サーキュラーエコノミーには多様な側面があり、時々の状況に応じて意図的に優先すべき側面を調整することの重要性は、これまで各方面で指摘されてきた。23年3月に経済産業省が策定した「成長志向型の資源自律経済戦略」では、成長志向型の資源自律経済の確立に向けた問題意識として「資源制約・リスク」「環境制約・リスク」「成長機会」を特定しており、各点にプラスの影響を与える。最近では、地域における循環モデルの確立により、ウェルビーイングの向上や地域活性化にも寄与できるという論調も強くなってきている。

経済は我々の生活に密接に関わる性質を持つ。そのため、サーキュラーエコノミーを「経済を循環型に変えるシステム変革」という大きな視点で捉えると、上記のような様々な側面を良化させると考えるのは自然なことだろう。

サーキュラーエコノミーを実現する中心的役割を果たすのは「人」だ。そのため、気候変動対策で起きているように、その時々で社会を動かす推進力の一つである「政治」によって影響を受けやすい。

一方で、人類の活動による地球環境への影響を客観的に評価するプラネタリー・バウンダリーは、人類が安全に生存するために超えてはならない環境的な限界を示すが、9領域のうち7領域は限界を超えた危険水準となっている(PLANETARY HEALTH CHECK 2025)。客観的には地球の健康は悪化している。

したがって、誰が政治を司ろうと、サーキュラーエコノミーはそこから中立的に取り組まれることがベストではある。ただ、現実には「政治は生き物」であることから、先に述べた様々なサーキュラーエコノミーの要素に柔軟に濃淡を付けていくことで、移行への動きを持続的にできるのかもしれない。

周知の通り、世界情勢の変化は目まぐるしい。世界が自国第一主義に向かっているとする見方が大勢を占める。ここ1,2年は、こうした変化の潮流にさらされ「サステナビリティの後退」と受け止められている。欧州では産業競争力とサステナビリティのバランスを目指して、法規制の簡素化に動く。

このような状況でサーキュラーエコノミー移行に向けた動きをどう持続可能にすればよいのか。この問いに答えるために最も参照すべき国は米国である。

サーキュラーエコノミーが必要か。米国の状況

米国の高関税政策を通じて、資源調達のハードルが上がることや物価が高騰することにより、サーキュラーエコノミーの必要性が高まっている。こう指摘する声は多い。

25年5月、米フォード・モーターがレアアース不足により多目的スポーツ車(SUV)「エクスプローラー」の生産を一時停止した。このように、中国によるレアアース輸出規制強化により経済安全保障面で影響を受けている。(直近では、米政府は25年11月1日発表のファクトシートで、中国が22年4月と25年10月に適用したレアアースや重要鉱物の輸出規制強化を「事実上撤回した」としているが、中国側の見解は相違があるという。)環境制約に応えるためという視点よりも、経済安全保障に資するものとしてサーキュラーエコノミーの役割が期待されている。

たとえば、PwCのサステナビリティプリンシパルのDavid Linich氏はForbesのインタビューで、現在の米国の政策が同国のサーキュラービジネスを加速させる可能性があると指摘している。電気電子廃棄物に含まれる原材料は、高価で入手が少しずつ困難になっているとしている。こうした原材料価格の高騰により、リサイクル設備への投資やイノベーションを促す可能性があるからだという。

また、TrellisのLeah Garden 氏は、たとえば23年にアメリカが輸入する重要鉱物のうち470億ドル分をカナダが占めており、カナダのような国との貿易摩擦は、米国内のサーキュラーエコノミーによって経済の安定を確保する必要性が生じたと論じている

「リサイクル由来含め調達可能な材料は米国内で」という認識が加速すれば、国内回帰ともなり、新たな産業等の活性化も期待される。材料、特に希少な材料の米国内循環は、同国経済にも資するという意見だ。ただし、日本でもたとえばEV中古車輸出によるレアメタル流出懸念など同様の声が高まっているように、トランプ政権による政策でなくともこの側面は自然にクローズアップされてきたに違いない。しかし、米国の関税政策がよりこの点に焦点を当てたということは言えるだろう。

もう一つは、米国企業の最適化に向けた動きである。ロイター通信によると、ハーバード大学のCavallo教授は、関税コストを吸収するのは、外国製造企業ではなく小売など米国企業という傾向が見られると分析。そのため、品目によっては流通網や在庫管理の最適化を促す圧力になっている。たとえば、ウォルマートは調達国の多様化やAI、ビッグデータを通じた物流や在庫管理の最適化を強化している。

消費者にとって、サーキュラーエコノミーは物価上昇への対抗策ともなりうる。Cavallo教授の調査(Tracking the Short-Run Price Impact of U.S. Tariffs)によると、米国での輸入品の物価は、関税政策が開始された25年3月以降、国内製品価格の上昇率2%に比べ、4%上昇した。世界的には米国の関税政策以前から物価上昇は始まっているが、こうした状況が常態化すれば消費者はより強い防衛策に走らざるを得ない。より安価な商品という選択肢もあるが、サーキュラーエコノミーにおける小さいループである長寿命化やリペア、リユース等も選択される可能性がある。インパクトの大きい電子機器やファッション分野等でその傾向が加速されれば、結果としてサーキュラーエコノミーへ寄与することにもなる。

日本の新内閣におけるサーキュラーエコノミーは

翻って日本ではどうか。高市早苗新内閣誕生によりサーキュラーエコノミーの方針が変わることがあるのか。

政府が進めるグリーントランスフォーメーション(GX)政策の中心はエネルギーで、そのGXに資源循環が位置づけられている。そのGXは、高市内閣が設置した日本成長戦略本部で「危機管理投資」「成長投資」の戦略17分野の一つに、資源・エネルギー安全保障・GXとして位置づけられた。会見で高市首相は、「成長戦略の肝は『危機管理投資』。リスクや社会課題に対して、先手を打って供給力を抜本的に強化する」と述べている。

原子力や地熱などに力点が置かれたり、メガソーラーの開発規制など個別分野での変化があったり、国内の産業競争力を強化するGXへ変化していくことも考えられるが、GX自体の重要性は変わらない。サーキュラーエコノミーは、24年に国家戦略として位置づけられ、関係閣僚会議も開催されている。こうして関係省庁で培ってきたサーキュラーエコノミー政策には一定の継続性が期待されるが、フォーカスされる要素は変わってくる可能性がある。たとえば、高市内閣で就任した石原宏高環境大臣は就任記者会見で、高市首相が重視する経済安保にも寄与するとして、サーキュラーエコノミーを進めていきたい旨を述べている。「経済安保に寄与するリサイクルやリユース」という論理は明快であり、したがってより理解を得られやすい。これは先に見てきた米国や、この論理を多分に含むサーキュラーエコノミー法を来年制定する予定のEUと同様の状況であろう。そういう意味では、25年5月に改正が成立した資源有効利用促進法において、シェアリング等のCEコマース事業者の類型が新たに位置づけられたことは、今の現況とも親和性がある。リサイクルやリユースに加え、シェアリング・レンタル・リファービッシュ・リペア・リメイクなどは、資源やモノから価値を最大限抽出するからだ。モノを起点とした価値提供に励む基盤となる。

サーキュラーエコノミーの概念が発展する余地

余談となるが、経済安全保障、ロス削減、国内でのイノベーション創出、地域活性化、消費者にとっての物価高騰対策。この方面からのフォーカスは、国の生存戦略に直結したり、生活者に密着していたりと、生々しく本能的な要素を多分に含む。だから、より自分事にしやすい。サーキュラーエコノミーという未だ漠然としたものの理解が深まるとともに、リーチが広がる機会と捉えることもできる。

サーキュラーエコノミーには221の定義があることを示す論文(Conceptualizing the Circular Economy (Revisited): An Analysis of 221 Definitions)がある。定義の多いことによるデメリットは多々あるが、反対に良い面を挙げるとすると、サーキュラーエコノミーには多様な解釈があるがために、それ自体概念として発展する余地を多分に秘めているということだ。カーボンニュートラルのような定義がはっきりしたものと違い、それぞれの解釈が交わる中で、概念自体も進化するからである。現在の局面は、経済安全保障・食料安全保障、コスト削減など、解像度が高く理解しやすい要素を概念に付加していっていると捉えることもできる。

【参考記事】

【参考論文】