1) サーキュラーエコノミーの動向
20世紀の大量生産・大量消費型経済システムの象徴的存在だった米国。使用されるものの約3分の2が埋め立て、または焼却処分されるというリニア経済の典型のような米国でも、サーキュラーエコノミーを推進する動きが民間企業や州政府を中心に広がり始めている。
米環境保護庁は2018年11月、米国内におけるリサイクルビジネスの現状や地域でのリサイクルの取り組み状況をまとめた小冊子「Recycling: Protecting the Environment and Growing the Economy booklet」を発表。それによると、米国での廃棄物リサイクル率は1960年にはわずか7%未満だったのに対して、2015年段階で35%にまで高まった。米国のリサイクル業界は75万人を超える雇用を創出しており、納税額も年間67憶ドルに上る一方で、いまだに年間90憶ドル相当の資源が廃棄されているとして、さらなる成長が期待される産業と位置付けている。
また、サーキュラーエコノミーを推進する民間団体Circular Colabが2018年10月に発表したレポートでは、サーキュラーエコノミーを推し進める8つの変革テーマ(デザイン、教育、金融、情報の透明化、素材の革新、製品のサービス化、製品の長寿命化、資源の利活用)、ならびに9つの業界・領域(アパレル、消費財、食料品、ヘルスケア、製造業、資源管理、容器包装、サプライチェーン、運輸)に分類しながら、全米200社以上の取り組み事例を紹介している。
【レポート】THE STATE OF THE CIRCULAR ECONOMY IN TRENDS, OPPORTUNITIES, AND CHALLENGES AMERICA 2018.10
同レポートが調査した事例で、米国でのサーキュラーエコノミーのテーマとして最も多いのは「資源の利活用」(38.6%)で、次いで「製品の長寿命化」(18%)、「素材の革新」(13.3%)と続く。また、サーキュラーエコノミーに取り組む業種・領域として最も多いのは「消費財」(22.1%)で、以下「資源管理」(19.8%)、「製造業」(17.5%)、「アパレル」(16.6%)となっている。
8つの変革テーマにおける各業種の企業による取り組み詳細は、以下のページに書かれている。
資源の利活用(9ぺージ~)
製品の長寿命化(23ページ~)
素材の革新(30ページ~)
教育・啓発(36ページ~)
情報の透明化(40ページ~)
製品のサービス化(44ページ~)
デザイン(47ページ~)
金融(49ページ~)
2) サーキュラーエコノミー推進組織・機関
米国内でサーキュラーエコノミーを推進する主な民間団体は以下の通り。
- US Chamber of Commerce
- Circular Colab
- Circular Economy Platform
- The Circular Economy Industries Association (CEIA)
3)先進的な企業、自治体の事例
企業
インターフェイス(ジョージア州)
商業・住宅用モジュラーカーペット製造、販売の最大手インターフェイス。創業者のレイ・アンダーソン氏の理念に基づいたサステナビリティに向けた取り組みは早くから注目され、1996年の時点で2020年までに環境へのネガティブなインパクトをゼロにすることを目指したプログラム「ミッション・ゼロ」を開始。サーキュラーエコノミーを先取りした形のビジネスモデルの構築に挑戦し、2019年に達成。以降、2016年に新たに発表した気候変動対策に重点を置いたイニシアチブ「クライメイト・テイクバック」に取り組んでいる。
同社のサステナビリティへの取り組みは、多くのグローバル企業に影響を与えた。中でも、米国の大量消費文化の象徴的な存在だった小売り最大手ウォルマートが、エネルギー使用を100%再生可能エネルギーに切り替え、廃棄物ゼロ化に取り組むことなどサステナビリティを目指して舵を切ったのは、同社の影響が大きかったことで知られている。
【参考サイト】インターフェイス公式Webサイト
パタゴニア(カリフォルニア州)
環境への配慮を創業ミッションに掲げたアウトドアアパレルのパイオニア。早くからリサイクル可能、もしくは再生ポリエステル、オーガニックコットンや非塩素処理のウールを使用するなど、環境負荷の抑制に取り組んできた。最近では、自社のウエアの修理・修繕、使えなくなったウエアの返却などを促す「Worn Wear」プロジェクトを本格化させたほか、CO2排出を相殺するカーボン・ニュートラルを超えるカーボン・ポジティブ(吸収するCO2が排出するCO2を上回る状態)を目指すと宣言するなど、アパレル業界のサーキュラー化をリードし続けている。
【参考サイト】パタゴニア公式Webサイト「Business Unusual」
【関連サイト】パタゴニア、オンラインで自社製品の修理方法を軽快な語り口で公開
テラサイクル(ニュージャージー州)
「捨てるという概念を『捨てる』」を合言葉に、大手ブランド、小売店などのスポンサーとともにこれまでリサイクル困難とされてきた様々な一般・産業廃棄物を回収、リサイクルする独自のプラットフォームを構築してきたテラサイクル。2019年には世界初となる循環型のショッピングプラットフォーム「Loop」のサービスを開始。P&G、ネスレ、ペプシコ、ユニリーバといった世界を代表する消費財メーカーをはじめ、欧州の小売大手カルフール、テスコ、米国のウォルグリーン、クローガーなどの小売業者もパートナー企業として参画を表明し、サーキュラーエコノミーへの移行を進めたい大手企業が集まる一大イニシアチブとなっている。
【参考サイト】テラサイクル
【関連記事】容器の所有権をメーカーが取り戻す。サーキュラーエコノミーのプラットフォーム「Loop」の挑戦
自治体・地域
ニューヨーク州ニューヨーク:捨てられる製品を修理して非営利団体や低所得者へ寄付、など
年間600万トンの廃棄物を出し、200万トン以上のCO2を排出しているニューヨークでは、2030年までに廃棄物の最終処分ゼロ化を目指している。その一環として、最終処分場で捨てられる製品を修理、再使用できる状態にして非営利団体や低所得者へ寄付するプログラム「donateNYC」を2016年から行っている。
同プログラムでは23種類の製品を扱っており、プログラム開始以来、2500トン余の製品が同プログラムのポータルサイトを通じて寄付され、17万トン相当のCO2削減につながった。同プログラムは現在、レストランや店舗などで廃棄予定の食品を社会福祉団体を通じて必要なコミュニティに再配分できるよう、ポータルサイトの機能の拡充に取り組んでいる。
また、同市はエレン・マッカーサー財団による衣服の再利用を促すイニシアチブである「Wearnext campaign」に参加し、市民が気軽に古着を持ち込める1100カ所余のスポットのマップをウェブ上で公開している。2018年の古着の回収量は580万トン余増加した。
【参考サイト】City and industry in collaboration to save clothes from landfill
テキサス州オースティン:資源の再利用を促すオンライン取引プラットフォームを開設
2040年までに廃棄物を90%削減、2050年のゼロ化を目指しているテキサス州オースティンは、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)の米国パートナー組織であるUSBCSDと共同で、廃棄物をオンライン取引できるプラットフォーム「Austin Materials Markets」を2014年に開設、運営している。
このプラットフォームでは、ユーザー企業は処分したい、または売却したい廃棄物を登録し、取引が成立すれば引き取り相手企業へ輸送する仕組みとなっている。取引が多いのは建築廃棄物(木材、断熱材、床など)や家具、装飾品、オフィス設備や電化製品などで、プラットフォーム開設以来の登録社数は地元企業を中心に500を超え、廃棄物420トン、960メトリックトンのCO2削減を達成した。本プラットフォームから派生したリサイクルビジネスコンペも年1回行われ、資源の再利用を織り込んだ起業の促進につながっている。
同プラットフォームは100%市の予算で運営されており、自立的な運営に移行できるかが課題となっている。
テキサス州ヒューストン:倉庫を建築廃棄物の再利用拠点に
米国第四の都市で人口230万人ヒューストンでは、廃棄物の38%が建築廃棄物である。これらの建築廃棄物を排出する業者と、廃材を利用したい業者等とをつなげるため、使われなくなった倉庫を建築廃棄物の再利用拠点として運営している。建築廃棄物の提供は無償で行うことができ、非営利の運営主体に対しては建築廃材を無償で譲渡している。2009年の運用開始以来、4500トン相当の建築廃材を再利用につなげたほか、700を超える非営利団体や学校、大学、公的機関に建築廃棄物の90%が無償譲渡された。
倉庫に隣接するビルも再利用素材でリノベーションされ、ワークショップを行ったり、一層の再利用を進めるために官民、非営利団体が連携できる場となっている。
アリゾナ州フェニックス:ゼロウェイスト目標に向けた廃棄物管理システム
2050年までに廃棄物ゼロ化を目指しているアリゾナ州フェニックスは、廃棄物転換率を2013年の20%から2020年には40%にしようとしている。このため、市当局は目標の達成に向けて市の最終処分場と最終処理施設に隣接する場所「リソース・イノベーション・キャンパス」を設立、産官学民連携で廃棄物の再利用・再資源化に取り組んでいる。
リソース・イノベーション・キャンパスでの活動を通じて、これまでにさまざまな成果が出ている。廃棄物転換率は30%となり、2020年の目標である40%の達成に向けて順調に推移している。また、ヤシの葉を飼料に活用する事業を通じて年間1000万ドルの売り上げと新たな雇用創出につなげた。最終処分場における最新のガス捕捉制御システムによって、2006年以来2300立方トンのCO2排出を削減できた。
この産学官民によるスキームに関わるチームは、同じスキームをナイジェリアのラゴスとグアテマラのアンティグアでも展開している。今後はリソース・イノベーション・キャンパスをさらに拡張し、食品を含む有機廃棄物のコンポスト施設の処理能力を高めて、コンポストの活用をフェニックス市内全域で推進することにしている。
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【参考サイト】Municipality-led circular economy case studies (EIT Climate-KIC/C40.org)
【参考記事】New York City Just Launched a Major New Campaign to Keep Unwanted Clothes Out of Landfills
【関連記事】「サーキュラーエコノミーと都市 ー建築・交通・フードシステムを変えるー」エレン・マッカーサー財団学習プログラム From Linear to Circular #6