オランダ・アムステルダムに本拠を置くサーキュラーエコノミー推進機関のCircle Economyは1月26日、世界経済フォーラムのダボス・アジェンダ・ウィークのなかで、最新の「Circularity Gap Report(サーキュラリティ・ギャップ・レポート)2021」を公表した。同報告書によると、サーキュラー戦略によって、2019年の温室効果ガス排出量の39%にあたる228億トン(CO2換算)を削減し、気候崩壊を防ぐことに大きく寄与する。

同報告書によると、年間で排出される温室効果ガスのうち228億トンがバージン資源からの製品製造によるもので、製造工程にサーキュラーエコノミーの戦略を用いることで、世界経済が採掘・消費している化石燃料・金属・バイオマスの量を飛躍的に削減できるとされる。

さらに、環境負荷削減のために大きな鍵を握るのは全排出量の約7割を占める建築モビリティ食糧の分野での変革だと指摘。新型コロナのパンデミックからの経済復興を促し、SDGsの目標達成のために各国が取るべき戦略を国の発展度別に紹介した。

アメリカは2050年、中国は2060年までに温室効果ガス排出実質ゼロを達成するという目標を発表。一方で、これらは国家としての正式な公約ではなく、気温上昇を2℃以内、できれば1.5℃以内に抑えるとするパリ協定を達成するためには不十分であるとの指摘もある。

年間の温室効果ガス排出量は、2019年にCO2換算で過去最高の591億トンとなった。国連環境計画のEmissions Gap Report 2020によると、気温上昇を2℃以内に抑えるには2030年までにこれを150億トン削減する必要があり、また、より安全な1.5℃以内に抑えるためには320億トンを削減する必要がある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気温の上昇を1.5℃〜2℃に抑えられなければ異常気象によって壊滅的な社会的・環境的・経済的被害がもたらされると指摘している。

同報告書は、気温上昇を2℃以内に抑えるために、2019年の水準の39%にあたる228億トンを削減するためのサーキュラーエコノミーの戦略を示している。

資源消費量(Mass)と温室効果ガス排出量(Carbon)の推移を、1900年から2019年までの実数値と2050年までの予測値(4シナリオ)で示した表 (出典:Circularity Gap Report 2021 P38)

排出量のうち実に70%が、衣服・スマートフォン・食事などの社会が求める製品を提供するための採掘・加工・製造から発生している。世界は年間1000億トンに上る資源を消費しているものの、このうち再利用されるのは8.6%にとどまっている

Circle Economyの提示するサーキュラーエコノミーの戦略は、製品やサービスを提供するための資源消費量自体を削減し、資源をより長期間利用可能にし、化石燃料などの枯渇性資源を再生可能エネルギーなどの再生型資源に代替することで、資源消費量を年間790億トンまで削減する。また、この戦略によって、資源の再利用率は8.6%から17%へと、現在の2倍にまで上昇する。

Circle EconomyのCEO、マーティン・ロペス・カルドソ氏は次のように述べている。

「各国政府は将来の気候を守るための大きな決断をしています。新型コロナウイルスのパンデミックから経済を復興するために多額の投資をし、2021年末の英グラスゴーで行われるCOP26に向けて環境へのコミットメントを強化しています。サーキュラーエコノミーは資源効率の高い、低炭素で、インクルーシブな社会経済実現のカギとなるでしょう」

温室効果ガス排出量の7割は建築・モビリティ・食糧が原因

同報告書によると、世界の排出量のうち約7割が建築・モビリティ・食糧によって引き起こされており、よってこの3分野にサーキュラーエコノミーの戦略を適応することが重要となる。

建築

家庭・工業用・産業用の建物も含めた建築は、年間135億トンもの温室効果ガス排出を引き起こしている。建築は膨大な量のバージン資源、特に環境負荷の高いセメントや鉄鋼などの資源を消費し、暖房・冷房の使用により温室効果ガスを排出し、さらには多くの廃棄を生み出す。

サーキュラー戦略を適応することで、95億トンの建築・解体廃棄物は埋め立てを免れて再利用され、バージン資源への需要を減らすことができる。建築に使うセメントや鉄鋼などを軽量で再生型資源に代替し、冷暖房を再生可能エネルギーを用いたものに変えることで、118億トンの温室効果ガス排出量を削減し、136億トンの資源消費量を削減することができる。

モビリティ

モビリティは、人や貨物の運搬のために多量の化石燃料を燃やしており、年間171億トンの温室効果ガス排出を引き起こす。サーキュラーエコノミーの設計を用いることで、車両を軽量化し燃料消費を軽減したり、カーシェアリングなどの戦略によって利用を効率化することが可能になり、56億トンの排出量を削減し、53億トンの資源消費量を削減することができる。

食糧

食糧部門では、年間100億トンの温室効果ガスを排出しており、うち40億トンは土地利用によって引き起こされている。世界人口が急増するなか、より多くの人口が欧米的食習慣に移行し、これによって農作物や家畜を育てるためにより広い土地が必要となっている。特に家畜用飼料を育てるために引き起こされる森林破壊は深刻である。再生型農業・養殖は、生産高を確保しながら環境負荷の低減を実現する。肉食を減らし、植物由来の食習慣に移行することで、仕組み全体としての温室効果ガス排出量を削減することが可能になる。サーキュラーエコノミーの戦略を適応することで、43億トンの温室効果ガス排出量、45億トンの資源消費量を削減することができる。

国の発展度別サーキュラーエコノミー移行への戦略

サーキュラリティ・ギャップの解消に向けて世界の国々を経済・社会・環境の3つの視点から、国の発展度別に「BUILD(建設期)」「GROW(成長期)」「SHIFT(転換期)」の3つのカテゴリに分類し、それぞれが取るべきサーキュラーエコノミー戦略についてまとめている。

BUILD(建設期)

(Image via Circle Economy)

「BUILD」は、人間らしく暮らす最低限のニーズを満たすことが難しい低収入の国々を指し、インドやアフリカ諸国などが該当する。第一次産業が経済の中心を担っており、基礎的なインフラ整備が行き届いていない地域も多い。世界資源の19%を消費しており、世界の温室効果ガス排出量のうち17%を排出する。

これらの国々の優先すべき施策は次の通りだ。

  • 単一栽培や伐採を避けるための農業改革を行う
  • 木材や粘土、赤土などの天然で軽い建材を用いるなど、建築分野でサーキュラーエコノミーの原則を適用する
  • 都市内で自動車による移動の必要性を減らす。徒歩圏内で完結するまちづくりを目指し、電動スクーターや公共交通機関を導入する
  • ウェイスト・ピッカーと呼ばれるごみを集めて売ることで生計を立てる人々の仕事を正式なものとし、訓練をする。リサイクル施設を整備する

GROW(成長期)

(Image via Circle Economy)

「GROW」は、近年急速に工業化・発展が進む国々を指し、中国やブラジルなどが該当する。世界人口の36%が暮らす。多くの人口が貧困から抜け出し、拡大する中間所得層の暮らしを支えるためのインフラ整備が進む。世界の製造ハブであり、最大の農業生産国である。世界の資源消費量のうち51%がこの「GROW」の国々で発生し、47%の温室効果ガス排出量が引き起こされる。

これらの国々の優先すべき施策は次の通りだ。

  • 特に輸出品に関して、持続可能な農業へ切り替える
  • 資源効率の良い、低炭素の建材を主流にする
  • 拡大するエネルギー需要に対して再生可能エネルギーで応える
  • 廃棄物資源、特に建築廃棄物に関して回収・分別・加工のインフラ整備

SHIFT(転換期)

(Image via Circle Economy)

SHIFTは、アメリカや日本、ヨーロッパ諸国などの高所得国を指す。これらの国々では世界人口の16%が暮らし、世界の資源消費量のうち31%、温室効果ガス排出量の43%が引き起こされる。住居・移動手段・インフラなどが整い、暮らす人のニーズは満たされている。

これらの国々の優先すべき施策は次の通りだ。

  • 動物性食品の消費を抑え、食品廃棄を減らす
  • 建物やインフラが長く活用されるよう改装や建材の再活用を促し、再利用を前提とした新たな建築素材を設計する
  • 車両が長く活用されるよう、シェアリングモデルへの移行を促し、特にデジタルテクノロジーなどを活用することで移動自体を減らす
  • 二次資源が再利用される際の価値を最大化する

資源枯渇と気候危機という複雑に絡み合う喫緊の課題への解決策として各国が目指す温室効果ガス排出実質ゼロだが、これらはサーキュラーエコノミーへの移行なくしては達成できない。特に、国境のない新型コロナウイルス危機という未曾有の事態から、より高いレジリエンスを持った社会経済へと復興を果たすためにも、各国がサーキュラーエコノミー移行のために協調し、迅速に取り組むことが求められる。

【参照レポート】The Circularity Gap Report 2021 (Circle Economy)
【関連記事】世界のサーキュラリティは「8.6%」、2年前より後退。Circle Economyレポート(2020年)