本連載では、サーキュラーエコノミーを学び実践するリゾートカンファレンス「GREEN WORK HAKUBA」の様子を4回シリーズで連載する。

最終回は、「白馬村で考えたサーキュラーエコノミー」。第3回まで、サーキュラーエコノミーの概念の学習や、代表的事例の理解、そして実践的ワークショップの内容をお届けしてきたが、最終回では5つの観点でGREEN WORK HAKUBAを振り返りたい。

1. 白馬村で考えたサーキュラーエコノミー(5つの観点で振り返る)

1-1. サーキュラーエコノミーの目的を確認

「サーキュラーエコノミーを60秒で説明せよ」という課題があったとしたら、今回のプログラムで強調された「廃棄物という概念を設計によってなくす」というポイントが必ず入ってくるだろう。設計によって、「捨てるという概念」をなくし、「経済」や雇用や労働市場などの「社会」を繁栄させ、環境再生型で幸せな社会を構築することが、サーキュラーエコノミーの究極的な目的である。

さらに、環境については、「環境保護」だけではなく、「環境再生(リジェネラティブ)」という観点も入ってくるはずだ。

これらを実現するため、リサイクリングエコノミーからサーキュラーエコノミーへ私たちの認識を転換していかなければならない。

今回、これらが幾度となく共有されたことは、今後のブレないサーキュラーエコノミーへの移行に向けて、意義が大きいといえるだろう。

1-2. サーキュラーエコノミーのビジネス構築のための5つの要素

今回、私たちは数々の先行事例を目の当たりにした。これらの先行事例を集約しようとすると、次の5つの要素が挙げられるだろう。

  1. ビジョン・・・どんな世界を描きたいのか。何を実現させたいのか
  2. パッション・・・ビジョン実現のために働く動機や情熱
  3. ビジネスモデル・・・サーキュラーエコノミーの真の目的に沿った形での環境再生型ビジネスモデル
  4. 優先順位・・・バタフライダイアグラムに代表されるサーキュラーエコノミーの取り組みには優先順位がある。これを意識して取り組むこと
  5. 協働・・・サーキュラー型アプローチを試みようとすると、バリューチェーン全体に取り組まなければならないため、1社では解決できないことが多々発生する。そこで重要なのは同じビジョンを持った組織と協働すること。その際には、それぞれの現状を開示する「透明性」が求められる。

サーキュラーエコノミーの実現には困難が伴うが、上記の5つの要素はこれを乗り越える原動力となるのではないだろうか。

1-3. サーキュラーエコノミーという切り口で新しいビジネスができる

ワークショップで完成したビジネスモデルはわずか3、4時間でできたものである。青写真の段階ではあるが、サーキュラーエコノミーが目指す「廃棄物という概念をなくし、利益を上げられ」そうなビジネスモデルの創出ができた。

ワークショップでは、次のような視点でサーキュラービジネスモデルを考えることになった。

  • 廃棄物をなくす設計とは?
  • サーキュラーエコノミーの仕組みにおいて、利益を上げられるモデルとは?
  • 次の利用用途を考えたビジネスモデルとは?
  • 製品の所有権を消費者から生産者に移行させる仕組みとは?
  • バタフライダイアグラムや廃棄物ヒエラルキー(発生抑止・再利用・シェアリング・エネルギー回復などの優先順位)を意識した事業とは?

これらの問いが事業をサーキュラー型に向かわせ、新たなビジネスモデル構築のきっかけになることがわかった。同時にそれらのビジネスモデルには、利益を上げられるポイントが多々存在しているといえよう。

1-4. サーキュラーエコノミーを切り口とした「協働」

サーキュラーエコノミーを切り口として、「協働」が生まれることを身をもって体験した。協働が生まれる流れとは次のようなものだろう。

  1. ビジョン・目的の共有:どんな世界を目指したいのか?なぜそれをやるのか?
  2. 現状の開示:自社の課題を開示する(例:資源循環度の現状、CO2排出の現状、回収・リサイクルの現状など)
  3. 協働ポイントの自然発生:現状(弱みとも呼べるかもしれない)を開示することによって、安全な環境が醸成される。そして、それぞれの分野で活動する参加者同士で協働できるポイントの模索が始まる。その際には、「どちらかが損をしない」ウィンウィンの関係が望まれる。
  4. 協働:公式・非公式に協働が生まれる。その協働がさらに他のステークホルダーを巻き込んで広がりを持つことも。

1-5. レジリエンスと分散型を象徴する「白馬村」

コロナ禍において、サーキュラーエコノミーが果たす役割に新たな2つの要素が加えられようとしている。「レジリエンス(回復力)」と「分散型社会」だ。

レジリエンスについては、資源の域内循環や再生可能エネルギーの活用、グローバルサプライチェーンによる原材料依存の脱却が挙げられる。まさに白馬村のような、自然と隣り合わせにある地域がこれから取り組んでいく課題だ。

分散型社会の文脈においては、今回のワークショップが証明したように、例えば山にいながら仕事をし、多様な立場の人々と連携しながら、新たなビジネスや活動が起こす視点が大切になる。

ワーケーションはさまざまな自治体が取り組み始めているが、それぞれ独自の地域課題を掛け合わせるケースも多い。関係人口を増やしていきながら、地域でビジネスが生まれていく、そんな好循環が生まれるきっかけが垣間見えるようであった。

実はこのGREEN WORK HAKUBA。今回の成功を受けて、次回も開催する方向で調整中とのこと。次回は、サーキュラーエコノミーの視点から白馬村の課題に迫ることが検討されているそうだ。

2. 終わりに:「絵空事」から「実現可能なこと」へ

集合写真より(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

30年後の2050年、白馬村はどのような光景になっているのだろうか。気候変動の影響を直接受ける地で考えた3日間は、白馬村にとっても参加者にとっても新たなスタート地点になるだろう。

大部分がリニアエコノミーのなかに生きる私たちにとって、廃棄物という概念をなくし、環境を再生するサーキュラーエコノミーは絵空事に聞こえるかもしれない。しかし、数々の先行事例が示すように、実現に向けて日本を含めた世界が動き出している。

この白馬村でも、サーキュラーエコノミーの芽が多く生まれ、「絵空事」から「実現可能なこと」だという認識に変わったに違いない。あとは、私たちの実践あるのみだ。

長野県白馬村で学ぶサーキュラーエコノミーの本質。Green Work Hakubaレポート おわり

これまでのレポート

連載① サーキュラーエコノミーの概念編
連載② サーキュラーエコノミーの事例編
連載③ サーキュラーエコノミーの実践編

【参考ページ】GREEN WORK HAKUBA