サーキュラーエコノミー移行において鍵となるビジネスモデルと言われるPaaS(Product as a Service/製品のサービス化)。「モノからコトへ」、モノ(製品)とコト(サービス)を包括的に捉える「サービス・ドミナント・ロジック」などの言葉が叫ばれて久しいが、PaaSも根底にはこの流れを汲む。この記事では、PaaSを循環型で進めるにあたり、3つの主な前提と考えておくべき6つの観点について考察していく。

循環型PaaSとは?

PaaS(Product as a Service/製品のサービス化)は、「PSS(Product Service System)」や「サステナブルサービスシステム(3S)」「サービサイジング」などの名称で、1990年代から提唱・一部事業化されてきた。それが、昨今のデジタル技術の進展に伴い、サーキュラーエコノミーの有効なビジネスモデルの一つとして位置付けられるようになった。循環型PaaSの意味やメリット、事例などについてはこちらの記事で参照いただきたい。

PaaSには2種類あると考える。

1つは継続課金による利益率向上を目的とした、リースやレンタル、サブスクリプションモデルなどの従来型モデルである。販売数ではなく顧客数を増大し、顧客生涯価値(ある顧客が寄与する生涯利益/LTV)の最大化を図ることを目的とする。

もう1つは、LTVを最大化するという目的に加えて、循環性向上(環境負荷の最小化)を目的としたモデルである。便宜的にここでは循環型PaaSと呼ぶことにする。

蘭ライデン大学のArnold Tukker 氏によると、「PSS(Product Service System/製品サービスシステム)」の概念は、顧客にモノを販売するということよりも、顧客満足を提供することで資源と価値の分離を図ることと定義づけている。一製品あたりの価値を高めることと資源利用量を減らすことを同時に実現するモデルである。

では、循環型PaaSと従来型PaaSの最も大きな違いは何だろうか。繰り返しとなるが、「循環性」の最大化が目的に含まれているかどうかである。サービス開発プロセスも、循環性ありきで設計されている。循環型PaaSは、所有権を製造者・サービス提供者側に移行させることで、製品を長寿命化させるインセンティブを働かせ、結果として各製品・サービスのアウトプットを最大限に高めるということはよく知られるところだ。サブスクリプション・レンタル・リース・シェアリングなどの形態を持つこのモデルは、継続的に顧客との接点を持てるため、顧客のブランドロイヤルティ強化につながることが多いこともわかっている。

循環型PaaSを展開するための3つの前提

循環型PaaSモデルは、「モノ」自体を所有するよりも「モノが提供するサービス内容」に着目し、「資源と価値の分離」を図る。このモデルが成功するための前提条件は主に3つある。

1. 利用者がメリットを感じられるかどうか

一般消費者であろうと事業者であろうと、利用者がそのサービスにメリットを感じられるかどうかという点は、見逃せない前提となる。

メリットのなかでも、やはり価格メリットは重要だ。利用者は一回(各月)あたりのサービス提供価格やそのサービスに支払うであろう累積金額を想定する。概して初期投資がかからないPaaSであるが、これらの想定支払い額は利用者によって算段される。そこで、ニーズに合致しなければ、PaaSモデルよりもその製品自体の購入(所有)が志向される。昨今環境意識が高まっているといえども、この点は見逃せない。例えば、フィンランドでIT機器のサービスモデルを提供する3stepITは、顧客企業のIT投資額を3割ほど抑えられており、同社はそれを「売り」の一つにしている。

しかし、価格が第一の関門といっても、それが唯一の答えではないことは成功しているモデルを見ても明らかだろう。例えば、比較的高価格帯の製品であれば、利用者には初期投資を抑えるためのインセンティブが働き、PaaSモデルを選ぶ可能性は高まる。あるいは、価格メリットを上回る価値が提供できれば、利用者にとっても魅力的なサービスとなる。また、利用する製品の最適化をアドバイスしてくれるような付加価値を高めた製品であれば、価格以外のメリットを見出せるかもしれない。一部の利用者は、循環性が高いことを一つの環境価値として捉えることで、PaaSにメリットを見出すこともありうる。

Homieは、利用回数制課金モデル(pay per use)で洗濯機をはじめとした家電が持つサービスを提供する。製品の所有権を同社が保持することにより、製品の長寿命化に尽力している。このサービスの特徴は、利用者の洗濯データを分析して、利用者に最適で持続可能な洗濯方法を専用アプリ「Homie App」で提供し、環境負荷を抑えるためのポイントとなる「洗濯回数」と「洗濯温度」の程度によって課金を変動させるというインセンティブを利用者に提供していることだ。結果、1ヶ月あたりの洗濯回数は欧州平均13-14回に対してHomieユーザーは12回になったという。洗濯温度も欧州平均43度に対してHOMIEユーザーは38度と、回数と温度の両方において利用者の習慣を変えている。単純な価格メリットだけにとどまらず、利用コストを減らし環境負荷の低い暮らしをしたいという利用者ニーズに応えており、それが一つの付加価値になっている。

2. 「管理的側面」と「付加価値提供側面」を提供するデジタル技術の利用

多かれ少なかれデジタル技術は循環型PaaSの前提となる。循環型PaaSの文脈におけるデジタル技術は、製品がどの利用者に渡っているかや回収できているかをサービス提供者が追跡・管理する「管理的側面」と、付加価値を提供する「付加価値提供側面」がある。

ドイツで圧縮空気システムを提供するKaeser Kompressorenは、「compressed-air-as-a-service(サービスとしての圧縮空気)」としてPaaSを展開する。工場の電力消費の20%以上はエアコンプレッサーによるといわれており、利用における環境負荷は高い。同社はエアコンプレッサーとしての機械ではなく、圧縮空気そのものを販売。Sigma Air Manager 4.0というシステムが、利用者の最適な圧縮空気利用のためのデータを提供する。利用者にとっては、初期投資の抑制や電力削減に加えて、市場から要請が高まるCO2削減にもつながるというメリットがある。先述のHomie同様、これを可能にするのがデジタル技術である。これらは「付加価値提供側面」と位置付けられる。サービスの成立・拡大にあたって、デジタル技術の利用が前提となり、どういったデジタル技術が必要となるかの検討が求められる。

3. 「人とモノの関係の再定義」が進む文化

2021年7月に出版され話題となっている『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』(尾原 和啓 著、幻冬舎、2020年)では、最終形としてのアウトプットに差をつけるのが難しくなりつつあるいま、製品やサービスの完成品ではなく、そのプロセスからエコノミーが出来上がるという論考をわかりやすく展開している。

社会学者の間々田孝雄氏は『21世紀の消費:無謀、絶望、そして希望』(ミネルヴァ書房、2016年)のなかで、3つの消費文化を説く。機能性と量的拡大を思考する「第一の消費文化」、自己顕示などを通じて人間関係の構築に主眼を置く「第二の消費文化」、社会的配慮や幸福を求める「第三の消費文化」の概念を提唱した。第一・第二・第三は時系列順に進んでいくわけではなく、いまでもそれぞれが併存している。しかし、現代は第三の消費文化が第一・第二の消費文化を補完・対立させながら拡大しているという。

このような消費文化の研究は随所で進められているが、これらに共通するのは、「所有」のみならず「提供する価値」や「充足感」「幸福感」といった人とモノとの間に多面的な関係性が生まれてその側面が拡大しているという論考である。人がモノを見る視点は、完成品としての最終製品のみではなく、製造プロセスや原材料、製造者や製造地域、はたまた環境負荷なども加味され、人とモノの関係性が再定義されていく。そのような経済や文化では、この循環型PaaSモデル構築と相性が良く、プラスとなる。

循環型PaaS構築において考えておくべき6つの観点

循環型モデルを構築するうえでメリットが多いPaaSではあるが、収益性(価値)の最大化と資源利用の削減を同時に達成するという目的に沿うためには、考えておくべき点も多い。これらをクリアできなければ、従来の売り切りモデルよりも意図せず環境負荷が高まってしまったり、経済的に持続不可能となってしまったりする。ここでは、循環型PaaS構築において考えておくべき6つの観点について考察したい。

1. PaaSに適した製品特性

サービスとして享受するか製品を所有するか、どちらがいいのかという問題は常につきまとう。すべてをPaaSモデルにするのではなく、製品の特性に応じて検討することが求められる。PaaSは、利用者がモノそのものよりも機能性に価値を置くような製品と親和性が高いとフィンランド・イノベーション基金のSitraは指摘している

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