「想像してみてください。洗濯機を買うかわりにリースする。建物は完全に解体され、新たな場所で再び組み立てられる。廃棄されるはずだったコーヒーかすで、マッシュルームを育てる。ほとんど使わない車を所有するかわりに、仲間と車を共有する。サーキュラーエコノミーとは、このような世界です。ここアムステルダムで、私たちの目標は2050年までにサーキュラーエコノミーの実現することです。」
これは、アムステルダム市のウェブサイトに掲載されているサーキュラーエコノミー政策ページの冒頭メッセージだ。2015年、アムステルダムでは自治体として世界で初めてサーキュラーエコノミーへの移行に向けた詳細な調査を実施し、その内容に基づいて「遅くとも2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現する」という目標を掲げた。現在では、2025年までに家庭廃棄物の60%をリサイクル・リユースに向けて分別する、2030年までに一次原材料の利用を50%削減するといった具体的なプロセス目標も設定されている。
2016年にはThe World Smart City Awardを受賞するなど、世界を代表するサーキュラーシティ(循環型都市)として名高いアムステルダムだが、現在に至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。また、2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現するという目標の達成に向けて、企業や市民の間では未だに数多くの議論すべき課題もある。
今回、IDEAS FOR GOOD編集部ではこれまでアムステルダムが歩んできた過去、現在地、そして未来について、同市で長らく持続可能なまちづくりに関わってきたSutainable AmsterdamのCornelia Dincaさんに話を聞いてきた。アムステルダムがサーキュラーエコノミーを推進する背景から注目すべきプロジェクトの数々、いま現地で交わされている最新の議論、目標実現に向けた課題、なぜアムステルダムは他都市よりもいち早く移行を実現できたのかなど、Corneliaさんのお話は非常にたくさんの示唆に富んでいた。ぜひアムステルダムの最前線の議論を知ってほしい。
成長し続ける都市アムステルダムの課題とは?
そもそもなぜアムステルダムは、長期的な都市戦略の中心にサーキュラーエコノミーという概念を据えたのだろうか。Corneliaさんがその背景として語るのは、アムステルダムの「都市化」と「拡大し続ける消費」だ。
アムステルダムの人口は過去3世紀で6倍に増加し、現在は約85万人、人口は毎年1.6万人ずつ増え続けており、2025年には90万人、2030年半ばには100万人を超えると予測されている。結果として、ここ数年で中心部の地価は30~40%も上昇しているという。
人口増加に伴い、アムステルダムの消費も拡大し続けている。Corneliaさんは、「もし世界中の人々がオランダ人と同じ生活をしたら、地球が4つ必要になります。つまり、私たちは消費しすぎているということ。私はよく “We are too rich to be sustainable(持続可能であるためには贅沢すぎる)” と言うのですが、どのように生活の質を落とさずに消費を減らすか。これが大きな課題なのです」と話す。
急速な人口増加に対応するために、もともと産業地帯だったアムステルダム北部では急速な住宅開発が進められているが、当然ながらそれには多くの建材が必要となる。そこで、アムステルダム市では、これらの住宅のドアや内装などに新品ではなく古い素材を再利用する場合に限り、約2万ユーロのバウチャーも提供しているという。
このように、アムステルダムはできるかぎり環境負荷の低減と都市の拡大を両立しようと試みているが、「2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現する」という目標の実現可能性に対するCorneliaさんの見方は慎重だ。
「オランダ政府は2050年までに100%サーキュラーエコノミーに移行するという目標を掲げました。すると、当然ながら次に気になるのは私たちの現在地(今何%なのか?)になりますが、問題は、目標が掲げられた当時はそれを測定するだけの十分なデータがなかったということです。現在の達成度は9%程度ですが、本当に100%を実現しようとするなら、より質の高いデータが必要となります。」
「また、これは私見となりますが、100%サーキュラーエコノミーを実現するというのは難しいと思います。私の専門は化学エンジニアリングなのですが、熱力学の世界ではエントロピーという概念があり、一般的に無限にリサイクルし続けるのは不可能だと言われています。また、リサイクルをし続けようとすればそのプロセスに多くのエネルギーを投入する必要があり、物質を永遠に循環させ続けるのは技術的に考えて現実的ではありません。しかし、例え100%は難しかったとしても、50%、70%まで実現できるなら、いまよりははるかによいと言えるでしょう。」
100%サーキュラーエコノミーへ移行するのは難しいとしても、その目標を掲げることで少しでも都市の循環性が高まっていくのであれば、ビジョンとしての価値はある。それがCorneliaさんの考え方だ。
優先順位を特定するための 「The City Circle Scan」
サーキュラーエコノミーへの移行にあたり、アムステルダム市は約7年も前からどのように都市の「サーキュラリティ」を測定すべきかについて模索していた。そこで同市がCircle Economyなどの専門機関と協力して2016年に世界で初めて実施したのが、「The Circle City Scan(サークル・シティ・スキャン)」と呼ばれる手法だ。
これは、マテリアルフロー分析(MFA)により、都市にどのような物質がどれだけ入ってきて(Input)、結果として何がどれだけ出ていくのか(Output)を全て特定しようとする試みだ。Inputには電気や天然ガス、金属、水、バイオマスなどあらゆる物質が含まれ、Outputには廃水や廃棄物、CO2なども含まれる。Corneliaさんは、この分析が同市のサーキュラーエコノミー実現に向けた出発地点になったと話す。
アムステルダムのサーキュラーエコノミー戦略は同分析に基づいて構築され、70以上のサーキュラープロジェクトが生まれた。なお、同手法は現在ロッテルダムなどオランダの他都市でも活用されているほか、スコットランドのグラスコー、スイスのバーゼルなど世界中へ展開されている。
スキャンの結果、アムステルダム市は最初に注力すべき2つの分野を特定した。それが「建設」と「オーガニックウェイスト(有機廃棄物)」だ。実際に、アムステルダムでは市内のマテリアルフローのうち60%が建設と解体に伴うものであり、都市のサーキュラリティの観点で言えば、建設分野への取り組みは欠かせないという。Corneliaさんは、具体的なプロジェクト例についても教えてくれた。
「建設分野では、AMS Instituteが、市内の建造物にどのような金属が利用されているかを可視化するプロジェクトをMIT(マサチューセッツ工科大学)とオランダの二大学と協働で実施しました。ビルの解体時、我々は金属や資材を再利用のために採掘することが可能です。例えばABN AMROのCirclはコンクリートの30%がリサイクルコンクリートでできています。Circlの建設当時はそれが最大でしたが、現在では最大50~70%までリサイクルコンクリートの使用が可能となっています。リサイクルコンクリートは高価なので市場はまだ小さいですが、毎年着実に成長しています。」
「また、スタートアップのvanPlestikは、アムステルダム市内で収集したプラスチックをフィラメントにし、3Dプリンターで市民のためにベンチやごみ箱を作っています。これは、廃棄物も価値あるモノへと変えられることを人々に示すためのプロジェクトです。」
アップサイクルが抱える概念的ジレンマ
しかし、Corneliaさんは、vanPlestikのようなアップサイクルプロジェクトには、批判もあると話す。
「やや概念的な批判となりますが、廃棄物を資源に変えることができるという考え方は、“Normalizing Waste”(廃棄の常態化)にもつながります。『資源に変えられるのなら、ゴミを出してもよいよね』と捉えられかねないということです。しかし、サステナビリティの観点から言えば、廃棄物のセクシーでクリエイティブな活用法を考えるよりも、廃棄物そのものを減らすほうがはるかによいのです。アップサイクルも重要な役割を果たしていますが、それだけでは十分な解決策とは言えません。」
廃棄物を価値ある資源へと生まれ変わらせること自体は素晴らしいが、もしそれを人々が当たり前だとみなすようになれば、ゴミを減らそうという動機付けは生まれない。アップサイクルはすでに起こってしまっている問題の対症療法であり、根本的な解決策ではないという議論が行われているのだ。
リビングラボ(実験の場)としてのフェスティバル
都市全体ではなく特定のプロジェクトに対するサーキュラリティの測定事例としてCorneliaさんが紹介してくれたのが、アムステルダムで最も人気がある音楽フェスティバルの一つ「DGTL」だ。
「DGTLは、オランダで初めて100%の循環性を目指しているフェスティバルです。アムステルダム市にとってもフェスティバルの存在は非常に重要です。なぜならフェスティバルはとても大きな産業であり、加えて一種のリビングラボ(生活空間における実験の場)でもあるからです。フェスティバルは、小さな都市のようなもので、そこで学んだことや起こったイノベーションは、都市の他の地域にも適用できるのです。」
DGTLは、アムステルダムに拠点を置くシンクタンクのMetabolicの協力のもと、2017年にマテリアルフロー分析を用いてイベント開催におけるInputとOutputを可視化した。下記は2018年のイベントの分析図だが、どんな資源がどれだけ投入され、結果としてどのような廃棄物がどれだけ排出されたのかなど、イベントを取り巻く資源の流れが一目瞭然となっている。
サーキュラリティ100%の実現に向けた効率的なアプローチと取り組みの優先順位を考えるうえで、このような分析は欠かせない。また、いきなり巨大なプロジェクトを対象とするのではなく、フェスティバルを実験都市と見立てて取り組むという点もユニークだ。
「DGTLは昨年、統計データに基づいてとても素敵でセクシーなコミュニケーションを打ち出しました。彼ら『家にいるよりも、彼らのフェスティバルに参加したほうがよりサステナブルだ』と伝えたのです。もしあなたが家にいるときに、わずかな明かりで本を読み、ベジタリアンフードを少しだけ食べるという生活をしていれば、そちらのほうが環境に優しいでしょう。しかし、一般的なオランダ人は、家にいるときもテレビを見たり全ての電気をつけていたり、フェスティバルに参加するよりも環境負荷が高い暮らしをしているのです。」
2018年のDGTLでは、フェスティバルの参加者に対して「廃棄物が資源に変わる」ということを分かりやすく伝えるために、”Resource Street”という一角が用意された。Resource Streetでは、フェスティバルから出た廃棄物の収集・分別プロセスや、ペットボトルのゴミを新たなプラスチック素材に変える熱分解のプロセスなどを参加者が直接見られるようにした。また、ほかにもステージの一つが「modular」と名付けられたり、フェスティバル会場でリサイクル木材でできたパレットを活用したアート作品(イベント終了後は解体され新たなプロジェクトに活用される)が展示されるなど、DGTLではフェスティバル全体にサステナビリティとサーキュラリティのコンセプトが反映されている。
Sustainable Growth vs De Growth
上記で挙げたように現在アムステルダムでは数多くのサーキュラーエコノミープロジェクトが立ち上がっているが、Corneliaさんによると、オランダでは持続可能な経済成長やその手段としてのサーキュラーエコノミーといった概念そのものの妥当性に関する議論も生まれているという。
「数年前までは『Sustainable Growth(持続可能な成長)』が話題に上ることが多く、最近は『サーキュラーエコノミー』がよく話題になりますが、これらは似たようなものです。一方、日本は既に縮小傾向にある国なのでどこまで議論されているか分かりませんが、アムステルダムでは『De Growth(脱・成長)』ムーブメントを受け入れる必要があると話す人が増えてきています。」
「永久に成長し続けられるという考え方そのものが持続可能ではなく、Sustainable Growth(持続可能な成長)は幻想であり、持続可能である唯一の道はDe Growthについて議論することだと。まだメインストリームではないものの、De Growthの考え方は注目を集めつつあります。特にヒッピーや環境活動家の人々はDe Growthについて話し、経済成長を望む人々は持続可能な成長やサーキュラーエコノミーについて話しています。まだ合意があるわけではなく、議論している状況です。」
このDe Growthの議論をめぐっては、アムステルダム市が公表した2020~2025年に向けたサーキュラーエコノミー戦略 “The Amsterdam City Doughnut” にも反映されている、「Doughnut Economics(ドーナツ経済学)」というコンセプトの提唱者、Kate Raworth氏も非常に示唆に富むコメントを残している。
Kates氏は、”Why Degrowth has out-grown its own name.“と題する寄稿記事の中で、De growthという概念は21世紀の経済のあり方を考えるうえで非常に深遠な問いかけをしていると尊重しつつ、その言葉が持つ強烈さや定義の曖昧さ、否定から始まる表現が広く支持を得ることの難しさなどを主張している。
そのうえで、今言えることは “We have an economy that needs to grow, whether or not it makes us thrive.(いまの経済は、それが私たちを繁栄させてくれるかに関わらず、成長する必要がある)”、”We need an economy that makes us thrive, whether or not it grows.”(私たちが必要な経済は、それが成長するか成長しないかに関わらず、私たちを繁栄させてくれる経済だ)と締めくくっている。
“Thriving(繁栄する)”という単語には、そこにいる人々がともに栄え、豊かな暮らしを享受している包摂的な響きがある。これからの時代に求められるのは、Sustainable Growth でもなく De Growth でもなく “Thriving(繁栄する)”という感覚なのかもしれない。
最も重要なのは、外部性を内部化すること
Sustainable Growth と De Growth をめぐる議論も非常に重要だが、いずれにせよ必要になるのは、誰もが環境負荷をかけることなく豊かさを享受できる経済を実現するための具体的な手段だ。それには、行政による法規制や、企業や市民の持続可能なアクションを推進するインセンティブ設計、テクノロジーによるイノベーションなど様々な方法が考えられるが、実際にアムステルダムで行政や企業も含めて様々な組織と協働してきたCorneliaさんは、どのような手法が最も有効だと考えているのだろうか?
「アムステルダムやオランダに限らず、世界全体が持続可能な状態を実現する唯一の方法は、” internalize externalities(外部性を内部化する)”システムを持つことだと思います。実際に、欧州では炭素価格が設定されていますが、その価格は安すぎます。本当に循環型の持続可能な経済を実現したいのであれば、CO2に対してより高い価格付けをするべきです。また、それは他の汚染に対しても同様です。」
しかし、経済活動が生む負の外部性を内部化するというのは決して簡単なことではない。実際に、オランダでは政府が農業分野から出る汚染に対して規制を設けようとしたものの、農家の人々はトラクターとともにハーグ(政府の拠点都市)まで行って強烈に抗議を行い、結果として規制は実現しなかったという。オランダでは歴史的に農家の人々が力を持っており、政府としても彼らの意向を無視できなかったのだ。
ただ、それでもCorneliaさんは価格づけの重要性を強調する。
「問題は、持続可能なことをしようと思っても、それが従来からの持続可能ではない方法よりも経済的に競争力がないという状態なのです。たとえば、オランダでは化石燃料や天然ガスよりも再生可能エネルギーのほうが高く、全ての食糧システムが安価な天然ガスをベースとしています。しかし、もし天然ガスの製造に対して外部性を価格付けすれば、その瞬間に天然ガスの価格は上がり、再生可能エネルギーははるかに競争力を持つのです。」
現状は負の外部性が価格に転嫁されていないために、持続可能ではないエネルギーやそれをもとに作られる製品が、本来支払うべき価格よりも不当に安い価格で提供されている。Corneliaさんは、それこそが根本の問題であり、その安さが大量の消費にもつながっていると指摘する。
「外部性に対する価格付けは、消費を減らすという観点からも重要です。人々が消費をしすぎるのは、商品が安く売られすぎているからなのです。もし外部性に対して価格付けをすることで商品が高くなれば、消費者は毎週末ショッピングに行き、二か月ごとに新しい靴を買うようなことはしないでしょう。消費者が、商品の”Real Price”(本当の価格)を支払うということが、行動変容においてとても重要なのです。ほとんどの人々は、『自分の生活の中でもっとも環境負荷が大きいのは日々消費しているモノ』だということを認識していません。まずはそれを認識することが第一歩となります。」
現在の経済システムが内部化できていない “Hidden Cost(隠れたコスト)” をしっかりと明確にし、それをシステムに反映させることができれば、消費者の行動も変わる。シンプルだが説得力のある解決策だ。
デザイン。クリエイティビティ。合理性。なぜオランダはできるのか?
Corneliaさんのお話から、アムステルダムではサーキュラーエコノミーやサステナビリティを取り巻く最先端の議論が数多く行われていることが分かったが、そもそもなぜアムステルダムはこの分野でここまで先進的な取り組みを実現することができたのだろうか。最後にCorneliaさんに訊いてみた。
「たしかに、アムステルダムはサーキュラーエコノミーにおける先進都市の一つであることは間違いありません。しかし、私たちは日本もサーキュラーエコノミーにおいては先進国の一つだと考えています。たとえば日本の家電リサイクル率はとても高いですよね。サーキュラーエコノミーはとても広範な概念で、どこに焦点を絞るかによって見方が変わります。オランダもいくつかの領域では進んでいますが、いくつかの領域では遅れています。そもそも、裕福な国は過剰な消費という問題を抱えています。オランダは確かに先進国かもしれませんが、同時に地球が4つも必要になる暮らしをしているのです。デンマークもスウェーデンも日本も同じです。本当の意味でうまく行っている国など、実際にはありません。」
オランダでは数多くのサーキュラーエコノミープロジェクトが生まれており、その先進的な部分ばかりにスポットが当てられがちだが、一方でそもそも環境負荷の高いライフスタイルがそこにはあり、その意味では必ずしも先進国とは言い切れないというのがCorneliaさんの見方だ。
たしかにその通りだが、一方で実際にアムステルダムのサーキュラーエコノミープロジェクトを取材していると、そこにはオランダ特有の優れたデザインやクリエイティビティを多く発見することができ、オランダらしい強みが活かされていると実感する。その点について、Corneliaさんはオランダの歴史的な背景との関係性を指摘する。
「デザインと創造性は、サーキュラーエコノミーにとって本当に重要な部分です。サーキュラーエコノミーについて考えるということは、今までとは異なるやりかたで生産と消費のしかたを考えるということです。多くの場合、それは製品のデザインから始まります。その点、オランダにはとても強固なデザインの文化があります。」
「私は、いつもオランダの文化は水管理の歴史を紐解けば全てを理解することができると話しています。オランダには十分な土地も水がなかったので、だからこそ都市全体をデザインする必要がありました。オランダの国土の90%は人工的に人間がつくったもので、国をまるごとデザインしたようなものなのです。自然公園ですら、人工なのですから。」
「また、外部性を内部化するという点について、オランダ人は他国の人よりもはるかに得意だと思います。オランダ人は実利的で、トレードオフの感覚をよく理解しています。何かを引き換えにすることなく何かを手に入れることはできないということが分かっているのです。たとえば、オランダ人は高い税金を支払っていますが、それは質の高い生活にはお金がかかることを分かっているからです。」
経済性を重視するオランダ人の実利的な価値観は、そもそもオランダという国自体が大航海時代の到来とともに世界中から商人が集まり、移民も多く受け入れながら発展してきた国だという歴史が関係しているだろう。
オランダ人はよくダイレクト(直接的)と言われるが、多様な人が集まればよりローコンテクストで合理的なコミュニケーションが求められるし、商売人が集まれば経済性を重視するのはなおさらのことだ。世界初の株式会社として知られる「東インド会社」が象徴するように、現代の資本主義の出発点となった「株式会社」という仕組みを発明したオランダが、再びサーキュラーエコノミーという新たな経済パラダイムの発明において世界をリードしているというのはある意味必然と言えるのかもしれない。
取材後記
Corneliaさんへの取材は、「100%サーキュラーエコノミー」というビジョンは本当に正しいのか、アップサイクルは本当に素晴らしいのか、Sustainable Growth は本当に実現可能なのか、オランダは本当にサステナビリティの先進国なのかなど、常に本質を問い続ける時間だった。
欧州では、いまこうした本質的な問いに基づいて、これまでのサーキュラーエコノミーの方向性について再考するという流れも出てきている。1月21日、オランダの銀行最大手INGグループは、「Rethinking the road to the circular economy(サーキュラーエコノミーへの道を再考する)」というレポートを公表した。
同レポートでは、世界のサーキュラリティは2015年と比較して低下しているという衝撃的な事実とともに、そもそも「100%のサーキュラリティ」という目標は現実的でもなければ最適解でもないという指摘がされている。サーキュラリティという指標そのものは目的ではなく、あくまで環境負荷を軽減するための手段であり、本来の目的に立ち返ればより優れた別の戦略もあるということだ。例えば、自動車の製品寿命を伸ばすアイデアを考えるよりも、全てを電気自動車にしたほうがよいといったケースが挙げられる。
また、既存の経済システムは市場が生む負の外部性を内部化していないため、結果としてサーキュラーエコノミーは競争上不利な立場にあるという指摘もされている。Corneliaさんの主張と同様に、外部性を内部化する政策的介入が重要だとしているのだ。
オランダも、全てが上手くいっているわけではない。常にどちらが正しい方向なのか、議論と修正を続けており、実験と失敗を繰り返しながらより持続可能な経済と社会システムの構築に向けて進んでいる。その臨場感を実感できる取材だった。
【参照サイト】Sutainable Amsterdam
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