国立環境研究所と東京大学大学院工学系研究科の研究者チームはこのほど、10種類のサーキュラーエコノミー施策を通した温室効果ガス(GHG)の削減効果を横断的分析により定量化した。
脱炭素化への対策が求められるなか、サーキュラーエコノミーは気候変動対策との相乗効果も期待されている。しかし、サーキュラーエコノミー施策の種類とGHG削減量の関係については、これまで十分に検討されてこなかったと両組織はみている。
そこで両組織は既存の学術研究を科学的方法に沿って定量・定性分析し、同研究を実施した。100文献・1500シナリオを収集して実施された同分析の対象・サーキュラーエコノミー施策・分析結果は以下である。
分析対象
大型家電、小型家電、ICT機器、工具類、衣類、書籍、容器包装、自転車、自動車などの主要な耐久・半耐久消費財
サーキュラーエコノミー施策
サービス化、プーリング(同時利用)、シェアリング、レンタル、リース、リユース、リファービッシュ・再製造、アップグレード・モジュール化、修理、耐久性
分析結果
- シェアリング・リユース・サービス化は適切に導入された場合、高いGHG削減効果が見込まれた。しかし、これらの3施策とレンタルは意図しない要因によりGHGが増えるリスクが高い
- プーリング・リファービッシュ・アップグレード・修理ではGHGが増えるリスクは小さく、中~高程度のGHG削減効果が見込まれる
- GHGが増加する要因として、輸送の増大・使用頻度や製品寿命の変化・維持管理・エネルギー源と効率が挙げられる
- サーキュラーエコノミー施策を気候変動対策に活用するには、これらの要因の制御が必須となる
主な製品種類ごとの定量分析を実施した同研究で得られた示唆は、下記のとおり。
- 大型家電:リユースとリファービッシュなどによるGHG削減効果が見込まれるが、リユースとサービス化に関してはGHG増加の制御が課題となる
- ICT機器:全般的にGHG増加のリスクが小さく、耐久性向上・リユース・レンタル・修理などを通したGHG削減効果が見込まれる
- 工具類:地域でのシェアリングにはGHG削減効果が見込まれるが、長距離輸送が増加するレンタルではGHG増加が懸念される
- 自動車:プーリング・レンタル・リファービッシュなどによるGHG削減効果が見込まれるが、シェアリング・サービス化のGHG増加の制御が課題となる
- 書籍・メディア:サービス化・リユース・レンタルなどを通じたGHG削減効果が見込まれるが、シェアリングに関するGHG増加が懸念される
- 衣類:レンタル・リユースを通じたGHG削減効果が見込まれるが、レンタルに関するGHG増加の制御が課題となる
同研究は、施策によりGHGが増大する要因を以下のように特定した。
- もっとも多く報告されたのは、輸送回数や距離の増加、使用回数の変化である。これらはシェアリング・レンタル・サービス化・プーリングなどの所有形態の変化を伴う施策において、顕著な要因である
- 製品代替(新たなサービスが従来型の新品買い切りの何割を代替するか)と製品寿命の変化(低寿命化)は、多くの施策に共通する要因である
- 維持管理による環境負荷・エネルギー源とエネルギー効率・使用行動の変化もGHG増加の要因である
サーキュラーエコノミー施策を脱炭素化につなげるために適切な制御が必要な要因と同分析の結論について、両組織は下記のとおり発表した。
適切な制御が必要な要因
- 脱炭素型の輸送手段を用いたレンタルサービスと、地域でのシェアリングなどの取り組み
- 複数のサーキュラーエコノミー施策の組み合わせ(再製造品のリース利用、耐久性と修理可能性を向上した製品のレンタルやシェアリングサービスなど)
結論
- 脱炭素化と資源効率を高める製品利用に向けた新たな事業モデルと政策の展開が望まれる
- 実社会におけるサーキュラーエコノミー施策導入の社会実験や実証データの収集と精緻な評価が必要である
- 今後、産学官連携などを通じて証拠に基づく脱炭素型のサーキュラーエコノミーのあり方を特定・促進していくことが望まれる
なお、同研究の成果は環境分野の学術誌「Renewable & Sustainable Energy Reviews」に掲載された。
これまでも、個々の製品分野・サーキュラーエコノミー施策におけるGHG削減効果は考察されてきたが、今回の研究では幅広い対象とサーキュラーエコノミー施策について分析された。今後、こうした研究によって、より効果的な施策が展開されていくことが期待される。
【プレスリリース】サーキュラーエコノミーを脱炭素化につなげるための必須条件を解明
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