※本記事は、「Ideas for good」からの転載記事となります。
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気候変動や環境問題への具体的な対応策のひとつとして、近年世界的に注目を集めているサーキュラーエコノミー。「作って・使って・捨てる」という一方通行の経済システムを見直し、資源を循環させ続けることで環境に配慮しながら経済・社会的メリットを生み出していこうという、新たな経済モデルだ。
そんなサーキュラーエコノミーが今、本格的に国の成長戦略や地方創生を支える中核的な概念として位置づけられるようになってきている。こうした背景から、経済産業省は全国各地でその機運を醸成しようと、地域の特性を活かした実践を後押しする取り組みを進めている。
取り組みのひとつが、全国の中でも先進的な取り組みを行う地域に着目し、その実践やあり方を他地域のモデルとして広げていくことを目的に開催される「サーキュラーエコノミーによる地方創生シンポジウム」だ。
2025年度、その舞台の一つに選ばれたのが、国内有数のアルミ産業集積地であり、産官学連携によって先進的な循環型産業の構築を進める富山県だ。
シンポジウムは同年10月17日に富山市で開催され、県内外から150名を超える関係者が参加。経済産業省、富山県知事をはじめ、産・官・学それぞれの立場から循環経済を牽引するキーパーソンが登壇した。
テーマは、富山の主要産業でもあるアルミとプラスチックの資源循環。国の最新動向から現場の実践知までが共有され、今後の地域間連携の可能性や、ものづくりの新しい未来像について活発な議論が交わされた。
本記事では、経済産業省 GXグループ 資源循環経済課 三牧課長や新田富山県知事による基調講演、各分野のトップランナーが登壇した2つのパネルディスカッションを中心に、当日の模様をレポートする。日本のものづくりを支えてきた富山の地から見出す、サーキュラーエコノミーによる地方創生の未来像を紐解いていきたい。
目次
- 環境から経済の問題へ。世界情勢とサーキュラーエコノミーの必要性
- 目的は市民の幸福。アルミを中心に進む富山県のサーキュラーエコノミー
- 強固な産官学連携の理由とは?共通の課題と行政の後押しが鍵に
- 動脈・静脈という区別を超えて。プラスチックにも広がる資源循環
- 編集後記

環境から経済の問題へ。世界情勢とサーキュラーエコノミーの必要性
「環境問題」は、もはや倫理やCSRの領域にとどまらず、今や経済の存続そのものに関わる構造的課題になりつつある──企業の成長を後押しすることを本業としてきた経済産業省がサーキュラーエコノミーを強力に推進する必要性に迫られている理由はここにある。
経済産業省 GXグループ 資源循環経済課の三牧純一郎氏は、基調講演でその背景に大きく2つの国際的な潮流があることを強調した。
三牧氏「一つ目は、資源制約。近年のマテリアル需要の拡大などを受け、資源枯渇リスクに対して経済の自律性を担保していく必要性が高まっています。二つ目は、環境制約。例えば、バーゼル条約などの国際的なルールにより廃棄物の越境移動の規制が年々強化され、自国で排出した廃棄物は自国で適正に処理・リサイクルすることが世界の大原則となりつつあります」

この変革に取り組まなければ、資源調達のために国の富が海外に流出する。さらには、欧州をはじめとする厳格な環境規制に対応できず、日本企業がグローバルにビジネスをする際の大きな障壁になり得る。
こうした危機感から、経済産業省は従来の「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」を社会問題対応の枠から一歩進め、「経済活動の新しい形」としてのサーキュラーエコノミーへと、政策のテコ入れを図っているのだ。
経済産業省が推進する政策の柱は、大きく三つ。 第一に、サーキュラーエコノミーに資する企業の取り組みを後押しするための大規模投資。第二に、リサイクル材や再生製品が適正に評価される市場ルールの整備。そして第三に、今回のシンポジウムの主題でもある産官学連携の推進だ。
三牧氏「サーキュラーエコノミーは一社単独で完結するものではありません。動脈である素材メーカーと静脈であるリサイクル事業者、さらには業種を超えた連携が不可欠です。これらを実現するためには、国全体での議論に加えて、モノが動く現場である『地域』ごとの体制構築が重要です」
目的は市民の幸福。アルミを中心に進む富山県のサーキュラーエコノミー
経産省が行う産官学連携推進の中核が、「サーキュラーパートナーズ(CPs)」という名の産官学連携のパートナーシップだ。2025年11月現在770を超える企業・団体が参加し、国のビジョンやロードマップ策定に現場の声を反映させる活動を行なっている。
その加盟自治体のひとつでもあり、地域に根ざした強固な産官学ネットワークでアルミ産業を中心とした循環型経済の構築を進めるのが、富山県である。富山県知事の新田八朗氏は続く基調講演の始めで、「サーキュラーエコノミーは県民の幸福につながる重要な施策だ」と強調した。
新田氏「富山県の成長戦略の基本理念は、『幸せ人口1000万〜ウェルビーイング先進地域、富山〜』。これは、県民約100万人の幸せな暮らしを基盤に、富山に魅力を感じて関わる1,000万人の関係人口をつくり、新たな視点や活力を生み出しながら発展していこうというビジョンです。
この理念に基づく総合計画は『未来に向けた人づくり』と『新しい社会経済システムの構築』という二つの柱で構成されており、サーキュラーエコノミーの推進は、後者の中の『産業・GX』という政策分野に位置づけられます」

富山県がこの分野で全国的に注目を集める背景には、「ものづくり県」としての特徴がある。製造業が生み出す付加価値額は県全体の約3分の1を占め、とりわけアルミ産業は戦前からの技術蓄積をもとに発展、現在では国内最大の集積地となっている。多くの関連企業が半径100キロメートル圏内に集積し、製品の製造からリサイクルまでを県内で完結できる点も特徴だ。
新田氏「この産業集積を活かし、2018年に産官学連携による『とやまアルミコンソーシアム』を設立し、アルミの脱炭素化やリサイクル技術の高度化に取り組んできました。その代表的な取り組みが、リサイクル工程におけるCO2排出量(カーボンフットプリント)の見える化と、そのデータをサプライチェーン全体で共有するDXプラットフォームの構築です」

2025年には、3月に「富山県サーキュラーエコノミー推進ロードマップ」の策定、4月には新技術の研究開発支援に「サーキュラーエコノミー推進枠」を新設するなど、県として新たな施策をスピーディーに展開。最新の取り組みである「富山県サーキュラーエコノミー推進プラットフォーム」では、企業からの相談にワンストップで対応し、技術相談からマッチング、補助金情報の提供まで、きめ細やかなサポートを実施しているという。
今後は富山県サーキュラーエコノミー推進ロードマップに基づき、アルミ産業で培ったモデルを他の製品・素材へ横展開していく。また、DX・AI技術を活用した新たなビジネスモデルの構築、県の廃棄物処理計画へのサーキュラーエコノミーの理念の反映など、県全体でさらに強力に推進する体制を整えていくという。
新田氏「すべての取り組みは、県民と関係人口のウェルビーイングの実現につながっています。ウェルビーイングが高まれば、移住や企業誘致、創業の増加にもつながる。一見相反するように見えるウェルビーイングと経済成長のあいだに、好循環を生み出すことこそが富山県の目指す姿です」

強固な産官学連携の理由とは?共通の課題と行政の後押しが鍵に
シンポジウム後半では、富山大学(研究機関)、竹中工務店(企業)、富山県(行政)・経済産業省(国)の4者が登壇し、富山県で先進的な産官学連携が実現できた理由や、連携の先にある今後の展望などをテーマにパネルディスカッションが行われた。
議論に参加した富山大学は、不純物を含むスクラップから高純度のアルミを再生させる「アップグレードリサイクル」という革新的な技術開発に成功。こうした背景から、循環経済における連携の中核を担う。
また、循環経済に積極的に取り組む大手ゼネコンの株式会社竹中工務店は、富山県のアルミ関連企業と協業し、解体現場で発生したアルミサッシを徹底分別し、アルミサッシへと再生させる水平リサイクル実証実験を2025年4月に開始している。

4者でまず議論されたのは、なぜ富山県でここまで強固な産官学連携体制の構築ができたのか、という点だ。
富山県 商工労働部長の山室氏はその理由を、「県内に、アルミ産業の強固な産業ネットワークが形成され、リサイクルや脱炭素化に20年近く向き合ってきた技術基盤があること、それを県がロードマップ策定やプラットフォーム設置といった制度で強力にサポートしていることが大きい」と分析。
さらに富山大学の小野氏は、アルミ産業の歴史的経緯に触れ、「産業特有の大きな課題が必然的な連携を生んだ」と強調した。
小野氏(富山大学)「かつて日本は世界有数のアルミ生産国でしたが、オイルショックを経て国内の製錬所はほぼ撤退し、現在は新地金の100%を輸入に頼っています。一方で、国内には大量のアルミスクラップが存在しています。
アルミ製造における二酸化炭素排出量の9割は、原料から新地金を作る過程で発生しますが、スクラップからの再生アルミを使えば、その二酸化炭素排出量を97%減少させることができるほか、輸入からの依存脱却による経済的効果も期待できます。
こうした明確なメリットを共有することができているからこそ、サーキュラーエコノミーへの移行に一丸となって取り組むことができるのです。こうした国レベルの課題と地域の産業構造が合致したことで、取り組みが大きく推進されました」

大学の研究者が企業の現場を訪ね、課題を共有する中で連携は深まっていくのだという。連携の次なるステージは、再生した素材の新たな市場創出。再生材の価値を社会全体でいかに共有できるかが、そのカギとなるようだ。
動脈・静脈という区別を超えて。プラスチックにも広がる資源循環
産官学の連携から市場創出へ。アルミ産業を中心に発展してきた富山県のサーキュラーエコノミー推進体制は、今、他の素材にも広がり始めている。こうした背景のもと、2つ目のパネルディスカッションでは、県内におけるプラスチックの資源循環への取り組みや展望が議論された。
今回新たに議論に加わったのは、プラスチック成形加工大手の三光合成株式会社。長年培ってきた技術を生かし、リサイクルを繰り返しても物性が低下しないプラスチック製品の開発を進めている。
また竹中工務店は、アルミに加え建設現場で発生する廃棄プラスチックの分別・ケミカルリサイクルにも取り組む。そうした実証実験の現場を知る企業の視点から、引き続き議論を牽引した。

動・静脈企業が県内に集積していることを強みとするアルミ産業。プラスチックも同様に、三光合成をはじめとするトップレベルの成形加工メーカーと、富山環境整備のような高品質な再生プラスチックを製造する先進的なリサイクル事業者が県内に両方存在していることが強みだという。
こうした基盤を元に県は、最近では新たなリサイクルの実現に向けて、プラスチックの排出・処理・製造事業者それぞれが情報を掲載・検索できるマッチングサイト『Re+とやま(リプラすとやま)』の運営や、『BACCAIng』のプロジェクトにプラスチックメーカーを巻き込むなど、新しいビジネス創出も支援しているという。

そんな中議論されたのは、資源循環におけるプラスチックという素材特有の難しさだ。この点について登壇者からは「分別の難しさ」と「材質・物性の多様さ」が挙げられた。
岡田氏(竹中工務店)「建設現場でのプラスチック製品の分別は、アルミと比べるとより困難です。プラスチック製品に材質表示がないものが多く、建設現場では、材質まで確認する時間的余裕がないためです。ですから、誰でも簡単に分別できるような手法を早急に開発し、現場に導入する必要があります」
亀田氏(三光合成)「自動車部品の場合、メーカーや車種によって、使われている材料が比較的明確です。そのため、大きな部品であれば理論上は回収して同じ部品に再生することは可能です。
一方で、業界内で材質の共通化が進んでいないことが大きな課題です。同じポリプロピレン(PP)という樹脂でも、自動車メーカーが違えば添加物などが異なり、混ぜてしまうと物性が変わってしまう。水平リサイクルを進めるには、こうした材質情報の共有や標準化といった、業界の垣根を越えた協調が不可欠です」
「分別の仕組み」や「業界内の協調」──この2つを解決していくのに必要なのは、動・静脈産業の連携だ。では、その両者が連携していくためには、何がポイントになってくるのか。そんな問いに三光合成の亀田氏は、動脈・静脈という考え方そのものを超えていく必要があると語った。
亀田氏(三光合成)「サーキュラーエコノミーの時代には、もはや動脈も静脈もないと考えています。全てが一体で連携しなければなりません。
例えば、自動車メーカーは、設計段階から材質のタグ付けを行うなど、分別しやすい仕組みを作る。リサイクル事業者は、回収したものをなるべく混ぜずに再生材として供給する。そうすれば我々のような加工メーカーは、それを新たな原料として使うことができます。それはもはや『静脈』ではなく、石油から樹脂を作るプロセスに代わる、新たな『動脈』の始まりと言えるのではないでしょうか」
編集後記
アルミニウム産業という、長年にわたり培われてきた地域の「強み」を資源循環の駆動力へと転換させている富山県。オイルショック以降の厳しい時代を乗り越え、リサイクル技術の高度化と産業集積を活かした独自のサプライチェーンを構築してきた歴史は、まさに「危機を好機に変える」サーキュラーエコノミーの本質を体現していると言える。さらに、アルミ産業で培った知見をプラスチックなどの他素材へ横展開しようとする姿勢も、将来を見据えたスケールアップのビジョンを描いている。
今後は、パネルディスカッションの後半で議論されていた、動脈・静脈という従来の枠組みを超えたサプライチェーンの構築をいかに進めていけるかが、取り組みを更に先に進めるポイントとなるだろう。
アルミという一大産業の集積を活かした富山県のように、各地域ならではの産業や強みを起点に市や県レベルで団結し、その中でできた連携を他の分野に広げていく──そんな循環経済の広げ方を描く自治体が他にも現れてくれば、ビジョンにとどまらない、実質的なサーキュラーエコノミーへの転換を着実に進めていけるのではないだろうか。

【参照サイト】サーキュラーエコノミーによる地方創生シンポジウムを開催します(2025年度)
【参照サイト】富山循環経済モデル創成に向けた産学官民共創拠点
写真撮影:林 賢一郎





