世界循環経済フォーラム2024(2024年4月15日から18日まで、ベルギー・ブリュッセルで開催)での議論をもとに考察を加える連載の第2回のテーマは、需要側の巻き込み・アプローチのあり方だ。サーキュラーエコノミーを移行するにあたって、消費者・利用者を含む需要側にどうアプローチしていけばよいのか。

前提としたいのが、リニアエコノミーで通用していた環境(サステナブル)マーケティングのあり方でサーキュラーエコノミーにおけるマーケティングを考えようとすると、限界にぶつかるということである。製品やサービス、ビジネスモデルを循環型にすると同時に、マーケティングも循環型にすることが求められる。

「環境」と「マーケティング」という用語をかけ合わせて生まれてくるものの一つに、「消費者への『啓蒙』『教育』」が挙げられる。市場を形成する礎となる消費者の思考がサステナブル・サーキュラーになるように啓蒙することは極めて重要である。同時に、環境配慮型製品の選択やエコバックの持参など、啓蒙や教育は私たちの行動変容に一定の寄与をしているのは間違いない。

しかし、ここで立ち止まって環境教育と消費者教育について考えてみたい。環境教育は、1948年の国際自然保護連合設立総会でその用語が用いられ、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』を経て、20世紀終盤から盛んになってきた。日本が提唱するESD(持続可能な開発のための教育)は自然を大切にするという態度を育み、環境に対する価値観を形成するものとして、現代では必要不可欠なものとなっている。幼少期からの環境教育が効果を発揮しやすいというのは、複数の研究からも明らかになっているところだ。

消費者教育も1970年代以来盛んになった。環境配慮型消費やエシカル消費など、環境教育と重なる部分も大きくなり、我々の購買行動の基準をアップデートしてきた。

にもかかわらず、地球の限界(プラネタリーバウンダリー)における9領域のうち6領域で限界を超えているように、大量消費に起因する多くの環境課題は依然深刻なままだ。もちろん、消費者教育における課題だけにその理由を求めることはできない。生産や政策のあり方や技術なども含め様々な要因が絡んでのことだ。それでも、大量消費と密接に関連する消費行動を循環型にするためのアプローチをアップデートし続ける必要がある。

消費者への啓蒙は、我々の環境リテラシーを高めて行動を変容させるのに一定の成果を上げる。一方で、方法によっては「押し付け」や「やらされ」、「『あちらの』意識の高い人がやること」という分断を生み出すことにもつながってしまうという課題もある。結果、アプローチする層を狭めることにもつながり、供給側にとっては「市場がないから製品をつくれない」問題に直面することになる。

供給側にとっては市場がないから製品がつくれない、需要側にとっては製品がないから購入する選択肢がない。どちら側から始めればいいのだろうか。この「鶏が先か、卵が先か」問題に起因する行動の硬直性が、サステナビリティ進展に向けた障壁となっている。

いずれにしても、消費者への啓蒙や教育だけでは限界に来ている。究極的には、世の中にはサーキュラーな製品しかなく、我々が意識せずとも循環型の製品を手に取ることが実現すれば、サステナブルまたはサーキュラーマーケティングという用語は消滅する。しかし、これはあくまで到達点の話であり、我々はこの問題を解決するために移行期を適切にデザインする必要がある。

前置きが長くなってしまったが、リニアエコノミーにおける環境マーケティングの思考様式から脱却し、サーキュラーエコノミーという新たなシステムのもとで需要側へのアプローチ方法を模索する必要がある。そのヒントが世界循環経済フォーラムのセッションで得られた。

1. 「人々の消費をより持続可能にするための動機づけは何か。政府とビジネスの役割」3万名対象の調査が示すこと

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