デジタル・情報技術は、サーキュラーエコノミーを単なる資源循環にとどめず、循環価値創出と価値共有の仕組みを変革することに貢献する。NTT DATAはデジタルが果たすこの役割を認識し、ステークホルダーをつなぐことに励む。社会にとって欠かせないインフラをつくり支えてきた国内最大手のIT企業であり、グローバルにおいても業界トップレイヤーで活躍する同グループ。サーキュラーエコノミー分野でもオープンな共創に励みながら、さらなる高みを目指している。
NTT DATAならではのサーキュラーエコノミー移行への取り組みとは。同社のサステナビリティやオープンイノベーション部門に加え、地産地消型SAF(持続可能な航空燃料)や社会貢献型のプラットフォームを展開する事業部門に話を聞いた。
前編では、NTT DATAのサーキュラーエコノミー戦略と、具体活動事例としての「地産地消型SAFサプライチェーン構想」について見てきた。後編では、「社会貢献プラットフォーム fowald」とサーキュラーエコノミー推進において鍵となるNTT DATAのオープンイノベーション戦略について関係者を取材した。
企業・自治体と生活者を社会貢献でつなぐ:社会貢献プラットフォーム「fowald」
「循環の土台をつくる」をわかりやすく体現するプロジェクトが、社会貢献プラットフォームfowaldだ。企業や自治体などの法人が生活者と取り組みたい目標を設定し、一緒に活動していくためのアプリケーションである。
法人が生活者と一緒に取り組めるアプリ
「生活者が自分の住んでいるまちや社会全体のために、何か少しでも良いことをしたいと感じても、何から始めたら良いかわからなかったり、自分ひとりでは一歩を踏み出せなかったりすることも多いと聞きます。モチベーションがあっても、行動に移すには心理的・身体的ハードルがあるのではないでしょうか。fowaldはそれを解消するためのアプリなのです」と、同事業を担当するソーシャルイノベーション事業部主任の中村磨奈さんは話す。

仕組みはシンプルだ。まず、企業や自治体などの法人が生活者と一緒に取り組みたい、社会や地域に関連したテーマを「クエスト」として掲載。生活者であるユーザーは、応援したいコミュニティから勧められたクエストに参加し活動する。活動すると個人にポイントが付与される。ちなみに、2025年1月からWeb3機能が搭載され、NFTで報酬を受け取ることも可能になったという。
ユーザーは、個人のみならず応援しているコミュニティの成果にも貢献できる。たとえば、スポーツクラブチームのコミュニティ内のクエストで活動すると、個人のポイントだけでなく、チームポイントの加算に寄与できる。「『推し』を勝たせたいとか、そのコミュニティを多くの人に届けたいというニーズに応えるためにゲーミフィケーションの要素も盛り込んでいます」と中村さん。
fowaldの利用の流れ(提供:株式会社NTTデータ)
食品ロスからインフラ点検、まちへの愛着醸成など、使い方はさまざま
利用法人のニーズは、生活者の能動的参画による法人のサステナビリティ訴求や生活者とゲーム感覚で実施するインフラ点検、スポーツクラブをハブとした生活者と自治体の継続した関わりの創出など、さまざま。法人が生活者と一緒に課題解決に取り組む場合であれば、いかようにも活用ができる。
中村さんは、fowald活用事例として以下2つを挙げる。
1つ目は、アビスパ福岡株式会社、株式会社ギラヴァンツ北九州、西日本電信電話株式会社 九州支店、西部ガス株式会社、九州電力送配電株式会社と共同で実施した気候アクションクエスト「Catch The Manhole(キャッチ・ザ・マンホール)」。福岡市・北九州市も後援している。クエスト参加者は、福岡県内の歩道に点在するマンホールの写真を撮影し、fowaldから投稿。アビスパかギラヴァンツのいずれかのチームを選択し参加登録する。写真の投稿数をチーム対抗で競い、投稿数上位5名に個人賞として景品を進呈するというものだ。

利用法人にとって、試合以外のシーンでチームと参加者の結びつきを強くすることや、インフラ点検にも役立つということ、まちを徒歩で周遊することにより地域への愛着を育めるというメリットがある。参加者は徒歩でまちを周遊する際に写真を撮影し投稿するため、楽しみながら気候変動への意識を高められる。チーム対抗というゲーミフィケーション要素は功を奏し、総投稿数は56,828件と盛り上がりを見せたという。
2つ目の事例は、株式会社相鉄アーバンクリエイツ、相鉄ビルマネジメント、ヨコハマSDGsデザインセンター、国立大学法人横浜国立大学、ハーチ株式会社が高架下施設「星天qlay」で実施する食品ロス削減や地域活性の実証実験。利用企業は食品ロス削減に貢献するクエストを考えて掲載する。そのクエストに対して横浜国立大学に所属する学生や星点qlayに集まった地域住民の行動を可視化し、活動を広げていくことが目的。食品ロス削減はあくまでも個人としての取り組みだが、インセンティブを設けたり、他の住民が実施しているという一体感を感じてもらえたりすることで、アクションを加速させたい考えだ。
2つの活用事例からもわかるように、fowaldは生活者の「サステナブルな行動」を無理なく当たり前にするきっかけを与えてくれる。クエストを提供する法人にとっては、サステナビリティ訴求を含むねらった効果を発揮できることがメリットだろう。地域全体にとってはコレクティブインパクトを生み出す基盤となりうる。
法人と生活者が「ずっとつづいてほしいもの」を持続させることに取り組むプロジェクト

fowaldとして現在進行系の企画が、「好きなもの」をきっかけに法人と生活者が手を結ぶことができるプロジェクト「SAVE YOUR LIKE PROJECT」だ。2025年1月には、第一段として「#ずっとつづいてほしいから」フォトコンテストを開催した。参加者は、桜並木や夏のお祭りなど「ずっとつづいてほしいもの」を撮影しSNSで投稿する。投稿された写真を審査員が選定し、賞を進呈するというフォトコンテストである。投稿数に応じた環境保全団体への寄付も行われるため、投稿自体が社会貢献にもつながる仕組みとなっている。
好きなものや守りたい瞬間が、気候変動などにより実は持続可能ではないことに気づくきっかけを提供したい。NTT DATAがこのコンテストに込める想いだ。一方で、コンテストに参画する法人はすでに活動に取り組んでいる。そのことを参加者が知らせることで、共にムーブメントを盛り上げていくことも意図する。

「多くの法人様が生活者にとって身近なテーマで様々なサステナビリティ活動を進めています。このプロジェクトは、そのようなサステナビリティ活動をより多くの生活者に届け、巻き込んでいくというステップを設けています。また、非競争領域であるサステナビリティ分野だからこそ、法人間や法人と生活者の垣根を外し、社会全体の意識醸成や後押しにつなげていきたいと考えています」(中村さん)
今後もフォトコンテストを継続していくため、一緒に盛り上げてくれる参画企業を募集しているという。
サーキュラーエコノミー実現へ必要なオープンイノベーション活動。「豊洲の港から®」
地産地消SAFサプライチェーン構想とfowald、いずれもNTT DATAだけでは成し遂げられないことがわかる。サーキュラーエコノミー移行に向けて、協業やパートナーシップ・エコシステム構築が求められることは今さら言うまでもない。「循環の土台づくり」をスピード感もって展開するためにも、NTT DATAはオープンイノベーションのギアを上げる。
昨今、大手企業はオープンイノベーションに積極的に取り組んでいるが、「豊洲の港から®」と名付けられたNTT DATAのオープンイノベーション活動は2013年にさかのぼる。以来、NTT DATAとその顧客企業、先進技術を持つベンチャー企業をつなぎ、スピーディに新規ビジネスを創出するために、フォーラムやグローバルコンテストを開催してきた。フォーラムで出会ったベンチャー企業やコンテストの受賞者とは様々なサービス提供や資本提携を実現している。

上海のコンテストで発掘したCloudpick社との協業によるウォークスルー店舗の実現はその一例だ。

現在はさらなる活動加速のために、年6回のテーマを設定したフォーラム開催と通年でのマッチング・アクセラレーション活動に注力。オープンイノベーションチームが社内の事業部に事業方針や関心ある技術・ビジネスのキーワードをヒアリングする。それをもとにベンチャー企業を中心に協業候補を調査し、連携の橋渡しを行う。つないだ後も、コミュニケーションや進捗がスムーズにいくように支援する。ベンチャー企業との文化やスピード感に合わせるべくファシリテーションする必要があるからだ。
「大企業とベンチャー企業では考え方や文化、スピード感など違いはいろいろあるが、それをうまく埋めていくのが我々の役割です」と渡辺出さん(経営企画本部 経営戦略室 事業戦略担当 オープンイノベーションチーム 部長)は話す。

前編で登場したグリーンイノベーション推進室の山根さんも、前部署でオープンイノベーションチームの支援を受けていたという。「それまでは大手企業を中心にパートナーシップを組むことが多く、ベンチャー企業との連携に不慣れでしたが、オープンイノベーションチームが間に入ってくれたのでとても助かりました」
このように、NTT DATAは出会いを生むフォーラムイベントに加え、ベンチャー企業をはじめとする協業先の発掘と共同事業に向けた継続的な活動を行い、サーキュラーエコノミーを含む価値創出を下支えする。
【取材後記】オープンイノベーションで循環価値創出の加速へ。
トレーサビリティ、情報可視化、需給・在庫予測、遠隔管理、サービス化など、デジタル・情報技術はサーキュラーエコノミーに必要なピースだ。このことはサーキュラーエコノミー分野でも、耳にタコができるくらい聞くフレーズではないだろうか。
今回、関係者の話から、同社は「つなぐ」というデジタルの本質的側面を使い、サーキュラーエコノミーにおいて重要な価値創出と価値共有の仕組みを変革しようとしていることが伺えた。企業間の情報連携やコミュニティ醸成から、グローバルで設計しローカルで製造するいわゆるDGMLアプローチ(Design Global, Manufacture Local)まで、デジタルは多様な場面で機能する。信頼を増幅させるような使い方のもとでは、サーキュラーエコノミーとウェルビーイングをトレードオフしない形で促進することもできる。
このデジタルが果たす役割の認識のもと、NTT DATAは分配社会を目指しサーキュラーエコノミーをマテリアリティの一つとして位置づけ、共創プロジェクト創出に励む。今回話を聞いた2つの事例でもそうだが、NTT DATAはオープンで水平的な協働を積極的に求めているようだ。社会全体においてまだまだ足りない循環の土台づくりが、オープンイノベーションによってますます進められることを期待したい。
【関連記事】【前編】「循環の土台をつくる」NTT DATAのサーキュラーエコノミーとは?〜「地産地消型SAFサプライチェーン構想」事例より
【参考】
- 社会貢献活動を可視化し、加速・拡大させるプラットフォーム「fowald®」にWeb3機能を追加(株式会社NTTデータ 2025年2月3日)
- 横浜・星天エリアにて「fowald®」を活用した地域のサーキュラーエコノミーとウェルビーイング実現に向けた実証実験第2弾を開始(株式会社NTTデータ 2024年12月2日)
- マンホールを写真に撮って、我がまちの脱炭素に取り組もう! ~九州初!行政×インフラ企業×J クラブの異色タッグによる新たなまちづくりへの挑戦~(西日本電信電話株式会社 九州支店 2024年9月30日)
- SAVE YOUR LIKE PROJECT
- NTT DATA オープンイノベーション「豊洲の港から」公式サイト
