神奈川県鎌倉市の循環型まちづくりを支える「鎌倉サーキュラーアワード」が第2回を迎えた。初回の成果を踏まえ、今回は新たにサーキュラーアカデミーの開講や、より実装を重視したスタートアップ支援など、進化した取り組みを展開している。 スタートアップ部門の主催者への取材を通じて、同アワードの現在地と今後の展望を報告する。

前記事(1)では鎌倉サーキュラーアワードスタートアップ部門について、主催者である株式会社カマン代表取締役の善積真吾さんとメンターである株式会社nalu代表取締役のみなみなおこさんからその背景や想いについて聞いた。本記事(2)では鎌倉サーキュラーアワードスタートアップ部門の特徴を探ってみたい。

鎌倉の循環都市移行に重要なサーキュラースタートアップ

サーキュラースタートアップとは何か。いくつかの国際的に提示されている定義を総合して紐解くと、「サーキュラースタートアップは、循環移行を促す技術・ビジネスモデル・製品・素材を有する、新しく、活動的な独立した組織体。廃棄と汚染をなくす設計、製品と原材料を使い続ける、自然を再生することのいずれかまたはその組み合わせにアプローチする」といったような要素が抽出される。

サーキュラースタートアップは、既存企業がすぐに採用しづらいイノベーティブかつサーキュラリティの高い手段を事業の核に取り入れる。裏を返せば、既存事業者は彼らと手を組むことで、一気にサーキュラリティの高い手段に手が届く。同じように、サーキュラースタートアップが地域での事業活動に注力することで、地域のサーキュラリティが飛躍的に高まる可能性がある。そのことから、アムステルダムをはじめとした循環都市に注力する都市の循環都市ロードマップ等に組み込まれている。鎌倉では、まさにシェアリングリユース容器を提供する株式会社カマン(善積さん)、スチールカップを展開する株式会社nalu(みなみさん)は、その例だ。このアワードは、こうしたサーキュラーエコノミーにおけるスタートアップの存在を、鎌倉の循環都市移行に欠かせないものと捉えている。

どんな事業者に活動してほしいか、明確な意思表明

今回の取材テーマではなかったが、一方の既存事業者がサーキュラーエコノミーに移行していくことも鍵となる。そのため今回、「ゼロウェイストかまくら認証」に加え、新たに共生と環境に取り組んでいる企業を、国際的な認証基準にも照らし合わせて、多面的に評価する「タイプII: 世界に誇れる共生循環事業者 (認定)」を実験的に開始した。このカテゴリーの評価は、環境や社会へのインパクトに対して高い基準で経営を行う企業に与えられるグローバル認証B Corp™︎(ビーコープ)を参考にしてつくられた。

田中教授は、「事業者部門におけるB Corpに準じた取り組みは、スタートアップにとっても魅力的な実践として受け止められ、彼らが鎌倉に関わりたいという意欲を高めることに貢献するのでは」と話す。

地域イノベーションを志向するアワードやコンテストには、どんな企業が地域で活躍してほしいかという主催者の考えを示すことは重要な要素だ。このタイプⅠとⅡはまさにその意思表明でもあり、対象の既存事業者はもちろんスタートアップが活動するうえで参考ともなる。

サーキュラーフレンズギャザリング#3の様子(写真:公式note)

強いつながり:鎌倉在住の起業家による顔の見えるアワード

特にスタートアップ部門は、善積さんやみなみさんなど事業者が企画段階から関わっている。その活動を行政と大学が支える。産官学が連携してスタートアップを創出するプログラムは数多くあるが、サーキュラーエコノミー分野ではまだ新しい。なおかつ、すでに起業している現地在住の実践者たちが、顔の見える形で主導するプログラムは珍しいのではないだろうか。

以前、岡山県真庭市の循環型まちづくりの取り組みを取材したが、そのキーの一つがすぐにコミュニケーションができる「顔の見える関係」だった。産官学が連携した顔の見える強いつながりを築くことは、循環型まちづくりに必須の要素なのかもしれない。

弱いつながり:枠にはめない中期的視点

「鎌倉で実装」という主催者の想いはあるが、スタートアップ部門は国内外から誰でも参加できる。応募に際して企業の所在地は問わない。審査基準の一つに鎌倉との今後の連携可能性はあるが、鎌倉で起業することにこだわっていない。ギャザリングでは常連と新規参加者がよい比率で交わる。鎌倉と緩やかなつながりを保ちながら、必要なときにはしっかりと関わる。枠にはめない姿勢は参加のハードルを低くしてくれる。

10年という中期的視点で考えているからそれを可能にするのかもしれない。単年で結果を求めるとどうしても主催者目線が強くなるが、10年スパンで捉えることで10年後に実現したい鎌倉像をもとに考えることができる。

グラノヴェッターの 「弱い紐帯の強み」はよく知られる理論だが、弱いつながりは短期から長期まですべてのタイムスパンで地域イノベーションの源泉になる。廃棄物管理を超えた循環都市を目指す特に海外の先進循環自治体はこの要素を重視している。このアワードも、強いつながりと弱いつながりのそれぞれの特徴を活かしながら構成されているのではないだろうか。鎌倉のサーキュラーアワードスタートアップ部門は、循環都市を志向する他地域にも多くの示唆を与えてくれる。

※冒頭の写真は長谷寺から撮影した鎌倉の風景。(写真:筆者撮影 2024年2月)

【公式URL】第2回鎌倉サーキュラーアワード (応募期限:9月24日)
【公式note】鎌倉サーキュラーアワード実行委員会
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