プラスチックの不適切な管理による環境汚染は、プラスチックが急速に普及した1960年代から問題となっている。問題意識が高まるきっかけの一つとなったのは2015年、プラスチックストローがウミガメの鼻に刺さった映像がSNSで拡散されたことだった。その後、2050年には海洋プラスチックの重量が魚の重量を上回ると予測する報告などもあり、脱プラスチックを含むプラスチックの適切な管理への動きが世界で早まった。紙ストローや生分解性ストローなどの代替品の開発も官民挙げて取り組まれている。

今、サーキュラーエコノミーへの移行において、プラスチックの設計段階における動きは大きく分けて2つある。一つは「技術資源の生物資源化」である。地上資源である生分解可能な原材料、すなわち土に還る原材料に置き換える動きだ。もう一つは、何度もリサイクルができるように再生可能資源や再生プラスチックを活用する流れである。

今回取材したのは、上記の前者「技術資源の生物資源化」で挑戦を始めたHAYAMI草ストローだ。この草ストローは、ベトナムで栽培される生分解性の草(カヤツリグサ科レピロニア)の茎を利用して製品化した。ベトナム人パートナーを介して輸入販売し、オーガニックやヴィーガンなどの飲食店に納入するというモデルだ。2020年4月には活動を開始し、6月時点で飲食店を中心にすでに約50店舗に導入されているという。

HAYAMI草ストロー

出だしが好調な草ストローの普及に力を注ぐのは、現在大学1年生の大久保夏斗さん。兄とベトナム人パートナーの3人で事業を運営する。大学のオンライン授業後に取材に応じていただいた。

HAYAMI 草ストロー 大久保夏斗さん

なぜ草ストローなのか?

そもそもなぜ大学生である大久保夏斗さんがこの事業を開始しようと思ったのか。大久保さんはそのきっかけを振り返った。

「2019年、兄が海外でバックパックしたときに出会ったベトナム人に草ストローの存在を教えてもらったことがきっかけです。私は、日本に帰った兄からその話を聞きました。もともと、ウミガメの鼻にストローが刺さった映像を見て衝撃を受けたことや、日本人一人当たりの使い捨てプラスチック排出量が世界で2番目に多いということを知ったこともあり、環境問題に関心を持ち始めていました。そこで、兄と私、ベトナム人のパートナーの3人で草ストローの販売を始めることにしたのです」

レピロニアから作られた草ストロー

この草ストローの原料のレピロニアという植物はベトナムでカバンなどに使われるが、過剰栽培が問題になっているという。そこで、目をつけたのがストローとしての利用用途というわけだ。しかもこのストローは、数ヶ月以内に自然な環境のもとで分解され、その後は家畜飼料や農場の肥料としても使えるそうだ。(肥料としてどの程度栄養素を含んでいるかは調査中)

レピトニアの収穫の様子

レピロニアからストローを作る製造過程はいたって簡単。「草の茎の中をくり抜くだけで完成します。この作業は人の手を介して行われ、収穫してから製品にするまで、殺菌や加熱処理を行っているのですが、4・5日で4万本程度の製造が可能」だという。

それだけの大量生産ができるというのだから、栽培には大量の化学肥料が必要なのではと推測されるが、化学肥料は一切使っていないとのこと。

いいことずくめのように思える草ストロー。ふやけたりヨレヨレになったりすることはないのだろうか。これに対しては、「逆に水がしみこむと耐久性が増し」、プラスチックと同じくらいの強度があるそうだ。

もう1つ気になるのが衛生面。日本で普及させていくにはやはり衛生面をクリアしなければならない。これに対しては、「茎の中身を抜いた後、高温殺菌やUV殺菌を行っており、一般社団法人食品分析センターで実施される衛生規格検査を実施しています。現地スタッフの査察により、品質・衛生面とも担保しています」と話す。

どのように草ストローを広めていくか?

生分解性があり、品質・衛生面も担保されているということだが、コスト面はどうだろうか。ストロー問題は今や多くの消費者が認識しているが、店舗側にとっては生分解性ストローはコストがかかる。これが普及の最大のネックになっている。実際メーカーによってばらつきはあるが、プラスチックストロー1本あたりの費用は、だいたい0.5円〜1円、生分解性のあるストローの価格は下がってきているものの、2円代後半〜10円台と、導入にはコストの高さが重石となる。

HAYAMI草ストローは一度に購入する本数によって価格が変動するが、1本あたり6円強で購入できる商品もある。「木や竹ストローよりも安く販売していますが、それでもコストの面で利用できないというお声も確かにあります。この点は試行錯誤しています。ただ、お金をかけてでも解決しないといけないという社会貢献性をお店の方に感じてもらえることを意識して訴求しています。私たちはフェアトレードの仕組みで販売しているので、プラスチックストローの価格まで下げてしまうと活動の持続可能性がなくなってしまうこともあります。今は、店舗の方に草ストローの価値を理解していただけるように活動しています」と大久保さんは話す。しかし、先述した大量生産が可能だというレピロニアの特質から、日本でも需要が高まればコストが低減する可能性は十分にあり得るだろう。

実際、オーガニック・ヴィーガンカフェなど環境問題にも取り組んでいる店舗を中心に導入が進んでいる。導入店舗からの反応について、大久保さんはこう語る。

「店舗の方からは、意外と耐久性があってしっかりした商品だというお声をいただけます。お洒落に見えたり、手触りがいいと言ってもらえたり、良い反応があります。店舗のお客さんからは、『これは何ですか、珍しい』など興味を持っていただけるようです。その際、店舗の方から意図を説明していただくことで、お客さんにもなぜ草ストローを使っているのか理解してもらえるメリットもあります」

今の時点ではプラスチックストローよりもコストがかかるが、導入することでその店舗に付加価値をもたらし、他店舗との差別化につながるということだろう。

導入店舗:Tokyo Juiceの例

導入店舗の一つ、東京は外苑前に店を構えるTokyo Juiceオーナー 室松ジェフリーさんにお話を伺った。同店は、なるべくオーガニック食材を使ったフレッシュジュースを提供する。また、周辺オフィスなどの顧客に、店で作ったフレッシュジュースを専用瓶に入れてデポジット制で運用している。もちろん店舗全体でもなるべく生分解性のものを使うようにし、環境配慮型店舗作りに励んでいる。

Tokyo Juiceオーナー 室松ジェフリーさん

取材時には、新型コロナ対策が施されつつも、多くの常連顧客が来店していた。オープンからわずか1年、地域に愛される店となっている。

HAYAMI草ストローについて、「まずお客さんが驚きます。色自体が緑で香りもよいので、『これはすごいですね』と。私たちのお店のコンセプトに合った草ストローを使うことで、一つの付加価値としてお客さんに提供することができます。スタッフにも説明してもらうようにしています。インスタ映えするものですし、何よりも生分解性のあるものだから自信をもって使えます」と室松さんは語る。

筆者も試してみたが、確かに何も知らずにこの見慣れない草ストローが出てきたら、少々驚くだろう。同店の顧客の多くはもともと健康志向で環境問題にも関心があるが、それでもストローのことをお伝えすることで、一つのきっかけを与えることにつながるに違いない。室松さんも話していたように、店舗のコンセプトに適合し、さらなる付加価値を与えることにつながっている。

強度はプラスチックストローと変わりない。ストローが使われる時間はせいぜい30分くらいだということを考えると、十分すぎる耐久性をもっている。ちなみに、同店では草ストローに限らず、野菜や果物をジューサーに入れた後に出る搾りかすも含め、さらなる循環型の仕組みを作りたいそうだ。

草ストローの社会的インパクト

HAYAMI草ストローに話を戻そう。大久保さんから「フェアトレード」という言葉が出たが、ベトナムのレピロニアの農場や加工工場の雇用につながるということを意識しながら活動しているという。コスト面からフェアトレード認証の取得には至っていないが、工場や農家コミュニティなど雇用創出の面において、社会的インパクトを重視している。

また、日本においては、「特に若い世代の方にストローという誰もが目にして使う商品を手にとっていただくことで、行動や意識を変えられるように取り組んでいきたいと思っています。一人ひとりの行動の変化によって、大きな変化を起こすことが目標です」と大久保さんは意気込む。

HAYAMI草ストローの今後の目標

大久保さんは今、学業と両立する形で事業を営んでいる。その中で、今後取り組んでいきたいことが下記5つあるそうだ。

  1. 草ストローの普及・・・まず1つ目は、草ストローの普及。現在約50店舗に導入されているが、年内の目標導入店舗数は100店舗。個人経営のカフェやジューススタンドに導入してほしいと考える。
  2. 新商品の開発・・・次に新商品の開発をしていきたい考えだ。タピオカやスムージー用のストローを開発しているという。
  3. コーヒーかすからストローを作る・・・コーヒーかすは、分解して堆肥として肥料になる。そのため、飲食店や大学などと協力して開発・展開を検討している。
  4. 草ストローの循環度を高める・・・「草ストローを堆肥にし、その堆肥から有機野菜を栽培し、その有機野菜を草ストロー導入店舗に提供するサイクルを考えています。コンポストが普及していないのが今の課題なので、地方自治体とも連携をし、コンポストの普及活動や仕組みづくりから始めています」これが実現し普及に至れば、循環度合いがさらに高まっていくだろう。サーキュラーエコノミーの言葉に置き換えると、「カスケード利用」、つまり草という生物資源の製品としてのライフサイクルを終えると、その後違った用途や形を変え、連鎖的にダウンサイクルしながら再利用・リサイクルし、何度も循環することが実現する。
  5. 大学の学食での利用・・・「若い人に関心を持っていただきたいため、大学の学食で使ってもらえるようにしたいと考えています。そして、環境に配慮されているのにコストが高くて利用されていない商品の提供者と連携しながら、皆さんに気軽に使っていただきたいと考えています」

大久保さんの大学での専門は農学だ。そのため、大学で学んだ農業に関する知識をストローの開発や普及などに生かしていきたいという。

最後に大久保さんは事業の意義をこう強調した。「環境問題は、私たちだけではなく次の世代にも関わります。自分たちだけの問題ではないことを意識して、毎日の少しの選択で将来が変わっていくということを商品を通じて伝えていきたいと考えています」

サーキュラーエコノミーの視点では?

サーキュラーエコノミーの視点では草ストローはどのように位置づけられるのだろうか。下記に3点挙げる。

1. 技術資源を生物資源に置き換える(設計の観点)

石油から作るストロー(技術資源)ではなく、地上資源を活用し、生分解できる生物資源に設計段階から変えることで効果性をもたせ、環境への影響を与えないようにする。ベトナムから輸入したストローを日本で廃棄することの環境インパクトは調査中としているが、原材料を選ぶ設計段階での生物資源の活用はサーキュラーエコノミーへの移行の一つの有効な手段である。

2. カスケード利用(循環サイクルの観点)

草ストローが堆肥として、どの程度栄養素になるかについては調査を進めているそうだ。廃棄や物流を工夫して、堆肥などとして活用できる仕組みを構築できれば、下記、サーキュラーエコノミーの概念図であるバタフライダイアグラムにおけるカスケード利用として機能する。

また、草ストローを堆肥化し、有機野菜を作り、草ストロー導入店舗に栽培した有機野菜を納入する仕組みを作りたいと大久保さんは話していた。草ストロー自体はベトナムから輸入することになっているが、その後は地域で循環する仕組みが完成するだろう。同じく目標としているコーヒーかすの堆肥化システムの構築もこれに当てはまる。今後は、国内の原材料を使った地産地消・循環型モデルも期待したい。

エレン・マッカーサー財団が提唱するバタフライダイアグラム

3. 雇用を生み出す(社会的インパクトの観点)

サーキュラーエコノミーは雇用を生み出す。大久保さんが話していたように、フェアトレードの観点で取引しているため、現地に雇用を生み出す。事業は端緒に就いたばかりだが、この点にも今後注目したいところだ。

終わりに

事業を通じて特に若い世代に環境問題に関心を持ってもらうという、HAYAMI草ストローの挑戦はこれからも続く。大学生である大久保さんが、「環境問題は私たちだけではなく、次の世代にも関わるので、自分だけの問題ではないことを意識し」と強調したように、早くも次世代のことを意識する姿が印象的だった。コロナ禍で直接店舗の訪問は難しいため、地道にサンプルを送り続けてその価値を伝えているという。今後のHAYAMI草ストローの展開に注目していきたい。

【参照サイト】HAYAMI草ストロー公式ホームページ
【参照サイト】Tokyo Juice
【参考レポート】THE NEW PLASTICS ECONOMY RETHINKING THE FUTURE OF PLASTICS
【参考レポート】 Single-use Plastics: A roadmap for Sustainability
【関連記事】Circular Economy Hub Learning #3 (動画「Dame Ellen MacArthur: food, health and the circular economy」よりバタフライダイアグラムの解説)