Think2030はこのほど、ヨーロッパにおける低炭素で循環型の産業に関する政策文書を公開した。Think2030とは、2018年に欧州環境政策研究所(IEEP)とその他のパートナーによって設立された、ヨーロッパのシンクタンク・市民社会・民間部門・地方自治体の主要な政策専門家によるネットワークThink Sustainable Europeのプラットフォームである。
気候変動は、緊急に行動する必要のある複雑な課題であり、変化する気候に対して強化されるべき解決策が多数存在する。なかでも最重要とされるのが、再生可能エネルギーへの移行、全面的なエネルギー効率の最大化、そして商品や食品の生産と消費の変革であり、気候変動に対するこれらの取り込みを加速する上で、政策は重要な役割を果たす。
今回公開された文書では、循環型経済がEUにおける温室効果ガス(GHG)排出量を削減する機会について、最も多くの炭素を排出する3分野である建設・モビリティ・食品と関連づけて考察している。これらの分野における経済活動に関連する政策や、2030年以降のEUにおける制度の策定と政策の優先順位が示されている。
建設・モビリティ・食の循環化とGHG削減との関係
【建設】
プラスチック・鉄鋼・アルミニウム・セメントの4つの原材料の循環化により、2050年までに世界で40%、先進国で56%のCO2が削減される
【モビリティ】
- 耐久性を高める設計・修理・リファービッシュなどの車両の長寿命化により、年間0.2ギガトンのGHG排出が削減される
- マルチモーダルシフト・オンデマンド化などの発展により、2040年までにCO2排出が40%削減できる
【食】
食の循環化により、世界の都市だけでも2050年までに年間2.7兆ドル相当の経済効果を生み出す。環境再生型農業・食品ロスの削減・食品廃棄物の再利用などが手段として考えられる。これにより、年間5.6ギガトン(CO2換算)もの温室効果ガスを相殺できる
政策における主な推奨事項
- 2021年春に予定されている「Fit for 55 package(*)」などのEUでの気候政策において、気候変動対策おける循環型経済の重要性を反映する
- EU産業戦略における循環型経済アプローチを主流化する
- European Semester(*)プロセスを強化する
- EUの予算と復興基金を通じて、循環型経済への移行に資金を充てる
- 貿易政策のような手段を通じて、循環型経済に関する世界規模での協力を促進する
*Fit for 55 package
2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年と比較して少なくとも55%にまで削減する欧州グリーンディール下の政策パッケージ
*European Semester
欧州連合(EU)において、各国の財政政策と経済政策の協調を行う半年を指す。この期間にEU加盟国は、自国の財政政策と経済政策が、EUのレベルで合意された目的に合致していることをお互いに確認し、ある国の政策がEUの目的から外れていれば、修正する。
【参照記事】A low-carbon and circular industry for Europe | Think2030
【参考】EU MAG 「ヨーロピアン・セメスター」とは何ですか?