国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)はこのほど、リユースカップのライフサイクルアセスメント(LCA)を使い捨てカップと比較した報告書「リユースが拓く未来ーー東アジアにおけるリユースカップシステムと使い捨てカップシステムの環境パフォーマンスに関するライフサイクル比較評価」を発表した。

リユースカップシステムは、規模が小さくても使用頻度が低くても、多くの環境影響項目で使い捨てカップシステムよりも優れていることが明らかになったとして、リユースカップをはじめとするリユース容器全般の普及を企業と行政に呼びかけた。

使用頻度低くても使い捨てカップよりも低い環境負荷

同報告書では、東アジア地域の4都市(東京、釜山、台北、香港)でリユースカップ・サービスを提供する5つの事業者の実証実験データを分析し、16項目の環境影響項目を使い捨て飲料カップのシステムと比較した。システムの前提条件として、3年間で1万個のリユースカップが40カ所の店で使われ、洗浄設備とリユースシステム提供業者が各1カ所あり、カップの紛失や破損に伴う損失率を7%と設定。一人当たりの年間使用頻度を「低頻度(20回以内)」「中頻度(40回以内)」「高頻度(60回以内)」に分けて、それぞれの環境影響項目についての環境パフォーマンス改善率を算出した。その結果、リユースシステムの環境性能は、カップの使用頻度が低くてもCO2排出を含むほとんどの影響項目で使い捨てカップシステムよりも優れていた。

16のLCA環境影響項目とSDGsとの関連性(報告書日本語版16ページより編集部抜粋)

また、使い捨てカップシステムに関しては、バージンPETカップとリサイクルPETカップ、PEコーティング紙カップという3種類のカップの環境影響項目を測定。いずれのカップでもライフステージで最も環境負荷が大きいのは製造段階であることがわかり、使い捨てカップの生産自体の削減が環境面で最も大きな利益をもたらすことが改めて浮き彫りになった。

一方で、リユースカップシステムの環境影響では、カップの洗浄工程での環境負荷が最も大きく、分配工程(回収時に使用する箱や袋の製造など含む)と輸送工程(内燃機関つきのスクーターによる輸送を想定)がこれに続いた。グリーンピース・ジャパンは、リユースカップシステムの環境負荷をさらに下げるためには、環境負荷の低い洗剤の使用のほか、物流のゼロエミッション化(EVの使用)、リユースカップの配送・回収ロットの効率性を最大化することなどが不可欠であるとしている。

東アジア地域における使用頻度低のレンタルリユースシステムについて、16の環境影響項目に沿った総排出量に対する個々のライフサイクル段階の分布(同24ページ)

リユースカップシステム、普及のカギは?

同報告書の発表に際しては、東京の事業者として調査に協力したRe&Goを運営するNISSHA株式会社事業開発室Re&Goプロジェクトリーダーの吉村祐一氏が、リユースカップ事業運営企業の立場から同報告書についてコメントした。Re&Goは東京都内(東京駅周辺、渋谷エリア)のほか名古屋市や広島市で実証実験を行い、スターバックスやローソン、イオンモールなどが協力。2023年7月までの実績として、登録者数約1万2000人、総利用者数約4万8000人、返却率は97%だった。

吉村氏は「リユースカップの客観的な長所がわかったこと、特に繰り返し回数が多いほど数値が上がることが分かって良かった」などと言及。そのうえで、今後の展開については「経済性も重要なので、LCAデータと合わせて総合的に判断したい」と述べた。また、リユースカップシステムがさらに普及拡大するための条件として▼使い捨てカップとの比較で適性な価格帯でサービス提供できるようにする▼使い捨て容器の規制▼衛生面で参照できる規格が少ないため、認証制度を創設する、などを挙げた。

同報告書の公表を受けて、グリーンピース・ジャパンは日本政府に対して、プラスチック資源循環戦略の目標の一つである「2030年までにプラスチック容器包装の60%をリユース・リサイクルする」について、リユースとリサイクルの内訳を明らかにしたうえで、3Rの優先順位に則った比率で目標設定するよう求めた。このほか、リユース推進に必要な財政支援や容器の規格・洗浄工程の標準化なども進めるよう提言した。さらに、小売りや消費財企業に対しては容器包装の排出量と削減状況を公表するとともに、使い捨て容器包装の総量削減を伴った「リユース目標」の設定とロードマップの公表を求めた。

リユース容器システムの推進をめぐっては、台湾では大手コンビニチェーンやカフェチェーンでのリユースカップによる提供が始まったほか、フランスでは2027年までに容器包装の10%をリユースにすることを定めている。グリーンピース・ジャパン プラスチック担当の大館弘昌氏は「(リユース容器提供の)義務化の流れは今後、広がっていくだろう。プラ容器を紙に切り替えることをもって環境負荷を減らすのではなく、リユース容器の導入が当たり前なのだという認識になっていくことに期待している」などと話している。

【プレスリリース】リユースカップシステムは小規模段階でも使い捨てより優位ー報告書「リユースが拓く未来」を発表
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※【追記:2024/9/25】記事公開当時、関連記事において「包装と包装廃棄物に関する指令案」と記載しておりましたが、正しくは「包装と包装廃棄物に関する規則案」でした。訂正し、お詫び申し上げます。