Fashion for Good、The Mills Fabrica、R.I.S.E.Sustainable Fashion Innovation Platform、Circular Economy Hubによるアジアのファッション産業におけるイノベーション発掘プログラム「Innovation Challenge」にこのほど、持続可能な染色システムを提供するバイオテックスタートアップ、BloomGEM(中国)が受賞した。BloomGEMは、植物由来の染色技術を有し、現在は微生物を使用した染色技術を開発するスタートアップだ。受賞に際し、同社共同CEOのShilei Chen氏に同社の取り組みや今後の展開について話を伺った。

ファッション産業において、世界で年間1万トン以上が利用されている合成染料。前処理・染色・整理仕上げなどにおける環境負荷は高い。Apparel Impact Instituteの研究によると、主に4段階(Tier)あるアパレル製造工程のうち下図Tier2(材料製造)の大部分は前処理・染色・整理仕上げ工程だが、Tier2は4つのTierのうち53%の温室効果ガス(GHG)排出量を占める(下図参照。算出の方法論についてはレポート原文を参照)。GHG排出だけでなく、水使用や廃水処理のインフラが整っていない地域における生態系への影響も見逃せない。

図:Apparel Impact Institute “Taking Stock of Progress Against the Roadmap to Net Zero“より

課題解決に向けて、植物・微生物・藻類・リサイクル材からの染料抽出などの動きがある。商用化への取り組みは進められているものの、現在も大量生産・安価調達が可能な合成染料が主流だ。

そんななか、BloomGEMは、社会のニーズを最大限配慮しながら、持続可能な染料の「システム」構築という「面」を意識して商用化を目指して突き進む。Innovation Challengeにおいては、イノベーションや商用化への道筋などの観点で同社が評価された。

同賞選考過程では、総数24名の応募から12名が書類選考され、Fashion for Goodによる第一次選考で4名に絞られた。その後、各社のピッチを含む主催4団体による最終選考会にてBloomGEMの受賞が決定。最終選考の評価軸は、イノベーション・スケール性・技術の先進性の3つだ。審査員は選考理由として、持続可能な方法で短期間で30色を生成できることや、商用化時の価格は不明であるが特にパートナーシップの明確な戦略が描けていることなどを挙げた。

BloomGEM 共同創業者 Shilei Chen氏プロフィール

ゲティスバーグ大学経済学部の優等卒業生
2017年:Ting Ye氏とElsewhereを共同創業。マーケティングディレクターに就任
2019年:Ting Ye氏とBloomGEMを共同創業
2020年:Youth Environmental Innovation Programにおける世界のトップ3にランクイン
2022年:GenTatlerのサステナビリティ部門の受賞者の一人に選定

BloomGEMの技術:「第一世代」と「第二世代」

BloomGEMは、ファッション産業の染色におけるエンドツーエンドのソリューションを提供している。「ここでのエンドツーエンドとは、一つの材料をつくることではなく、これまで環境に負荷をかけていた化学物質をバイオ由来製品に一つひとつ置き換え、グリーンインフラを構築していくという意味です」と強調するChen氏。多様な需要に応えうる「面」としてのインフラ構築にこだわるということだ。同社は染色工程の大部分を持続可能にしていくために、この点をもっとも重視する。

同社の技術は大きく分けて2つ。「第一世代」と「第二世代」だ。

第一世代はザクロの皮やクルミの殻など植物残さを活用した染色方法。原料の約50%が植物残さである。これらの残さは農家から直接、あるいは市場から調達される。中国が歴史的・伝統的に発展させてきた染色技術からインスピレーションを得たという。場合によっては、漢方薬の生成過程で発生した植物残さを活用することもある。

第二世代は、微生物を使用した染色技術だ。Chen氏は、「化学染料に置き換えられること、将来的に商用化が見込めることやコストメリットが見込まれる点でも、現在はこちらに力を入れています」と話す。従来の化学染料よりもGHG排出量を抑えられるという。第一世代はブランド側の環境配慮型染料に対する当面の要求に応えうるものとして展開しているが、微生物を構築する技術が成熟すれば、商用化へかじを切る構えだ。「ブランドにおけるサステナビリティに貢献する材料使用の直近の需要を満たすために第一世代を提供していますが、今後第二世代の技術が発展してくればそちらをローンチする予定です」

第二世代である同社の微生物を使用した染色には下記の二通りある。

1. 自然界の土壌から微生物を取得し発酵する方法

同社の科学チームが、火山や海、砂漠、熱帯林から土・水など、採掘した土壌から微生物を選別して抽出・量産・発酵させる。これらの微生物から得た色は元来堅牢度が高い。「どのような土であれば必要な微生物がいるかリサーチのうえ、意図を持って場所を選定しています」

2. 望む色を出す微生物を構築し、染色を得る方法

遺伝子を組み換え望む色を出す微生物を構築する。約30色のうち、黒色以外は安定的な色をつくれる。現在は、商用化に耐えうるかどうかを試験するプロセスを繰り返している。同社が発表した下図のように、染料定着率は化学染料と同程度にもかかわらず環境負荷を下げられるとして、今後はこちらに力を入れる。

資料提供:BloomGEM

システムを作ることで環境負荷低減と労働者の健康被害防止に同時貢献

冒頭で述べたように、染色の持続可能性を追求することは技術的・価格面において難易度が高い。にもかかわらず、BloomGEMはなぜこの問題に取り組むのか。Chen氏はその理由をこう話す。

「長年、ファッション産業における大規模な汚染を見てきました。従業員の健康被害は特にそうです。染色は最も汚染度が高い工程で知られており、解決に向けた取り組み自体は始まっているのですが、大規模化にはつながっていません。商用化につなげ、健康被害を含む業界における環境汚染の課題を解決したいと考えました。

染色プロセスは前処理から後処理まで長く、これらを変革することは難易度が高く大きなチャレンジです。一つの素材に持続可能な染色を適用させることはできますが、ファッション産業を変えていくには至りません。一つひとつの化学物質を置き換えるシステムとして変えていく必要があるのです。従来から存在する持続可能な染色技術は素晴らしいのですが、一般的に堅牢度や明るさの点において、必ずしも多くのブランドのニーズに応えていないのが実情です。そのため我々は単一の色をつくるのではなく、持続可能な形で多様な色を生み出すシステムを作ろうとしているのです」

写真提供:BloomGEM

BloomGEMの目標は、一つの持続可能な染料を開発するのではなく、あくまでも化学染料を一つひとつ低炭素型で持続可能な染料へと置き換えること、そのシステムを構築することだということが改めて強調された。

安全性と環境負荷の評価

人工的に構築した微生物に対する生態系への影響はこの分野に限らず以前からある懸念だが、同氏は「微生物は各敷地外に流出させることはありません。そもそも、これらの微生物は秘匿されています。そして、生態系への影響については、微生物生成時に無害であることを確認することが優先事項なのです」と話す。

環境負荷の評価については、「現状はZDHC MRSLを自社基準として採用しており、LCAを含む第三者評価を今後実施」するという。

コスト低減と商用化に向けた道筋は

新技術のコスト低減と商用化に向けた課題は、染料に関わらずどの業界でも課題となる。最終選考会でもこの質問が投げかけられた。

植物残さを活用した染色の価格については「すでに安定している」としながらも、どの植物残さを活用するかによって変動する。化学染料と比べて低い価格設定できることもあればそうでない場合もあるという。「量が確保できる植物残さであれば当然価格を抑えられますし、希少な色を出す貴重な植物残さであれば価格は高くなります。後者については、販売価格帯の高いハイブランドは許容できるのではないかと感じています」

微生物染色については、「現状では化学染料と比べて高いのですが、先にも申し上げたとおりこちらは商用化を目指しているので、量産化により価格は下がると見込んでいます」

コストが下がることが見込めるとしたら、同社の技術に多くのブランドが高い関心を示していると思えるが、どんなブランドと組んでいきたいのだろうか。

「前身の会社を含めた我々のクライアントは主にラグジュアリーブランドです。彼らは当然ながら高品質な素材を求めるため、必然的に染色においても高いパフォーマンスが必要です」

同技術を開発する前に取引していた顧客は、バーバリー、セリーヌ、カルバン・クラインなどのハイブランドだ。加えて、ZARAやGAPなどの価格帯の低いブランドもリストに入っており、商用化時にマーケティングする際に重要な顧客基盤となるだろう。現在はいくつかのブランドとインキュベーションプログラムを展開し、商品化への道筋を探っている段階だ。

もちろん、今後協働したいブランドは上記に限らない。「ラグジュアリーブランドは相性がよいのですが、特にそれに限定していません。明確なサステナビリティ戦略を持ち、環境を汚染する現状のシステムを変えなければならないと強く認識しているブランドと共に未来を作っていきたいと考えています。日本はファッション領域における最先端の国、ローカルで活動していても技術やクラフトマンシップを尊重する風土があると認識していますので、日本のブランドとも協業できれば弊社にとって光栄なことです」

写真提供:BloomGEM

将来の構想:「タグ」を通じて持続可能な染料の認知を

将来的には、BloomGEMの「タグ」が最終製品に付与されるようにしたいという。すなわち、製品に同社のタグがついていれば、「環境・健康面で安心できる。安心して子どもが使用できる」などのイメージを定着させていきたいということだ。エンドユーザーの染色に対する認知が確立されれば、ファッションの持続可能性における最後のパズルのピースがはまる可能性がある。

編集後記

染料染色工程や仕上げ工程由来の排水は、全産業用水の2割を占めているとされる。国内においては産業排水基準により染色工場で処理され、汚水処理システムも整備されているが、新興国や発展途上国においてはその限りでない。

昨今染色技術における環境負荷を抑える動きが活発になってきている。たとえば、インクジェットプリントによる水使用を抑える染色方法、国内大手化学メーカーによる取り組みや伝統的染色技法の見直し、海外ではDyeCooやColorZen, DyeRecycleなどのイノベーターが登場している。今後は、用途別や循環の大小に応じて環境負荷を下げる染色技術が多様化されていくだろう。いずれにしても、生態系やその他自然資本に影響を与えないこと、あるいは再生していく方向で染色の持続可能性を高めていくことは、サーキュラーエコノミーにおける有効な戦略になりうる。加えて、生産コストを抑え商用化のハードルを乗り越えることが求められるが、Innovation Challengeを受賞したBloomGEMがどのように技術を展開していくか、今後に注目したい。

【参考】

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