私たちの自宅に、所有しているが使用していないものはどのくらいあるだろうか。必要に迫られて購入したがライフスタイルの変化により不要になったものや、人から譲り受けたが実際は必要なかったものなど、残念ながら家に眠っている資産が多かれ少なかれあるのではないだろうか。

国内の一般家庭には、こういった休止・遊休状態にある資産(本記事ではアイドリング資産と呼称)は66兆円相当あり、そのうちファッション関連商品が38.9%を占めるとされる。(出典:メルカリ 2023年版日本の家庭に眠る“かくれ資産”調査)アイドリング資産所有者のうち42%は、手放す意思があるが実行に至っていない。その背景には、資産を動かすきっかけや仕組みが十分でないという現状がある。

住宅や自動車などの固定資産と違い、ファッション関連の二次流通では売る経路や方法などで価格が大きく変わることや、購入する側から見ると二次流通商品の真贋が定かでなかったりするなど、課題が多い。

こうした類のアイドリング資産の価値を正確に可視化し、なおかつ所有者の個人情報を開示することなく資産価値を公開し、円滑に二次流通へまわす仕組みの構築に励んでいるのがLiNK合同会社だ。同社は、二次流通の拡大により新規資源の生産・消費を抑えることを目指す。こういったC(Customer)における取り組みと同時に、ブランドの二次流通をビジネス範囲に入れるための企業向け支援も行う。

同社代表の福留聖樹氏に二次流通拡充・アイドリング資産活用について、上野立樹氏には同社のもう一つの取り組みである撮影スタジオの循環化(本記事最下部記載)について聞いた。

福留 聖樹 氏 LiNK LLC代表

ファッション産業向けに高いクリエイティビティのブロックチェーンソリューションを提供。株式会社UPDATER(みんな電力)SXプロデューサーや渋谷パルコ2G POPUP STUDIOビジネスディレクターでもある。

上野 立樹 氏

環境先進国であるニュージーランドへ留学。東京綜合写真専門学校を卒業後、CHENCHEKAI氏に師事。2021年合同会社N30設立。2023年「サーキュレーション」をコンセプトにした日本初のスタジオSoilmatez Studio設立。

ブランドが二次流通まで運営・管理できるように

福留氏:「一般的に国内アパレルブランドは、製品の一次流通については自社で運営・管理できていますが、二次流通ではその限りではありません。製品を一次販売したブランドが、製品ライフサイクルの静脈部分である二次流通に自ら関与することは重要です。アメリカをはじめとする欧米の市場では、二次流通市場における自社ブランディングができていないブランドは魅力的でないとすでに評価されるようになってきているのです。

国内ブランドでも、一次流通の商品を回収して再販している例はあるのですが、それが慈善事業のような扱いになっていて利益を生み出せていない事例も見受けられます。

こういった状態を改善したいと考えるブランドは多いため、一緒に取り組んでいきたいと考えています。二次流通市場におけるブランドや製品の価値を高く保てるよう、動脈から静脈までをブランドが管理できるようにしていく必要があるのです。当面は、ハイブランドから中価格帯あたりの商品を扱うブランドが弊社のビジネスパートナーとして対象になる見込みです。現状、テキスタイル2社・ブランド3社・OEMメーカー1社とPoCが進行中です。二次流通で価値が下がらないような商品ラインを念頭に市場を創っていきたいと考えています。

今後製品個体へのDPP(デジタル製品パスポート)を取り付けることにより、同じ商品でもブランド自らが取り扱うリユース製品により高い価値を生み出すことが可能となるのではないでしょうか。古い茶器のように、その製品個体を誰が所有していたのかも価値となります。ビジネスモデルを大量生産から適量生産に戻すことにより、二次流通マーケットにおけるリユース製品の価値は希少性を帯びると考えます」

DePINエコシステムを活用し、製品情報を提供してくれた所有者にインセンティブを付与していく

家庭に眠っているアパレル製品に適切な価値を与えて二次流通市場に投入し、市場を活性化していくために、DePIN(ディーピン)エコシステムと呼ばれる仕組みを使用する。DePIN (Decentralized Physical Infrastructure Network:分散型物理インフラネットワーク)とは、インフラの構築を目的とした、ブロックチェーンを活用した分散型プロジェクトの総称である。暗号資産をインセンティブとして利用する次世代型ビジネスモデルの一つとして注目されている。

福留氏:「これまでも、新しいサービスや技術を浸透させるには、ユーザーに対するインセンティブ設計がないと、社会実装されないということがわかっています。企業のサステナビリティへの取り組みが一向に進まないのは、現場のスタッフがサステナビリティに真剣に取り組んでも評価されない、自分の給与に反映されない、ということが要因にあるでしょう。

本プロジェクトでは、所有しているアイドリング資産の情報を共有してくれたユーザーに対するインセンティブ設計をデザインし、その流動性を高めるというエコシステムの形成も考えています。製品の所有者が個人情報を開示することなく、製品の写真を撮ってブランド名を入力してアプリに登録するだけで、ポイントがもらえるような仕組みです。デジタルクローゼットと捉えるとわかりやすいかもしれません。商品の詳細情報については、AIを活用したり、鑑定士と連携したりしながら鑑定の精度をあげていくことを計画しています。

このようなインフラ自体は、すでにアートの領域で作品の製作年やアーティスト名を登録・管理する仕組みが実装されていて、これを衣類でも実践していこうというわけです。衣類の場合はデジタル製品パスポート(DPP)に求められるような項目のほか、ブランドのこだわりどころ、顧客の手に渡ってからどのように扱えばその製品が長持ちするのか、製品が寿命を迎えた場合はどのように処分するのが適切か、などの情報を盛り込む必要があります」

一次流通で発生する新規製品を減らし、二次流通市場を活性化していくために

福留氏:まずは既存のプラットフォームと連携し、BtoBtoCのビジネスモデルとして始める予定です。

日本の伝統的な産業によるサービスやソリューションは、ブロックチェーンにおいてもパブリックな状態ではなくプライベートやコンソーシアムチェーンを構築するケースが多く、ブロックチェーン本来の特性である「自律分散」や「透明性」が活用できていない閉じられた状態になっています。

パブリックブロックチェーンであれば、これまでのように新たな独自システムを構築する必要はなく、既存システムへのAPI連携が可能となり開発コストは各段に下がります。イーサリアムメインネットが2021年のアップデートにより消費電力を99.95%削減したように、課題となっていた環境負荷についても、データのトランザクション時に発生する電力消費量が削減されています。

今のファッション業界は、一次流通の市場において、コストを下げるために大量に生産しているという状況にあり、ここに手を打つ必要があります。大量生産・廃棄をなくしていくためには、企業の収益ポイントを変える・多角化していくことが必須です。

リユースの機会が増えるにつれて、ブランドにも利益が還元される仕組みの構築も必要です。物を作って売ることによる収益だけでなく、ファイナンスの部分で稼げるようにすることが欠かせません。たとえば、より資産価値のある製品は、RWA(リアルワールドアセット)としてブロックチェーン上でファイナンス商品の対象となり、製品販売以外のマネタイズポイントになる可能性もあります。

撮影時の環境負荷を下げる工夫も

本インタビューを行ったのは、東京・清澄白河にあるSOILMATEZ STUDIOだ。このスタジオは、アパレルの撮影から発生する環境負荷を、サーキュラーデザインの思想に共感する仲間や地域のコミュニティと共に解決する実験の場として、上野氏が設立運営し福留氏が参画するプロジェクトである。

アパレル業界では衣服を着用したモデルの撮影が多く行われるが、同プロジェクトではスタジオでの撮影時に発生する環境負荷を下げる配慮もされている。

従来、スタジオでの撮影に使われる背景紙は大量に使い捨てされてきた。都内の撮影スタジオから1年間に廃棄される背景紙の総量は70トンを超えるとされる。スタジオ1ヶ所あたり1か月に約80kgの背景紙を廃棄していることになる。背景紙の使用量をスタジオ利用料に含めている場所も多く、使い捨ての紙を出さないように配慮しているスタジオは国内では少ないが、SOILMATEZ STUDIOでは背景紙の廃棄ゼロを実現している。

図:スタジオ利用者に渡している、CO2排出量を示すレシート(提供:Soilmatez Studio)

撮影時には食事のケータリングサービスを利用するケースが多いが、極力スタジオ近隣にある飲食店のサービス利用を推奨し、地域還元も視野に入れる。他にも、ペットボトル廃棄を減らすこと、ストロー利用時には草で作られたストローを使うことなどもスタジオ利用者に呼びかける。

背景紙の利活用やごみの削減、使用する電力はRE100を採用するなどの試みにより、従来のケースと比較してどの程度環境負荷を下げることができたかを示すレシートをスタジオ利用者に提示する。業界で後回しにされやすかった撮影工程における意識改革・行動変容にも取り組んでいる。