Circular Yokohamaを運営するハーチ株式会社は、SDGsの達成に向けて多様な主体をつなぎ、地域課題の解決に導くための中間支援組織であるヨコハマSDGsデザインセンターに、運営主体の一社として参画している。
Circular Yokohamaは2024年11月28日、同センターにおける取り組みの一環として、会場とオンラインのハイブリッド形式のセミナー「企業がいまネイチャーポジティブに取り組むべき理由〜自然と共生するまちづくりを考える〜」を開催した。
ゲストは、自然と企業活動・地域づくりの共生を実現する「ネイチャーポジティブ」な取り組みを実践する3名の起業家。先進的な事例紹介と経験談をお話しいただき、ネイチャーポジティブについてゼロから学ぶセミナーだ。
当日は、みなとみらいの会場「NANA Lv.」に22名、オンライン配信に60名が集まった。本記事では、セミナー当日の様子をレポートする。
オープニングトーク:「ネイチャーポジティブとは?」
セミナーのオープニングは、ヨコハマSDGsデザインセンターでコーディネーターを務めるハーチ株式会社の加藤佑による「ネイチャーポジティブ概論」だ。

ネイチャーポジティブとは、自然や生物多様性の損失に歯止めをかけ、むしろ環境にとってポジティブ(プラスの状態)にしていくことである。
2022年に、カナダのモントリオールでCOP15が開催された。そこで、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030年までのミッションとして「生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せるための緊急の行動をとる」ことが掲げられた。
これを契機に、世界的にネイチャーポジティブの概念とその必要性が認識されることとなり、取り組みが加速し始めた。
日本でも同枠組みを踏まえた新たな基本計画として、「2030 年までに『ネイチャーポジティブ:自然再興』を実現する」ことを掲げた「生物多様性国家戦略2023-2030」が2023年3月に閣議決定された。
こうした潮流のなか、横浜では市内の緑被率が昭和57年から右肩下がりとなっており、令和元年の調査では市内全域で27.8%の緑被率となっている。
加藤は「実際には緑があるのにそれを感じられていないエリア、逆に緑は少ないけれど豊かさを感じているエリアなど、市内においても状況は様々です。緑を育てるのか、維持するのか、それとも使うのか。その地域に合わせたソリューションが求められています」と述べながら、海外都市におけるネイチャーポジティブの先進事例を紹介した。
ゲストトーク:先行事例紹介「ネイチャーポジティブってどうやって実現するの?」
はじめにご登壇いただいたのは、Y-SDGs認証事業者でもある株式会社アクポニ(以下、アクポニ)の濱田健吾さんだ。アクポニは、水耕栽培と養殖を掛け合わせ、魚・微生物・植物の三者が生態系をつくる循環型有機農業のシステム「アクアポニックス」の新規導入を支援する。

これまでに、ハーブや果物など68品目の野菜、淡水魚を主とする6種類の魚の栽培・生産試験が済んでいるそうだ。神奈川県湘南エリアを拠点にしながら、これまで全国51の農園を施工してきた実績があるという。
濱田さんは、導入のメリットを三つ解説した。初めに、これまで未利用だったエネルギーやその他資源を活用できること。二つ目に、有機野菜の大規模栽培が可能なこと。最後に、観光や飲食、障がい者雇用や地方創生といった様々な分野と掛け合わせることによる複合サービス業の展開の可能性だ。
最近ではモノづくりの工場において、生産過程における廃熱や排ガスの活用や、シルバー人材の活用等が動機となり、アクアポニックス導入が増えているという。学校教育や社内研修等にもアクアポニックスの農場が活用されるケースも増えており、少しずつ取り組みの普及が進んでいると述べた。

続いて、Comoris DAO合同会社(以下、Comoris DAO)の渡辺英暁さんだ。
渡辺さんは、都市の空き地や遊休地に小さな森をつくり、メンバーシップ制で維持・育成するシェアフォレストサービス「Comoris(コモリス)」を運営している。住宅の庭や公園とは異なり、地域の人々がお金を出し合い、知識や技術を共有しながらその場所に合った”都市の森(アーバンフォレスト)”を自分たちで考えて作っていく。
メンバー以外の人も立ち入ることができるセミパブリックなスペースであることから、街にゆるやかなコミュニティが形成されていくことが特徴だ。
Comorisは、アーバンフォレストを誰でも簡単に立ち上げられるよう、様々なツールの実験や開発を実施している。3Dプリンターを活用してできたペットのふんを堆肥化するうんちコンポストや、雨水のろ過装置、ソーラーパネルなどだ。今後、それらをデザインキットとして広く展開することを目指している。
事業モデルの側面においては、DAO(分散型自立組織)の仕組みや非代替性トークン「NFT」を活用した会員プラットフォームの構築についてご紹介いただいた。会員一人ひとりが、森を作り運営していくための投票や議論に関わる仕組みを築くことで、一方的なサービスの提供ではなく、緑や自然への共感性や主体性を育む仕組みを考えているそうだ。

最後に、株式会社BIOTA(以下、BIOTA)の伊藤光平さんにご登壇いただいた。
BIOTAは、都市の生活空間において微生物の多様性を高めることを目指している。
地球上では、植物を除く生物の97.9%を微生物が占めており、我々の生活空間にも存在している身近な生き物が微生物だ。
生態系ピラミッドの基盤という観点でも、分解者である微生物の多様性があってこそ動物や人間など目に見える生き物の多様性が確保されることから、微生物の重要性を認識できる。
しかし、最近の生活環境においては除菌や殺菌を重視する機会が増えており、その結果ウイルスやアレルギーに対する適切な免疫を獲得できないというデメリットもある。
伊藤さんは、「微生物多様性がより豊かな土壌や緑地空間を人々の生活空間に取り込むことで、人々の免疫の習熟を助けるとともに、地球全体の生物多様性を高めることにもつながると考えています」と話した。
生物コミュニティに関する研究を活かして開発している空間微生物の多様性評価サービスや、微生物多様性を高める都市の植栽・緑地設計等、BIOTAが取り組む事例を通じて、人にとっても地球にとっても、健康で持続可能な空間のあり方について解説した。

イベントの後半には、登壇者4名によるクロストークを実施した。
登壇者の皆さまは、「自然を再生していく事業と経済価値をどのようにリンクできるのか」、「活動をより拡大していくために横浜でどのようなパートナーシップがあると良いか」について、次のように述べた。
アクポニ・濱田さん:アクアポニックスはまだ新しいもので、その発展や普及に様々な知識や技術が必要です。
『自社のサービスが農業や一次産業にどう貢献できるんだろう』という視点から協働できることがあれば、ポジティブな取り組みの第一歩になるかもしれません。ぜひ一緒に取り組んでみたいと思います。
Comoris DAO・渡辺さん:空き地や未利用地を活用したいというお問い合わせは多く、『会社で森を買ったけれど自主運用が難しい』『再開発エリアに既存の地域住民と新しい住民とをつなぐコミュニティをつくれないか』『先代が使っていた家屋が空き家になっているので活用したい』など、様々な声が寄せられています。
それらの需要に対しComorisは、ベースとなる考え方や仕組みを使いながらも、自分たちでカスタマイズして実装することを大切にしています。都市に森を増やすには、物理的なことから資金面まで新しい仕組みが必要です。それらをデザインすることを楽しみながら一緒に探求してくれる方を募集しています。
BIOTA・伊藤さん:まずは横浜にある自然資本を微生物多様性の視点から評価するところから始めたいです。微生物は目に見えませんが、種としては非常に大きな影響力を持っています。各企業の製品でも、実は微生物の存在に恩恵を受けているケースがあると思います。微生物の可能性を可視化し、共生しながら事業活動を進めていきたいという方がいればぜひ一緒に取り組んでみたいです。
セミナー終了後には、参加者からは次のような感想が寄せられた。
「人々に森の価値をどのように感じてもらうか苦労していました。Comorisの事例から、都市の空き地では森の運営に携わりたいという市民のニーズが確かにあることを知ることができてよかったです」
「事業として成立させることがまだまだ難しい領域でもあると思いますが、その中で実際に行われている事業の話は大変参考になりました。世の中にとって良い活動がなぜ広まっていないのか、その原因を掘り下げていくことも大事だと感じました」
「どの事例も本質的かつ科学的であり、そのうえ情緒的でもあり、取り組みに未来を感じました」
ネイチャーポジティブな横浜の未来を、一緒に考えてみませんか?
「自社の取り組みで何ができるのか知りたい」
「ネイチャーポジティブに興味があるが、どこから始めればよいかわからない」
「横浜で生物多様性に貢献できるアクションを検討している」
ヨコハマSDGsデザインセンターは、こうした企業・団体を対象に随時相談を受け付け中だ。ネイチャーポジティブについて学び、実践のヒントを得るためのセミナーやワークショップも不定期で開催している。「ご興味をお持ちの方は、ヨコハマSDGsデザインセンターに気軽にお問い合わせください」と呼び掛けている。
<問い合わせ先>
ヨコハマSDGsデザインセンター事務局
電話:050-3749-7415
Eメール:contact@yokohama-sdgs.jp
※本企画は、Circular Yokohama(ハーチ株式会社)の企画運営によって実施しました。
※本記事は、ヨコハマSDGsデザインセンター公式サイトからの転載記事です。
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