東日本大震災の発生から、間もなく14年。当時、広範囲での大津波も相まって発生した大量のがれきや廃棄物の処理を、被災した県だけでなく全国の自治体で広域処理するなど対応に追われた。当時の日本ではまだ、サーキュラーエコノミー以前に3R的な循環型社会を志向する廃棄物管理に重きが置かれていたが、すでに災害廃棄物の8割と津波堆積物のほぼ全量という高い水準で再生利用が行われたことは、あまり知られていないかもしれない。
被災地の災害廃棄物処理事業のうち、宮城県東松島市では徹底した分別の効率化によって処理コストを削減するとともに、仮設住宅で暮らす900人の被災者を雇用して分別作業による収入と気晴らしの機会を提供。これはのちに「東松島方式」と呼ばれ、災害廃棄物の高水準での再生利用と被災者の課題解決との両立を目指した好事例とされた。しかし、大半の地域では災害廃棄物の循環的な処理事業とハード・ソフト両面での地域の復興事業は、お互いに切り離された形で進んでいった。
しかし最近、災害からの復興時にもサーキュラーエコノミーの原則に基づいて、環境への負荷を最小限に抑えながら地域の課題解決とも連動させた形での復興を目指す「Build back circular(ビルド・バック・サーキュラー 循環的な復興)」への注目度が高まってきた。そのきっかけとなった論文「The Build Back Circular Framework: Circular Economy Strategies for Post-Disaster Reconstruction and Recovery(ビルド・バック・サーキュラー・フレームワーク 災害復興におけるサーキュラーエコノミー戦略 )」で示された、循環的な復興を可能にする10の戦略とは何か。2024年元旦の能登半島地震の復興プロセスの中からビルド・バック・サーキュラーを志向したプロジェクトもご紹介しながら、循環的な復興の日本での導入可能性を考察してみたい。
インフラ整備、デジタル化、人材育成、政策への落とし込み… BBCのための10の戦略
本論文は、2023年2月6日に発生したトルコ・シリア地震に焦点を当て、循環経済の原則である資源循環ループの縮小、減速、閉鎖、再生という各段階での活動が、災害後の復興と回復にどのように統合できるかを調査。文献レビューのほか、ワークショップや専門家インタビューなどを通じて、地域のハードとソフトの循環的な再生を目指すビルド・バック・サーキュラー(BBC)のフレームワークを打ち出した。BBCフレームワークは、10の行動戦略を提案している。以下、順に見ていこう。
(1) 災害後の廃棄物のアップサイクル、再利用、リサイクル
リサイクル、再利用、アップサイクルによる災害がれきを、効果的に管理する。そのためには、高度な分別技術(光学、磁気、センサーによる分別)を導入する必要がある。固定式とともに移動式のリサイクル施設を設置するための、政府からの支援も欠かせない。
(2) 循環型設計の原則を導入する
無駄を省き、効率を高めるためのモジュール建築とプレハブ化を推進する。仮設住宅を学校やコミュニティセンターに再利用することもできる。平時から解体可能な設計と柔軟な建築設計を奨励することが重要だ。
(3) 循環型政策の導入
政府による循環型建設政策を策定すること。新規の建設での瓦礫の再利用を支援するための規制緩和も求められる。さらに、企業が循環型技術に投資するためのインセンティブを政策の中で導入することも必要だ。
(4) デジタル技術の活用
全国規模で活用できる、災害後の廃棄物インベントリーを作成する。その上で、GIS、AI、デジタルマーケットプレイスを活用した二次資材の交換を可能にする。調達した二次資材を迅速に活用するためには、3Dプリンティングを積極的に活用することも求められる。
(5) 意識を向上させ、知識を拡大させる
災害復興時に循環経済を促進するための公的なキャンペーンを行う。また、循環型建築の実践に関する建設専門家向けの研修プログラムを策定したり、建築・工学カリキュラムへ循環経済の原則を統合したりするといった、教育・人材育成のアプローチを忘れてはならないだろう。
(6) 循環型ビジネスの機会による市場の活性化
公共建設プロジェクトに循環型の調達政策を適用したり、二次材料市場を設立したりすることは、建設分野での循環経済を推進するカギとなる。また、循環経済の原則に沿った革新的な建設ソリューションを提供するベンチャー企業への支援も必要だ。
(7) 地域コミュニティの参画
アップサイクルワークショップなど、地域主導の循環型イニシアティブを立ち上げ、運営することは、各地域でBBCを推進する上での肝となる。また、災害後の資材を管理、再利用するための協同組合を設立するとともに、広域処理に応じて各組合を統合することも検討できる。さらに、地域のニーズを確実に満たすための都市計画の決定に地域コミュニティが継続的に関与することが重要となる。
(8) 協力・連携の改善
政府、産業界、学界間のセクターを超えたパートナーシップは、災害復興時のBBCを推進していく際にも欠かせない。また、地域の循環経済推進計画に対して、これまで以上に自治体が関わっていく必要がある。さらに、循環経済の原則に基づいた復興に関する専門知識を共有するための国際協力を拡大していくことも望まれる。
(9) CE原則の災害後の都市開発への統合
各業界や領域での循環経済戦略を、長期的な都市計画に統合していく必要がある。計画の土台には、資源の再利用を最大化するクローズドループの地域計画がなくてはならない。こうした計画を実行するための、循環型都市インフラを支援する規制の枠組みを開発する必要がある。
(10) 健康的で地元産のバイオベース材料の使用促進
木材、竹、麻を使った建築を促進するとともに、地元の素材産業に対する政策的な支援が求められる。また、バイオベース、耐震建築技術への投資をさらに拡大することが必要だ。

これらの戦略は、資源効率と回復力を高めるだけでなく、循環経済が持つ社会的価値の創出にも取り組み、包括的な復興を促進させようとしているのは明白だろう。しかし、成功させるためには平時からの政府、自治体、学界、建設セクター、市民社会の各主体が協力し合えるエコシステムを構築しておくことが必要となる。
本論文は、循環経済と災害管理の分野を橋渡しすることで、政策立案者と研究者、実務者が循環経済を災害後の復興や都市開発のプロセスに組み込むための貴重な洞察を提供していると言えるだろう。今回提示されたBBCフレームワークによって、23年のトルコ・シリア地震の被災地の復興のみにとどまらず、国連の仙台防災枠組みをはじめとする世界的な災害リスクの枠組みを支援し、循環経済のレンズを通して危機管理の強化につながることも期待されている。
能登半島で立ち上がる、BBC志向の復興プロセス
折しも本論文が発表される半年前の2024年元旦、能登半島地震が発生した。13年前の東日本大震災の当時よりもはるかに循環経済の概念が普及する中で起きた大地震を受けて、循環経済への移行を進める大成建設が、地元のステークホルダーとともにビルド・バック・サーキュラーBBCに挑み始めている。
同社は現在、金沢大学と地元企業などとともに、地震発生で生じた災害ごみを分別して復興工事で再生材を活用できるスキームの構築を進めようとしている。また、県立輪島高校も交えて、被災した家屋の解体によって出てくる資材をアップサイクルするプロジェクトを行っている。2024年5月には、輪島高校で2年生約80人を対象に「災害ごみの転生ストーリー」を考えるアイデアワークショップを実施。今後は、このプロジェクトに継続的に関わりたい高校生有志らとともに、ワークショップで出てきたアイデアと災害ごみを使って、継続的な復興支援につながる製品開発を進めるという。
同社の先端デザイン部先端デザイン室の井坂匠吾氏は、24年8月の編集部の取材に対して「欧州発のサーキュラーエコノミーは、日本のような国で自然災害によって不定期に発生するゴミに対応していない。こうしたゴミにどのように対応すればいいのか、再利用して欲しくないという心情もあるかもしれない。(中略)一方で、能登地域には、『ヨバレ』といわれる独自のおもてなし文化やお祭りの数々があり、モノだけでなく、こうした無形の文化財も復興しなければならない地域でもある」と指摘。建築物だけでなく、地域の文化も含めた統合的な復興に循環経済を取り入れる「復興学」のような概念を打ち出すべく探求を続けている。

BBCで日本の災害復興政策の不足点を補う
日本の災害復興政策では、再生可能エネルギーの活用や省エネルギーを通じた自律性のある環境負荷の低いまちづくり、あるいは災害廃棄物の循環的な利用について、政策的課題としてすでに認知、実践されてはいる。しかし、循環経済が国の成長戦略にまで位置づけられるようになった今、BCCを現在の日本の災害復興政策では網羅し切れていない部分を満たしながら、結果として循環経済の加速にもつなげるためのツールとして活かしていくという考え方もあって良いのではないだろうか。
例えば、戦略3 「循環型政策の導入」では、平時から新規の建設での瓦礫の再利用を促進しておくことによって、災害瓦礫の用途の拡大につながるだろう。戦略6「循環型ビジネスの機会による市場の活性化」も同様に、平時から公共建設プロジェクトに循環型の調達政策を導入するとともに、二次材料市場を確立しておけば、災害復興時の循環建設を支えるインフラとなるだろう。建築・工学分野を中心に、これらの戦略を担える人材育成も求められる。
自然災害の多い日本では、残念ながらこれからも災害廃棄物が定期的に発生する可能性を想定しておかなければならない。自然災害からの復興をビルド・バック・サーキュラーの原則に沿って統合的に進めていくことで、災害後の新たな形での地域の発展につなげていくことが欠かせない。
【参考資料・記事】
東日本大震災における災害廃棄物処理について(概要)<2014年4月 環境省>
震災ごみリサイクル「東松島方式」のがれき処理成功例に学ぶ(防災ニッポン)
災害ごみアップサイクルプロジェクト@輪島(金沢大学能登里山里海未来創造センター)
災害廃棄物の再生利用事例<2023年3月 環境省>
東日本大震災からの復興に当たっての環境の視点~持続可能な社会の実現に向けて~<国土交通省 2011年9月>
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