熊本県阿蘇郡南小国町に本拠を置く黒川温泉観光旅館協同組合は2月13日、地元農家と連携し、南小国産のあか牛を軸とした循環の生態系を未来に継いでいく「つぐも」プロジェクトを開始することを発表した。
同協同組合によると、南小国町ではいくつもの地域資源が循環しており、持続可能な生態系を形作っている。同町には、千年以上前から人の手で維持されてきた阿蘇の広大な草原、江戸時代中期から旅人を招き入れ、温泉により人々の心身を癒してきた黒川温泉があり、あか牛の放牧や野焼きによる草原の維持、畜産や稲作に結びつく草原の活用、景観や多様性の保全などの循環型農業などを行ってきた。
こういった自然共生の営みが根付く土地にある「景観」「農業」「観光」という3つの循環を、あか牛を軸に結びつけるべく、南小国で生まれ育ったあか牛を肉にして、南小国の旅館や飲食店で人々に還元するプロジェクトが「つぐも」だ。「つぐも」は地元住民だけでなく、この地を訪れる人々とともに進めていくプロジェクトで、「黒川温泉を訪れ、湯に浸かり、あか牛を食する」ことが地域の経済・雇用・文化を守り、継いでいく“次の100年へ”の一歩となると同協同組合は考える。
つぐもの名称について
「継ぐ」と「牛(モー)」を意味する造語。地元産の「あか『牛』」で、南小国にある循環の輪を百年後へ『継ぐ』ことを意味する。南小国町におけるあか牛を中心とした資源循環の生態系システムの総称で、牛の歩みのように独自のゆったりとした速さで、着実に未来へ向かう想いを込めて同協同組合が名付けた。
つぐもプロジェクトのあか牛について
つぐもプロジェクトのあか牛は、南小国町で最初から最後まで育てられたあか牛である。
- ”顔の見える範囲で資源循環を実現したい“という想いのもと、一年のほとんどの期間、あか牛を野草地へ放牧し、草原や地元で採れる粗飼料などで育てている。生産者の顔や育成方法が見えることで、トレーサビリティを確保し、安心・安全な肉として食べられると同協同組合はみている
- あか牛は少人数の地元農家が育てるため、急に頭数を増やせないが、少しずつ黒川温泉や地元飲食店に提供できるように取り組んでいる。その速さはゆっくりであるものの、この自然の速度をつぐもプロジェクトは大切にしている
- 阿蘇の野草地に放牧し、草や粗飼料を主食とする育成管理のため、資源には限りがある。つぐもプロジェクトは地域の資源を損なわない規模での需要と供給に基づいた循環の生態系を目指している
(出典:黒川温泉観光旅館協同組合)
つぐもプロジェクトの活動
黒川温泉 あか牛ファンド
現在、日本国内の牛肉消費量において、あか牛の占める割合はわずか0.36%で(※)、高齢化や産業の変化などさまざまな理由から、年々あか牛を育てる農家の数も減っている。放牧される牛が減ることは、阿蘇の宝とも言える草原の減少にも繋がりかねないとつぐもプロジェクトは考えており、あか牛の頭数を増やし、草原を維持する活動に参加する手段として「あか牛ファンド」を立ち上げた。黒川温泉の加盟店で対象のあか牛プラン・メニューを食べると、1食につき50円が事務局に寄付され、あか牛(雌牛)の購入やPR活動、イベントなどに使われる。
(出典:黒川温泉観光旅館協同組合)
プロジェクトの舞台、南小国町
九州のほぼ中央、阿蘇外輪山のふもとに位置する南小国町は、黒川温泉をはじめとする多くの温泉地を有し、世界ジオパークや世界農業遺産にも認定された阿蘇の豊かな自然に囲まれた土地である。古くから高冷地野菜の栽培や林業が盛んであったが、近年は温泉地の人気が高まり、「2009年版ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で黒川温泉が二つ星を獲得するなど、海外からの注目も高まる。四季折々に移り変わる阿蘇の雄大な景色を眺められる「瀬の本高原」や、太古の遺跡ともいわれるパワースポット「押戸石」なども人気の観光地となっている。
黒川温泉について
雄大な眺望が広がる阿蘇地域の奥深い山間地に黒川温泉は位置する。自然環境と調和した景観づくりと露天風呂を巡る”入湯手形”で、ここにしかない世界観を作り上げてきたと同協同組合は考えている。現在は年間約100万人が訪れ、温泉めぐりや自然景観が人気である(うち宿泊者は年間30万人)。1986年から推進してきた温泉地の景観づくりが評価され、上述のミシュラン・グリーンガイド・ジャポンでの評価のほか、グッドデザイン賞特別賞や第1回アジア都市景観賞など数多くの賞を受賞している。
(出典:黒川温泉観光旅館協同組合)
【プレスリリース】阿蘇・南小国町の資源循環の取り組み、次の百年を作るあか牛”つぐも”プロジェクトが始まります
*冒頭の画像の出典:黒川温泉観光旅館協同組合