れるフィールドトリップを実施している。回収ボックスに入れた服がその後どうなるのか、その解像度を上げることで、生活者は単なる「啓発される対象」から、設計・生産・流通と並ぶ「循環システムの重要な構成要素(担い手)」へと変わる。鎌田氏は、特定の誰かに責任を押し付けるのではなく、情報をオープンにし、企業と生活者が「複数人で服の寿命を繋いでいく」関係性を築くことこそが、サーキュラーエコノミー実装の鍵であると締めくくった。

アパレル産業の循環に必要な「面」でのアプローチ

今回のグリーンケミストリー研究会を通して浮き彫りになったのは、アパレル業界におけるサーキュラーエコノミーは、単一の画期的な技術や、一企業の努力だけでは決して成し遂げられないという事実だ。

環境省が描く政策のガイドライン、帝人フロンティアが挑む素材の分離技術、青山商事が提供する回収インフラ、ナカノが挑み続ける衣類分別・リサイクル、そしてunistepsが促す生活者の意識変容。動脈と静脈、そして生活者が分断されることなく、すべてのステークホルダーが役割を認識し、連携する「面」としてのエコシステム設計が急務となっている。

技術、制度、ビジネスモデル、そして生活者のライフスタイルが相互に連動する、サステナブルなファッション産業の未来に向けた共創の歩みが、確かな熱量とともに感じられる研究会であった。

【参照サイト】グリーンケミストリー研究会
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