サーキュラーエコノミーメディアプラットフォーム「Circular Economy Hub」を運営するハーチ株式会社と東京都との協働により実施される、サーキュラーエコノミー領域に特化したスタートアップ企業の創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO(サーキュラースタートアップ東京)」がキックオフを迎えた。

キックオフイベントで行われた、サーキュラービジネスを実践する有識者からのインプットトーク、参加者からのビジョンや事業計画のピッチについてレポートする。

インプットトーク

最初に株式会社ナカダイホールディングス代表取締役の中台澄之氏から、「産業物処理業とサーキュラーエコノミー」というテーマでの講義があった。株式会社ナカダイでは、廃棄物処理事業やリユース事業、コンサルティング事業を行っており、リサイクル率99%を達成した実績がある。「不要なものを必要な人や企業につなぐこと」を掲げている中台氏は、サーキュラービジネスの展開には産業廃棄物の現状を知ることが不可欠だと話した。

「まず、産業廃棄物の現状を知らずに資源循環を語ることはできません。現代社会では見えない場所での廃棄が圧倒的に多く、年間の産業廃棄物量は3億8900万トン。これは一般廃棄物量の約9倍です。どの循環ビジネスも廃棄物処理業が関連しているので、廃棄物に係る法律を理解している必要があります。知らず知らずのうちに、法に触れてしまうことにもなりかねないためです。」

株式会社ナカダイホールディングス 代表取締役 中台 澄之氏

産業廃棄物は大量に生み出され続けているが、循環させることは簡単ではない。産業廃棄物は計画的に排出されないため、資源を「一定量、安定的に、特定の品質を保って」確保することができない。

そのため、“捨てる”と“使う”をつなぐ必要がある。資源循環では、「全ての製品は素材ストックになる」という考え方が重要だ。捨てる情報とは廃棄物の種類や量、素材の構成比を指す。使う情報は、素材を必要としている団体や企業を指す。製品ごとの特徴を把握していれば、次の製品への素材として活用できる。例えば、ある製品の廃棄物10トンの中に4トンの鉄が含まれていることを把握していれば、その鉄を次の製品へ循環させることが可能だ。このように、捨てる情報と使う情報を組み合わせることで、効率的な資源循環が実現する。「供給が不安定だからこそ、循環を作り出すには、廃棄物の情報管理が欠かせない」と中台氏は話した。

Image via 株式会社ナカダイホールディングス

同社では、廃棄物を循環させるために、製造者とのコミュニケーションを重視している。特に、廃棄物を解体しやすくするにはどうしたら良いか、またどうしたら長く使えるかといった点について製造者へ提言している。廃棄に関する情報を製造者から受け取るだけでなく、製造の上流に自ら入り、コミュニケーションを取りながら情報を共に作り、変化させていく姿勢が求められているからである。

また、廃棄物を扱うビジネスの場合、廃棄物量が減っていくことを前提に投資することが必要だ。企業は廃棄物の量を減らす方向に動くため、減った時にクオリティを担保できる柔軟性が重要となる。廃棄の概念をなくすことを目指すサーキュラーエコノミーにおいて、ビジネスを進めるにあたって見落としやすい点であると中台氏は指摘した。

サーキュラービジネスの基本姿勢となる中台氏の話に、参加者はじっと耳を傾けていた。

続いて、鎌倉投信株式会社の江口耕三氏から、投資についての話があった。同社は「いい会社へ投資する」という理念を掲げており、鎌倉投信が考える「いい会社」とは、会社に関わるステークホルダーとの調和を図りながら成長し、持続的な社会を醸成できる会社を指す。同社は顔の見える信頼関係をベースに、「いい会社」が「いい会社」である限り応援し続けるという姿勢をもって投資していると話した。また、江口氏が運用責任者を務める「創発の莟ファンド」は、これからの社会を創発するスタートアップを対象にした投資となっている。

鎌倉投信株式会社・創発の莟ファンド運用責任者 江口 耕三氏

講演を通して江口氏が強調したのは信頼関係である。資源を循環させることは信頼を循環させることでもあり、社会を変えるためには、商品やサービスの前にステークホルダーと固い信頼関係を結んでいることが重要だと話した。

特に、機関投資家との関係作りが肝要だと強調した。これまでの機関投資家は「儲かる会社」へ投資をすることが多い傾向にあった。しかし、そのひずみが生まれているのが現在であり、また気候変動というリスクも相まって、サーキュラービジネスを行うスタートアップへの期待も大きくなっている。資金も実績も乏しいのがスタートアップであり、だからこそスタートアップ側も機関投資家側も、いかに互いの信頼関係を構築するかを考えなければならない。

信頼関係を構築するにあたり、江口氏がまず挙げたのが「場」の重要性だった。「場」が指すものは大きく二つある。一つは事業の拠点であり、思いがこもる土地に足をつけていること、もう一つは両者の接点となることだ。鎌倉投信は「顔の見える関係」を作るにあたり、鎌倉にある事業所で顧客と顔を合わせ、対話する機会を非常に大切にしている。さらに、同社は毎年の受益者総会で、投資先とのコミュニケーション機会を作っている。このような「場」を通して互いを伝え合い、知り合うことが信頼関係につながるのだ。

そして、江口氏は投資にあたって機関投資家が知りたい二点についても言及した。一つは自社の強み、もう一つは実行力である。

Image via 鎌倉投信株式会社

江口氏は、「自分で強みを言語化できないと、それを発揮することもできない」と語った。なぜなら、機関投資家は、自身の仮説と企業が捉えている強みを照らし合わせているからである。始めは他社の強みをまねることも選択肢としてあり、事業の過程でどう活かしていくか、他社と差別化するか、プロセスの部分が重要だと話した。

また、実行力については、機関投資家が注目しているのは企業が成長しているかどうかだと説明した。例えば3ヵ月、半年のような期間の中でどのくらい変化しているか。伸びしろの部分を見て、投資家は投資を継続するかどうか判断する。

伸びしろを生み出すにあたり、企業として問われているのが「人間力」だと話した。投資家であったり、本プログラムであればメンターやパートナー企業から厳しい意見が出たときに、真摯に受け止められるか。外部の意見やアドバイスに蓋をせず価値を見出し、実行・検証・修正していけるかがその企業の変化につながり、投資家との信頼関係につながると江口氏は語気を強めた。

参加者からのピッチ

中台氏と江口氏からのトークの後は、CIRCULAR STARTUP TOKYO参加者からのピッチが行われた。それぞれが自社のビジョンや強み、ビジネスモデルなどを3分間で紹介した。以下に各社の発表を簡単に紹介する。(一部割愛)

難波亮太/株式会社EcoLooopers

「“植物性廃棄物”のバイオマスプラスチック化を通じた循環型モノづくりの仕組みを実現する」ことを目指す。主に食品・飲料メーカーや飲食店から出た食品廃棄物からバイオマスプラスチックのペレットを作り、3Dプリント技術などを用いて製品化する。他社との差別化のポイントは素材生産から製品化までを自社で一貫して行うことであり、またインテリアプロダクトの制作・販売を通して消費者への価値訴求を行うことを計画。

小柳裕太郎/合同会社JOYCLE

国内の人口減少に伴い、ごみ焼却炉の閉鎖が相次ぐことによる廃棄物の輸送コスト上昇とそれによる温室効果ガス排出増を見据え、廃棄物を輸送・焼却せずに資源化する小型資源化装置を提案。データ可視化システム「JOYCLE BOARD」により装置の費用対効果や環境効果などを可視化できるとともに、装置を1社1台保有するほどではない事業者や離島などの地域においては、「JOYCLE SHARE」のサービスで装置そのものを提供することも視野に入れている。現在石垣島などで実証実験を行っており、今後も実証実験先を増やす予定。

阿部直樹/Fan Circle株式会社

スポーツ産業は気候変動の影響をリアルタイムで受けている。Fan Circleでは「スポーツがエコロジーをリードする」というビジョンをもとに、スポーツ産業における製品製造を設計段階から環境配慮型へシフトさせ、環境配慮型製品の市場供給量と資源循環率の向上を掲げている。製品製造プロセスにおける環境対応と業務非効率という2つの課題を、クラウドサービスであるサプライチェーン・マネジメントシステムを通して解決することを目指す。

宮垣真由子・ Benoit Mantel/ヘルシンキノコ

コーヒーかすを用いた家庭用キノコ栽培キットの提供を通して、個人が家庭にいながら循環型社会の形成に貢献できる社会を目指す。ヘルシンキノコはコーヒーかすさえあれば誰でもサステナビリティに貢献でき、楽しみながらきのこを育てる過程で知識を蓄えられることが魅力。先行展開地域のフィンランドにおいて既に成功事例を有している。キノコ市場が世界で拡大している一方、日本の市場は停滞しており国内市場を成長させるビジョンがある。

髙橋慶成/合同会社 YTRO DESIGN INSTITUTE

廃材や天然素材を塗料化し、アートやデザインの力で人々が能動的に参加する「ものづくり」の社会形成を目指す「NULL」。塗料生産だけでなく、ワークショップを通じて実際にものづくりに関わる機会を作り、地域におけるコミュニティづくりにも貢献する。ワークショップは既に実施しており、瀬戸焼の廃材を用いたワークショップでは、地域の住民と共に塗料化し、その塗料を地域拠点の床や壁に塗ることで住民のまちづくりへの参画を促した。

岩澤宏樹/株式会社水と古民家

幼少期に遊んでいた川を久しぶりに訪れると、当時の姿とは様変わりしていたことにショックを受けた体験があり、汚泥と合成洗剤を分解する浄化槽の開発を進めている。浄化槽においては、汚泥発生による汲み取りの必要性、洗剤・油の流入による機能障害(浄化能力低下)といった課題がある。そこで、独自の微生物群の定期投入により浄化槽の分解能力を高め、自治体の汚泥処理費用低減や生物多様性の回復を図る。小規模で同様の取り組みを進める主体は現在なく、自社が先駆けとなることを目指している。

山岡未佳・山梨小百合/Beautiful timeS

「サステナブルな食を手に取る旅」というテーマを掲げ、首都圏の消費者の食に関する行動を、循環型で持続可能なものに変容させていくことを目指している。美大のビジネスパーソン向けプログラム内で知り合ったメンバーで構成され、「トランジションデザイン」の手法を用いて、学際的にアプローチすることを軸としている。本プログラムでは競合や市場等の分析、ビジネス知識を習得しながら、事業化を目指してアイデアをブラッシュアップしていく。

藤代圭一・寺田雅美/隠岐サーキュラーデザインラボ

隠岐サーキュラーデザインラボは、持続可能なサーキュラーエコノミーの根底には「人のつながり(関係資本)」が重要であると考え、「モノ」「ヒト」「価値観」が循環する「豊かさのめぐる旅」を提案している。
「コンビニはない」「海洋ごみを目にする機会が多い」「流した洗剤がどこへ行くかもわかる」隠岐をはじめとする国内外のさまざまな暮らし(ライフスタイル)を共に体験することで、これまでの「消費型」観光から、地域とのパートナーシップを育む「価値共創型」の旅を目指す。

繁田知延/PHI(ファイ)

PHIは教育現場と実社会の隔たりを埋めるべく、将来を担う子ども達に向け実践的な環境学習コンテンツの提供を行うことで持続可能な社会に向けた人づくりに貢献していく。環境教育・地域資源循環を軸として、サーキュラーエコノミーをはじめとしたサステナビリティ分野のプロフェッショナル人材が効果的に連携し、企業間・自治体間連携を推進することでサーキュラーエコノミーを社会全体に浸透させていく。ゆくゆくは「日本の文化」としてモデル化し、海外への輸出・実装も検討している。

久保順也・手嶋翔/ヘリテッジ株式会社

「メイドインジャパンを未来へ受け継ぐ。サステナブルな手法で、にほんのものづくり産業の価値を再構築する」というミッションを掲げ、環境配慮型素材とジェンダーレスをテーマとするアパレルブランド「CRAFSTO」。2020年に立ち上げられた本ブランドはデザインを完全自社企画としており、自社開発した職人単位の生産管理システムを用いることで、余剰在庫が大きな課題であるアパレル業界において定価販売率100%を実現している。今後は世界的に市場が伸びている植物性レザーの提案や、アップサイクルプロダクト開発、BtoB領域でのアップサイクル連携なども進める予定。

本田宗洋・木村雄太/エコファニ(三菱地所株式会社)

エコファニは三菱地所株式会社の社内ベンチャー。オフィステナントの退去時に家具の廃棄が大量に出る課題に着目し、テナントに向けてリユース家具の販売・引取り事業を行っている。テナントリレーションと「都心型倉庫」での運営が強み。本プログラムを通して活動を広げていく。

高橋浩人・宇多峻佑/Team FarmBot Cafe(鹿島建設株式会社)

Team FarmBot Cafeは鹿島建設株式会社内の社内ベンチャーで、スクラップ・アンド・ビルドが主流の建設業界において「まだ使えるにも関わらず解体されてしまうビルをなんとかできないか」という問いを出発点としている。空室率が高くなった中小規模のビルを解体するのではなく、その空室に「FarmBot」と呼ばれる農業ロボットを設置して擬似的な自然環境を生み出すことを試みる。この空間をカフェやラボ、オフィスなど会員制で使えるようにすることで新たなコミュニティ形成やビルへの活気につなげるとともに、都心で植物を育てたい市民のニーズにも応える。

福留聖樹・上野立樹/LiNk合同会社

LINK LLC.はファッション業界における大量生産・大量廃棄のビジネスモデルからの脱却を事業目的とし、ブロックチェーンの仕組みやLCAデータを活用した二次流通価値の向上を目指している。ファッションアイテムの撮影時に使用する背景紙が大量に廃棄されている問題にも着目しており、環境配慮型の撮影スタジオを運営している。横のつながりを重要視されるファッション業界で、メンバーがこれまで培った業界の人脈を生かして事業展開を図る。

岸悟志・林勇士/株式会社ナオセル

壊れたスマートフォンを売りたい人(個人・事業者)の手間が多く、回収率が低下している一方、修理業者は適正価格での仕入れの難しさや、機器の状態を選べないという課題に着目。そこで同社は両者をマッチングさせるサービスを提案。自社でスマホの状態を確認の上グレード分けすることで、売り手側へは手間削減と、業者側へは状態に応じた適正価格での買い取りを保障。将来的にはスマホだけでなく家電の二次流通市場への参入も視野にいれる。「捨てない社会をつくる」のビジョンを掲げ、修理する権利の拡大を背景に事業展開を目指す。

小野綾香/RIPPNIS株式会社

サステナブルな暮らしが重要視される現在、衣食住の中で衣と食に比べ、住においてはサステナブルな選択肢が少ない点に着目している。RIPPNISでは、特に、パッシブデザインに代表される、「自然とつながる心地よい空間」の選択肢を広めるためソリューションを検討している。
国産材の価格が下落し林業が低迷していること、自然資源やユーザー目線で作られた不動産の価値が可視化されていない点に着目した。北海道上川町という森林資源に近い場所を拠点とし、事業者にヒアリングを行っている。今後は、素材のトレーサビリティや、心地よさの価値化を図り、地球と人のウェルビーイングを接続することを目指している。

大河淳司・小島剛/リベロント株式会社

大切なのはこれからの変化

全ての参加者のピッチを終え、CIRCULAR STARTUP TOKYO主催メンバーであるアーキタイプベンチャーズの北原宏和氏からは「ぜひスタートアップ同士でつながり、学び合ってほしい」とコメントがあった。また、インスピレーショントークに登壇した中台氏からは「このプログラムの5ヶ月間で事業をどうブラッシュアップしていくかが非常に重要だ」と今後の活動を後押しする言葉があった。さらに、江口氏からの「3分で人の心を動かせなければ、30分かかっても人の心を動かせない」という力強い言葉を受けた参加者は、経営者としての姿勢を再確認していた。

アーキタイプベンチャーズ パートナー北原宏和氏

イベントの最後には懇親会が行われ、参加者同士やメンター陣が盛んに感想をシェアし合い、意見交換を行っていた。

参加者の感想をいくつか紹介する。

  • 近しい領域の起業家の方々のお話を聞いて、この領域で戦っているのは1人じゃないなという気持ちになれました!(久保順也/ヘリテッジ株式会社)
  • 中台さんの「見てないところの廃棄のほうがはるかに多い」というコメントが印象的でした。環境領域は、いかに迅速に仕組みを変え環境回復を実現できるか、が重要と改めて感じました。(岩澤宏樹/株式会社水と古民家)
  • 鎌倉投信、江口さんのお話でキーワードに挙がった“未来思考”で事業を考える、という内容は今後事業設計・検証を進めていく上で必要不可欠な内容だと強く印象に残りました。本プログラムを通じて皆さんと一緒に、将来インパクトを生むような事業作りを目指していきたいと思います!(難波亮太/株式会社EcoLooopers)
  • 今までこういったテーマで対話が出来る仲間もなかなかいなかったので、皆さんの熱量を肌で感じ、とても有難い気持ちでした。自分のプロジェクトのヴィジョン、ミッションを実現するために邁進しつつ、皆さんとの繋がりの力で社会にインパクトを与えていけたらと思っております!(髙橋慶成/合同会社 YTRO DESIGN INSTITUTE)
  • “想像的投資”の考え方のもと、改めて自分のビジネスアイディアと向き合い、ブラッシュアップし、“超長期的視点”を持ちながら、本プロジェクトで頂ける“酸いも甘いも全て受け入れ、新たな価値を生み出して”いきたいと思います!(ヘルシンキノコ/宮垣真由子)

それぞれが思いやビジョンを持って臨む「CIRCULAR STARTUP TOKYO」。サーキュラーエコノミーを推進する事業アイデア、そして参加者自身がこれからのプログラムでどう変容していくのか、これからの成長に期待である。

※本記事は、東京都の多様な主体によるスタートアップ支援展開事業「TOKYO SUTEAM」の協定事業としてハーチ株式会社が展開する、サーキュラーエコノミー領域に特化したスタートアップ企業の創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO(サーキュラー・スタートアップ東京)」の「【イベントレポート】ナカダイ、鎌倉投信の講義に加え全16チームがピッチ!『CIRCULAR STARTUP TOKYO』キックオフイベント」の転載記事です。