皆さんは、日本がごみ焼却炉の保有数世界一であることをご存じだろうか――。世界でもっともごみの焼却処理率の高い日本では今後、人口減少に伴ってごみ焼却炉の閉鎖が相次ぐことが見込まれ、廃棄物の輸送コストの上昇とそれによる一層の温室効果ガス排出の増加が懸念されている。

そこで、株式会社JOYCLEは廃棄物を輸送・焼却せずに資源化できる小型資源化装置「JOYCLE BOX」をはじめとする一連のシステムを開発。ごみ処理コスト増加のインパクトが大きい小規模企業や医療機関、離島地域を中心に、環境負荷の削減と炭素クレジット取引を見据えた経済メリットの創出を実現しようとしている。

同社のサービスはどのようなものなのか、代表の小柳裕太郎さんに聞いた。

小柳裕太郎さん(株式会社JOYCLE代表)

双日、サーキュレーション、電通、U3イノベーションズで事業開発に従事した後、2022年9月に独立。「死後100年後の社会を変えるビジネスを創る」という想いでJOYCLEを立ち上げる。経済産業省カーボンニュートラル分科会若手有識者の一人

 

ごみも分散型処理で、処理コストと環境負荷を削減

小柳さんは、新卒で就職した商社で南太平洋のパプアニューギニアに半年間駐在し、日本製の海水淡水化設備の導入を任された。しかし、見込んでいた補助金がなくなり、計画は頓挫。現地では子どもたちが1時間半かけて水汲みをしていたのを目の当たりにしたこともあり、新たな選択肢を提示できない悔しさが残り、いつかインフラで人々を幸せにする事業を立ち上げたいと思うようになったという。

その後、ベンチャーや新規事業立ち上げを経験すべく3社を渡り歩きながら起業のテーマを探した。環境エネルギー分野では研究開発型のスタートアップが多い一方で、社会課題から入って技術を取り込んでいるベンチャーはあまりないと感じていたという。そんな折、リサイクルを推進してごみの減量に成功している鹿児島県大崎町の取り組みを知った。

「(分別リサイクルの取り組みを)海外にも広めていこうとインドネシアでレクチャーをやっていらっしゃって素敵なことだなと思いました。でも、人を動かすにはやはり経済的なインセンティブが必要です。自治体は税収が減る一方で、今後産廃処理コストが増加しドライバーも不足していくでしょう。今エネルギーは太陽光で分散型で作るようになりましたが、ごみも分散型で手元で処理するようなインフラがないと、本当に持続できなくなるのではないかという考えに至りました。そこで、産廃処理コストを安くします、ドライバー問題も解決します、というビジネスの原型を立ち上げました」(小柳さん)

同社は現在、既存のごみ資源化装置の稼働状況や環境負荷の削減効果データを可視化するシステム「JOYCLE BOARD」を開発するとともに、それを組み込んだ小型資源化装置「JOYCLE BOX」をメーカーとのOEMで開発している。また、装置を1社1台保有できない事業者や離島などの地域では、JOYCLE BOXを装備した車両で巡回、回収処理する「JOYCLE SHARE」のサービス提供も視野に入れる。

 

「既存の小型資源化装置はアナログなものが多く、せっかく運ばずに燃やさずに資源化できることによる費用対効果や環境対効果、さらに本当に安全に動いてるかを可視化できてないのが現状です。これらのデータをしっかりと可視化できるダッシュボードを搭載し、すべて電気で動く装置をメーカーとOEMで製造していきたいと考えています」(小柳さん)

JOYCLE BOXは、ポリ塩化ビニルをのぞくプラスチック全般を含めた燃えるごみを処理、セラミック灰などへ再資源化できる(金属と液体は投入不可)。生ごみはコンポスト化が望ましいが、できるだけ分別の手間をなくして運用できるようにしたいという。

「純度の高い製品のマテリアルリサイクルなど質の高いリサイクルは、どんどんやったほうがいいです。その上で、それ以外にも出るごみが僕らの守備範囲なので、純然たる競合はいないと思っています。こうしてまずはごみを減量化できることを示した上で、資源化した後のリサイクル材の品質データもきちんと取って、販売までやろうとしています」

リサイクラーなどとも協働することによって、純度が高く、または技術が確立している廃棄物の再資源化率をさらに高められる可能性も見えてくる。

離島と医療機関で効果大の可能性

同社は現在、各地の企業がふるさと納税の仕組みを使ってJOYCLE BOARDを装備した再資源化装置を自治体や地元の中小企業、医療機関に寄贈してもらうスキームを構築して、複数の地域で装置の実証実験を進めている。また、補助金を活用して沖縄・石垣島での実証実験を始めているほか、東京都葛飾区と連携協定を締結して装置を配置、地域内でのリサイクル網の構築とCO2排出削減分で創出されるクレジットによる還元を実施するための実証実験も行うことになった。

実際に沖縄地域で行った実証実験では、数値結果も出ている。通常、沖縄地域では島をまたいで廃棄物が処理される。本土の大型焼却炉を使用して処理される現状と比較し、船舶・車両で運搬せず沖縄地域内に同社の小型資源化装置を設置して処理すると、ESG関連項目の負荷削減量が大きいという結果(下表参照)が出たという。このような特殊な廃棄物処理事情を持つ島嶼部においては、関連項目の環境負荷低減効果が見込める。

沖縄地域における実証実験のESG関連項目、通常ケースと比較(出典:JOYCLE プレスリリース 2024年7月16日

また、コスト削減効果が大きいとみられるのは100床以上の医療機関だという。

「医療系の感染性廃棄物の処理コストは非常に高く、今お話を進めている医療機関では、年間約1億円かかっている処理コストが装置を導入することで約4000万円は抑えられるとお伝えしています。もちろん、医療廃棄物を再資源化した製品の安全性もきちんと確認した上でサービス化します」

実証実験を経てサービスをローンチする際には、リース会社を通じた装置の販売利益とJOYCLE BOARDの月額料金で稼ぐビジネスモデルを描く。

「産廃処理コストは、今後ますます上昇します。その分をクレジットで少しでも補えるようにしていくことが望ましいと思います。また、装置によっては発電もできますので、分散型のインフラとして機能させ、BCP対策として災害時に溜まってしまうごみを処理できるインフラかつ発電装置としても提供していきたいと考えています」

さらに、JOYCLE BOARD搭載で得られたデータを都市計画などにも役立てるよう活用可能な状態にすることも視野に入れている。

課題先進国・日本だからこそ分散型インフラの可能性を追求できる

企業版ふるさと納税や補助金を活用して複数の案件ができつつある一方で、今後は案件をきちんと運営、クローズできる人材の採用や、拡販パートナーとの関係性の構築をいかに行っていけるかがカギとなる。まずは、分散型の小型資源化装置の有効性を証明し、将来的には海外展開したいと小柳さんは考えている。

「世界でもいずれ人口が減少して同じ課題に直面します。まずは、すでに人口が減少している日本で今のうちから分散型インフラの可能性を試していきます」

ごみを排出して地域の焼却炉で燃やすという、これまで続いてきた日本の廃棄物処理の景色を、JOYCLEは変えていくかもしれない。

【参考】