株式会社ECOMMITは2007年の創業以来、日本で回収した中古の建設機械や農業機械をはじめ、不要となった製品を次に必要とする人へと繋ぐ海外向けのリユース販売事業を中心にビジネスを展開してきた。15年間の歩みを通じて目にしてきたのは、消費者も企業も誰もが“悪気なく”行動した結果として生じる、ものが大量に廃棄される光景だ。

まだまだ使えるけれども、身近で回収・再生してくれる場所がないから仕方なく捨てる消費者。一方、常に質の良い新しいものを安く大量に供給することを求められる中で、やむをえず廃棄する企業。経済性と利便性を重視した結果として環境を犠牲にしてきた社会システムを、どうすれば変えられるのか──。15年間この問いに向き合い続けて今、目指すべきゴールが見えてきたという。

2023年、ECOMMITは伊藤忠商事株式会社と業務提携を行い、サーキュラーエコノミーを推進する循環商社として再始動した。新たなボードメンバーを迎え、第二の創業と位置づけるこのタイミングで、大量生産・大量消費の現状をどのように変えていくのか。さらに、同社が描く捨てない社会の未来像とはどのようなものか聞いてみた。

話者プロフィール(敬称略)

川野 輝之(株式会社ECOMMIT代表取締役CEO)
高校卒業後に中古品輸出企業に就職し、4年間の修業期間を経て2007年にECOMMITを創業。自社開発の回収品のトレーサビリティシステムを主軸に、企業や自治体のサーキュラーエコノミー推進事業を全国で展開する。
坂野 晶(株式会社ECOMMIT取締役CSO)
日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町の廃棄物削減に取り組むNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長を経て、循環型社会のモデル形成に取り組む一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事を務める。脱炭素に向けた社会変革を起こす人材育成プログラムGreen Innovator Academy設立にも携わる。2023年1月、ECOMMITの取締役に就任。

ものが循環する仕組みをつくり、ものづくりのあり方を変える

ECOMMITは、中古の建設機械や農業機械から始まり、電化製品や衣類、家具やオフィス什器など、実にさまざまな品目の製品を日本国内で回収し、東南アジアなど海外で販売することで事業を拡大させていった。川野さん曰く、それを後押ししたのは高品質な日本製品へのニーズだった。

「海外に出て行けば行くほど、日本のリユース品に対する信頼性やポテンシャルの高さを感じました。驚いたのは、食器や調理器具のような生活雑貨がチェーン展開している現地のリユースショップやリユース企業にものすごく売れるということ。海外のバイヤーからの『これが欲しい』『こんなものを買いたい』というニーズに合わせながら、徐々に取り扱う品目が広がっていきましたね」

しかし、事業を拡大する中で、先進国から来たものが途上国で大きな環境負荷を生み出している悲惨な状況を目の当たりにすることに。そこから徐々に、ただ再販するだけでなく「循環のループを閉じる」ことを意識するようになったという。

「実は元々、廃棄を生み出すことに対する課題意識は持っていました。廃棄の原因となっている消費者の行動や静脈産業のあり方を変えるだけでなく、上流のものづくりのあり方まで変えたかった。ものが循環する仕組みをつくる“循環商社”と名乗って、再生素材によるものづくりを可能にする流通網の開拓や、ものの行き先を可視化するトレーサビリティシステムの開発などに手を伸ばしていきました」

Photo by Masato Sezawa

同じころ、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町で廃棄物ゼロを目指し、さまざまな仕掛けづくりに取り組んできた坂野さんも、上流のものづくりのあり方に課題を感じていた。

「廃棄する側から社会の仕組みを見てきた中で、特に衣類や繊維などはものの循環のループを完全に閉じることはできていないと感じていました。川野と出会ったころ、コットンやウールなど特定の繊維のリサイクル率を上げることは、そもそも生産過程で環境負荷が高い素材の投入量を減らすことにも貢献すると考え、アイデアを出していたタイミングでした。すでに社会にある資源を再発掘すること、つまりコットンであれば『都市農園』、ウールであれば『都市牧場』。ECOMMITこそそれができるインフラになれるのでは、とワクワクしました」

Photo by Masato Sezawa

独自の回収・選別技術とデータの力でバリューチェーンを一気通貫で変える

では実際に、ECOMMITの循環の仕組みにはどのような特徴、他にはない強みがあるのだろうか。それはまず、海外顧客のニーズに応えながら数多くのパートナー企業とともに構築した多品目にわたる回収システムだ。川野さんは、こう振り返る。

「当時はとにかく海外のお客様のニーズに合わせて、捨てられてしまっているものからどんどん集めていこう、という感じでした。ちょうどリユースショップが全国でチェーン展開されるようになって、ショップで売り切れなかったものの中に価値のあるものがたくさん入っていたので、そこからまず開拓していきました。回収したものをトラックで運ぶため、あるいは回収したものを選別するための拠点を各地で地道に展開していき、気がついたら15年もかかりました」

この間、リユースショップだけではなく生活動線上で回収できる拠点を置かないことには、回収のインフラになれないと思い始めたという川野さん。マンションディベロッパーや商業施設、郵便局などと提携し、通勤通学や買い物などの際に不要品を持ち込めるように回収拠点をさらに増やしていった。

「販売網が海外に依存していることで苦労したので、国内で回収して国内で販売する循環の仕組みづくりに力を入れていったんです。それと比例して国内での需要がどんどん増えていったので、回収拠点もそれに応じて増やしていかざるを得なかった面もありました。ただ、今となってはさまざまな販売先と回収拠点があるからこそ色々なデータが集まっていて、我々の価値につながっていると思っています」

独自の選別ノウハウと販売ネットワークを活かし、「サーキュラーバリューチェーン」を構築してきた(Image via ECOMMIT)

とはいえ、こうした循環の仕組みづくりだけでは足りない、と川野さんは考えるようになったという。

「捨てるよりもメリットのある仕組みを作らなければならないと思って、生活動線上にたくさんの回収拠点を作っています。でも、そもそもの大量生産・大量消費モデルを変えていかない限り、どれだけ回収する拠点ができたとしても変わらない。消費者だけでなく、ものづくりを行う企業も変わっていかなければならない。バリューチェーン全体を変えない限り環境課題は解決しない、という結論に今は至っています」

ECOMMITが描くバリューチェーン全体の変革、そのカギを握るのがリユース・リサイクル率の算出のほか、CO2削減量のレポーティングを通して回収から再流通までのものの流れをデータで可視化するシステムだ。どのようなものなのか、川野さんはこう説明する。

「回収の効率化を図るシステムと、回収したものを追跡するシステムという主に2つのシステムを使っています。回収の効率化という面では、トラック何台分といったように大雑把に把握するのではなく、Bluetooth連携で計量器からアプリにデータを送って重量を登録し、ワンクリックで請求書の発行などができるようにしました。追跡システムの方では、回収物がどこから発生したものか、いつ誰が回収して、どんな品物がどれぐらい出てきて、どのような過程を経てどこに流れていったのかが可視化されるので、回収から再資源化までのプロセスをおおむね把握できます」

坂野さんは、回収インフラ構築とトレーサビリティシステム開発の双方を手掛けるECOMMITの立ち位置をこう評する。

「いわゆる静脈産業って、参入が難しい上にイノベーションを起こしづらいんですね。最近はサーキュラーエコノミーの領域でもスタートアップは増えてきていますが、回収から再資源化まで一気通貫で仕組みを作るのは非常に難しいのです。データを扱う企業は他にもありますが、自社回収のインフラとデータを持って戦える基盤がある会社はなかなかありません。そういう意味で、非常に可能性があると思っています」

Photo by Masato Sezawa

データに裏打ちされた信頼性で、循環のしくみを日本全国へ

このところ、回収インフラとトレーサビリティシステムの双方を持ち合わせたECOMMITのユニークさは、自治体からも評価されるようになってきた。自治体は川野さんとしても協働することの必要性を感じていた相手だった。

「リユースショップは今や家電量販店よりも店舗数が多いですし、フリマアプリやオークションのような個人間取引の仕組みも出てきていますが、例えば衣服においては、データを見ると全国民の約3割しかそうした仕組みを活用していないのです。残りの約7割は捨ててしまっていて、廃棄したものは自治体のクリーンセンターへ流れていっています。都市部ではお店や生活動線上の回収拠点を増やしていけば良いのですが、地方では自治体と一緒にやることが必要だと思って、自治体への営業を始めました」

最初はなかなかうまくいかなかったそうだが、SDGsへの理解や取り組みなどの広がりも手伝ってか徐々に手ごたえを感じるようになったという。

「僕らが自治体へ営業し始めた時はすごく苦戦したのですが、最近では価値を実感してくださった自治体が他の自治体に口コミで広げてくれたり、プレスリリースを見ていただいた自治体が興味を持ってくれたりと、どんどん導入していただいています。自治体の間でSDGsやサーキュラーエコノミーだけでなく、脱炭素の視点からも何かやらなければならないという機運が高まっているのも追い風ですね」

特に、トレーサビリティシステムを持っていることが自治体にとって信頼性につながっていると、坂野さんは捉えている。

「自治体の場合、公的サービスとして提供する前提に立つと信頼が重要であり、回収されたものがどこかで環境負荷を増やしていたり、結局廃棄されたりしていないという証拠が必要です。私たちのトレーサビリティシステムはその証明という点で役に立つことができると考えています」

自治体では市民に資源を持ち込んでもらう「リユース品回収の日」の取り組みも(Image via ECOMMIT)

企業にとっても、自社製品のトレーサビリティを高めることで信頼を得られるだけでなく、社会に送り出した製品を再び回収し、次の素材として余すところなく活用できるようになる。これこそが、ECOMMITが望むものづくりの未来だと、川野さんは言う。

「われわれのシステム上では回収して再資源化されるまでの過程を追跡できるので、今はまだ再生原料を単純にモノとして販売しているだけですが、脱炭素の貢献度やバージン材との比較でどれだけ地球に対して良い効果を出しているかというライフサイクルアセスメントを行うと、新しい付加価値をもたらせると考えています。こうした原料をメーカーやブランドが仕入れてくれれば、サプライチェーンすべての過程を追跡できるようになり、循環の輪を閉じることができます」

とはいえ、再生素材は価格の高さが普及のネックになってきた。しかし最近では、バージン材との価格差は縮まりつつあるという。そうなると、ものづくりのあり方が一気に変わる可能性が出てくる。実際、はじめから回収を前提とした、単一素材だけ、再生素材だけでの製品設計も進められているという。

再生素材で作り続けるだけではない。回収した自社製品を適切にリセールすることで、長く使い続けられるものづくりや収益モデルの改善につなげることもできる。

「回収したものの中には、まだ商品として価値のあるものがたくさん含まれています。われわれのセンターで品質チェックをした上で、メーカーにリセール品として戻せば、認定中古品として販売できます。そうすれば、作り手にも販売している人たちにも再び収益化できる機会を作り出せるのです。リセールできる価値が高いものを作っていこうという考え方に変われば、大量生産・大量消費モデルを変えられると思うのです。次の展開として、そのようなサービスモデルを提供していきたいですね」

「国際循環モデル」で捨てない社会にアップデートする

第二の創業と位置づける2023年、ECOMMITは創業時から抱いてきた国際的な循環モデルづくりに向けていよいよ動き出していく。川野さんはどのようなビジョンを描いているのだろうか。

「今、日本で廃棄されている衣服50万トンのうち、ECOMMITが回収できているのは約6,000トン、全体の1%程度です。これを、5年以内に20%まで伸ばしたいと思っています。それでもまだ20%なので、私たち以外の競合もどんどん現れて、10年後には『洋服って、昔捨てていたらしいよ』ってみんなが言っているようにしたいですね(笑)。今春から、より生活者にとって身近な循環のインフラを広げていくために、不要品の回収・選別・再流通を一気通貫で行うオリジナルブランド『PASSTO(パスト)』を開発、導入をスタートしました。

PASSTOは、『全国で』『多品目』を回収できる当社の強みを活かし、サービスを提供しています。多様なパートナー様と一緒にPASSTOを広めていくことで、『捨てるのではなく、渡す』という行為をできるだけ多くの人にとって身近にし、まずは洋服を中心に、使わなくなったものは捨てずに誰かに贈ることを当たり前にすることを目指していきます」

「ただ、日本でどれだけ資源を集めたところで生産国がほとんど海外なので、国際的な循環を作っていかない限りサーキュラーバリューチェーンは閉じません。国内で回収し、一次加工して、原料としてメーカーに戻していく。再び日本に製品として入ってきて、日本で消費された後、まずは長く使うためにセカンドハンドとしてもう1回マーケットに出ていく。それを回収して、いずれは資源になりますが、再び海外にわたって製品になってその国なり日本なりで流通するというこの大きな国際循環のモデルが5年後には絶対出来上がっていなければいけないと思っています」

坂野さんも、これまでを振り返りつつサーキュラーエコノミーをめぐる市場環境をこのように見通す。

「この5年間ぐらいでリサイクルや資源循環自体はさらに大きなアジェンダになりましたし、脱炭素化の動きも加速しました。エネルギー分野に続いて、資源循環分野も5年後には経済合理性がついてくるフェーズにもなってくるでしょうね」

二人が見通す世界に近づくためには、ECOMMITの力だけでは足りない。同じ未来を見つめる“同志”が必要だ。川野さんは、こう呼びかける。

「私たちは、サーキュラーバリューチェーンの入り口と出口の両方でパートナーを求めています。入り口は、私たちと一緒に回収してくれる企業や、私たちの回収インフラを使って自社製品を回収したい企業です。出口というのは、回収したものを再生素材として自社製品に活かしたい企業です。バリューチェーン全体で取り組まなければならないことですが、まだ両方とも足りないので、少しでも多くの企業に参画してほしいですね」

すべての必要とすべての不要をつなげ、捨てない社会をかなえる──。まだ見ぬ地球規模の国際的な循環モデルへ、ECOMMITは新たな一歩を踏み出していく。

編集後記

「国際的なサーキュラーバリューチェーンをつくるためには、海外も含めて事業を伸ばせて、なおかつ国内外での政策提言などを通じて一つのチームを作りながら展開していける人って誰だろうと思ったとき、この人しかいないと感じました」

ECOMMITに合流した坂野さんにどんな化学反応を期待しているか川野さんに聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。互いに異なるフィールドで循環型社会という同じビジョンを見ていた二人の思いが交わり、さらに大きな循環の輪が広がろうとしている。

サーキュラーエコノミーは今後ますます、国際的な潮流として地球規模で求められる取り組みとして位置付けられるだろう。そんな流れに乗って、自治体や大手ブランド、さらにはECプラットフォームを通じた回収・再資源化など、多種多様なプレーヤーとの協働を通じて、既存のバリューチェーン変えるインフラを目指そうとしているECOMMITのこれからの挑戦から目が離せない。

Photo by Masato Sezawa

【参照サイト】ECOMMIT | 地球にコミットする循環商社
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※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD 」からの転載記事です。