世の中に溢れる携帯電話。アフリカで携帯電話の普及が進んでいるというのは有名な話かもしれないが、破棄された携帯電話や先進国から輸出された壊れた電化製品により、電子廃棄物がアフリカに溜まっているのはご存知だろうか?
世界最大の電子ごみ集積場であるガーナの「アグボグブロシー地区」を始めとする廃棄場には、電子廃棄物から金属を得て稼ごうとする人が絶えず、大量のプラスチックが燃やされて有毒ガスが充満している。その有毒ガスは発がん物質が含まれていて、多くの人が死亡しているという事実がある。
今回インタビューしたのは、アムステルダムでスタートアップ「Closing the Loop」を経営するJoost氏だ。Closing the Loopでは、アフリカ諸国で廃棄された携帯電話を廃棄場に送られる前に回収し、メタルを抽出するヨーロッパの製錬所に売るというビジネスモデルを展開している。今回はJoost氏に、アフリカ諸国が処理する電子廃棄物の状況と、今後のアフリカが辿る可能性のある循環型社会について伺った。
※以下の質問と回答は、すべてトークイベント内の一部。
環境に優しく、現地の人が「いま生き残れる」ビジネス
私たちのビジネスモデルはとても単純です。アフリカでは携帯電話が溢れかえっているにもかかわらず電子廃棄物を適切に処理することができません。そこで我々は2012年よりアフリカ諸国のローカルパートナーを通して廃棄された携帯電話を回収し、ヨーロッパに持ち帰ってリサイクルをしています。つまり製錬所に売って金や銀といった資源にします。
最初はそれだけのビジネスモデルにしようと思っていたのですが、このビジネスモデルは大企業を巻き込んで電子廃棄物問題の解決ができるということに気づきました。具体的には、T-Mobile(ドイツに本社を置く通信会社)やサムスンが、持続可能性を主眼に置いたコーポレートミッションのために我々に出資します。さらにKPMG(オランダに拠点を置く総合コンサルティングファーム)やオランダ政府が従業員用携帯を大量に購入する際に、マテリアル・ニュートラル(資源を繰り返し使ったり再利用したりすることで資源を減らさないこと)にするために私たちに出資します。
これらの資金を使い、例えばウガンダで廃棄された携帯電話を回収して、オランダでマテリアル・ニュートラルな携帯として新しく生まれ変わらせるのです。
もちろん、アフリカには違法なリサイクル業者もおり、アフリカ諸国では活発にビジネスをしています。彼らが携帯電話を解体して金属を取り出す際には危険な作業が伴います。あまり知られていませんが、電子廃棄物から出る煙や重金属、化学物質はがんの原因になります。廃棄処理場のある地域を歩いただけで咳き込み始めるほどです。
私たちが携帯を回収するために提携する携帯の修理店やごみ収集業者には、違法なリサイクル業者と同じかそれ以上の額の給料を支払い、さらに安全性を担保するようにしています。現地のパートナーたちもサステナビリティについて十分な教育を受けた人たちで、日々コミュニケーションをとっています。さらに現地パートナーたちも特定の地域でコネクションチャネルを持っている現地エージェントを雇っています。
例えばある地域の携帯修理店や学校、教会で回収された古い携帯を現地エージェントがまとめて回収します。その携帯の数に応じて私たちは彼らに給与を支払うのです。
「持続可能性」という言葉が浸透していないアフリカにとって、大切なことは「いい給料」「容易さ」そして「信用」です。いい給料でなければ現地のパートナーに仕事を続けてもらえません。そして、携帯を投げ捨てるのは簡単ですが、それと同じくらい簡単な仕事でなければなりません。また、外国人である私たちと仕事をし続けるための信頼関係を築く必要があります。そのため私たちは毎月彼らに会い、廃棄された携帯を私たちが安定した価格で買えるように支援しています。
オランダを始め多くの人々は環境問題について意識を向けていますが、アフリカの人々は「環境へのサステナビリティよりも収入が確実に入ってきてほしい」という「いま生き残ること」に重点を置いています。そのため私たちとしては、持続可能性に重点を置いて彼らに研修をするというよりは、安全に、そして環境に優しい形で働いてもらうということを意識しています。
アフリカの「まっさらな」意識との葛藤
携帯電話の普及はアフリカが「21世紀化」するのに重要な役割を果たしました。携帯電話がなければインターネットもなく、効率的なビジネスも難しいです。結果的に、アフリカの人々にとって携帯電話は食べ物よりも重要なものになりました。カードのチャージやパンを買うにも携帯電話を使います。携帯電話がなければすべてのものから切り離されます。
しかし、2億台もの携帯電話が毎年アフリカで売られているのに対し、リサイクルされることはありません。ヨーロッパで売られる携帯電話のほとんどが1年間の保証がついていて、安全性のテストがされますが、多くのアフリカの国々ではそういったサービスがありません。そのため、ウガンダのような国で売られる携帯電話はとても安いですが、非常に質が低いのです。「フェイク・フォーン」と呼ばれる携帯電話で、半年ほどで壊れるような長持ちしないものが出回っています。
私たちがこの会社を設立した理由は、アフリカでリサイクルを実現したいという想いでした。それは私たちの目標でもあります。ルワンダのような国に多国籍企業のリサイクル施設がない理由として、リスクを取れる投資家がいないということがあると思います。アフリカ諸国には政府から何の規制もなく、廃棄物を回収するインフラもありません。リサイクルが必要だということも知らなければ、そんなリサイクル業者というビジネスモデルも知らないですよね。
廃棄をリサイクル施設に供給し続け、稼げるビジネスモデルがなければリサイクル施設は無駄な産物です。リサイクル施設が地元の人によって運営され、消費者がリサイクルの重要性に気づき始めてこそビジネスになります。ですがアフリカ諸国にはそういった意識がまっさらだ、ということを私たちは認識しなければなりませんでした。
もちろんアフリカ諸国には何の予算もありません。出資対象や運営体制が最適化されていませんし、官僚主義や汚職が大きな問題です。よって政府と一緒に地域の何かを解決しようとするのはほぼ不可能に近いです。そのため同じ志を持った国際機関やNGO、企業と協同しないと政府に直接働きかけることはできません。
さらに、アフリカの国々にとって電子廃棄物は解決すべき優先順位の高い課題ではありませんよね。多くのアフリカの国々は紛争に苦しんでいます。食や安全性が整っていないのです。電子廃棄物は解決するべき問題です、とは言わず、電子廃棄物をリサイクルすれば国として利益になりますよ、と伝えることで政府とのコミュニケーションを円滑にしています。
本当はアフリカでリサイクル設備を建設したいと思っています。今ごみ処理フローが欠けています。リサイクル施設があれば少なくともいまの埋め立て処理からアクションをとることが可能になります。そして「ごみの価値」を現地の方に知ってもらって、現地の人に仕事を提供することができます。
アフリカでは「使い捨てる余裕がない」から循環型社会へ
アフリカでは、貧困がゆえに結果的にサステナブルな消費に繋がっているという現状があります。お金がないために携帯電話を使い捨てることはできず、プラスチックもお金になるため使い捨てることはありません。ガーナでは修理技術が発達していて、ヨーロッパよりも遥かに携帯電話が長く使われます。80年代の車が使われているのもよく見る光景です。一方で、私たちは余裕があるため、ひたすら使い捨てます。アフリカの国々では修理をしないことは、すなわち何も持っていないことと同じです。
オランダには大きな焼却施設があり、個人が集めたごみが大量に焼却されています。アフリカにはそういった焼却施設の数は多くないため、ごみを灰にせず資源に変えることができます。焼却施設に投資をするようなサーキュラーエコノミーを遅らせる行為を防げるのです。これは循環型社会を実現するためのリープフロッグ(新興国が先進国の先を行く技術や社会を実現すること)が見込めると思っています。
アフリカが先進国より先に循環型社会を獲得する世界
サーキュラーエコノミーはヨーロッパ中で大変関心を集めています。しかしサーキュラーエコノミーという言葉はやや漠然としているので、人々は大きな目標を掲げるだけでなく、実際の結果を結びつける方法を熱望しています。「2030年、あるいは2050年に世界が美しくあるために私たちは何ができるだろうか?」と。
グリーン調達への関心も高まり、フェアトレードが進んできていますが、電子の話になるととても難しくなります。グリーン調達が可能な携帯電話は大手メーカーでもほとんどありません。今後マテリアル・ニュートラル、廃棄ゼロといったエシカルな携帯電話への需要はかなり膨らむことが予想されます。それが私たちのターゲットです。
最近はFairphoneを始めとするエシカルな携帯電話が普及してきています。彼らはサステナブルな携帯電話という市場に参入していますが、メインストリームであるアップルやサムスンが真にサステナブルな企業としてこの市場に参入するにはかなりの努力が必要です。サステナブルとは複雑なすべてのサプライチェーンを見直し、変えていかなければならないからです。
私たちの事業により、大企業はグローバルなEPR(拡大生産者責任:生産者が商品の使用後までライフサイクルを把握する責任をもつこと)を実現できます。そして私たちはとても小さなスタートアップなので、大企業よりも柔軟性があることが強みです。アフリカでは毎日絶えず変化があるので、それに順応し、今後何が起こるか予想できない難しさがあります。
例えば、アフリカ諸国から電子廃棄物を出荷するのに許可がいりますよね。誰もアフリカから廃棄物を輸送する人はいないので、どのように許可を取る手続きを取ればいいか、誰に許可を取る権限があるのかを自力で把握しなければなりません。さらに、環境保護団体や輸送会社、船舶会社へ電子廃棄物のリサイクルの必要性について啓発しなければなりません。電子廃棄物の回収よりも出荷業務の方が複雑で大変です。これらをクリアするのが大企業だと難しいのです。なのでコラボレーションが大事だと思っています。
今後多くの消費者たちが「好きで、安全で、かっこよくて、そしてサステナブルだから」という理由でモノを買う時代がやってきます。そうなった時に、アップルやサムスンと競合するのだけでなく、彼らがサステナブルであるための提案をしていくつもりです。もしアップルやサムスンと提携すれば、数十億もの消費者に届けることができる。もしFairphoneと連携すれば、サステナブルな携帯電話市場を豊かにできる。その両方が必要なのです。
インタビュー後記
アフリカの先進性に可能性を見出すClosing the Loop。そこには、工業化に進んだ先進国と同じ道を辿ってほしくない、安全な形で循環型社会へ変遷してほしい、という意思が感じ取られる。「何もない」アフリカだからこそ新しい循環型社会へのアプローチがあることを学ぶインタビューだった。
私たちは携帯電話を選ぶ際に「環境に優しい携帯」が選択肢に浮かぶことはあまりないかもしれない。アフリカというと遠い地のように感じるが、私たちがどんな携帯電話を購入するかという意思決定と密接に結びついている。彼らを本当に救うのは危険な労働を犠牲にした収入ではなく、先進国の消費者の姿勢なのだ。
【参照サイト】Closing the Loop
【関連ページ】サーキュラーエコノミー
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。