前編では、イケアの循環に向けた取り組みのうち、原材料調達とサーキュラーデザインについて見てきた。後編では、3つ目のポイントである製品寿命の延長を紹介し、サーキュラーエコノミーの視点で同社の取り組みを考察したい。

3. 製品寿命の延長

いくら循環型原材料を調達しサーキュラーデザインを施しても、それらが利用段階で生かされなければ効果は半減する。そこで要となるのが、製品の効率的な利用だ。

製品寿命の延長にはさまざまなアプローチがある。イケアでは、4つのR(リユース・リファービッシュ・リマニュファクチャリング・リサイクル)に力を入れるが、同時に優先順位づけも行う。やはり、下図における小さい円、つまり製品を長く使うことやリユースすることは環境負荷が最も低いとされ、優先されるべき戦略として位置付ける。「(4つのRの)中でも特にリユースに力を入れています」と平山さんも語る。

イケア サステナビリティレポート2020より

再販(Circular Hub)

IKEA港北のCircular Hub(写真:イケア・ジャパン株式会社)

上図における小さな円であるリユース。その具体的方法としての再販は、イケアのビジネスモデル変革の象徴だ。イケアの店舗といえば、スタイリッシュなショールームが多数配置されている店舗設計を思い起こすだろう。イケアで中古品が買えるとは、全く想像がつかなかったことかもしれない。

前編冒頭で述べたように、イケア・ジャパンは、2021年2月に「家具に第二の人生を与える」Circular Hubを開設。まずはIKEA港北から開始し、全国9店舗で展開をしていく。都心型店舗でもCircular Shopという形で、小さいスペースを用意しているという。顧客から買い取った家具・展示品や廃番品を販売するこれまでにないスペースだ。

リユース品であることを表示するラベル(写真:イケア・ジャパン株式会社)

販売価格は新品の7割以下だというが、「これらの中古品や廃番品はストーリーがあることから、ただ安く販売するだけではなく、中古品の価値を感じていただけるような売り場を展開しています」と平山さんは話す。

このスペースには、従業員が修理作業をする様子などが見学できるスペースがある。新型コロナウイルス収束後には顧客も参加できるワークショップを予定していることだ。

修理の様子(写真:イケア・ジャパン株式会社)

このCircular Hubという名前について、「あえて日本語化しないことで、顧客の『これは何か』もっと知りたい』という疑問を引き出して、しっかり『Circular』とは何かを伝えていくことが大切だと考えています」と、平山さんはその由来を話す。「Circular Hub開設以前に取り組んでいる買取プログラムは日本が先行して取り組んでいた分野であり、私たちとしても誇りを持っています。日本の『もったいない精神』が生かされる取り組みだと捉えています」と語る。実際、「中古品も悪くない」といったポジティブなフィードバックも寄せられているという。

世界を見わたすと、新品家具市場は4,800億ドル。一方の中古家具市場は99億ドルと全体に対してわずかな割合でしかない。しかし、Reserch and Marketsの調査によると、世界の中古家具市場は、2025年に2017年比で70%増の166億ドルへ拡大すると予想されている。海外では1stDibsなど、ハイエンドなアンティーク中古家具を取引するオンラインプラットフォーム市場が生まれつつあるという。多くの業界でリユース自体の価値は見直されており成長市場となっているが、家具も例外なく伸びている。

このような状況において、イケアの「ブランド力」と「実店舗保有」の強みはさらなる追い風となる。それも郊外型店舗がメインであるため、顧客が中古品を自動車で持ち込むことができるからだ。結果、オンライン中古家具市場が直面している物流コストの課題がここで相応に解決できるかもしれない。

PaaS

欧州の6つの市場で家具のリースモデルのテスト事業が2020年、スタートした。イケアでは、このモデルをPaaS(Product as a Service・製品のサービス化)ならぬFasS(Furniture as a Service・家具のサービス化モデル)と呼ぶようだ。リースされた家具がイケアに戻ると、洗浄や修理・リファービッシュのうえ、次の消費者に提供される。そのため、イケア側が所有権を持ったままとなるため、製品寿命延長のインセンティブが働く。単なるリースモデルではなく、循環ありきのモデルということが特徴だ。

同モデルの展望について、「長期的に顧客とつながることを大切にしているので、FaaSの全世界導入の可能性を探っているところです」と平山さんは語る。人々の価値観やライフスタイルの多様化により、このようなモデルの受容度は高まっているようだ。

スペア部品のアクセスを容易に

スペア部品の提供は、安易な新品購入を避け、最小限の環境負荷で修理による製品価値を維持させる。イケアは、2020年度には1,400万個以上のスペア部品を提供したと発表。2021会計年度からはオンラインでスペア部品の取り扱いをスタートする予定だ。加えて、スペア部品の他製品との共通化に取り組んでいる。欧米では国や自治体主導で「修理の権利」の確立が急がれているが、スペア部品の入手可能性はこの流れにも沿う。

サーキュラーエコノミーの視点

以上、同社の取り組みを「原材料調達」「サーキュラーデザイン」「製品寿命の延長」の3つの観点から伺ったが、最後にサーキュラーエコノミーの視点で3つの考察を加えたい。

1.「クライメート・サーキュラーポジティブ」を起点に、ビジネスモデルを創出

インタビューから見えてきたものは、「クライメート・サーキュラーポジティブ」を起点として商品やビジネスモデルが生み出されていることだ。すなわち、クライメート・サーキュラーポジティブにするにはどうすればいいのかという思考の順序で製品づくりとビジネスモデルをつくる。

これらの問いへの回答を、新たな成長機会としてうまく取り込んでいるのが特徴だろう。

例えば、再販事業。キャッシュポイントの点から見れば、リニア型ビジネスモデルでは、「売って終わり」となっていることがほとんどだ。サーキュラー型ビジネスモデルでは、顧客との接点を増やす。うまくいけばブランディングの向上にもつながる。

Circular Hubでは、仮にIKEA港北で新品家具を購入し、ライフスタイルの変化に伴い不要となったその家具をもう一度Circular Hubに持ち込むことで、この製品だけでも最低2回の来店を確保できる。修理のための来店となればさらに回数は増えるだろう。FaaSでもスペア部品販売でも同様に、さらに多くの顧客との接点が生まれる。結果として、顧客とイケアとのつながりが強くなり、ブランドロイヤルティの向上にもなりうる。サーキュラービジネスモデルは、製品の長寿命化を図ることによる新品商品の販売額低下をキャッシュポイント多様化で補うことが多く、イケアもこの例に当てはまるだろう。

2. サステナビリティの「民主化」

サーキュラーエコノミーにおいて重要なことは「仕組みづくり」である。全てのステークホルダーが「仕組み」によって、移行に伴う「痛み」を無くす・あるいは和らげなければならない。

「サステナブルな暮らしを営みたいという方は多いのですが、実際に環境配慮型製品の購入やシェアリング、モノを大切にするなどの行動が伴うのはその半分にとどまるという調査もあります。このボトルネックを特定して解消していきたいと考えています」と平山さんは言う。サーキュラーエコノミー転換により価格が大幅に高くなったり、理念の崇高さから購入への敷居が高くなりすぎたりすると、一般の人々に受け入れられなくなる。

「自分のライフスタイルを犠牲にしない形で、環境に優しい暮らしができるということを具体的に提示していきたい」と平山さんが話すように、いかに今の便利さや手の届く価格を維持することを犠牲にしないで循環型の仕組みを構築できるかがポイントとなる。

これまで見てきたような仕組みづくりの結果、同社のデモクラティックデザインである「形」「機能性」「品質」「サステナビリティ」「低価格」にアプローチでき、広く「民主的に」受け入れられることにつながる。イケアの企業規模だからこそ、「何かを犠牲にせずサステナビリティに移行する」ことに取り組みやすい。

3. サステナビリティは、今後の生命線になるという認識

「長期的に見れば、将来的にはむしろコストのかかる原料となっていくだろう」と話す平山さんの言葉が象徴するように、原材料調達はイケアの存続に関わる生命線だ。2030年という業界では早く明確な目標を掲げ、一定の透明性を持って進捗している。「長期的に見た場合、サステナビリティは”nice to have”(できれば素晴らしい)の世界ではなくて、”must”である」と言い切る平山さん。何のためにサステナビリティを進めていくのかという認識を突き詰めている同社だからこその言葉であろう。

過去には森林伐採やサプライヤーの倫理についての指摘を受けるなど、巨大企業ならではの市民社会からのプレッシャーに直面し続けてきたイケア。その都度対応してきたが、今後は「対応」ではなく「本当に重要なものは何か」を認識しているからこそ、大きく転換に舵を切っているのではないだろうか。

編集後記

イケアのサステナビリティ戦略には、今回取り上げられなかったがまだまだ多くある。たとえば、森林回復やカーボンフットプリントへの取り組みだ。環境への取り組みを最優先事項として急ピッチで進めるが、なおもしっかりとビジネスとして繁栄していく、ビジョンに沿いつつもしたたかな戦略には目を見張るものがある。

イケアに対しては、グローバルな巨大企業に共通する、多方面からのさまざまな評価や意見があるだろう。過去の経緯もあるかもしれないし、まだまだ不十分なことは多々あるかもしれない。しかしイケアは、それらを認識し、企業の存続をかけて経済・社会・環境面を統合的に捉えて、サステナビリティへの移行を進めている。

日本ではIKEA渋谷店やIKEA新宿店など、最近相次いで都市型店舗をオープンしたが、国内でも同社のサステナビリティへの取り組みは、業界内外に少なからぬインパクトを与えることになるだろう。

前編はこちら

【参照】イケア公式HP
【参照】ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ(イケア・ジャパン株式会社)
【参照】Circular Product Design Guide
【参照】イケアLIFE AT HOME
【参照】IKEA Sustainability report FY2020
【参考調査】Global Off-the-Shelf Second Hand Furniture Market Outlook 2025
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