Circular Economy Hubは、アーキタイプベンチャーズ北原宏和パートナーと共同で、国内サーキュラーエコノミースタートアップ/ベンチャー企業のマーケットマップ(冒頭画像)とリスト(下記URL)を公開した。

本記事では、サーキュラーエコノミースタートアップ/ベンチャーをめぐる動向や、各分野においてCircular Economy Hubが注目する企業11社を紹介する。リストについてのフィードバックもこちらのお問い合わせフォームにて受け付けている。

サーキュラーエコノミースタートアップ/ベンチャーリストはこちら

サーキュラーエコノミースタートアップ/ベンチャー動向

国内外でサーキュラーエコノミーの認知と移行への具体的な動きが進むなか、事業の中核にサーキュラーエコノミーを置くスタートアップ/ベンチャーが勃興し、投資家の注目を浴びている。

その背景として、下記のような点が挙げられる。

  • カーボンニュートラルに資するサーキュラーエコノミーとしての認知
  • 外部不経済の内部化が、政策や規制、インセンティブにより進捗していること
  • サーキュラーエコノミー関連市場拡大の認知、関連技術などの需要の増大
  • ESG投資・インパクト投資の取り組みと開示の進化・手法の整備
  • デジタル技術の発展
  • クライメートテックに続く、同分野への注目の高まり

たとえば、「循環経済ビジョン2020」や「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」、「プラスチック資源循環促進法」「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」での議論など、政府レベルでの取り組みの加速、サーキュラーエコノミー関連市場規模の拡大目標(2030年までに現状の1.6倍となる80兆円以上へ成長させる目標)の設定、EUにおけるサーキュラーエコノミーアクションプランに基づくエコデザイン指令改正案公表や欧州タクソノミーをはじめとする規制整備など、最近のサーキュラーエコノミーをめぐる動きは速い。これらの外部環境により、スタートアップ/ベンチャーが持続可能なビジネスを展開できる素地が整い始めている。

当然ながらサーキュラーエコノミースタートアップ/ベンチャーは、創業時からサーキュラーエコノミーを中核に据えられる。大手企業が持続可能な循環型ビジネスに移行するには一筋縄ではいかないこととは対照的だ。

投資家からの注目も集まる。投融資例としては、ブラックロックによるサーキュラーエコノミーに特化したファンドBGF Circular Economy Fundや、3年間で50億ユーロのCE融資枠を設けるインテーザ・サンパウロ、BNPパリバアセットマネジメントのETFはよく知られているところだ。GIIN(Global Impact Investor Netowrk)が実施した調査によると、調査対象の投資家の45%が、サーキュラーエコノミーと関連が深い「責任ある消費と生産」が投資の鍵になるテーマだと回答した。

スタートアップ/ベンチャーに関する投資動向の例を挙げると、Circulate Capital、Closed Loop Partners、新興のRegeneration. VCやCircular Innovation Fundなどのサーキュラーエコノミー専門のベンチャーキャピタルが活動の幅を広げる。Googleによるリユース・リフィル・リサイクル・堆肥化・ファッション・食料・循環型材料などの分野におけるアクセラレータープログラムをはじめとするスタートアップ・イノベーション発掘、IKEAやH&Mを例としたグローバル大手によるサーキュラーエコノミー関連スタートアップ投資も盛んになりつつある。

こういった海外動向と国内のサーキュラーエコノミー政策・市場動向を踏まえ、サーキュラーエコノミースタートアップが成長・勃興しやすい基盤を構築することが、国内サーキュラーエコノミー移行にとって重要であろう。そのため、まずはサーキュラーエコノミースタートアップを分類する目的で、今回のマップを作成した。

サーキュラーエコノミーマップ第1版について

本マップとリストには、その取り組みがエレン・マッカーサー財団が提唱するサーキュラーエコノミーの下記3つの原則に該当し、循環型ビジネスモデルを展開する国内スタートアップ/ベンチャーが掲載されている。

エレン・マッカーサー財団のサーキュラーエコノミー3原則

  • 廃棄と汚染をなくす
  • 製品と原材料を最も高い価値のまま循環させる
  • 自然を再生する

循環型ビジネスモデルの例

  • 循環型素材
  • 循環型設計・製造
  • 回収・リサイクル
  • シェアリング・PaaS
  • リユース・修理・維持
  • 循環型イネーブラー(デジタルなど)

こちらは第1版となっており、完全なリストではなく随時更新予定。本マップに関するお問い合わせはこちら

サーキュラーエコノミースタートアップ/ベンチャー編集部注目の11社

本マップより、編集部注目の11社を分野ごとにご紹介したい。

素材(Material)

サーキュラーエコノミー移行においては素材の循環は必須となる。ここでは代替素材とバイオ素材に分類した。

注目企業①:fabula株式会社

規格外野菜や端材を乾燥・粉末化・熱圧縮し新素材を作る。たとえば、白菜の廃棄物から作った素材はコンクリートの約4倍の曲げ強度を誇り、将来的には建材などへの使⽤も期待できるとしている。廃棄食材由来の素材のため、原料の色や香り、テクスチャーが楽しめ、1つとして同じものがないことが特徴であるとともに、食料競合への懸念がなく、焼却による温室効果ガス排出を免れ、素材に固定される。素材用途は小物や建材などさまざま。サーキュラーデザインの一戦略である素材のバイオ化に資する技術として期待される。

【公式ウェブサイト】https://fabulajp.com/

注目企業②:株式会社ファーメンステーション

独自の発酵技術で未利用資源を再生・循環させる社会を構築する研究開発型スタートアップ。未利用資源を発酵・蒸留してエタノールおよび発酵原料を製造し、化粧品原料等のバイオ由来の高付加価値原料市場を開拓する。残った発酵粕は化粧品の原料や鶏・牛の餌に活用し、鶏糞や牛糞は畑や田んぼの肥料にする循環型モデルを構築。休耕田や遊休水田を再生・利用する点や、企業の食関連工場から排出される残さなどの食品廃棄物に付加価値をつける点が特徴だ。主力商品のライスエタノールは、USDA認証、エコサートCOSMOS認証を、同社自体もB Corp認証を取得した。原料生産のほか、OEM・ODM・ノベルティ制作、大手企業との事業共創も手掛け、国内およびグローバルの課題解決に挑む。リサイクル・アップサイクルにも該当するが、ここでは素材に分類。

【公式ウェブサイト】https://fermenstation.co.jp/

設計/製造(Design/Manufacturing)

循環型設計は、従来型の3R経済との違いを生み出す最たるものだ。設計は製品の環境影響の8割を決めるという調査結果もあり、循環型設計は、同じくこの分野に含まれている製造の循環化に必須の要素となる。循環型設計や製造には、スキル獲得や循環型思考によって実現する非デジタル領域はもちろんのこと、AIや3Dプリンタなどのデジタル技術を使って、循環型設計を支援するようなイネーブラーも登場している。

注目企業③:Synflux株式会社

惑星のためのファッションを実装するスペキュラティヴ・デザインラボラトリー。着物の直線裁ちに着想を得て、衣類製造時における廃棄をゼロに近くするAIを使ったシステムであるアルゴリズミック・クチュールを開発。H&Mファウンデーションが主催する第4回グローバル・チェンジ・アワードの特別賞受賞が注目のきっかけとなった。ブランドや研究機関とプロジェクトや実証実験を展開しており、最近ではゴールドウインとの共同プロジェクト「SYN-GRID」を発表するなど、同社が発展させてきたスペキュラティブデザインの社会実装化が進む。最終ユーザーにとっては認知が進みにくい製造工程における環境負荷だが、この分野に風穴を開ける存在としても期待される。

【公式ウェブサイト】https://synflux.io/
【ゴールドウィンとのコラボレーション「SYN-GRID」】https://syngrid.goldwin.co.jp/

購入/利用(Purchase/Use)

サーキュラーエコノミーはメーカー側だけの取り組みだけでは完結せず、ステークホルダー、特に消費者の協力なしには成り立たないことは言うまでもない。消費者を巻き込む手段として、ビジネスモデルの変革や循環型マーケティングの強化などさまざまな手法が存在する。ここでは、循環性向上と持続可能なビジネスとして両立、あるいはその可能性を秘める3社を紹介する。

注目企業④:株式会社Sanu

自然の中にもう一つの家を持つセカンドホーム・サブスクリプションサービス。サービス利用により自然との共生に意識が向くという体験・教育的価値に加え、建築自体もサーキュラーエコノミーの原則に則る。同社サービスである「SANU 2nd Home」ではカーボンネガティブを実現するとともに、建設資材の再活用を可能にする「釘を使わない」工法、土壌への負荷を軽減する高床式建築、国産材利用、プロセスの可視化、解体に向けたプレハブ建築・分解可能設計など、可能な限り建築のライフサイクル全体の循環を実現。ビジネスモデルもさることながら、日本の自然風土に合った循環型建築の可能性を物語る。マップ上は購入・利用に分類されているが、設計・デザイン・リサイクル・トレーサビリティなど多くの分野に該当する。

【公式ウェブサイト】https://2ndhome.sa-nu.com/

注目企業⑤:株式会社クラス

家電・家具のサブスクリプションサービス「CLAS」を提供する同社。会員数・資金調達など順調に成長している。ナショナルブランドの家具や家電を仕入れてサブスクとして提供し、製品の修理や維持などの管理をすることで循環性向上を目指す。また、製品維持や修理などで培ったノウハウをもとに立ち上げたプライベートブランドには、分解・洗浄・修理が容易なサーキュラーデザインを組み込む。サービス化モデルで陥ることの多い物流や包装資材の増加による環境負荷にも、混載便の活用や在庫の適正化などの対策を施している。

【公式ウェブサイト】https://clas.style/company.html

注目企業⑥:株式会社ソーシャルインテリア

上記のクラスと同じく、家具・家電のサブスクリプションサービス「サブスクライフ」が主力事業。家具は、再生材・リサイクル可能素材を使った製品、長く愛用される製品、FSCなどを通じた森林保全に貢献する材料を利用した製品を採用。地域内企業との連携や家具家電の行方を可視化する評価と報告により、クローズドループの確立を目指す。何度も利用された製品のメーカーに利益を還元する仕組み「Program CRAFT」も展開し、メーカーにとってもリユースが経済的利点となる仕組みとして機能する。リユース文化をアップデートさせた形で普及させるものとなるか、要注目である。

【公式ウェブサイト】https://corp.socialinterior.com/

トラッキング/トレーサビリティ(Tracking/Traceability)

製品やその流れを可視化することで、製品の循環性向上やサプライチェーン連携を再構築する役割を果たすトラッキング。欧州のDPP(デジタル製品パスポート)やGAIA-Xなど各種データ連携プラットフォームの動きが示すように、サーキュラーエコノミーにおいてトラッキングの重要性が高まっており、同分野へのソリューションを展開する企業も登場している。

注目企業⑦:レコテック株式会社

「『捨てる』という行為を『POOL-資源として預ける』に再設計」することを目指すレコテック。静脈サプライチェーンを可視化し、都市資源の発生から製造業者への供給まで情報を一括管理するためのシステム「POOL」を開発。都市資源の把握や工場稼働率・物流の最適化につながるとしている。POOLでトレースできたPCR材は「POOL樹脂」として付加価値をつけた資源として生まれ変わる。数々の共同事業を展開しており、直近では、同社が支援した「楽天・ジャパン・オープン・テニス・チャンピオンシップス2022」内での国内スポーツ業界初のサーキュラリティ評価実施が話題となり、同社技術の多方面への活用を感じさせた。

【公式ウェブサイト】https://recotech.co.jp/

注目企業⑧:株式会社digglue

「資源循環がデジタル化した社会」の実現を目指し、排出物の可視化、CO2の算定、資源のトレーサビリティ事業を展開する。大手メーカーやリサイクラーと共同で、事業活動で生じるプラスチック副産物のマテリアルリサイクルや、使用済みボトル容器のリサイクルスキーム構築を支援。新たに自社製品として「MaTeRe」のベータ版提供を開始。これは、排出物情報を登録することで、排出物量やCO2排出量が可視化でき、パートナー企業とのマッチングによる有価買取をする仕組みとなっている。ユーザーの実際の需要に沿ってトレーサビリティシステムを展開する注目スタートアップ。

【公式ウェブサイト】https://digglue.com/

購入/利用(シェアリング)

サーキュラーエコノミーに貢献するビジネスモデルの一つとしてのシェアリングは、適切に活用すれば循環性が高まる。資源あたりの利用率を最大限高めることで新たに抽出する資源量削減につなげるモデルだが、社会的なつながり創出やデータ活用、消費者が一部生産も担うプロシューマー化などにも寄与する。

注目企業⑨:株式会社カマン

テイクアウト容器ごみを削減するリユース容器シェアリングサービス「Megloo(メグルー)」を展開。現在は鎌倉駅周辺や墨田区の商店街、鈴鹿サーキットなどで導入。2022年6月、プラスチック汚染防止に関する世界最大のネットワークAlliance to End Plastic Wasteが主催する「廃棄プラスチックをなくし、循環型経済を実現する」ことを目的にした日本初プログラムに選出された。100回以上繰り返し使えるスタイリッシュな容器を飲食店でシェアし、参加店舗に返却することでコスト削減につなげる。ユーザーの利便性も向上させるべく、LINE公式アカウントなども利用する。生活形態の革新につながるか、要注目。

【公式ウェブサイト】https://kaman.co.jp/
【Megloo公式ウェブサイト】https://megloo.jp/

再資源化(Resource Recovery)

ここでは修理や維持といった製品の価値維持に貢献する優先順の高い手段や、寿命を迎えたあとのリサイクルやアップサイクル、再資源化を支えるイネーブラーとしてのバックエンドも含めている。

注目企業⑩:ユアマイスター株式会社

ハウスクリーニングや修理など循環性の高いビジネスにおいて、顧客と職人をつなぐ「ユアマイスター」を運営。「モノを大切にする」日本の価値観の復興の実現をデジタルマーケットプレイスで貢献する。これまで容易に利用できなかった修理や維持業者をオンライン上で見える化し、その先に循環性を描く。こうした環境価値だけではなく、社会的側面である地域の雇用も重視。地域のパートナー事業者が地域の仕事を請け負うモデル「地産地消モデル」を展開している。同社の調査によると、すでに200名以上の雇用が発生、2026年には1500名の雇用を生み出したいとしている。

【公式ウェブサイト】https://yourmystar.jp/

消費行動(Consumer Behavior)

サーキュラーエコノミー市場創出に向けて鍵となる消費行動。しかし、消費行動の変容はそう簡単ではない。サプライチェーンの可視化同様、まずは個人の行動による環境負荷や貢献度を見える化することがその第一歩といえる。そのうえで消費行動を変えるインセンティブやナッジの仕組みを構築することなどが考えられるが、この分野でのビジネスも立ち上がり始めている。

注目企業⑪:株式会社DATAFLUCT

「持続可能な未来を、アルゴリズムの共有で実現する」というビジョンを掲げる同社は、生活者を含むあらゆるステークホルダーがカーボンニュートラルに向けた取り組みに参加するための環境価値流通プラットフォーム「becoz(ビコーズ)」を展開。環境価値を取引可能な形にされたカーボンクレジット、リサイクル量、水使用削減量など「地球のサステナビリティを担保するための、モノやコトが有する価値」として捉え、暮らしに新しい評価軸をつくることを目指す。2030年に向けて家庭部門のCO2排出量を66%削減するという政府目標が掲げられるなか、生活者レベルでのエネルギー削減だけでなく、サーキュラーエコノミー実践が問われるようになってきており、同社のこの分野への貢献が期待される。

【公式ウェブサイト】https://datafluct.com/

サーキュラーエコノミーのビジョンを全社的に位置づける

今回ご紹介した企業は、保有技術やシステム、ノウハウをサーキュラーエコノミー移行へ活用していることは言うまでもない。さらに重要なことは、どの企業もこれらの資産をサーキュラーエコノミーへの貢献に活かすためのビジョンとして全社的に上位に位置づけていることだ。こういったサーキュラー思考が根付く企業は他企業を引き寄せる力を有し、投資家や大手企業からの注目度も高い。そのような思考を持つサーキュラーエコノミースタートアップ/ベンチャーは、国内のサーキュラーエコノミー移行にますます重要で不可欠な存在となっていくだろう。

【関連記事】エレン・マッカーサー財団、スタートアップ企業データベースのベータ版を公開
【参照レポート】ANNUAL SURVEY 2020 (GIIN)
【参照レポート】European Commission, Directorate-General for Energy, Directorate-General for Enterprise and Industry. (2014). Ecodesign your future: How ecodesign can help the environment by making products smarter.