高分子学会の専門研究会として、環境に配慮した高分子素材の合成とリサイクルのあり方を探求するグリーンケミストリー研究会(運営委員長:株式会社三栄興業 佐々木大輔氏)は、2月27日、東京都立産業技術研究センターにて「サーキュラーエコノミーの最前線」と題した講演会を実施した。プラスチックに関連するサーキュラーエコノミーについて、研究機関、民間企業、政府関係者など様々な立場の登壇者が、国内外の事例や個々の取り組みを紹介した。日本化学会、プラスチックリサイクル化学研究会、廃棄物資源循環学会、高分子学会サーキュラーエコノミー研究グループの協賛を受けて実施され、高分子に携わる企業や研究機関を中心に、80名超が参加した。

サーキュラーエコノミーの実現に向けて、中小企業の参画を促すために

まず、東京都立産業技術研究センターの瓦田研介氏が、同センターが展開する「サーキュラーエコノミーへの転換支援事業」について紹介した。

東京都立産業技術研究センター 瓦田研介氏
東京都立産業技術研究センター 瓦田研介氏

同センターでは、サーキュラーエコノミーの実現に向けては様々な主体の参画が不可欠であるにもかかわらず、中小企業の参画が限定的であることをふまえ、2023年度から中小企業の育成を目的に当事業を展開している。当事業では「食品ロス」と「プラスチック」を重点分野と位置付け、それらの現状の課題を掘り下げるとともに、これまでに顕在化した課題解決策と具体的な技術開発テーマを一覧にまとめた。中小企業が技術開発テーマを検討する際の指標として活用されることを目的としている。

サーキュラーエコノミーへの転換に向けた技術開発例マップ
サーキュラーエコノミーへの転換に向けた技術開発例マップ(東京都立産業技術研究センター)

同センターはさらに、昨年7月より公募型共同研究を開始し、2024年度は「アップサイクル3Dプリンタの研究開発」(株式会社ExtraBold)および「高機能樹脂のクローズドループ・リサイクル技術の開発」(三和テクノロジーズ株式会社)の2テーマ、2025年度は「廃棄酒粕の原料開発」(ICS-net株式会社)、「PETバンドのマテリアルリサイクル技術開発」(グリーンプラ株式会社)、「廃プラの利用を促進する大容量溶融器の実用開発」(センチュリーイノヴェーション株式会社)の3テーマを採択した。採択企業と同センターが共同研究として技術開発を分担し、製品化・事業化を目指しているという。

マイクロ波によるポリエステルの分解リサイクル研究

続いて、崇城大学工学部ナノサイエンス学科教授の池永和敏氏が、「マイクロ波によるポリエステルの分解リサイクル研究」について紹介した。

崇城大学工学部ナノサイエンス学科教授 池永和敏氏
崇城大学工学部ナノサイエンス学科教授 池永和敏氏

有機ケイ素化合物の研究を行っていた池永氏は、マイクロ波の有機合成に関する論文を偶然読んだことをきっかけに、電子レンジを活用してのPETの化学分解やポリエステル樹脂の分解にのめり込む。その結果、マイクロ波を用いることで、材料内部から直接分子を加熱でき、反応が短時間かつ均一に進行することが確認できたという。特に注目すべきは、ガラス繊維強化プラスチックなどの分解にも応用可能である点で、「非常に綿密に重なっている樹脂の層に溶媒分子が浸透することで、エステル交換が可能になる。反応がうまくいかないときは、樹脂が残ることもあるが、マイクロ波加熱と圧力制御を適切に組み合わせることで、回収効率を高められる」と述べた。

さらに、現在検討・研究が進められている具体的な活用事例についても言及があった。たとえば、近年廃棄量が増加している不織布マスクに含まれるポリプロピレンのリサイクルや、風力発電のブレードに使用されているガラス繊維強化樹脂の分解処理への応用が期待されているという。いずれも通常のリサイクルでは処理が難しい複合材料であるが、マイクロ波と溶媒、加圧を組み合わせたプロセスによって分解が可能となる可能性がある。

「ボトル to ボトル」から「プラ to プラ」への挑戦

続いて登壇したのは、サントリーホールディングスの横井恒彦氏。同社が直近10年注力してきた、ペットボトルをもう一度ペットボトルに戻すマテリアルリサイクル技術「ボトル to ボトル」の普及促進に関する取り組みとともに、同社の最新の取り組みを紹介した。

サントリーホールディングス 横井恒彦氏
サントリーホールディングス 横井恒彦氏

同社は、2030年までに同社製品を100%サステナブルボトルに切り替えることを宣言している。すでに「ボトル to ボトル」の取り組みにより、2024年度時点で国内の同社ペットボトルのうち100%リサイクル材が半数を占めるに至っているが、「ボトル to ボトル」の取り組みのみではリサイクル工程のロスが発生するため、2030年目標を達成できない。そこで現在同社が注力しているのが、植物由来素材の開発、および使用済み混合プラをペットボトルに再生させる「プラ to プラ」の新技術開発である。

植物由来素材の開発としては、ペットボトル原料の7割を占めるテレフタル酸を間伐木材由来のセルロース成分から作るバイオPET技術の開発を支援し、商業化まであと一歩の段階となっている。「プラ to プラ」はこのバイオPET技術を応用したものであり、同社が発起人となり2020年に発足した企業連合体アールプラスジャパン社によって開発を支援してきた。この技術では、紙ラベル・アルミ箔・食品残渣などが付着しているが故に焼却に回されてきた使用済プラスチックをも、ペットボトルへと再生させることができる。

技術の普及に向けては、「使用済プラスチックを適切に回収するしくみ」「回収されたプラスチックを有効に再資源化できる技術」「再資源化された技術が価格・品質・量の観点から需要を満たすこと」の3点が重要とし、資源回収に関しては「当社がこれまで『ボトル to ボトル』で築いてきた資源回収のネットワークを、今後は『プラ to プラ』へと展開していきたい」と話した。

複合プラスチックの再資源化技術で使用済みプラを循環させる

続いて、株式会社esa代表取締役・黒川周子氏が、同社が開発した複合プラスチックの再資源化技術「Repla®」の概要と、スタートアップとしての挑戦を紹介した。

株式会社esa代表取締役・黒川周子氏
株式会社esa代表取締役・黒川周子氏

複合プラスチックは、素材が多層構造になっていたり、異種素材が接着されていたりすることから、従来は焼却や埋立てに頼らざるを得なかった。一方、esaが手がける「Repla®」は、そうした廃棄対象となってきた複合プラスチックをわずか20分で再生プラスチックへと変換する画期的なプロセスを有している。黒川氏は、「回収した複合プラを私たちの技術で再生樹脂化し、新たな製品づくりにつなげる“循環のインフラ”を築いている」と語った。

さらに、具体的な活用例として、Replaが車椅子メーカーの部材の一部に採用された事例などを紹介。創業当初から、都内自治体との協働や京都大学をはじめとした研究機関との連携を通じて、ビジネスと環境配慮の両立に挑んできた道のりを振り返った。

Repla
株式会社esaによる複合プラスチック端材の再生ペレット「Repla®」

日本の国際競争力強化につなげるサーキュラーエコノミー戦略

次に、経済産業省産業技術環境局資源循環経済課の吉清裕一氏が、経産省が進める「成長志向型の資源自律経済戦略」の最新動向を解説し、サーキュラーエコノミーを国家戦略として位置づける意義を明らかにした。

経済産業省産業技術環境局資源循環経済課 吉清裕一氏
経済産業省産業技術環境局資源循環経済課 吉清裕一氏

講演ではまず、世界的に高まる資源制約・環境制約への対応と、日本の成長機会の創出という二つの文脈が、サーキュラーエコノミー政策の背景にあることが強調された。2023年に策定された「成長志向型の資源自律経済戦略」では、脱炭素と資源循環を両輪として位置づけ、企業の競争力強化と社会課題の解決を両立するための政策パッケージを構築。特にプラスチックについては、官民連携のもと「製品設計」「リサイクルの高度化」「需要の創出」を軸にワーキンググループを設置し、制度設計や支援策の検討が進められているという。

吉清氏は、企業・団体・自治体を横断したネットワーク「サーキュラーパートナーズ」への参加が600団体を超えたことにも触れ、民間主導による循環型経済の実装に期待を寄せた。「制度は後からついてくる。先行して動ける企業が、次の社会をリードすることになる」と述べ、制度誘導型から協働型・挑戦型への政策姿勢の転換を強調した。

サーキュラーエコノミーが“廃棄物管理”ではなく、“産業戦略”そのものであるという位置づけを明確にし、素材産業からライフスタイル、ビジネスモデルの変革に至るまで、横断的な変革の必要性を力強く訴えた。

欧州のサーキュラーエコノミー政策に学ぶ、日本の制度転換へのヒント

最後に登壇したのは、公益財団法人日本生産性本部の喜多川和典氏。欧州のサーキュラーエコノミー政策の最新動向と、日本がそこから何を学べるかについて解説した。

日本生産性本部 喜多川和典氏
公益財団法人日本生産性本部 喜多川和典氏

喜多川氏は、EUにおけるサーキュラーエコノミーの基本的な目的は、経済成長と資源消費を切り離す「デカップリング」にあると説明。2020年に策定された第二次サーキュラーエコノミー行動計画では「地球を再生させながら成長する経済モデルの構築=絶対的デカップリング」が明示され、そこに向けた重要な政策目標として「リサイクルからリソーシング」への転換と「持続可能な製品政策」の2点が掲げられていると紹介した。

とりわけプラスチックに関しては「リソーシング」の政策の影響が大きく、従来の「廃棄物管理」としてのリサイクルから脱却し、再生材を新たな資源として製品サイクルに組み込むという発想への転換が欧州で加速していると語った。EUでは2025年までに、プラスチック年間使用量約5000万トンのうち1000万トンを再生プラスチックに切り替えるという目標が掲げられており、一定以上の再生材を含む製品のみが市場に出回るよう規制が強化されつつある。また、この流れにあわせて、すべての事業者が利用できるオープンな再生材市場の形成も進んでいる。

一方、日本では個別リサイクル法ごとに閉じたサプライチェーンが構築されており、事業者横断で活用できる再生材の市場基盤が未整備のままとなっている。喜多川氏は、これからのプラスチック循環社会では、再生材の需要がさらに高まると見られることから、「動脈(製造)と静脈(リサイクル)のサプライチェーンを統合的に捉え、制度設計自体を再構築していく必要がある」と提言。循環型社会の実装に向けた制度的なアップデートこそが、今後の競争力に直結すると強調し、講演を締めくくった。

プラスチックの最適な循環システムの構築に向けて

今回のグリーンケミストリー研究会は、プラスチックをめぐる国内外の制度、技術、ビジネスの動向を横断的に捉え直す場となった。

特に印象的だったのは、「循環させる技術」だけでなく、「循環させる制度」「循環させる市場」をどう築くか、という実装フェーズへの意識の高まりである。マイクロ波分解や複合プラの再資源化といった技術的ブレイクスルーが進む一方で、それを支える制度的・経済的なインフラの整備がなければ、循環は社会に根づかない。再生材の品質や流通ルール、設計段階での持続可能性評価、そして消費者との接点まで──「線」ではなく「面」で設計された循環のエコシステムが必要であるという共通認識が、各講演に通底していた。

研究者・企業・行政の垣根を越えた、プラスチック循環の未来に向けた共創の兆しに期待したい。

グリーンケミストリー研究会は、2025年8月6日(水)~8月7日(木)にプラスチックリサイクル化学研究会と合同で「環境と高分子・プラスチック」に関する研究発表会を開催予定。内閣府の戦略的イノベーションプログラム(SIP)から伊藤耕三先生をはじめとした招待講演者が登壇し、最新の研究成果を発表する。あわせて、大学、企業、研究機関などから広く研究発表を募集している(2025年5月9日締切)。研究発表募集について、詳しくはこちらから。

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