蘭ユトレヒト大学とオーストリアの非営利団体Revolve Circularはこのほど、世界初のサーキュラーエコノミーグローバル調査「Imagine Circularity」の結果を公表した。
同調査は、いまだ明確な定義がないサーキュラーエコノミーに対するグローバルな認識傾向を明らかにすることを目的として、2021年4月より実施。なお、Circular Economy HubはRevolve Circularと共同で、同調査の日本語版をリリースしている。本記事では、要点を絞り調査報告書の概要と分析を解説する(報告書全文は原文を参照)。
調査概要
【回答数】1150
【回答期間】2021年4月〜2022年6月1日
【完全回答数】63%
【国別回答数】ブルガリア 116(14.2%)、ギリシャ 80(9.5%)、日本 48(5.7%)、ドイツ 43(5.1%)、コソボ 40(4.8%)、英国 38(4.5%)、オランダ 35(4.2%)、ポーランド 32(3.8%)、イタリア 28(3.3%)、アルバニア 26(3.1%)、その他 352(41.9%)
【回答者の年齢層(上位5位)】30-39歳(27.6%)、21-29歳(24.3%)、40-49歳(22.1%)、50-59歳(13.8%)、18-20歳(3.1%)
【サーキュラーエコノミー認知年数】3-5年 233(27.7%)、1-2年 170(20.2%)、5年以上 165(19.6%)、1年未満 114(13.5%)、10年以上 93(11.0%)
その他の回答者属性については、同レポートを参照いただきたい。
同調査は平均的な回答者像について、高教育水準・ヨーロッパ人・30-50代・キャリアの中盤・サーキュラーエコノミーの知識がある程度豊富だと説明。そのため、世界の平均的な人口構成や属性を反映した結果ではないことを認識し、分析もそれを前提としている。さらに、回答者数は1150と各項目や属性分析にはデータ数が不足しており、同調査が必ずしも一般的な傾向を表すものではない可能性がある。
調査結果の要点と調査報告書による分析
設問1:次の18の循環型行動のうち何を優先しますか。
本設問は、サーキュラーエコノミーにおける最も主要な「R」の重要性を問う設問だ(完全回答数:1003)。18のRは下記の通り。
Imagine Circularity内で活用した18のR。( )内のRとその番号は、10R戦略(Reike et al.)を示す
出典:Imagine Circularity調査報告書
調査結果と両組織による分析
- リデュースやリユースなどの製品価値を高く維持する方法が、低い価値維持手段である焼却やリサイクルよりも重要視される結果となった
- 再考や再設計、再評価には高い点数がつけられた。再配置・リペア・リサイクルなどの技術的なRは中程度の評価、社会正義に寄与する行動である再分配、再ローカライズ、再概念化などは相対的に低い点数となった
- 上記の傾向があるものの、各Rの平均点数は3.5を上回っており、すべての行動が重要であると認識されている
- 本設問への回答は、よく知られている9Rフレームワーク(Reike et al. 2018)の優先順位とは一部異なる結果となった。たとえば、同フレームワークにおいて優先順位として高いRefuse(同フレームワークでは1番目)は6番目に、Reuse(同3番目)は8番目に重要だと捉えられている
- 提示された18のR以外に含むべき行動を自由記述で問う設問には、「再教育、啓蒙、シェアリング、寄付行為、自然との再接続」などの回答があった
設問2:4つのサーキュラーエコノミーの言説のうち、最も魅力的・最も魅力的でない言説を教えてください。
4つのサーキュラーエコノミーの言説は同調査の監修者であるユトレヒト大学Martin Calisto Friant 氏らによるもので、72のサーキュラーエコノミー概念の分析を経て作成された。サーキュラーエコノミーの定義と捉え方が類型化されており、さらなる開かれた議論を生み出すことが目的である。(回答数 932)
Friant 氏らによるサーキュラーエコノミー4類型(出典:調査報告書、Friant et al.(2020)をもとに作成)
同類型は2軸構造となっている。縦軸は、社会・経済・政治的・ガバナンスのアプローチが「包括的」か、技術や経済のみに焦点を当てる「断片的」かに分類する。横軸は、技術革新で環境崩壊を防ぐことに楽観的か懐疑的かを分ける。上図に加えて、下記に各類型の概要を紹介したい。
技術中心的循環型経済(TCE)(第一象限/右上)
サーキュラーエコノミー言説において欧州の政策で現在主流とみられている技術中心的循環型経済は、資本主義とサステナビリティの両立を可能にすることなどに加え、技術革新とグリーン成長に対する楽観的な見方が背景にあり、技術やビジネスモデルに焦点を当てる。
改革的循環型社会(RCS)(第二象限/左上)
資本主義はサステナビリティと両立できるとする考え方が背景にある。社会的な行動変容と技術革新の変化双方への期待感を持ち、社会・経済・環境的な変容を統合的に促すことで、環境的な上限内で公正で持続可能かつ繁栄した未来を形成できると考える。
革新的循環型社会(TCS)(第三象限/左下)
資本主義と技術革新双方を懐疑的に見ているため、より社会・政治システムの変容に重きを置く。地球と地域コミュニティの調和的な利用を促進させ経済を縮小させることで、質素でゆったりした有意義な人生を送れるという考え方に基づく。
要塞的循環型社会(TCS)(第四象限/右下)
資源不足・人口過多・生態系の限界は一貫した強力な政策の必要性を生み出しているとする考え方が基になっている。トップダウン方式で人口抑制や資源管理政策を実施するが、資源を公平に分配せず、社会正義を保証しない。
調査結果と両組織による分析
各累計に対する評価(出典:Imagine Circularity調査報告書)
- 回答者の33.7%は技術中心的循環型経済(TCE)、29.0%が革新的循環型経済(TCS)が最も魅力的であると答えた。41.8%が要塞的循環型経済(FCE)が最も魅力的でないと回答
- 技術革新で環境崩壊を防ぐことに対して51.6%は楽観的に見ており、43.7%は悲観的
- サーキュラーエコノミーを同調査で初めて知った層を除き、サーキュラーエコノミーについて認知している期間が長いほど、改革的循環型社会(RCS)や革新的循環型経済(TCS)などの循環型社会に好意を寄せる傾向にあることがわかった(下グラフ1参照)
- 4類型以外に加えたい考え方を問う自由記述設問には、「教育やコミュニケーション、体系的変更、脱成長、自然の一部としての人類の側面を認識、市民社会・政府・企業の連携、地域コミュニティへ焦点を当てる、サーキュラーエコノミーの脱政治化」などの回答があった
グラフ1:サーキュラーエコノミー認知年数と魅力的な類型の関係(出典:Imagine Circularity調査報告書)
設問3:サーキュラーエコノミー言説における28の社会環境項目のうち、最も適切だと思うものを0から5の目盛りで評価してください。
28の項目は「環境関連」「社会・政治関連」「経済・イノベーション関連」の主な3つのテーマに分類される。以下の通り。(本設問への回答数 881)
環境関連
- 持続可能な水管理
- 気候変動対策
- 生物多様性保全・生態系回復
- 廃棄物管理
- グリーン・再生可能エネルギー
- 持続可能な食
- クリーン生産方法
- 製品サービスのエコデザイン
- 消費の抑制
- 自然との調和ある関係
社会・政治関連
- 教育・啓蒙活動
- 責任あるエシカル消費
- 人の健康と安全
- 社会正義と平等
- 社会的調和・コミュニティ構築
- シェアリングエコノミー・連帯経済
- オープンソース・イノベーション
- 富裕国と貧困国間における資源利用の公平な分配
- 民主的な市民参加
- 文化の多様性と多元論
- 富の分配
経済・イノベーション関連
- 持続可能なビジネスモデル
- 資源安全保障
- 自然からイノベーションの着想を得る
- 経済的繁栄と発展
- 雇用創出
- AIや3Dプリンタ、自動化などのハイテクイノベーション
- 経済競争
表:サーキュラーエコノミー言説における28の項目と地域別スコア。項目のうち緑色は環境、赤色は社会政治、青色は経済的項目を表している(出典:Imagine Circularity調査報告書)
調査結果と両組織による分析
- 水管理や気候変動、生物多様性保全、エコデザインなどの環境保護や汚染防止に関わる項目に最も高い評価が与えられた。その次に、教育や啓蒙、責任あるエシカル消費などの社会政治項目、持続可能なビジネスモデルや経済繁栄・資源安全保障などの経済競争や技術革新に関する項目には相対的に低い評価が与えられた
- 設問2と同様、すべての項目に平均3.5以上の点数がつけられたため、どの項目も重要だと認識されていると見られる
- 28の項目以外に含めるべきものを問う自由記述設問には、「環境教育、コミュニケーション、文化変容、地域コミュニティ基盤強化、国際協調、ジェンダー平等」などの記載があった。
調査結果全体の総括
- 包括的な解決策を望む循環型社会言説(TCSとRCS)が断片的な循環型経済言説(TCEとFCE)よりも高い回答数だったこと、社会正義や平等の観点も入るRに高い支持が得られたことなどから、社会的包摂型で環境的に体系づけられたアプローチが、現在中心となっている技術中心的循環型経済(TCE)よりも好まれていることがわかる
- サーキュラーエコノミーの知識がある人ほど、革新的循環型社会(TCS)を好む傾向にあることがわかった。これはサーキュラーエコノミーの概念を学ぶにつれて、さらに進歩的で包括的な捉え方が醸成されていくのではないだろうかとの仮説を両組織は立てている。技術中心的循環型経済(TCE)を超えて、「サーキュラーリテラシー」を獲得し、その結果、社会環境フットプリントを社会的に公正で平等な方法で削減することを提唱する学術界の声と呼応する。そのためには、サーキュラーエコノミーを民主的に進めていく必要がある。さらに多様な人々がサーキュラーエコノミー政策や行動の確立に参画することで、現在進行している取り組みよりさらに革新的なものとなっていくだろうとしている。
さいごに:筆者の視点
冒頭に述べた通り、同調査は回答数が不足していることと回答者属性が平均的な社会構成を反映したものではないことから、安易に一般化することは乱暴だと言わざるを得ず、分析も限定される。
しかしながら、同報告書によると、サーキュラーエコノミーに対する考え方はさまざまであるということは確かなようだ。RCS・TCS・TCEの3つの言説、FCEへもわずかだが支持があったことから、調査前の仮説通り、サーキュラーエコノミーに対する考え方は三者三様であることがわかる。サーキュラーエコノミー、特に社会的な側面に関連する事柄は、解釈者の価値観に左右されるところが大きいため、当然の結果と言えるかもしれない。
これが、サーキュラーエコノミー移行を阻む一つの課題となっていることは間違いない。しかし同時に、解釈を早急に不自然に統一することは、新たな分断を引き起こしかねず、サーキュラーエコノミーへの移行を遅らせてしまう。
そこで、筆者が提起したいのは、少なくとも右の象限(経済)と左の象限(社会)の認識を区別することだ。循環型経済と循環型社会の認識を分けて考えることで、概して手段としての側面が強い循環型経済と、その目的としての側面が強い循環型社会の行動や政策の明確化、および統一した循環性評価指標の確立などが促せる可能性があるからだ。重層的な認識を持つことが、サーキュラーエコノミーを広く多角的な視点から捉え、解像度を上げる第一歩となるのではないだろうか。
一般に循環型経済視点に立つことが多いと見られる企業人でも、その真の目的に循環型社会を見据えることができるかもしれない。循環型社会視点に立つことが多いと見られる市民社会や政策立案者であれば、手段としての循環型経済を盛り込むことで行動に具体性と厚みが出ることも考えられる。
そのために必要なのは、循環型社会の認識を改めて問うことだ。日本においては、地域循環共生圏などの概念も提唱されているが、これまでの変遷から「循環型社会」という言葉は、3Rや廃棄物管理を想起させることも多い。循環型社会において何を「循環」させるのか、循環型経済と循環型社会の接続点は何かを改めて考えてみることは、ビジネスでも市民社会活動でも行動の指針づくりにつながるのではないだろうか。『循環型社会像の比較分析』(橋本征二ほか著 2006)は、「循環型社会について議論するとき、その『循環』の意味するところやその社会の目的を明確にする必要がある」とも主張している。同報告書でも引用された「サーキュラーリテラシー」は、ドイツIZT(未来研究・技術評価研究所)のZwiers 氏らが提唱しているが、循環の中身とその方法、向かう先を考えることは、サーキュラーリテラシーを高め、サーキュラーエコノミーが資源循環にとどまらない、より体系的な変化を引き起こす存在になるだろう。
同プロジェクトの監修者であるユトレヒト大学のFriant 氏は、循環型社会における「循環」について下記7点を示している。やや「循環」を拡張したと見る向きもあるが、「循環」の中身を考える際のヒントになり、循環型社会に対する認識の再構築につながるかもしれない。
- 生物地球化学的循環
- エコシステム循環
- 資源循環
- カネと富の経済循環
- 権力の政治的循環
- ケアの社会的循環
- 技術・情報・教育の知識循環
最後に、設問3や同プロジェクトの考察が示すように、より多様な層がサーキュラーエコノミー概念の発展に関わるとき、さらに包括的かつ体系的なサーキュラーエコノミーへと進化していく可能性がある。これは、サーキュラーエコノミーの概念を発展させていくことに加え、誰もが関われるような状態にしておくことの重要性も示唆している。同報告書をきっかけに、実践に向けたサーキュラーエコノミー議論の発展とより幅広い分野からの参画が促されることを期待したい。
【プレスリリース】Public wants circular economy to be more than just technical, global survey shows
【参照】The circular economy: New or Refurbished as CE 3.0? — Exploring Controversies in the Conceptualization of the Circular Economy through a Focus on History and Resource Value Retention Options
【参照】A typology of circular economy discourses: Navigating the diverse visions of a contested paradigm
【参照】Circular literacy. A knowledge-based approach to the circular economy
【参照】循環型社会像の比較分析
【関連記事】Circular Economy HubとREVOLVE Circular、世界初のサーキュラーエコノミーグローバル認識調査「Imagine Circularity」日本語版をリリース