資源と製品が価値を保ったまま循環するサーキュラーエコノミーを実現するためには、利用者による「修理」が継続的に行われることが欠かせない。一方で、今日の「作って・使って・捨てる」経済のなかで、自ら製品を修理して使い続ける人は少ない。

そんななかオランダには、持ち込んだものを無料で直してくれる「リペアカフェ」が450軒以上も存在する。壊れた製品の持ち込みも修繕もすべて住民がボランティアで行うこの場所がこんなにも賑わうのはなぜだろうかーーー。

この記事では、ループを閉じて製品を使い続けるために欠かせない「修理」を文化・習慣として根付かせるためのヒントを、オランダ発祥の「リペアカフェ」から紐解く。

「修理」はサーキュラーエコノミー完成に欠かせない

今の仕組みから新たな採掘と廃棄をなくすためには、製品を修理して少しでも長く使い続ける必要がある。

イギリスでサーキュラーエコノミーを推進するエレン・マッカーサー財団によると、サーキュラーエコノミーを実現するためには、製品と資源を使い続けること内側の円に留めることが欠かせない。メンテナンス・修理・再利用することで内側の円に製品を長く留めることができ、結果的に製品寿命を最大限延長して新たな製品への需要を減らせるためだ。(エレン・マッカーサー財団「バタフライダイアグラム」より)

Image via Ellen MacArthur Foundation (訳:Circular Economy Hub 編集部)

ループを閉じるために利用者が担う役割は大きい。製品の寿命が終わったと判断するのも、再利用・返却の意思決定も利用者が行うためだ。製品を修理するかしないかは利用者のモチベーション・見方・選択によって決まってしまう。

今日の社会のなかでは物が壊れたときに修理しようと考える人はごく少数で、私たちの多くが捨てることを選んでしまう。

「直せる」ことを知らない私たち

学術ジャーナル「Cleaner Production」のなかで2021年3月に公表された研究「Repair motivation and barriers model: Investigating user perspectives related to product repair towards a circular economy」(Terzioğlu Nazlı, Journal of Cleaner Production Volume 289, 20 March 2021)によると、利用者にとって製品を修理する動機と障壁として次の要素が挙げられるという。

製品の利用者が修理する動機(一部抜粋)

  • 環境に配慮したい
  • 捨てることに罪悪感がある
  • 製品自体に思い入れがある
  • 便利だから使い続けたい
  • 購入費が高かったから使い続けたい

製品の利用者が修理にいたらない理由(一部抜粋)

  • 修理のための知識・技術がない
  • 道具や資源にアクセスがない
  • 直してもすぐにまた壊れると感じる
  • 手間暇がかかる
  • 修理して使うことにあまり良い印象がない

学術論文「Repair motivation and barriers model: Investigating user perspectives related to product repair towards a circular economy」のなかで、修理することに関する人々の動機と障壁を要素別に表したダイアグラム

私たち利用者の多くは、そもそも製品が壊れたら自分で直せることを知らない、直すための知識・道具などにアクセスがない、といった技術的なことが大きな課題になっていることがわかる。

同時に、製品への思い入れがある、環境に配慮したい、といった感情的な要素は、壊れた製品を修理するためのポジティブな動機になることがわかる。

修理を起点に住民をつなぎ、メンタリティの変化を促すオランダ発の「リペアカフェ」

利用者のこうした気持ちに寄り添い、修理のための技術を共有するコミュニティがある。

オランダ発祥のリペアカフェだ。

リペアカフェは、地域の公共スペースや空き店舗などを活用して、「捨てるの?とんでもない!」をモットーに、物の修理のために地域住民らを結ぶリアルなコミュニティである。

「つくる・使う・捨てる」という常識に疑問をもったオランダ在住の環境ジャーナリスト、マーティン・ポストマ氏が、製品を廃棄しない文化をつくるために始めた。2009年にアムステルダムで世界で初めてのリペアカフェをオープンしてから、現在はオランダ国内では476軒、世界でみれば35の国と地域で2000以上のコミュニティにまで広がっている。

Repair Cafe “Building Resilience”

リペアカフェは月一回開催され、電化製品、衣類、家具、おもちゃ、自転車など修理したい製品を持ち込むと、直す知識や技術、道具を持った地域住民が無償で修理を施してくれる。それだけではなく、修理に関する勉強会なども行う。地域のなかでリペアカフェを始めたいと思った人たちが自発的に始める仕組みも特徴だ。

2018年からは世界じゅうのリペアカフェのボランティアらの知識をデータベースに集積し共有できるようにしたり、現在までに3Dスキャナーや3Dプリンターを活用した修理を進める拠点も誕生したりしている。

リペアカフェの素晴らしいところはいくつもあるが、特筆すべきは次の点ではないだろうか。

リペアカフェで壊れた物をどうやって直せるか考えることで、メンタリティが変わる。さらに、修理を起点に住民たちの間にコミュニケーションが生まれ、「共に使い続ける」コミュニティが形成される。加えて、これまで社会であまり注目されてこなかった、修理のノウハウを持つ高齢者や技術をもつ人たちが貢献できる場が生まれる。

修理という軸で人々が出会う場を創り出すことは、こんなにも多くの恩恵をもたらしてくれるのだ。

Image via Repair Cafe Facebook page

これまでサーキュラーエコノミーのビジネスモデルや生産の方法について多く語られてきた一方で、利用者が長く使い続けるための文化醸成についてはあまり議論されてこなかった。しかしサーキュラーエコノミーを実現するためには、利用者が大きな役割を担う修理などの工程をどのように文化として根付かせることができるのかを理解し、実践していく必要がある。

【参考】リペアカフェホームページ
【参考】Repair Cafe Facebook page
【参考論文】Repair motivation and barriers model: Investigating user perspectives related to product repair towards a circular economy