2024年5月に創業したPHI(ファイ/Φ)株式会社(以下、PHI)は、教育現場が抱える環境教育の課題を解決し得る事業を展開する。事業内容は、持続可能な未来の創り手を育む「環境教育と地域資源循環モデルの構築」だ。
サーキュラーエコノミーが日本全体に広がり根付いていくためには、環境教育プログラムの充実や導入・実践は欠かせない。一方で、すでに数多くの環境教育プログラムが開発・提供されているものの、教育資源の不足や教員の環境教育に対する専門性の課題などもあり、環境教育の浸透度にはまだ地域差がある状況だ。
PHIは地域の特性を加味し、地域資源循環やサーキュラーエコノミーにも寄与する環境教育プログラムの開発やモデルケースづくりに取り組んでいる。
今回は、PHI創業者である繁田知延さんに創業の背景や事業の今後の展開について話を伺った。
地域に利益をもたらす環境学習の構築
繁田さんは新卒で商社に就職し、30歳での結婚を機にユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社(以下、ユニリーバ)へ転職をした。ユニリーバの「サステナビリティを暮らしの『あたりまえ』に」というパーパスにもとづき、サステナビリティをビジネスの中心に据えていることに衝撃を受けたという。2020年11月から、プラスチックの使用量削減や循環利用を目的とした企画、UMILE(ユーマイル)を立ち上げ現在に至る。このUMILEはPHI創業のきっかけになっていると繁田さんは話す。
「UMILEのプロジェクトで教育現場に出向くことが多く、そこで改めて、環境教育の現場にある課題を体感しました。教員の方々は指導要領に沿って授業を行いますが、世の中で実際に起こっている問題や取り組みとはどうしても乖離が出てしまいます。多くの教員が、子ども達にどう教えれば良いのか思い悩んでいました」
現在、各教育機関では環境教育等促進法の基本方針に基づき環境教育が推進され、小・中学校では総合の授業や社会・理科の授業でこれらの学習が実施されている。
しかし、2023年3月に環境省が実施した「令和2年度環境教育等促進法基本方針の実施状況調査(アンケート調査)」で教職員等教育関係者向けに行った質問の中に「あなたが授業や学校活動で環境教育を行う際の課題は何ですか。(複数回答可)」というものがあり、結果「授業時間の確保が難しい」を選択した人が最も多く、次いで「適切な教材やプログラム等の準備ができない」、「カリキュラムマネジメントが難しい」という回答が多かった。
「PHIは『環境学習』と『地域資源循環』を両立させたプログラムを構築していきます。さらに、各地域の特性を学習プログラムにかけ合わせ、地域ごとにカスタマイズした学習コンテンツを作ることで、日本中の子ども達が持続可能な社会の創り手となる未来を目指します」
PHIは、埼玉県産業振興公社サーキュラーエコノミー推進センター埼玉が主催する、令和6年度サーキュラーエコノミー推進事業事業化支援補助金に採択され、2024年7月5日に「環境教育×地域資源循環 『深谷モデル』の構築」をスタートさせた。
このプロジェクトでは、深谷テラスパークから排出される使用済みプラスチックや、深谷市の特産品であるネギの規格外品を有効活用したアップサイクル品が制作され、「深谷市の地域資源循環の形」を分かりやすく表現している。
実際に目に見えるプロダクトの素材に資源循環が施されているのは勿論のこと、その制作過程においても環境への配慮を忘れない。資源を再度リサイクルにまわす際のリサイクラビリティや環境負荷、エネルギー効率についても考慮されており、プロジェクト全体を通しての環境に良いスキームを構築するため実証を行っていく予定だ。
さらに、制作されたアップサイクル品であるネギデザインのエコバッグやトング、軍手など地域性を加味したプロダクトは、環境学習の現場でも活用していく。
「『ネギデザインのトングでゴミ拾いする様子は、遠目から見るとシュールなのでは?』『ちょっとネギくさいエコバッグはむしろ面白いのでは?』などの“キャッチーさ”や“楽しさ”を加味して企画を進めています」
日本が担うサーキュラーエコノミーのグローバルリーダーへの道
地域に根ざした学習コンテンツの構築には、各地域の自治体や企業と協力が必須だ。自治体しか把握していない地域の課題、企業からしか捉えられない地域の特性など本当の意味での地域特性を把握するために、PHIは地域のコミュニティへの参加に励む。
さらに、日本全体にこのプログラムを実装するためには、教育プログラムを提供する人材の確保とプログラムのクオリティの担保が必要不可欠であると繁田さんは話す。
「各地域にいらっしゃる志が高く熱量のある皆さまに、PHIの学習コンテンツを活用してもらいたいと考えています。持続可能な社会の創り手を育む環境教育を地域ごとに実施し、そこにPHIが伴走することで、日本全国に取組の輪を広げていきます」
各地域ごとにカスタマイズされたコンテンツを実施していくのには理由がある。そのひとつは、日本がサーキュラーエコノミーのグローバルリーダーになる未来を目指しているからだ。
「直近の数年では、主に私立学校での環境学習コンテンツの実装を進め、2027年には公立高校での本格実装を目指しています。その後、2028年にはPHIの環境学習コンテンツを「日本の文化」として海外へ輸出をしていきます。日本のモデルケースを世界に実装していくビジョンを描き、バックキャスティングとして今の取り組みを行っています」
繁田さんは、日本が海外に比べてサーキュラーエコノミー、特にサステナビリティの領域が遅れていることを懸念し、環境学習コンテンツのモデルケースづくりを行い、それを海外に輸出しようと考えている。サーキュラーエコノミーのグローバルリーダーを日本が担うためには、まず日本での実績が必要になってくる。
「日本人の特性である、几帳面かつ言われたことをきっちりこなす文化は、もっと海外に発信していけると思います。例えば、日本では詰め替えパウチが普及していますが、海外ではレアな事例です。綺麗に洗って乾かし、回収ボックスに投函するのは日本人ならではです。この素晴らしい文化を土台として、実践的な環境学習プログラムが構築出来れば、日本のみならず海外にも実装していけると考えています」
PHIが目指すのは、教育現場と実社会のギャップを埋め、「持続可能な社会の創り手」を育成することだ。
「美しい」と思ってもらえるような意義のあるサービスを目指して
プログラム構築の根底にあるのは、モノづくりの経験から得た繁田さんの美へのこだわりだと言う。
「美しく、意義のあるものを作る、この考えが自分の根底にあります。今まではそれをアップサイクル品で表現をしていましたが、今は形のない環境学習プログラムと向き合っています。PHIの作るサービス自体を美しい、素晴らしいと思ってもらえるようにアウトプットしていきたいと思ってます」
PHIのロゴは黄金率で作られている。日常の様々なシーンで目にすることができながら意外と知られていないこの黄金率を、環境学習プログラムと地域資源循環で体現をしていきたいと繁田さんは話す。
「ロゴの無限の螺旋は、人間の可能性が無限であることを意味しています。志を共にする人財を紡ぐことで、その無限の可能性は美しく大きな円となり、やがてその円は大きな循環を成す、という想いを込め、ロゴを描きました。学習が描く未来は無限の可能性を持ちます。PHIの作り出すコンテンツは、たくさんの『美しさ』を生み出す後押しになると確信しています」
PHIが目指す「美しい環境学習プログラム」は、地域から日本全体へ、そして海外ヘと広がり、螺旋を描くように未来を紡いでいく。循環の教育が循環の文化と人財を創造し、その文化と人財こそが共生社会やサーキュラーエコノミーの礎となるだろう。
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