あらゆるものがサービス化されるXaaS(X as a Service)の発展が目覚ましい。Circular Economy Hubでは、XaaSのなかでもPaaS(Product as a Service/製品のサービス化)、さらにその先に循環性向上を見据える循環型PaaSの真価を問う特集をお届けしている。

第3回となる今回は、家具・家電のサブスクリプションサービスCLAS(クラス)を展開する株式会社クラスを循環型PaaSの視点で取材した。同社はサーキュラーエコノミーと親和性のあるサブスクリプションモデルを活用し、循環型設計が施されたPB(プライベートブランド)製品の開発、メーカーと利益を分け合うレベニューシェアの拡大、他の製品群への展開を検討するなど、単なるサブスクに留まらないプラットフォームとして顧客やメーカーに価値を提供する。今回編集部では、同社EC運営チームジェネラルマネージャー早川 泰さんにお話を伺った。

株式会社クラス EC運営チームジェネラルマネージャー 早川 泰さん(写真提供:株式会社クラス)

CLASのサービスとは?

「『暮らす』を自由に、軽やかに」というビジョンを掲げる株式会社クラス。自分らしく自由に生きる人々の伴走者になるべく2018年より家具・家電のサブスクリプションサービス「CLAS」を展開する。2021年12月時点の総会員数は約16万人。オフィス環境や働き方の変化や、昨今ではテレワークの普及や在宅時間の増加により、毎年3倍を超える成長を遂げる。2021年9月には、株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ、株式会社モノフルのグループ会社などを引受先とする第三者割当増資により、総額21億円の資金を調達。採用と組織体制、サービス点数やエリアの拡充を通じて、「サブスクリプションのマーケットプレイス」としてのポジションをねらう急成長企業だ。

CLASで扱う商品例(写真提供:株式会社クラス)

CLASの3つの事業形態

同社は、家具や家電をサブスクリプションモデルで顧客に提供する。そのサブスクモデルには、大きく分けて以下の3つの形態がある。

1. NB(ナショナルブランド)製品を仕入れてサブスクへ

メーカーが作った既存製品を仕入れて、同社の資産に。そのうえでサブスクモデルにのせるモデル

2. 自社で開発・製造するPB(プライベートブランド)製品をサブスクへ

蓄積した製品メンテナンス情報を活用し、PB製品を自社開発。その製品をCLASでサブスクにて提供する

3. レベニューシェア

メーカーが製品所有権を持ったまま、CLASに流通させる。その売上をメーカーとシェアするモデル。

今後は、上記3つの形態のうち、「2」「3」の比率を増やしていきたいとしている。

蓄積した情報をもとに循環型PB製品を開発

いま同社がもっとも力を入れるのは、上記2のPB製品だ。NB製品のサブスクモデルで得た情報がPB製品の循環型設計に活かされる。早川さんはこう強調する。

「より長く循環させようとすると、製品の企画段階から循環型の発想を取り入れなければなりません。」それができる製品形態が自社開発可能なPB製品だという。では、どのように循環型にするのか。3つのポイントを伺った。

1. パーツ単位で管理し共通化する

まず1つ目は、パーツ単位での在庫管理とパーツの共通化。部分的な破損や劣化に対して、その部分だけ交換することで、製品を長く使えるようにすることが目的だ。たとえば、ソファはクッション部のみの交換が可能。これには、ソファの脚は劣化が遅い一方で、クッション部は傷んだりへたんだりしやすいという理由が背景にある。クッションが劣化したからといって商品丸ごと交換するのは、傷んでいない脚なども廃棄することにつながり、本来意図しない環境負荷を発生させてしまう。パーツ単位の在庫管理はこの問題にアプローチする。

「劣化・破損時に、その部分だけ交換できるように、なるべく部品を同じにします。そうすることで修理側が迷わない設計にできます。これは、PB製品を作る時の上位概念に『循環』があるからです」と早川さんは語る。

2. 修理しやすい設計

2つ目は、修理しやすいように製品をあらかじめ設計することだ。たとえば、ダイニングテーブルの木製天板が傷んだ際、元の天板が濃い色だと新たに塗装するのは難しい。しかし、ナチュラル色であれば黒などの濃い色で塗装し、再度次の利用サイクルへ回すことができ、製品の長寿命化に貢献する。ほかにも、補修しやすいように無垢材を採用するなど、随所に工夫を凝らす。

修理前(左写真)と修理後(右写真)(写真提供:株式会社クラス)

3. 情報を蓄積させるために必要なリペアスタッフ

PB製品を作るうえで重要になるのが、製品やメンテナンスに関する情報。では、情報を蓄積させるためにもっとも重要な要素は何か。早川さんによると、それは商品を修理するリペアスタッフだという。

「弊社代表も申し上げているのですが、『リペアスタッフが肝』なのです。リペアスタッフこそがCLASの世界を実現していると考えています」と力を込める。

リペアスタッフには、製品の修理方法に加え、どういう製品設計であれば修理しやすいか・あるいは修理の必要性が減るかなどのノウハウが蓄積される。情報が蓄積される重要な場所だからこそ、リペアスタッフは外部へ委託するのではなく、社員として採用する。

「リペアスタッフが活躍していることこそ、弊社の姿なのです。古い商品を見ていると、パーツ数が多いことなど、クリーニングしにくいという声も彼らからもらいます」

情報が溜まることに加え、還流させることで循環性の高い製品開発につながるのだろう。2021年12月時点で累計リペア数は約1,500点。今後もさらにリペア数を積み重ね、情報を蓄積していくという。

修理過程(写真提供:株式会社クラス)

ライフサイクル全体でのアプローチ

PaaSを循環型にする際に意識したいライフサイクル思考。製品の移動が頻繁に起こるサービスだと物流や梱包で環境負荷が生じる。さらに、在庫管理が効率化されていないと、使われない製品を大量に購入してしまうことにもなりかねない。同社におけるライフサイクル全体のアプローチはどのようなものか。「配送」「梱包資材」「在庫の適正化」「洗浄」「顧客への利用方法伝達」における取り組みを見ていこう。

配送

家電や家具といった大型品を提供するため、利用者間の移動は頻繁には発生しない。平均利用年数は約2年間。一度借りると長く借り続ける顧客が多いという。この商品特性は配送における環境負荷増大の心配を和らげるかもしれない。理想はEVや貨物列車輸送などを利用することだが、日本においてこれを実現するのは現時点では難しい。そのため、既存の物流ルートの活用が鍵だと同社は認識している。

「従来の製品だと二人で運ばなければならなかったり、チャーター便を借りなければならなかったりと、(サブスクによって)物流におけるCO2排出が増えてしまいます。これらを抑えるために、すでに動いている路線便(常に稼働している配送ルート)に乗せられるように設計することを目指しています」

梱包資材

梱包資材の利用による環境負荷を抑えるため、同社では梱包資材の材料変更を検討しているという。いま導入を検討しているのは、より多くの紙資材・再利用可能な布、再生プラ製の通い箱や廃棄段ボールなどだ。

さらに、材料変更のみにとどまらず、梱包資材を送らないで済むシステムも整えていくという。「配送だけではなく回収においても梱包資材は必要となりますが、お客様に事前に梱包資材を送らないで済む方法はないのかという観点でも検討を進めています」

在庫の適正化

サブスクの成否を左右する要因として一般的に挙げられる在庫の適正化。サーキュラーエコノミーを進めていくうえでも、製品あたりの利用率や利用回数を高めるという意味で重要な点となる。

まず、上記で述べたようにパーツ単位で在庫を管理。顧客が利用しているのか、倉庫にあるのか、返送される予定なのかといった細かなステータス管理を行う。結果、7万点の在庫パーツのうち9割を稼働させているという。今後はさらなるデータ蓄積により、より効率的な在庫管理に取り組む方針だ。

洗浄

洗浄による負荷を抑えられるようにPB製品を設計。「汚れが落としやすい・つきにくい製品を設計しています。返却されたソファを丸ごとクリーニングすると(環境・経済)コストがかかるため、PB製品のソファのカバーはすべて交換できる仕様にしています」

PB家具「CIRCLE」シリーズ(写真提供:株式会社クラス)

顧客への利用方法伝達

長く使うために大切な、利用における丁寧な扱い。借り物の商品がぞんざいに扱われることはないのだろうか。早川さんは、このように分析する。

「弊社の調査によると、お客様は『借りる』という行為自体に価値を感じているようです。エシカル消費に賛同している方も多いので、無茶な使い方はされません。私たちの予想以上に返却品は丁寧に扱われています。借りているからこそ丁寧に扱う、という側面もあるのではないでしょうか」

CLASが提供する価値

PB家具「CIRCLE」シリーズ(写真提供:株式会社クラス)

さまざまな循環性向上を意図した取り組みを実施する同社だが、CLASがステークホルダーに提供する価値とは何なのか。また、消費者・メーカー・ブランドは、CLASの価値をどう認識しているのだろうか。

消費者

月額払いによって支払い見通しを立てられることや初期投資の抑制などは、サブスクの価値として知られる。同社も2021年12月21日、最低利用期間(これまで3ヶ月)と返却手数料を撤廃することを発表するなど、より使いやすいサービスとして磨きをかける。

早川さんは、上記価格メリットに次の点を付け加える。

「弊社は、『着替えるように家具が選べる』状態を目指しています。一人暮らしの開始や結婚など、ライフイベント時に弊社が対応できることで、暮らしの質そのものを上げることをメリットに感じている方も多いのです」

もう一つ、商品を簡単に交換できるというメリットもあるようだ。

「L字デスクをレンタルしたお客様が実際に使ってみたところ、『やっぱり電動昇降型がいい』と、交換をした事例もあります。購入だと一度買ってしまうとずっと使い続けなければならないのですが、サブスクだとニーズに合致しなければ交換できるのがメリットなのです。交換して初めてCLASの価値を感じる。『交換出来るんだ』とお客様に感じてもらえる。そこに価値を見出してくださる方も多いようです」

商品を所有する方が結果的に安くつくという場合も多いが、所有しない暮らしへの共感の広がりは、平均利用年数2年という実績からもわかる。単純な価格面でのアプローチだけではなく、モノを持たない新たな文化醸成を促進する役割も果たしているといえるかもしれない。

投資家

投資家は何を期待しているのだろうか。同社は2021年9月、株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ、株式会社モノフルのグループ会社などを引受先とする第三者割当増資を実施し、総額約21億円の大型資金を調達。これにより、同社の累計資金調達総額は約28億円となった。

同社のようなストック型ビジネスモデルは売り切り型モデルと比べて、投資家による投資判断基準が変わってくるのではないだろうか。早川さんはこう説明する。

「投資家の皆様は、目先のことよりも将来性を見てくださっています。30年というスパンで視野を広げると、今後モノを所有しない利用が定着していくかもしれません。弊社が目指している方向は間違いないと感じていただいているのではないでしょうか。また、他社の商品を買い取ってサービス化することだけではなく、弊社のシステムを一気通貫したインフラとして評価していただいていると認識しております」

メーカー

冒頭で紹介したとおり、メーカーとの関係は二種類ある。一つは、メーカーからNB製品を仕入れて、同社の資産とする方法。もう一つは、製品の所有権はメーカーが持ったまま、メーカーが同社プラットフォームであるCLASを利用し、その利益を分け合うレベニューシェアという方法。いずれもサーキュラーエコノミー推進のヒントが隠されている。以下5つのヒントをピックアップしたい。

1. メーカーのサーキュラーエコノミーへの取り組みを推進するプラットフォームとして

サーキュラーエコノミーやサステナビリティの取り組みを始めたいメーカーが、同社のプラットフォームを利用することで、そのニーズが満たせる。

2. 新たな顧客開拓の方法として

メーカーは、顧客の選択肢を増やすことに価値を感じているようだ。メーカーは、売り切り型モデルでは出会えない新たな顧客とつながれるかもしれないという期待を持つという。

3. メーカーが新しいビジネスモデルを試すことのできる場として

メーカー独自でCLASのような一貫したプラットフォームを構築することは難しい。メーカーによる新しいビジネスモデルを試す方法として、CLASを利用した方が早い。

4. クラスからメーカーへのフィードバック

CLASからメーカーに顧客のフィードバックを提供することに加え、メンテナンスを通じて得た循環性向上に関する情報などもお伝えする。これは、メーカーが次の製品を設計する際に、循環性を盛り込むための情報ともなる。

5. 仕入れ段階からのスクリーニング

長く使えそうにないことが予想されるNB製品は仕入れないという。「弊社のサービス形態で1年は持たないことが予測できる製品は仕入れません。たとえば、普通に使っていてもパーツが劣化しやすいと予想できる製品や、突起が多く配送時に痛みやすい製品などです。調達の段階からスクリーニングしています」

このような「製品を長く使えるか否か」という視点での調達を積み重ねていけば、メーカーの設計にも影響を与えられるのではないだろうか。

サーキュラーエコノミーの視点では?同社サービス、3つの特性

ここまで循環型PaaSの視点で同社の取り組みをご紹介してきたが、最後にサーキュラーエコノミーの視点で、同社サービスの特性を3つ挙げたい。

1. 循環を促進させるプラットフォーム

売り切りモデルでは例外はあるが、概して顧客との接点は販売時点のみである。CLASのような循環型サービス提供者は、サブスクというビジネスモデルを通じて顧客との接点を継続的に持ち続ける。ここまでは一般にいわれる「XaaS」モデルに該当する。CLASのサービスは、この先に「循環性」を見据える。

CLASには顧客データに加え製品(劣化度合い・修理メンテナンス情報など)の情報が蓄積され、一つの情報プラットフォームとして機能する。これらの情報を活用し、使用する資源量を抑えることが循環型PaaSの特徴ともいえるが、同社のサービスはそこへ向かっていく。

これらの環境価値に加えて、次のビジネスへとつなげる源となる経済性も兼ね備える。たとえば、今回お伺いような循環型のPB製品開発やメーカーとの関係強化、新規分野開拓など、情報を武器に次のサービスへと展開しうる「情報プラットフォーム」として発展していく。

2. ライフサイクル思考

PaaSを循環型にできるかどうかは、ライフサイクル思考が必須となる。そのためには、早川さんも述べたとおり、まず「循環性の確立」をサービス設計の上位概念に持ってくる必要がある。つまり、ライフサイクルにおける各ステージでいかに循環性を高めていけるか、という視点を持つことである。たとえば、1製品あたりの利用期間や利用回数は増えるが、物流や梱包、在庫過剰などによる資源利用増大・CO2排出量増加・水利用量増加・生物多様性損失などにつながっていないか、常に点検しておかなければならない。この点についてCLASは、商品調達から流通・利用・メンテナンスなどの各段階で目配りしている。所有権がCLASやメーカーにあることを最大限活用しようとしている。

3. ライフスタイルの変革を後押しする

「所有から利用へ」というフレーズが叫ばれて久しいが、「利用」を主眼においたサービスも昨今では多様化している。同社が実施した調査(下グラフ)によると、実際「借りる」という選択肢は広まりつつあると分析。

CLASに登録した理由(※複数回答)(グラフ:株式会社クラス プレスリリースより)

投資家も、所有しない暮らしが長期的に広がると見込んで同社へ投資している。人とモノとの関係が「所有」のみならず、「提供する価値」や「充足感」「幸福感」延いては「環境価値」といった多面的な関係性が生まれて、それらが拡大している。人の価値観は多様だが、このような新たなライフスタイルに価値を感じる層にとっての受け皿となる。これらの層は、単純な価格メリットだけではない、「『借りる』ことに価値を実感」(早川さん)する。つまり、新たな付加価値をCLASは提供できているのだろう。まさに、ライフスタイル変革を後押しする存在というフレーズが当てはまるかもしれない。

新たな価値を生むプラットフォームとして

会員は急増し、大型資金調達により急成長する同社だが、創業は2018年4月24日。4年目を迎える同社はすでに新たな価値を生むプラットフォームとして、一気通貫したインフラを構築。このインフラを使ってさらなる循環型サービスを提供できる可能性も秘めている。循環型PaaSモデルとして、今後もより新しい価値を生み出していくに違いない。

【CLASホームページ】https://clas.style/
【参照プレスリリース】

これまでの循環型PaaS特集

【循環型PaaS特集#1】サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデル「PaaS(製品のサービス化)」とは?

【循環型PaaS特集#2】サーキュラーエコノミーの鍵となるビジネスモデル「PaaS(製品のサービス化)」構築において、3つの前提と考えておくべき6つの観点