EUが電池規則のなかで義務付けているバッテリーパスポート(2027年2月開始)は、エコデザイン規則(ESPR)のもと今後段階的に導入されるデジタルプロダクトパスポート(DPP)としての初のユースケースとなる。EUでは、2027年に向けこのバッテリーパスポート開発プロジェクトがいくつかのイニシアティブにより進められており、欧州標準化委員会ではDPPの標準化作業が進行中である。

そうしたなか、ベルギーの生産者責任組織 Febelautoは、バッテリーパスポートが義務化される近い将来に向け、EV用電池を管理するデジタルプラットフォームを構築し2024年1月から実用化する。

バッテリーパスポート全容の詳細についてはDPPの標準化と欧州委員会による委任法令の発表を待つ必要がある。そのため、今回Febelautoが実現したデジタルプラットフォームは、来るバッテリーパスポートを完全に実現するものではない。一方で、輸入業者(または自動車OEM)に対し電池のトレーサビリティを保証するFebelautoのデータ管理プラットフォームは、デジタルパスポートの一部、特に自動車の回収からリサイクルまでの「下流部門」を実装するものである。もちろん同組織のプラットフォームは、数年後のバッテリーパスポート導入を踏まえたものであり、標準化後のDPPとの相互運用性についても考慮されている。

Circular Economy Hub 編集部では今回、Febelautoを率いるCatherine Lenaerts氏を取材し、同組織のEV用電池管理用デジタルプラットフォームについてお話を伺った。パスポートの全体像を示すものではないとはいえ、同組織のインセンティブ、実際の運用状況、コスト面に加えて、デジタルプラットフォームによるデータ管理がもたらす利点など、将来のバッテリーパスポート運用についても参考となる点は非常に多い。

※Febelautoは、ベルギーで自動車およびEV・ハイブリッド車用電池の拡大生産者責任制度を遂行する生産者責任組織(PRO)。EUにおける拡大生産者責任制度の施行形態は、加盟各国によって異なっており、自動車の回収からリサイクルまでPROが管理する形態(例:オランダ)もあるが、ベルギーではFebelautoが輸入業者から料金を徴収し、回収のみを管理している。

デジタルプラットフォームによるデータ管理とは?

Q:Febelautoは、EV用電池を管理するバッテリーパスポートの前身ともいえるシステムを業界では先頭だって導入しました。バッテリーパスポートは2027年2月にから義務付けられるものですが、このようなデジタルプラットフォームをすでに構築された背景には何があるのでしょうか?

A:我々は、輸入業者や自動車OEMに対し、率先してEV用電池のトレーサビリティを保証するデータプラットフォームを構築したいと考えていました。生産者責任組織として、それぞれの電池のトレーサビリティを提供することは非常に重要であると考えています。電池を管理するデジタルプラットフォームは今年1月から開始しました。デジタル化によって、大量のデータ搭載が可能となり、電池が移動するそれぞれの過程が登録され、常時電池のロケーションが確認できます。

デジタルプラットフォームのイメージ(写真:Febelauto)

手順は以下にようになります。自動車ディーラーやATF(認定自動車解体業者)が当組織のデータ管理プラットフォームへ電池情報を登録し、それぞれの電池やモジュールにデータへアクセスできるQRコードを貼り付けます。その後はQRコードをスキャンし、電池バリューチェーン上で次に電池を扱う事業者が我々のプラットフォームへ電池の登録を行います。QRコードをスキャンすれば、電池のステータス変化がすぐに分かるようになっています。電池がどこに到着したか、たとえば今検疫に到着、検疫を出発した、輸送途中、リサイクル施設へ到着、などのステップです。これらのデータは各事業者がアクセスできます。自動車の輸入業者(ベルギーの場合は国内に自動車メーカーがないため輸入業者となる)も今電池がどうなっているのかを調べることが可能です。

ユーザー全体の協調が鍵

Q:電池を管理するプラットフォームを構築する上での難点は?コストについてはどうでしょうか?

A:当組織では地元ベルギーのIT企業であるCuberdonと協力により、分析から始めてシステム実行までを共同で行いました。同社は小規模な会社なので、常時開発担当者と直接やりとりしてきました。承認や改善が必要な際も密に連絡を取り合い、必要なミーティングをすぐに持つことで更新なども敏速に進みました。一番大変なことは、ディーラーやATFに加え、運搬業者や保管業者など全てのユーザーをデータ管理システムを使用するよう教育し訓練することです。データ管理システムの運用における障壁の一つは、関わる全ての人が、必要な過程全てにおいて順を追ってシステムを使用しなければならないことでしょう。

当組織の担当者ソフィーはこの難しい作業をやってのけました。彼女は常にユーザーとの対話を持ち、適切なシステムの使用法を説明しています。またシステムについて最も重要なことは、ユーザーフレンドリーであることです。そうでなければ一部のユーザーが使えないというような事態が起こりますから。できる限りシンプルにすることが最良の策です。加えてユーザーとのコミュニケーションが上手に取れる人材も必須です。

システム設置におけるコストについては、もちろん初期投資が必要になります。今回のシステム設置にかかった費用の予算は約10万ユーロといったところでしょうか。加えて運用コストも必要です。あくまでベルギーの一例ですが、この額なら3年以内に償却が可能です。

データ管理システムがもたらすものとは?

Q:電池データの管理システムの大きな利点とは?

A:最も大きな利点は、あらゆるパートナーといつでもどこでも電池のトレーサビリティが可能になったことです。電子化は今後増加していく電池の大量データを管理する唯一の方法です。これまでは、データ管理にエクセルシートを活用していましたが限界がありました。デジタル化によって処理できる量が大幅に増えます。時間の大幅な削減にもなります。これは全てのバリューチェーン上のプレーヤーにとって同じです。そして結果的にコストの削減にもつながるのです。時間の節約はコストの節約でもあるからです。事業効率も大きく上がりました。当組織では、システムの運用を開始してからすでに昨年との比較で5倍の量の電池を回収しています。

Q:電池のバリューチェーン上のプレーヤーは、デジタルプラットフォームへ必要な情報を提供する必要があります。その意味で今回のプラットフォーム構築にあたり障壁などは?

A:当組織の現在のシステムは、義務化されるバッテリーパスポートのなかでは電池の回収過程以降の「下流部門」へのみへ対応するものです。当組織にとっては特に大きな問題はありませんでした。

ただ、「上流部門」において起こりうる問題については、デジタルパスポートの全体像を見る必要があります。特に繊細な情報を提供するのは上流部門になります。現在電池規則で義務付けられるバッテリーパスポートの全容が徐々に明らかになりつつあり、たとえば上流部門におけるサステナビリティ条件などについてもステークホルダーが協力し、作業が進められています。また欧州委員会もさらなるバッテリーパスポート要件の詳細を示す委任法令の作成に取り組んでいます。

当組織のプラットフォームでは下流で必要なデータを作成・搭載していますが、例えば我々リサイクルに関わる者としては、電池化学物質の構成に関する情報も必要です。今のところはディーラーや輸入業者が提供するデータに頼っていますが、十分ではありませんし正確さに欠ける部分もあります。彼らは電池の製造業者ではありませんから。現在はこれらの業者自体も正確なデータへのアクセスが難しい状況です。全てが紐付けられれば、我々だけでなくリサイクラーやリパーパス業者※にとっても非常に有益です。電池の化学物質に関する正確なデータの利用価値は高いのです。まだ少し時間がかかりますが、これを実現するのが規制下のバッテリーパスポートなのです。

※使用済み製品を目的を変えて別の製品に組み込み、再度活用するビジネスを行う業者

来るバッテリーパスポートとの連携は?

Q:今回開始されたデジタルプラットフォームに搭載されているデータについては、すでに電池規則に対応しているのでしょうか?カーボンフットプリントなどについてはまだ委任法令などの補足規制採択を待つ必要がありますが、すでに実験的なデータ提供などがあるのでしょうか?

A:当組織は、バッテリーパスポートについて実際どのように機能するのか、どのように実装するのかなどを理解するために、さまざまな調査を実施しました。当組織のプラットフォームは基本的にバッテリーパスポートの要件に沿っていますが、規制上のパスポートへの対応義務は生産者にあります。したがって当組織がバッテリーパスポートを市場に投入するわけではありません。当組織の主目的は、輸入業者や組織の顧客に対し、トレーサビリティを保証することです。しかしながら、当組織のプラットフォームはAPIを通じて、バッテリーパスポートやその他のツールへ全て接続できるようになっています。そのため、電池規則が義務付けているバッテリーパスポートとそのほかのデジタルプラットフォームとの相互運用性についても問題はありません。

カーボンフットプリントやデューデリジェンスについては、今のところデータの搭載はありません。ただ、現在当組織FebelautoとしてのESGレポートの作成作業を行っており、2025年1月中にはデータセット作成が完了する予定です。そのなかでは、電池リサイクルでどのようにCO2排出が軽減されるのかについても明らかになります。

準備はできるだけ早く

Q:これからバッテリーパスポートをはじめとするデータ管理プラットフォームの構築へ向け準備を進めている日本企業へ向けたアドバイスや奨励事項は?

A:デジタルプラットフォーム活用における利点は多く、義務化を前にできる箇所や必要な箇所から始めるというのも一案です。もちろん欧州標準化委員会や欧州委員会による補足規制の発表を待つ必要はありますが、グローバルバッテリーアライアンス(GBA)などのバッテリーパスポート開発のイニシアチブは、これらの組織と密接に連絡を取り合っており、更新情報を公開しています。こうしたイニシアチブ等から常に最新情報を入手しながら、できるだけ早く準備に取り掛かることも重要だと思います。

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