建材をリユースするーーその理念はシンプルだが、実践には数多くの障壁が伴う。英国では、解体される建材のうちリユースされるのはわずか2%だ(※[1])。

建物の解体前にリユース可能な建材を見極め、適切な買い手と結びつける。こうした一連のプロセスを一手に引き受けるのが、英国発のスタートアップ「Material Index」だ。本記事では、同社のビジネスモデルと視点について、創業者やメンバーへの取材をもとに紐解く。

※冒頭写真はMaterial Indexのメンバー。本記事は、COOのRobert Smith氏(左から4番目)、監査チームリーダーOlivia Daw氏(左から2番目)、パートナーシップリーダーVenetia Flint氏(写真では不在)が3月に登壇したセッションと、Smith氏にインタビューした内容を元に構成(提供:Material Index)

ビジネスモデル:解体と建設の間に立つ「建材の目利き」

Material Indexは解体前から建材に関わる。同社の監査スタッフが解体前の現場を訪問し、リユース可能な建材を選定・評価。その情報をデータベースに登録後、過去取引に基づいて売却価格を決定し、売却・運搬・保管・再認証といった工程までを引き受ける。

売り手となるクライアント(建物のオーナー)は、解体前にMaterial Indexが提示する売却価格と、リユースのために追加される解体手間を確認・承認すれば、あとは同社の報告を待てばいい。

一方、建材の買い手は、同社のプラットフォーム「Material Exchange」を通じて、データベースに登録された建材情報を検索・閲覧できる。

このワンストップ・ソリューションにより、リユース建材の売り手と買い手、双方の負担を軽減し、建材リユースの心理的ハードルを大きく下げている。

対象とする建材は幅広く、レンガや鉄骨のほか、リユースが難しい設備機器にも手を広げている。オフィスをはじめ、大学、工場、ホテルなどさまざまな解体プロジェクトから引き合いを受け、建材の買い手も施工者、建物オーナー、個人バイヤーなどさまざまだ。

解体前監査の様子(提供:Material Index)

さらにMaterial Indexは、建設時や改修時に監査を行い、「マテリアルパスポート」を作成するサービスも提供している。同社が専用開発したマテリアルパスポートで、現場で取得した写真や建材情報を図面などと連携させることで、建材のトレーサビリティを実現する仕組みだ。解体時には「Material Exchange」にデータを接続し、買い手へと情報を届けることができる。

建設・改修時に監査を行う利点は、サプライヤーから製品仕様など詳細な建材情報を収集できることだ。情報が充実するほど、リユースの可能性も高まる。

マテリアルパスポートといえば、Madasterなどのように新築や長期使用予定の既存建築を対象に、将来的なリユースやライフサイクル評価、不動産価値試算など幅広い目的で開発されるものが多い。一方で、Material Indexの「マテリアルパスポート」はあくまでリユースに特化している点が大きな特徴だ。スタッフが建材を直接確認することでリユース時の「信頼性」を確保する点も、重ねて特筆すべきだろう。その独自の実用性が早くも注目され、国外からも多数の問い合わせが来ているという。

Material Indexによる「マテリアルパスポート」(提供:Material Index)

リユース建材の売り手と買い手、対極の2人が創業

Material Indexは2023年3月に創業した。

共同創業者のRob Smith氏は、前職で施設開発を担当し、テナントスペースの解体に関わっていた。「子どもの頃からサステナビリティに強い関心を持っていた」というSmith氏は、解体建材のリユースを目指しオンライン市場で再販していたが、理想とする値段で売れないことも多かったという。

もう一人の共同創業者であるMorgan Lewis氏の前職は建築設計者。持続可能な建築を目指してリユース建材を採用したくとも、供給が少ないことに悩んでいた。

「私たちは需要と供給、それぞれの側にいた。一方はリユース建材を売りたいと思い、一方は買いたいと思っていたのに、当時の市場では両者がうまく繋がっていなかった。そこで、売り手と買い手をマッチングする事業を立ち上げた」とSmith氏。

創業者の2人をはじめとする知見やネットワークをもとに、同社は急速にクライアントや提携先を拡大している。

成功の鍵を握るのは「解体前監査」

同社が一連のプロセスの中でも重視するのは「解体前監査(Pre-demolition audit)」だ。

「たとえば本来なら何千ポンドもの価値があるタイルでも、解体して積み上げた途端に500ポンドの価値にしか見えなくなる。実際に売れる価格は300ポンドといったところ。リユース建材の価値は、解体する前に『あるべき場所』に収まっているときが一番高いと、前職での経験を通して学んだ」とSmith氏。建材の解体前の姿を買い手に伝えることが、解体前監査で情報を収集する意義の一つだ。

さらに、解体が決まったらできるだけ早い段階で監査に行くことも肝心だという。建材の買い手がつくまで時間がかかることもあり、監査が早いほどマッチングの可能性が高まるからだ。

監査チームを率いるOlivia Daw氏によると、リユースできると判断した建材にはその場で紙のタグをつける。リユース建材を間違えて破壊されてしまわないよう、タグは解体業者との重要なコミュニケーションの手段なのだそうだ。リユースの実績を積み上げているからこそ生まれる、工夫の一つだ。

監査スタッフは全員が建築のバックグラウンドを持ち、現場での判断力と建材への理解力を武器に「目利き」としての役割を果たしている。

売却益よりも、まずは実行可能な仕組みから

同社は建材売却による手数料を収益源とすることを目指している。とはいえ、今のところは監査費用が主な収益だ。リユース建材市場の成熟にはまだ程遠く、選定した建材が売れ残ることも多い。それでも、同社のサービスを活用したいというクライアントは少なくない。

「解体前監査を実施すること自体がBREEAM(英国の環境評価制度)の点数に寄与するということも、クライアントに選ばれる理由のひとつだ。ただそれ以上に、純粋に『社会に良い影響を与えたい』と考えるクライアントが多いように感じる」とSmith氏は語る。

BREEAMでは解体前に監査を行い、リユース・リサイクルの可能性を洗い出すことが、点数加算の要件の一つとなっている。監査はさまざまな事業者が行っており、なかでも解体事業者が現場調査にあわせて監査を担当するケースが多い(※[2])。しかし、監査によって建材がどれだけリユースに回されるかは、監査スタッフ次第だ。持続可能性を重視する企業にとって、リユースに全力で取り組むMaterial Indexを採用する意義は大きい。

Material Index共同創業者のRobert Smith氏(筆者撮影)

リユースを「当たり前」にするために

リユースはリサイクルよりも優先されるべき環境対策だが、多くの現場ではまだ理想論とされがちだ。多くの事業者にとって未知の領域であり、品質保証や流通インフラ、トレーサビリティなど課題も多い。

そのなかでMaterial Indexは現実的な運用方法を示し、リユースに対する「未知への抵抗感」を払拭しつつある。売り手にとって、建材選定や運搬・保管・マッチングなどの業務を専門家に外注できる点は魅力だろうし、費用面のリスクも見えやすい。買い手にとっても、現場で建材を選んだ当事者であるMaterial Indexから情報が提供されれば、透明性があり、安心感は大きいと思われる。

「まだやるべきことは山積みだ」とSmith氏は話す。市場は発展途上で、リユースに関わるすべての課題を解決できたわけではない。それでも、Material Indexは建材リユース普及への道を確かに切り拓いている。

【参照サイト】Material Index

【参照レポート】