リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーに移行すれば、当然マーケティングも変わる。しかし、本質が伴わないままグリーンなブランドとして情報発信する企業は、グリーンウォッシングだと非難されることも多い。ビジネスの多くがサーキュラーエコノミーに移行するこの時代に、どのようにマーケティングを変えていけばいいのだろうかーー。オランダに拠点を置くサステナブル&サーキュラーブランドに特化した広告エージェントheldergroenの創業者、Sander Veenendaal(サンダー・フェーネンダール)さんに、サーキュラー時代のマーケティングについて話を聞いた。

Image via heldergroen
今回取材に応じてくれた創業者のサンダー・フェーネンダールさん

サーキュラーエコノミーに踏み出すために必要なのは、安全に対話ができる場

あるカンファレンスを通して、実に多くのブランドがサーキュラーな製品やサービスを市場に向けマーケティングするのに苦戦しているのを私たちは目の当たりにしました。

昨年11月にアムステルダムで開催された「オランダ・サーキュラー・リーダーシップ・カンファレンス」でのことです。このカンファレンスの主催として、私は他の3人のメンバーとともに、影響力を持つオランダ企業120社からCEOたちを招いて、サーキュラーエコノミー時代に必要となるリーダーシップを紐解きました。当日は、ロイヤル・ダッチ・シェルや、フィリップス、ABN AMRO、オランダのバルケネンデ前首相や警察のトップまでが集まりました。

私たちが作り出したかったのは、企業トップが集まり、安全に話し合いができる場です。正直に本音や手の内を明かしても誰からも攻撃される心配がないことが、本質的な議論をする場として必須でした。そのため、誰もスマホを持ち込まないで、朝9時から夜9時まで途切れなくコミットしてもらうことをこのカンファレンスでの条件として設定しました。オランダのトップ企業やトップ機関の責任者たちに、しかも120社同時にこれだけのコミットメントを強いることは簡単なことではないことはわかっていましたが、結果皆さんの納得を得て対話の場を実現することができました。

カンファレンスを通して交わされた対話と、オランダのトップ経営者たちの想いは、非常に興味深いものでした。経営者たちは、企業をよりグリーンでサーキュラーなものに導いていかなければならないという大きなプレッシャーに晒されています。そうしたいという想いも強い。しかし彼ら彼女らのほとんどがどのように動いてよいかわからず、同時に、非常に怖がっていました。

リニア型のビジネスでは、AからBにモノやお金を動かすことができれば良く、そのやり方は広く知られています。何が起きるか予測もつく。しかしサーキュラーエコノミーに一歩踏み出すことは、これまでの常識が通用しない、未知の世界に入っていくことを意味します。わからないなかで手探りで進む道を見極めながら、同時に会社が従来型の経済指標のもとに業績を上げていることをステークホルダーたちに示し続けなければなりません。

しかも、良いことを始めても、その「良さ」が完璧ではないとメディアから叩かれてしまう。こういった悩みも抱えていました。

この対話からわかったことと必要なアクションポイントを、私たちはサーキュラーリーダーシップの9原則にまとめました。この内容は提言書として、スペインのマドリードで開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)の中で、オランダのシフリット・カーフ(Sigrid KAAG)外国貿易・開発協力大臣に提出しています。

Image via heldergroen 

サーキュラーリーダーシップの9原則

  • 未来への声は役員室を巻き込むものでなければならない
  • 時は今
  • 仕組みを確立するのは権力ではなくリーダーシップ
  • 肩書ではなく、自分自身に正直でいること
  • あなたの持つ影響力を良い未来のために用いる
  • あなた個人の収益のためではなく、共有収益のために
  • すべての職種、役職の人々がつながらなければならない
  • サーキュラービジネスは高い収益性がある
  • フロントランナーたちと肩を並べ、若い才能を発揮しよう

カンファレンス報告書より)

大きなブランドを循環させるのが、循環するブランドを大きくするより難しい理由とは?

大きなブランドを循環させるのも、循環するブランドを大きくするのも簡単なわけではありません。それぞれに難しさがあります。しかし、私は、循環するブランドを大きくするよりも、大きなブランドを循環させる方がより大きな困難を伴うと考えるようになりました。

循環するブランドを大きくするのに必要なのは、事業拡大の技術とマーケティング力です。すでにサーキュラーなブランドは、サーキュラーエコノミーが自然や社会の中でどのように機能するのか、技術的な概念を超えて理解しているはずです。手が届くところに資源を保つことは事業としてメリットだけでなく、社会にも自然にも大きな恩恵をもたらしてくれます。コミュニケーションとは、製品やサービスが形作られる過程そのものを反映しているため、すでに社会や自然に対して価値を生み出しているならばそれを伝えればいいだけなのです。

一方で、そこに実態がないのにストーリーだけ作り上げることはできません。サステナブルな実態のないブランドが、私たちのようなブランディングとマーケティングの代理店になんとかしてもらおうと連絡してくることがよくあります。しかし、それではビジネスは変わらないでしょう。

大きなブランドを循環させるためには、戦略と企業文化を変え、企業としての、そしてそこで働く人たちの行動変容を促さなければなりません。言うのは簡単ですが、大きな企業にとってこれは簡単なことではありません。

さらに、経営者の主導なしにはブランドは変わらない、ということも確かになりました。経営者が変化を主導する立場にいなければ、大きなブランドがサーキュラーエコノミーに移行することはないでしょう。企業トップ自身がビジョンを語り、企業のストーリーを信じていなければ、どれだけ社員たちに企業文化として浸透させようとしても、一貫性がなく、小手先の言葉遊びだと見透かされてしまいます。経営者自身が責任を持って遂行しようという意思表示が不可欠なのです。

不完全さもさらけ出す「正直なブランディング」がCEを加速する

私は、もっとブランドは自分たちのことを正直に打ち明けてもいいのではないかと思います。

ソーシャルメディア上でいかに自分たちが素晴らしいかというストーリーを数多く発信するとします。すると、ソフトドリンクブランドを例に取れば、必ず誰かが「でもペットボトルは環境に悪い」「砂糖が大量に含まれていて体に悪い」とコメントするでしょう。結果自分たちの保身のためのコミュニケーションを取らざるを得なくなる。

一方、「今はこれが現状ですが、私たちはもっと良くしていきたいと感じています。だから変えるために、こんな道のりを歩いています」といった発信をすると、状況は一変します。利用者をブランドの内側に巻き込み、良くしていくには共に何ができるのか、どのような価値を共創できるか、というコミュニケーションを取ることができるようになります。

ブランドとは、ある意味お面のようなものです。正しい文脈で用いれば、非常にわかりやすく良い価値を伝えてくれます。しかし、厚すぎるお面を作ってしまうと、過去に繕われた同じストーリーだけを繰り返し、内側の本質からかけ離れたものになってしまいます。社外に語られるストーリーは、社内で感じられるものとは程遠いものとなり、ブランドは空虚なものになります。

人として、企業として感じることを正直に表現し、それぞれが同一線上に来るように企業のカルチャーを作り、社会の共通意識をつくりながらビジネスを行うことが重要なのではないでしょうか。

実際に、自社内や社会に対して生み出す価値に重きを置いた企業は、非常に異なる自己表現をしています。

Image via heldergroen
heldergroenがブランディングを手掛けるサーキュラーファッションのLoop.a life

私たちは、ブランディングの一環として、企業向けに社内カルチャープログラムを実施しています。このプログラムでは文化を創るメンバーという意味で社員を「カルチャークルー」といった名前で呼び、彼らに自分たちのストーリーを考えてもらいます。個々人が心をひらいて想いを話し、それをもとにチームとしてのストーリーをつくり、その上に会社としてのストーリーをつくる。自分たちの価値観、社会に対しての姿勢、目標とするKPIをつくると、企業として伝えるべきことがはっきりします。内側からの価値を大切にすることで、取り繕うことのない、正直なブランドができるのです。

ブランディングがきちんと機能しているならば、ブランドとはその企業で働く人々をそのまま表現したものになるはずです。ブランドを形作るのは人そのものであり、そこで働く人々が、明日どのようでありたいか、その姿をしっかりと反映しているはずです。

ブランドの価値観をコアにして人々が集まり、人々が価値となりブランドは人を惹きつける。この循環がうまく行っていれば、広告はアドバタイジングではなく、マグネタイジング(磁力化/惹きつける)となっているはずなのです。人々を惹きつけ、サステナブルで循環する未来へ導く存在になるはずです。

市場から社会・生態系へ。CE時代のマーケターは視野を広く持つべき

サーキュラーエコノミーのマーケティングと、従来型のマーケティングとはまったく異なります。

そもそもマーケティングとは、マーケターが、まだ存在しない市場をつくり、そこにアプローチするためにブランドをつくることです。つまり、マーケターの関心事項は市場に限られています。従来型のマーケティングとは、市場を定義し、その市場でシェアを得るための、つまりは売上を上げるためのブランドをつくることです。短絡的に表現してしまえば、従来型のマーケティングの目的とは製品やサービスをいかに早く売上を上げられるようブランドとして仕立てるかということなのです。興味深いのは、私たちはより早くより多くの利益を挙げることや目標を達成することに集中しており、そのためだけに効率化をしてきた点です。

Image via heldergroen 

これに対して、サーキュラービジネスにとっては、そもそも市場は社会の一部であり、社会とはもっと大きな自然生態系の一部と捉えるところから始まります。経済というのは社会や自然の中に存在する概念であり、単体で存在するものではありません。その上で、資源が豊かな関係性を紡ぎながらゆっくりと循環することを可能にすることです。右から左に行って終わり、という一方通行ではありません。豊かな相互接続性(interconnectivity)を生み出すことが必要なのです。サーキュラーエコノミーでは、私たちの周りに存在する資源とつながり、人々とつながることが重要なのですから。

製品やサービスを使ってくれている人たちが、その後も廃棄せずに資源として扱ってくれるのか。どのようにすれば、より少ない製品を売ることでビジネスとして成り立つのか。サーキュラーエコノミーのビジネスモデルとして利益を出しながら関係性を紡ぎ資源を循環させることができるのか。サーキュラーエコノミーでは、これらの問いを自らに、そして社会に投げかけることもブランドの重要な役割となります。一部の人だけが答えれば終わりという問いではありません。人々を集め、対話を始め、続けることです。これは、リニア型のマーケティングとはまったく異なるアプローチです。

価値を再定義し、自然の資源を最大化する循環を実現するには、マーケターたちがこれらの問いを投げかけ、そして答えを見つけていかなければならないのです。どのように自然を再生できるか。生態系と経済とを会社という形の中で共生させ育てていけるか――。マーケターの担う役割はここまで広がるのです。

マーケターには多くの人々を動かす力があり、これまでは不要なものを買わせることにその力が使われてきました。この力を正しい方向に人々を導くために、使うこともできるはずです。社会や自然から未来の兆候を読み解き、事業の進むべき方向を見極め、人々との対話の中からより大きく本質的な価値を生み出していけることでしょう。

循環する暮らしづくりを支援する それがマーケターの役割

ひとつ、マーケターが陥らないように気をつけたい落とし穴があります。サステナブルブランドのマーケティングの目的は、なぜ自分たちブランドがサステナビリティに取り組むかを発信することではなく、自分たちの顧客が叶えたいことを達成する手助けをする存在になるということです。世界を変える『ヒーロー』はブランドではありません。

これを、サステナビリティ・マーケティングの第一人者トーマス・コルスター氏は、自身の著書の中で「ヒーローの罠」と表現しています。ヒーローの罠とは、ブランド自身が世界をサステナブルに変える「ヒーロー(主体)」としてのコミュニケーションやマーケティングを行うと、変化を阻む敵になってしまう、とするものです。

みんな良いことを、それぞれの持ち場でやっているのに、「私たちこそが最もサステナブルなブランドです」と言って、他社を否定することにどんな意味があるのでしょう。実際に、「私たちこそが良い、あれは悪い」というブランドを人々は信用しなくなっています。

大切なのは、「良い」は最終目的地ではなく、改善していく過程の方向性を示すに過ぎないという点です。より良くしていくということは、旅の途中であり、終わることはないのですから。

製品には、人々が変わるのを後押しする力があります。より循環する暮らしへ。「買わない(refuse)」暮らしや、少しだけ使う量を減らす暮らしへ。サブスクリブションモデルでジーンズや車を所有しない暮らしや、何かが不要になったら他の人や他の物と交換できる暮らしへ。

私たちマーケターは、ライフスタイルをどのようにすれば、よりサステナブルで意味のあるものにできるかという答えを届けることができます。今回の新型コロナウイルスの危機でわかったことは、いかに世界の国々に頼って暮らしているかということではないでしょうか。私たちは、暮らしを取り巻く循環を小さなループに留め、手の届く距離で関係性を築き、生活することができるはずです。手の届く距離とは顔の見える関係性を意味します。近い距離の関係性において、私たちはお互いに与える影響をより真剣に捉えられるのではないでしょうか。

Image via heldergroen
heldergroenがブランディングを手掛けるサステナブルな洗剤seepje 

色合いの違う「グリーン」があってこその持続可能な社会

企業の活動は一晩ですべてを変えられるわけではありません。もしも、できるところからでも社会にとって、環境にとって良いことに変えようとしたとしても、人々の目は厳しいこともあるでしょう。「これまで大量に廃棄してきて、まだ一部環境を破壊しているのに、少し良いことをしたくらいで良い企業の顔をすべきでない」という批判もあるでしょう。前に進もうとしているのに、グリーンウォッシングだと言われてしまうこともあります。

私はこれを、「ダークグリーン(深い緑)論争」 と呼んでいます。

一言にグリーンといっても、様々な色合いがあっていいはずです。

私の定義では、ダークグリーンは、非常に厳格なイノベーターたちです。使命感と危機感をもって、こうしなければいけない、という理想を明確に持つ人たちです。はちみつでいえば、熱処理をしない本当のバイオダイナミック(ビオディナミ)農法のはちみつのみを扱う人たちです。

その次にいるのが、もう少し色の薄いグリーン。先のはちみつの例にならえば、高温処理はしませんが、一定の熱処理を加えることでより多くのはちみつを取り出すことを可能にします。バイオダイナミック農法を用いていないものの、「バイオロジカルハニー」という区分で扱われます。その次は、「クラフトハニー」。バイオロジカルではないものの、高品質なはちみつです。その次は、白に近い薄緑。オーガニックはちみつに少し砂糖を混ぜ、他の添加物も加えて売ります。

どれがよりグリーンかと言われれば、もちろんより深い緑色かもしれません。しかし、当然こういった手間をかければかけるほど少量の製品しかつくれず、高額になります。ここから良い事業を生み出すには、市場で多くの人が利用できる価格帯・流通量・販路に回る製品でなければなりません。「Bio(ビオ)」商品を提供しながら収益を生み出すことは、オランダでは大きな事業モデルになっています。確かに、「Bio(ビオ)」表記がある商品といっても、厳格な「バイオロジカル」や「バイオロジカル・ダイナミック」といったより良いはちみつと比べれば「良さ」は劣るでしょう。しかし、これだけ様々な「良い」製品が提供され、多くの人が手にすることができる状況は、それ自体がとても良い状況に向かっていると言えると思いませんか?

深い緑のフロントランナーたちは、より厳格な良さを作り、提供する。薄い緑の人たちは、スケールする事業として、多くの人が(少し)良い製品を手にする機会を提供する。双方の取り組みは同じくらい重要であり、どちらがより「良い」のかという話ではないはずです。

様々な色合いのグリーンがあってこそ、私たちの自然・社会・経済は前進していくはずなのですから。

取材後記

何が正解かわからない時代に保身の情報発信をせざるを得ない企業も多いなか、サーキュラーエコノミーには、不完全さもさらけ出す、正直なコミュニケーションが大切だというサンダーさんの言葉は力強く響く。「様々な色合いのグリーン」を織りなすすべてのビジネスを後押しすることが、持続可能な社会とサーキュラーエコノミーを加速させるという視点は、初めから完璧を目指しすぎて身動きが取れなくなってしまいがちな私たちに必要な示唆を投げかけてくれる。人々に大きな影響を与えるマーケティングは、サーキュラーエコノミーへの移行において重要な動力である。今後も取材を重ね、最新情報をお伝えしていきたい。

【参照サイト】heldergroen
【参照サイト】The end of linear growth The start of Circular Leadership