Circular Economy Hubでは、Circular Economy Hub Partnersの一般社団法人サステイナビリティ技術設計機構が主催するオンライン・コラム討論の「談論風爽」のレポートをお届けしている。談論風爽では、コラマーと呼ぶ話題提供者が、まず10分間話題や意見を提供。それをもとにオンライン参加者とコラマーが約20分の意見交換を行う形式だ。サーキュラーエコノミーや持続可能な社会、脱炭素など、サステナビリティに関する話題が提供されている。Circular Economy Hubでは、サーキュラーエコノミーに関する回をピックアップしてお届けしていく。
第1回のテーマは、原田幸明氏による「AC(after corona)とCE(circular economy)」。
- テーマ:「AC(after corona)とCE(circular economy)」
- 話題提供者:原田 幸明 氏(物質・材料研究機構名誉研究員 サーキュラー・エコノミー&広域マルチバリュー循環研究会代表)
話題提供パート:「AC(after corona)とCE(circular economy)」
原田氏:
2011年のリーマン危機の際、バブル経済から持続可能な経済へと遷移されていかなければならないという議論からサーキュラーエコノミー(以下、CE)の流れが生まれました。具体的にはEurope 2020の7つの「フラッグシップイニシアティブ」のうちの一つである「資源効率」から派生していったものです。そのため、CEは、欧州の経済成長と雇用創出の議論のなかに位置づけられています。アフターコロナを考えるうえでこの観点は重要なものとなっていくでしょう。
サーキュラーエコノミーは「循環経済」とよく訳されます。しかし、CEの本質は、「モノを廻してやるための業の経済」すなわち「モノを廻すためにどのようなビジネスを作っていくか」ということです。その際に意図されることは、「ヒトの間に廻るモノに付加価値をのせる経済」と考えます。資源などの物質的制約を軽減し、経済行為をより効果的に引き出そうとしていることを目的としています。
今までは「モノ」にさまざまな価値を詰め込んで売っていました。CEでは、モノを廻しながら、さらにサービスをビジネスとして提供し、残存価値などの今ある価値を見直すことが重要です。
CEの3要素は、「循環システム」(目指すもの)・「デジタルプラットフォーム」(ツール)・「サービサイジング」(手法)です。これらを的確に捉えたうえで、ポストコロナの経済が進められていくでしょう。これからは、「バブル経済や贅肉経済が見直される」「IT化が一気に進む」「生活に根ざした安心安全が見直される」「コミュニケーションの重要性が再評価される」「レジリエンスを持った社会構造が志向される」ようになっていくと考えています。
話題提供後の参加者同士による討議の中心ポイント
話題提供で触れられた「残存価値」(狭義には製品の法定耐用年数が経過したあとに残る価値だが、ここでは製品が利用者によって使われた後に残る価値として捉えられている)をどう定量化していくのかという点が議論の中心となった。下記、参加者から提供された意見である。
- 残存価値を査定しようとすると迷路に入ってしまう。売る方と買う方が納得できればいいのではないか。相対で残存価値を決めていくことが自然だろう。
- 価値を定量化する。価値の見る視点を変える。(例:停まっている自動車をどう定量化するのか)それをつなぐためのコミュニケーション(プラットフォーム)が重要。
- デジタルプラットフォームを通じて、モノを長く使うことで新しい価値を生むのではないかと思う。(メルカリや中古プラットフォームなど)それぞれの製品の生い立ちや使い方によって価値が変わってくるのではないか。
- (原田氏より)これまで、目の前にある即物的な観点でしかモノを見てこなかった。すなわちモノを安売りしてしまっていた。技術をモノに詰め込んで売っていたのがそもそもの姿だが、モノ自体を売っていたような錯覚をしてしまっている。今後は本来の技術とサービスに結びつける方向に進んでいくのではないか。CEとは、モノの本質を売るモデルなのではないかと考える。
- 残存価値を発信して、受け手とつなげる情報連携を活用できないだろうか。
- 残存価値を「保証する」ことが大事になってくる。
- 残存価値を位置付ける法整備やシステム整備が求められる。
編集後記
今回話題になったポイントは2つある。一つは「CEが本質的に目指すもの」。もう一つは「残存価値の評価システムの構築を模索すること」である。
「CEが本質的に目指すもの」については、CEを資源循環という観点だけではなく、モノがヒトの間を廻る際にどのように付加価値をつけてビジネスにしていくかという視点が重要で、その結果環境負荷の低減または再生されるという考えが紹介された。モノは技術(サービス)が詰め込まれた目に見える集合体であると原田氏は位置付ける。技術(サービス)としての価値を計る姿勢はCEそのものであるし、今CEの大きな流れのなかで起こっていることである。
その流れのなかで重要な考えとなるのが、もう一つのポイントである「残存価値」という考え方。残存価値については今回の議論にもあった通り、明確な定義が模索されている。あるいは定義は人によって違うということでもよいのかもしれない。重要なのは残存価値を正しく評価するシステムを作ることで、それによって製品が持っている真の価値が見極められることだと考える。結果、CEへの移行が加速していく。
この回が実施されてから約半年が経過する。残存価値を見極める流れはこの半年で一気に加速しているように見受けられ、同時に非常に大きなテーマともいえる。CEの文脈のなかでどのように具現化していくのか今後も追っていく。
【参照】Europe 2020