米国で新しい埋葬法として注目されている「有機還元葬(堆肥葬)」を日本で実現することを目標に活動している「DEATHフェス実行委員会」というグループがある。

同委員会は「生と死のウェルビーイング」をテーマとした2024年4月14日(よいしの日)に「DEATHフェス」の開催に向け、準備を進めている。2023年10月に開催された「DEATHフェス カウントダウンイベント」では、DEATHフェス実行委員会の小野梨奈さんが2023年6月に視察に訪れた米シアトルの有機還元葬(堆肥葬)スタートアップ3社の様子を報告した。

有機還元葬(堆肥葬)とは?日本の葬送の現状は?

有機還元葬(堆肥葬)は、簡単に言うと遺体を土に変える埋葬法。米国では「ナチュラルでオーガニックな還元(Natural organic reduction)」と呼ばれ、遺体を自然な形で生分解して堆肥に変え、養分として新しい命へ循環させる。土葬と原理は同じだが、テクノロジーの力でより早く確実に土に還していく。

世界では、2019年に米ワシントン州でいち早く有機還元葬(堆肥葬)が合法化され、スタートアップ企業を中心に、すでに有機還元葬(堆肥葬)が実施されている。

イベントは3部形式でおこなわれ、第一部ではまず同委員会の岡本佳美さんが、日本の葬送の現状について伝えた。日本では先祖代々続く伝統的なお墓に入るという選択肢だけでなく、樹木葬や海への散骨などそれに代わる方法を探している人が増えていることを、お話を聞きながら改めて実感する。

スタートアップ企業が躍進中

日本の現状を学んだ後は、第二部の有機還元葬(堆肥葬)スタートアップの視察報告へ。現在、米国では7つの州で有機還元葬(堆肥葬)が合法化されている。それにともない、スタートアップ企業を中心に有機還元葬(堆肥葬)を扱う場所が増えている。小野さんは、ワシントン州のシアトル周辺にある3社を訪問しており、その報告は驚くことばかりだ。

有機還元葬(堆肥葬)のリーディングカンパニー「Recompose」

Recomposeの施設の前で(左が小野さん)

小野さんが最初に訪れた「Recompose(リコンポーズ)」は、2017年に設立されたスタートアップ企業で、野球のシアトル・マリナーズの本拠地やスターバックス本社がある人気エリアにも近いSoDo(ソードー)エリアにある。CEOのKatrina Spade(カトリーナ・スペイド)さんは、大学院生だった2011年に有機還元葬(堆肥葬)のアイデアを思いつき、翌2012年に有機還元葬(堆肥葬)をおこなう施設についての論文を発表。NPOの立ち上げや、大学と共同での有機還元葬(堆肥葬)の実証実験などの準備をした後、2017年に創業し、2019年から事業をスタートさせた。

以下表記のない写真はすべて小野梨奈さん提供

「あるものを使いながら改良するのを大切にする」という考えで、建物は1957年に建てられた建物をリノベーション。外観はまるでカフェのような雰囲気で、緑の葉が枯葉になるイメージの壁画が描かれている。「ロビーやレセプションも木のぬくもりが感じられる、安心できる雰囲気の場所だった」とのことだ。

こちらは、堆肥化をするGreenhouse(グリーンハウス)という場所。カプセルは54個設置可能で、取材時は34個が稼働していた。現地では、容器という意味のvessel(ベッセル)と呼ばれていたが、小野さんは「カプセル」という呼び方をしている。このカプセルの中に、亡くなった方と木くずや藁などを入れて安置。カプセル内の温度や湿度などをつねにモニタリングしながら、必要なタイミングで1分間に1回程度のゆっくりとした速度でカプセルを回転させ、微生物にとって快適な環境をつくる。4~6週間かけて堆肥化し、体内にあった金属プレートやねじやインプラントなどの無機物を手作業で取り除いた後、残った骨は粉骨機で小さくして残りの土に戻して乾燥、堆肥化しているそうだ。これをコンテナに移してご家族に引き渡す。引き渡し状況としては、約半数が全てご家族へ引き渡し、残りの半数は一部だけを引き渡し、残り一部を提携団体を通し森林保全へ寄付しているとのことだ。

Gathering Space(集会所)の様子©Recompose

Recomposeには、20~30人が訪れることができるGathering Space(集会所)があり、セレモニーをおこなうことができる。また、家族だけが入って亡くなった方の顔や髪の毛を整えたり、宗教に合わせたお祈りや対話をしたりすることができる最後のお別れの場としてCeder(シダー)という部屋も用意されている。

2023年10月現在までの利用者数は、270名。有機還元葬(堆肥葬)のパイオニアとして今後も利用者が増えそうだ。

【参照ページ】TED TALK “When I die, recompose me”(CEOのKatrinaさんのスピーチ)
【参照ページ】Recompose公式ウェブサイト(英語)

気軽に訪問できる「Return Home」

堆肥化スペースの様子 ©THE VERGE

「Return Home(リターンホーム)」は2019年、有機還元葬(堆肥葬)の合法化と同じ年に設立された。設立者でCEOのMicah Truman(マイカ・トルーマン)さんは、中国の金融業界で約25年間活躍した後に同社を起業。2023年10月までに約75名が利用してきた。

施設のある場所は、ワシントン州の工業地帯であるキング郡アーバーン。特徴は、今回紹介される3つの施設の中で一番費用が安いことと、堆肥化スペースの空調、換気が徹底されており、堆肥化中はいつでも亡くなった方に会いに行けること。また、この施設内でもセレモニーやお祈りなどができる。

堆肥化には12~14週間かかり、最終的には約250ポンド(約113kg)の土になるそうだ。ちなみに、小野さんいわく堆肥化後の土は「茶色い土で、さわるとサラサラ。骨も見えないです」とのこと。ここではほとんどの遺族が持ち帰るが、寄付された堆肥は同社が購入した森林の保全のために使われるそうだ。持ち帰られた後は、主に自宅のガーデニングなどで使われているようだ。

なお、「有機還元葬(堆肥葬)をより一般的にしたい」という考えから、オーガニックフェスやガーデニングフェアなどにも出店しており、事前予約をする20代、30代が多いとのことだ。

【参照ページ】Return Home公式ウェブサイト(英語)

遺族をテクノロジーでサポートする「earth」

2020年設立の「earth(アース)」は、オンライン上で直葬を手配するデステック(※)のスタートアップ企業Tulip Cremation(チューリップ クリメーション)を立ち上げた起業家Tom Harris(トム ハリス)さんが立ち上げた企業だ。ミッションは、人生で最も困難な時期のひとつに直面している遺族をテクノロジーでサポートすること。場所はReturn Homeと同じキング郡アーバーンにあり、これまで約200名が利用している。
※デステック(Death Tech)とは、死にテクノロジーを用いて活用すること。

利便性と効率を重視しており、各種書類の手続きや堆肥化の進捗確認、訃報ページの作成ができるオンラインプラットフォームのEarth Portal(アースポータル)と連携して手続きを進められる。

【参照ページ】Earth公式ウェブサイト(英語)

小野さんがまとめた3社の比較表(2023年6月時点の情報)

小野さんは、最後に3社の比較も発表。それぞれ特徴が異なり、シアトルではすでに有機還元葬(堆肥葬)の在り方が多様化しはじめている点がとても興味深い。

日本の現状は? これからどうなるのか?

DEATHフェスに向けたチームの取り組みの一部。シブヤ大学「死の学校」への参加、ポップアートな棺桶体験、生前葬への参加など、どれも文化祭のような明るい雰囲気で楽しそう

シアトルの現状を知り、ますます気になるのが日本のこれから。「第三部:DEATHフェスに向けて」では、DEATHフェス実行委員長の市川望美さんが今後の取り組みを話した。

日本では、有機還元葬(堆肥葬)は今のところは実施できない。その理由は、日本の墓地埋葬法では火葬、土葬の記載があるだけで、有機還元葬(堆肥葬)のことが書かれていないから。そのため、有機還元葬(堆肥葬)を実現するために法整備を行う必要がある。

そこで「まずは社会全体の有機還元葬(堆肥葬)への理解を広げたいという思いで、2024年4月に渋谷のヒカリエでDEATHフェスを開催することにしました」と市川さんは語る。この祭典で死にまつわる多様な選択肢を伝える活動と並行して、有機還元葬(堆肥葬)の事業化に向けて、政策提言などを行っていく予定とのこと。

質疑応答で「視察後、有機還元葬(堆肥葬)にどんな印象を持つようになりましたか? 何か変化はありましたか?」という質問を受け、小野さんはこんな風に話した。

「視察に行ったことで、なぜ有機材料が必要か、カプセルで何が起こっているかがより具体的に想像できました。同時に、堆肥化は怖いものではないと実感しました。人間が森などで土葬により土にかわっていくプロセスをテクノロジーを活用して、より短い日数で確実におこなっている、ということが正しく理解でき、日本でも有機還元葬(堆肥葬)を実現したいという気持ちがさらに強まりました。日本での課題もより明確に見えてきたので、行って本当によかったです」

参加者からは「紹介された企業が三者三様で、共通する思いがある一方で違いもあり興味深かったです」「DEATHフェス実行委員会のみなさんが大きな『死』というくくりの中で有機還元葬(堆肥葬)について考えていることが伝わってきました」といった感想があった。今回、会場での報告会に参加したLife Hugger編集長の和田みどり氏も「有機還元葬(堆肥葬)の報告はもちろんDEATHフェス実行委員会の、死についてオープンに語り合うコミュニティとしてのあり方が本当に素敵だと感じました」と語る。筆者も、イベント参加後から自分らしい最期について前向きな気持ちで考えられるようになった。

有機還元葬(堆肥葬)をめぐる動きは、今後ますます盛り上がっていきそうだ。

【参照ページ】DEATHフェス実行委員会 公式note
【関連ページ】「お墓はいらない」と考える人への新しい選択肢。死んだら森になる「循環葬®」を取材

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Life Hugger」からの転載記事となります。