Circular Economy Hubを運営するハーチ株式会社は、東京都の多様な主体によるスタートアップ支援展開事業「TOKYO SUTEAM」の令和5年度採択事業者として展開する、サーキュラーエコノミー領域に特化したスタートアップ企業の創業支援プログラム 「CIRCULAR STARTUP TOKYO(サーキュラー・スタートアップ東京)」を運営。本特集では、プログラム参加者の取り組みをご紹介します。
個人間取引(CtoC)プラットフォームの浸透などによるリセール市場の拡大が続き、X次流通がより身近になっている。リユース経済通信の調査によると、23年のリユース市場規模は3.1兆円(前年比7.8%増)で、09年以降14年連続で拡大し、30年には4兆円に成長すると予測。世界でも、たとえばアパレル業界のリセール市場は29年に24年比約1.6倍となる36.7兆円になるとも見込まれており(thredUP Resale Report 2025)、国内外ともにこの傾向は続く。購入した物を再販する際の残存価値を示す「リセールバリュー(再販価値)」という言葉の対象も、従来の自動車からアパレルや消費財など幅広い製品群に拡大しているように見える。
このリセールバリューを意識した購買がより一般化していくことにより、従来の買い物のあり方が変わる可能性がある。後述する環境面におけるトレードオフをクリアした形でうまく機能すると、リニア型消費慣行から脱却できる可能性すらある。
しかし、現状リセールバリューを把握するには、消費者自身が調べたさまざまな情報源からしか判断するしか方法がない。しかも、その価格で売れるという確固たる保証はない。4人に1人は常にリセールバリューを考えているという調査結果を一例として、リセールバリューの意識は高まる一方だが、現状サービスやシステムとしてその受け皿があるわけではないのが現状だろう。
ここに目をつけたのがスタートアップのリベロント株式会社だ。同社はこのほど、リセールバリューをバイバック保証という形で担保し、循環の仕組みをつくるプラットフォームをローンチした。すでに1.3億円の資金調達を実施*している。リセールを通常行動の一つにしていくことができれば、従来の消費慣行を変えうるゲームチェンジャーとなる。同社代表取締役の大河淳司さんに話を聞いた。
*株式会社ジェネシア・ベンチャーズをリー ド投資家として引受先とする J-KISS 型新株予約権の発行及び融資
創業者プロフィール
Co-Founder & CEO:大河 淳司さん (右)
2010年三井物産入社。資源セクターの投資・物流事業に従事。London Business School MBAを経て、McKinsey & Company 勤務(在東京・ストックホルム)。2024年より現職。
Co-Founder & CTO:小島 剛さん (左)
日立製作所のR&D グループで研究員として日米でキャリアをスタート。コンサルティング分野を経て、メルペイでAIやデータ管理のシステム開発・運用を担う。2024年より現職。
バイバック保証を通じた一次流通と二次流通の統合
“Buy Now Sell Later”という新しい購買体験を促す同サービス「spixn(スピン)」の概要はこうだ。まず、ブランドが同社サービスの加盟店となり、バイバック保証システムを導入。そのブランドの商品を購入するユーザーは、一定期間内であれば品質に応じた価格でリベロントまたは同社パートナーへ購入物を再販できる。これまでユーザーは、ある時点でのリセール市場価格を自身で調べる必要があったが、それが実際にその価格で売れるという確証はなかった。そうしたなか、spixn はバイバック保証という形態で将来的な価値を保証する。バイバック価格はリベロント独自の価格分析アルゴリズムと運用スキームにより、市場のリセール価格と比較して高水準だとしている。大河さんは一連の仕組みを「『信頼』を担保するもの」というフレーズで表現している。
リセールバリューが担保されることで、ユーザーはこれまで手の届かなかった商品を購入できるようになることや、購入率(CVR)が高まるなど、ブランド側は平均単価アップを期待できる。実際に、サービス試行段階では平均購入単価が50%向上した事例もあるそうだ。
「ブランドにとって二次流通は大きなテーマですが、人手不足などの課題があるなか、自社で二次流通を担うには負担が大きい。そこで、我々が二次流通をサービス化して一次流通の売上も上げていこうと。つまり、一次と二次のカニバリゼーションを起こすことなく、むしろ我々がその間に介入することで価値ある相乗効果を生みたいと考えています」と大河さんは語る。バイバック保証をこのようなサービスとして提供しているケースは存在しないに等しいが、対立しがちな一次流通と二次流通を統合できる可能性が大いにあった。それを実現しようとする大胆な試みだといえる。
ブランド価値を毀損しないリセール経路

もう少し詳しく商品の行方を追っていこう。前提として、現時点ではサービスの展開はEC販売に絞り、ファッションを中心とした8,000円以上の中・高価格帯消費財をターゲットにする。
まず、ユーザーが商品を購入すると、バイバックオプションが付与される。チェックアウト後に加盟店とリベロントからメールと商品が届く。そ のメール内にアプリのリンクが記載されている。そこには、購入商品の定価と品質に応じたバイバック価格、その金額で買い取れる期間(2,3年など)などが表示。
売却段階では、ワンクリックでリベロントの回収パートナーより回収ボックスが届く。リベロントは商品情報を把握しているので、撮影も箱のサイズ選びも必要ない。
次に、同社が商品を買い取り、業界基準に基づき品質を評価する。その後、約束した金額をユーザーへ送金。買い取ったリユース品をどうするかはブランドの意向を受けて決定する。ブランド側へ二次流通品として自社販売用に売り戻すことや、第三者プラットフォームやオフラインリユース業者への販売などの経路がある。ここでのポイントは、ブランド価値を毀損しないように、ブランドの意向に沿って経路を決定することだという。
「なぜここで買うのか」を訴求する。従来慣行のペイン3つ
同サービスは、従来ブランド側が抱えていたペインの解消に貢献すると想定。そのペインは3つあると仮説を立てる。
- Amazonや楽天市場、Yahoo!ショッピングなど大手ECプラットフォームが一定程度のシェアを握るなか、ブランドが自社展開するECショップにおいて、ユーザーが商品を購入する理由を見い出せていない。結果的に、セールやポイント付与など、持続可能ではない価格戦争に陥ってしまう。「ここでなぜ買うのか」という価値訴求をする必要があるのではないか。
- 価格が8,000円以上ともなれば、後悔なく購入したいという意識がより一層働き、ユーザーの購入へのハードルが高くなる。それを後押しするサービスは今ひとつ出ていないのではないか。
- メンバーシップやポイ活など、どのブランドも何かしら顧客関係を管理する取り組みを実施する。それでも、購入が一回限りとなり、LTV(ライフタイムバリュー)向上につなげられていないのではないか。バイバックのタイミングでその情報を加盟店と共有することは、ユーザーが商品を買い替える可能性があることを知らせることと同義だ。LTV向上に向けた施策として機能するかもしれない。
「なぜそのECサイトで買うのか」。その価値を持続可能な形で訴求することで、上記3つのペイン解消に横断的に寄与するというわけだ。
循環性向上に、サービスが果たす役割
このサービスは循環性向上にとってどういう意味があるのだろうか。まず、顧客にとっては商品を手放す際の選択肢が増えることで遊休資産化を防ぐ。いくつかある手放す方法のうち、ユーザーがリセールという選択を取った場合、オンライン・オフラインかかわらず、リセールプラットフォームを利用するケースが多い。しかし、手放すまでに手間と、場合によってはそれに見合わないコストがかかる。新品購入時から情報が追跡されており、ワンクリックで手続きできるというこのシステムならば、手放す際のユーザーの工数も最小限で済む。これにより、「資産が眠りにくくなる」(大河さん)という状態をつくれるのだという。
利用段階において、品質状態に応じた価格設定となっているため、丁寧な利用を促進する効果も見逃せない。そういう意味では、所有権はもちろんユーザーにあるが、「所有」というよりも次のユーザーにわたす「利用」に近い感覚かもしれない。
最後に、リセールバリューへの意識向上により新品購入単価が高まることで、より高付加価値・高価格帯の製品が売れ筋となる可能性もある。こういった製品はそれに見合った製品の使われ方や手放され方がなされるため、製品寿命を延ばせるかもしれない。ここにブランドが勝機を見出すことができれば、修理やメンテナンスがしやすい高耐久な製品づくりを促す循環型設計へと意識が向く。
このように、循環性向上の潜在性を秘めるのがバイバック保証のサービスというわけだ。
一方、ここで「潜在性」と控えめに記したのには理由がある。リセールバリューが意識されるがあまりに新品製品購入のハードルが低くなることで、新品製造が増え、結果的に社会全体でみた場合の環境負荷が高まってしまう「バックファイア効果」も起こり得るからだ。当然、循環を当たり前にすることを目指すリベロントとして描く絵姿ではない。
リベロントはこうした罠を認識しながらも、まずは今社会で大規模に起こっていない「眠らずにめぐる」ための仕組み化を先決する。ただ、それだけでは不十分で、二次流通品を適切な形で循環させる「循環チャンネルの設計」が必要不可欠だとする。これにより一次と二次流通の不均衡を正すことにつながるという。
「既存の二次・三次市場プレーヤーと連携しリセールチャネルを強化することに加えて、『トレーサビリティが確保されている商品ならリセール品でも購入して安心』という新たな需要喚起をブランドと連携し実現し、市場を創出します。結果、一次・二次流通市場が最適化されていくと考えています」と大河さんは話す。
「ちょっと信じられない。こんなことができるのか」
大河さんは当初、今回のようなBtoBサービスではなく、一般ユーザー向けに二次流通を促進する所有資産管理サービスを構築する方向で動いていた。しかし、To CだとUIやUXが複雑になりがちであることに加え、スタートアップが耐えうるマーケティングコストをはるかに超えることを懸念し、To Bに舵を切った。顧客と話すなかで、一つの切り口として進めそうだという手応えを得て、本格的にサービス構築に邁進した。
あるブランドからは「ちょっと信じられない。こんなことができるのか」というコメントをもらったという。大河さんも、「我々の取り組みは、社会を前進させるために業界慣習を変えうる話だと思っています。これが受け入れられると、企業や消費者の考え方そのものも変わるのでは」と話す。「我々が介入することでリセールバリューをさらに高め、新たな価値創造ができるようであれば、リベロントの存在意義があります。ブランドの価値向上に向けて不退転の決意で支援していきたい」 と意気込みを語る。
「『経済or環境』ではなく、『経済and環境』」
大河さんがこのサービスを構築するに至った背景として、前職のコンサルタント時代でサステナビリティ案件に関わる機会が多かったことがある。そこで得た経済と環境の捉え方がすべてのベースとなっている。
「『人々が動く経済』と『持続可能』の円が重なるところ、orではなくてandを活動範囲にすることを大切にしています。経済的な価値を生み出すことが環境にとってプラスになるという方式にしないと、大きく動かすのは難しい。本当にブランドやユーザーを動かすものになるだろうかという視点を常に持ち、今回のビジネスモデルを描きました」
社会全体で循環性を高めた形で二次流通がよりメインストリームとなっていけば、そこに経済と環境が重なるスペースが大きくなる。
取材後記:経済的価値と一次品量のデカップリングを促すプラットフォームとなるか
冒頭述べたようにリユース市場が拡大しているなか、我々は本当にそれが持続可能性につながっているかに留意しなければならない。リユース市場が伸長する一方で、新製品の大量生産モデルという罠から脱却できずにいるかもしれない。
ただそうはいっても、これまで既存物に経済価値を付与する手法は限定的で発展途上であった。ここへきてデジタル技術によりそれが可能になる方法も見出されてきている。バイバック保証はまさにそこに焦点を当てたツールとして可能性を秘める。
ユーザーが製品を手放す際の選択肢を増やし、ブランド側によるさらなる循環設計を促し、社会において経済的価値と一次(新)品量のデカップリングに貢献する時、非連続なサーキュラリティの向上が期待できる。
【プレスリリース記事】リベロント、最大90%の再販価値を保証する「バイバック保証™」付き新購買体験(“Buy Now Sell Later”)をEC向けに正式ローンチ
【公式HP】Liberont株式会社
【参照】リユース業界の市場規模推計2024(2023年版)
【参照】thredUP Resale Report 2025
