サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデルにはさまざまなモデルがある。代表的なものとして、シェアリングエコノミー・リサイクルモデル・循環型原材料の利用・製品の長寿命化・製品のサービス化(PaaS)などが挙げられる。ここでは、循環型原材料の利用について取り上げていこう。
1.循環型原材料の利用とは?
循環型原材料の利用とはその名の通り、循環型原材料(再生(リサイクル)された原材料や生物由来の素材など)を製品に利用すること。英国サーキュラーエコノミー推進機関エレン・マッカーサー財団が提唱するバタフライダイアグラムでは、環境負荷の大きさの観点から、製品の長寿命化・シェアリング・修理などを通じた製品の維持が、リサイクルよりも優先される。
しかし、これらの施策を駆使しても、寿命を迎える時がやってくるだろう。その際、循環型原材料を使用することで、原材料まで廃棄・焼却・埋立をする必要がなくなる。
2.循環型原材料の利用の方法
製品のライフサイクルには大きく分けて、「原材料調達」「設計」「製造」「流通」「消費」「廃棄・回収・再生」の段階があるが、このモデルは主に「原材料調達」の段階に焦点を当てている。ただし、「設計」や「廃棄・回収・再生」に大きく関わることもある。
例えば、自社内で循環させようとする場合、循環型原材料の利用とセットで考えられるのが「回収」。これまで廃棄物と見なされていた自社の製品を回収し、リサイクルする仕組みを構築するというものだ。
上記を踏まえたうえで、詳しく見ていこう。循環型原材料の利用の方法には、下記の2つがある。
- 循環型原材料を外部から調達する方法(循環型原材料の利用)
→主に「原材料調達」にアプローチするもの - 自社内あるいは自サプライチェーンで完結する方法(循環型原材料の利用と回収網の自社内構築がセット)
→主に「原材料調達」と「廃棄・回収・再生」にアプローチするもの
1.は、まずは循環型原材料を調達するところからスタートするため、比較的ハードルが低いといえるだろう。ただし、循環型原材料の調達はあくまでも過程であり、その後のライフサイクルでどのように循環させていくかを考えていく必要がある。
2.は自社内あるいは自サプライチェーンで循環を完結させるため、1.よりも導入に当たっての難易度は高くなる。また、自社内で完結させるためには、回収量や設備・人材リソース等が十分に確保されていることが条件。しかし、このモデルが構築されれば原材料の調達がより持続可能なものになる。
1.と2.のどちらを導入しやすいかは業界の特性にもよる。例えば、ファッション業界のあるブランドが自ブランドだけで循環を構築する上記2.を目指そうとすると、回収量が不足していたり、回収網の構築に多大なコストがかかってしまったりすることがある。どちらが適しているか、業界の特性や自社の事情を見極めながら判断していくとよいだろう。
3.循環型原材料の利用のメリット
このモデルにはさまざまなメリットがある。ここでは、「製品提供者にとってのメリット」「消費者にとってのメリット」「外部環境にとってのメリット」に分けて挙げていく。
3-1.製品提供者にとってのメリット
- 原材料調達の安定につながる。つまり、原材料の市場価格リスクに対して「レジリエンス(耐久性)」を高めることができる。さらに、原材料調達コストを抑えられる可能性がある。(経済的メリット)
- 回収網を構築することで、顧客との接点が増える。(経済的メリット)
- 静脈物流(リバースロジスティクスと訳されることもある。消費者から生産者への物流の流れ)にビジネスモデルを最適化するきっかけが生まれる。例えば、IoTなどのデジタル技術の導入により、消費者の製品の利用状態などを把握することが挙げられる。そこで新たなビジネスチャンス(製品のサービス化モデルの採用など)が生まれることもある。
- バージン(新品)原材料の利用量が減るため、資源の枯渇リスクが低減する。(環境的メリット)
- サステナブルマーケティングやブランディングにつながる。そのため、新たな顧客層へのアプローチが可能になる。(経済的メリット)
3-2.消費者にとってのメリット
- 循環型原材料の利用により、より安い価格で購入できる可能性がある。(経済的メリット)
- 寿命を終えた製品を回収後継続して買うことで、次回購入特典など経済的メリットが生じる。(経済的メリット)
- 持続可能な生活を送りたい消費者にとっての選択肢が増える。(環境的メリット)
3-3.外部環境にとってのメリット
- 新たな原材料の利用を抑え、地上資源の利用を目指すため、環境負荷が低減する。(環境的メリット)
- 新たな雇用機会が生まれる。(例えば、EUではサーキュラーエコノミーの移行により2030年に70万人の雇用創出の機会が生まれるとしている)または、業種や職種のシフトが起こる(再生資源を利用するデザイナー・リサイクル業者や、デジタル技術者など)(社会的メリット)
上記、それぞれメリットを挙げましたが、課題もある。
それぞれの経済的メリットには「可能性」という言葉を使った。ペットボトルを一例に挙げると、盛んな再生ペットの需要や石油価格の低下により、再生ペットが石油由来の新品のペットよりも高くなるケースが発生しており、再生ペット購入に対するハードルが高くなっている。この点は政策や設備投資などによって改善が待たれるところだ。(欧州では市場原理を利用して、政策や設備投資によって再生ペットの価格を抑えることを目的とした施策が進められている。)
ほかにも、静脈物流の構築により、多くのCO2が排出される可能性がある。部分的な改善が、一方では改悪になっていることもありえる。
したがって、これらの課題に留意しながら進めていく必要があるだろう。
4.「循環型原材料の利用」モデル導入にあたり、ポイントとなること
このモデルを導入するにあたって、ポイントとなることを事例を交えて紹介する。
4-1.ロードマップを作成する
循環型原材料の利用の実現は、一筋縄にはいかないだろう。そのため、循環型原材料の利用率の短期的・長期的目標を定め、その実現のための方策を検討することが現実的なアプローチといえる。また、それらを開示することも透明性確保とマーケティング・ブランディングという観点から有効だ。大切なことは、向かう方向性を対内外に示し、実現に向けて動くということである。
【事例】New Plastics Economy Global Commitment
エレン・マッカーサー財団が主導するNew Plastics Economy Global Commitmentは、「2025年までにすべてのプラスチック包装を100%再利用・再生・堆肥化可能にする」「プラスチック包装の再生材利用率の2025年の野心的な目標を定める」などの6項目の目標を掲げるイニシアチブだ。ダノンやネスレ、ユニリーバやウォルマートなど世界を代表するグローバル企業など約450社以上が署名しています。従来の「漸進的な(incremental)改善」や、製品ライフサイクルの川下(消費者に一番近い段階)のみに焦点を当てることの限界を克服することが目的の一つだと明記されている。
さらに、常に前進する姿勢を追求することや、それを対外的に透明性を持って示していることも特徴だ。2019年には進捗レポートを公開し、「これまでにない透明性(unprecedented transparency)」によって、176社と14の政府を含む公共機関がそれぞれの進捗状況を公開した。
4-2.静脈物流(リバースロジスティックス)や回収網の構築
回収網を構築するには物流業者とリサイクル業者(廃棄物処理業者)や自治体などとの連携が重要となる。循環型の仕組み構築を目的とすることで、従来の枠を超えた連携が生まれている。
【事例】マクドナルド(蘭)・HAVI・ネステの再生ディーゼル事業
オランダのマクドナルドは、大手外食チェーンの物流を手がけるHAVIと提携、店舗で使うフライドポテト用の油を回収。それをフィンランドの燃料大手ネステにより再生ディーゼル燃料に変換し、HAVIが利用するという仕組みだ。この事例は物流と回収網がポイントで、今までになかったようなパートナーシップの構築という面でも特徴的である。
4-3.理念を共有できるパートナーシップ
SDGsやサーキュラーエコノミーの文脈ではよくいわれることではあるが、理念を共有できるパートナーシップが「再生原材料の利用」モデル実現のカギとなる。先に述べたように、ポイントとなる静脈物流や回収網構築や回収量の確保、リサイクル業者との連携は自社単体では実現が難しいからだ。
【事例】再生紙おむつ(ユニ・チャーム)
2019年10月、日用品大手のユニ・チャームは、紙おむつのリサイクル技術(正式には、「衛生物品に利用可能なレベルにまで再生する技術の構築」と、「再資源化した原材料を用いた紙おむつ等の試作品」)を確立したと発表、2021年までに商品化する意向を示している。
この紙おむつのリサイクルには、もともと2016年から鹿児島県志布志市と地元のリサイクルセンターの3社で協定を結び、共同調査を実施してきたのが実を結んだものだ。同市の埋立てごみの約2割を占める紙おむつの処理に悩まされてきた自治体と、紙おむつ回収量を確保して技術の確立を進めたい両者の意向が合致。ちなみに、志布志市の担当者が送信した一本のメールでこの連携がスタートしたそうだ。
4-4.顧客エンゲージメントの深化
回収を視野に入れると、顧客との接点が増えることになる。増えた接点をどう活かしていくかがポイントとなるだろう。
【事例】ペットボトル回収プログラム(セブン&アイ・ホールディングス)
セブン&アイ・ホールディングスのペットボトル回収プログラムは、顧客が店舗にペットボトルを持参してもらうことで、獲得したリサイクルポイントを電子マネー「nanaco」のポイントに変換できる仕組みだ。ペットボトルを店舗に持ってくる方は、店舗内で買い物をする場合が多いだろう。「回収」という視点を入れることで、顧客との接点を増やし、来店頻度を高めることを含めた顧客エンゲージメントの向上が図れるだろう。
4-5.設計の観点
循環型原材料が従来型の新品の原材料に置き換えるものとなるかどうかを十分に検討しなければならない。例えば、再生素材の導入によって、デザインや質、衛生面などが劣ってしまうなどといったことに注意する必要がある。
4-6.デメリットも考慮する
最後のポイントは、廃棄量の増加に留意することである。循環型原材料の導入によって、廃棄に対する心理的ハードルを下げるものであってはいけない。つまり、「サステナブルな素材で、いくらでも再生できるから廃棄してもよい」という思考に陥ってしまっては、循環させ環境負荷を低減させていくという本来の目的が達成できないばかりか、廃棄コストや物流コスト、人材コストなどの経済・環境・社会コストが大きくなってしまいかねない。この点は、冒頭述べた、循環の優先順位を認識することや、全体の環境負荷やバリューチェーンのつながりに留意する「システム思考」が役に立つだろう。
【参考サイト】サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデル「PaaS(製品のサービス化)」とは?
【参考サイト】Circular Economy Hub Learning #3 (動画「Dame Ellen MacArthur: food, health and the circular economy」よりバタフライダイアグラムの解説)
【参考サイト】New Plastics Economy Global Commitment
【参考レポート】THE NEW PLASTICS ECONOMY GLOBAL COMMITMENT 2019 PROGRESS REPORT
【参考サイト】ネステ、蘭マクドナルドの使用済み油回収事業を発表。HAVI輸送車の燃料に利用
【参考サイト】ユニ・チャーム、2030年までに再生電力比率100%、使用済み紙おむつの再生事業開始へ
【参考サイト】ペットボトル自動回収機
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD Business Design Lab」からの転載記事の一部改変版です。