イケア・ジャパンは2021年2月、「家具に第二の人生を与え、サステナブルなアイデアを届けるスペース」であるCircular HubをIKEA港北に開設した。それまでも家具の買い取りを実施してきた同社は、本格的に「家具に第二の人生を与える」取り組みを日本で始める。実は2020年、世界で最も買い物客が多いとされる「ブラックフライデー」ならぬ、家具を買い取る「バイバック(買取)フライデー」を27カ国のイケアストアで実施した。日本でも2019年比で11倍もの家具を買い取ったと公表している。

Circular Hubの展開はそれ単体で見ると中古品の販売ということになるかもしれないが、イケアが目下注力している「People & Planet Positive(ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ)」戦略に沿った取り組みを象徴しているのだ。

イケアは、同戦略に基づきグループを挙げてサーキュラーエコノミーへの移行に全方位で取り組んでいる。2030年までに目指すのは、循環型ビジネスへの移行・クライメートポジティブへの転換だ。500の拠点数で約4兆円の売上高、約1,600のサプライヤーや約22万人の顧客を有する巨大グローバル企業が本腰を入れてクライメートポジティブ・サーキュラーエコノミーへの移行を急ぐ理由は何なのか。その具体的な道筋はどのようなものなのか。その全貌を探るべく、イケア・ジャパン株式会社 Country Sustainability Managerの平山絵梨さんにお話を伺った。

イケア・ジャパン株式会社 Country Sustainability Manager 平山絵梨さん

イケアの2030年までの目標とは?

まず、イケアのグローバル全体での2030年に向けた目標について触れておかなければならない。イケアは、2030年までに「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」になることを掲げ、下記3点(下イメージ図参照)に力を注ぐ。

  1. 健康的でサステナブルな暮らし
  2. サーキュラー&クライメートポジティブ
  3. 公平性とインクルージョン

出典:ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ(イケア・ジャパン株式会社)

同戦略は、「環境の保護・再生により、経済成長とポジティブな社会的影響とのバランスを取る」ことをイケアのビジネススケールで実現しようとしている。

「この3つ(環境・経済・社会)には密接な関わりがあります。持続不可能な消費があるから気候変動が起こり、社会的弱者が影響を受け社会的不平等を生み出しています。そのため、まずは持続不可能な消費に対するアプローチが必要だと捉えているのです。企業として、資源枯渇が深刻になる前に循環型ビジネスへ変換しなければなりません」と、平山さんは話す。

サーキュラー&クライメートポジティブ

2030年までの循環型ビジネスの展開が実現された状態とは、具体的にどういうことなのか。イケアは、それが達成された状態を「再生不可能、あるいは再生されたものではない化石原料および燃料への依存から脱却すること」と定め、「経済成長と材料の利用を切り離す」ことを目指している。平たくいうと、再生不可能なバージン資源の利用を止めるということになる。これを再生可能エネルギーと環境再生型の原材料調達を基盤として実現しようとしている。2030年までの実現にはスピード感・スケール・マインドセットが必要になるが、そのすべての要素を満たすべく邁進する。

今回、平山さんには、サーキュラーエコノミーでも要となる「原材料調達」「サーキュラーデザイン」「製品寿命の延長」の3つに焦点を絞って、話を伺った。

1. 原材料調達

写真:イケア・ジャパン株式会社

まずは製品ライフサイクルの上流の原材料調達から追っていこう。イケアは、循環性を担保するために、どの原材料が利用可能かについてWWF(世界自然保護基金)と廃棄物フローに関する調査を行った。さらに、”External Feedstock Project”(外部原材料プロジェクト)という活動を実施し、木・プラスチック・紙・金属・繊維などの32の優先原材料を特定。循環型素材として利用していくロードマップを描いた。

すでに同社は下記の原材料目標を達成している。

  • 木材:98%FSC認証またはリサイクル済みの原材料を調達する。好んで製品に使う竹の「ほとんど」はFSC認証取得
  • コットン:再利用されたものか、水や化学肥料、農薬の使用を削減して栽培された「ベター・コットン・イニシアチブ」(イケアがWWFなどと共同で開始したイニシアチブ)の基準を満たしたものだけを調達
  • ウール:動物福祉に配慮し、その土地利用に関して責任ある管理が行われていることを保証する「Responsible Wool Standard(責任あるウール基準)」(RWS)ガイドラインに適合したウールを調達
  • プラスチック:2030年までに再生プラスチックか再生可能ベースのプラスチックを製品に利用。ポリエステルも2020年末に90%再生ポリに切り替え。ホームファーニシングの製品ラインナップでは使い捨てプラを根絶。サプライチェーン内でも根絶を目指す。植物由来のPLA(ポリ乳酸)への移行を図る。
  • 食品:コーヒーはすべてUTZ認証取得(コーヒーやカカオなどを対象とした持続可能なの農業のための国際認証)のものを調達。2025年までにイケア店舗内レストランで提供するメインの50%を植物由来に。現在は17.8%。なお、2020年度末に食品ロスを半減させる目標は未達だったが、32%減を達成している。

これらの取り組みは確かに短期的に見ればコストがかかるだろう。これに対して平山さんは、「サステナブルな調達にはコストがかかるという指摘もありますが、イケアとしては長期的に見ればむしろプラスだと思っています。これまで通りの原料調達では、将来的にはむしろコストのかかる原料となっていくだろうと考えているため、サステナブルな調達に取り組んでいます」と話す。

イケアのようなグローバル企業にとって原材料調達は企業存続に関わり、その対策となるサーキュラーエコノミーへの転換は調達の安定化につながる。しかし、これには短期的にはコストがかかるかもしれない。長期的な目線でないと取り組みにくい課題でもある。その反面、イケアは長期的なリスクや機会を肌で感じている。実際、イケアのサステナビリティレポート2020年度版には、「長期的」という言葉が14回も登場するのだ。

2. サーキュラーデザイン

循環型ビジネスモデル移行の要となる「デザイン」(設計)。イケアは、循環化を進めるうえで、デザインを最重要視。「サーキュラーデザインガイド」を策定し、版を重ねている。同ガイドで定められている「サーキュラーデザイン原則」は、イケアが元来大切にしている「デモクラティックデザイン(民主化デザイン)原則」のアプローチの上に成り立つ。デモクラティックデザイン原則とは、「すべての人にとって手ごろな価格で、手に入れやすく、サステナブルなソリューションを生み出す」(同社)ための5つのデザイン原則。この5つの原則をバランスよく組み合わされたものが「優れたデザイン」として定義される。その5つとは、「形」「機能性」「品質」「サステナビリティ」「低価格」だ。

8つのサーキュラーデザイン原則

 

(出典:Circular Product Design Guide

上図のように、デモクラティックデザインの土台の上に、8つのサーキュラーデザイン原則を定めている。簡単に見ていこう。

  • 再生可能な・再生材が含有されたデザイン
  • 標準化のためのデザイン
  • 手入れしやすいデザイン
  • 修理しやすいデザイン
  • 適用しやすいデザイン
  • 解体・再組み立てしやすいデザイン
  • 再製造しやすいデザイン
  • リサイクルしやすいデザイン

同原則を製品を象徴する商品として、平山さんはLISABO /リーサボー シリーズを挙げた。

LISABO /リーサボー テーブル, アッシュ材突き板140×78 cm (写真:イケア・ジャパン株式会社)
【組み立て動画】https://mmapi.ikea.com/im/productfilms/videos/fe000141.mp4?imwidth=1280https://mmapi.ikea.com/im/productfilms/videos/fe000141.mp4?imwidth=1280https://mmapi.ikea.com/im/productfilms/videos/fe000141.mp4?imwidth=1280

同製品の特徴はこうだ。

  1. FSC認証の木材を利用
  2. 材料の減量化(天板は空洞になっている)
  3. 持ち運びしやすい
  4. ネジがない
  5. 容易に解体できる
  6. 再組み立てしやすい
  7. 耐久性に優れる

LISABO /リーサボーは、まさしく原材料の調達から利用段階、製品の寿命後の段階を「あらかじめ」デザインによって解決するべく取り組んでいる顕著な例だ。たとえば、金属ネジをなくすことで製品の完全バイオ化を図り、製品寿命が終わりを迎えた際にカスケードリサイクル(パーティクルボードや木材チップなどに形を変えてリサイクルすること。詳しくはこちら)やエネルギーなどとして利用することが容易になる。

サーキュラーデザイン原則の基盤となる「製品に対する愛着」

(写真:イケア・ジャパン株式会社)

上記は、いわゆる狭義の「サーキュラーデザイン」だが、循環化にはもう少し視点を広げることが求められる。

イケアは製品との「感情的なつながり」を大切にする。なぜ顧客は購入したイケアの商品を大切にし、修理し、長持ちさせ、必要がなくなれば捨てずに売ろうとするのか。その大きな動機となるのは、製品に対する愛着だ。「人々に思い出やストーリーを思い起こしてくれるものは特別なものだ。なぜなら、それらの思い出は人々の人生における最も重要な一部を思い起こす」(サーキュラーデザインガイド)と、製品と人との関係性を分析する。

イケアは、感情的なつながりを創出するために、すべての製品ライフサイクルにおいて顧客にポジティブな経験を提供する。そのため、次のような要素などを重視する。

  • 顧客の価値観に訴えること
  • お手頃な価格で提供すること
  • 顧客の廃棄に対する罪悪感を大切にすること
  • 自分用にカスタマイズできること
  • デザイナーの意図をシェアすること
  • 限定シリーズを打ち出すこと

自分が手をかけて作ったものに本来以上の価値を感じる心理効果である「イケア効果」という言葉もあるほど、イケアは愛着を重要視する。

実はこれだけでは終わらない。毎年、イケアは何千もの人々を対象に家での暮らしについての調査を実施・公表している。(2020年は、3カ月にわたり20家族にインタビューし、調査は37カ国38,210人に実施)2016年には、家が持つ4つの側面、「空間」「場所」「人との関係」「モノ」を特定。続いて、2018年には家に対して人々は5つのニーズがあるという同社の見方を発表した。その5つのニーズとは、「居心地のよさ」「安心感」「帰属意識」「所有感」「プライバシー」だ。「わが家」という認識を持つには、この5つがバランスよく満たされなければならない。

5つのニーズのうち「所有感」においては、自分で選んだ家具を買い、自分の好きなようにアレンジするという経験が欠かせない。製品だけでものごとを考えるのではなく、ライフスタイルという大きな視点から「愛着」を捉えていることがいかにもイケアらしい。このような視点は、製品寿命の延長が自然と起こるように仕向けるためには大切な要素となる。

循環性評価

2020年には、ホームスマート・照明以外の9,500点のほぼすべてのイケア製品に循環性評価を実施した。上記のサーキュラーデザイン原則をもとに数値化することで評価。最も循環性の低い製品の値は28.6%、最高値は100%だった。2030年までに全ての製品を循環型にすべく、次のステップとして循環性確立のためのロードマップを描く予定だ。一部の製品ではなくほぼ全ての製品への評価ということだけでも、イケアの本気度が垣間見える。(前編終わり。後編へつづく)

【参照】イケア公式HP
【参照】ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ(イケア・ジャパン株式会社)
【参照】Circular Product Design Guide
【参照】イケアLIFE AT HOME
【参照】IKEA Sustainability report FY2020
【参考調査】Global Off-the-Shelf Second Hand Furniture Market Outlook 2025
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