インドネシアのバイオマテリアル・スタートアップであるBell Living Lab(ベル・リビング・ラボ)は、コーヒー生産過程で発生する副産物をヴィーガンレザーやバイオ複合材へ転換する技術の実装を進めている。2月7日、新潟県の日本酒蔵である津南醸造株式会社は同社を訪問し、酒造りで培った微生物制御技術の応用を視野に入れた共同研究の実施に合意した。

世界有数のコーヒー生産国であるインドネシアでは、コーヒーチェリーのパルプ(外皮)やチャフ(銀皮)など、多くの副産物が発生している。バンドン工科大学(ITB)発のスタートアップであるBell Living Labは、そうした副産物を単なる廃棄物ではなく、微生物の栄養源となる培地としてとらえ直し、高付加価値な素材へとアップサイクルする研究開発を進めてきた。2025年には、日本企業向けの共創ピッチセッションにも登壇し、コーヒー廃材を活用した素材開発や用途展開を紹介している。

同社の中核技術は、特定の菌株を用いた細菌発酵によって、高純度のセルロースナノファイバーを生成するプロセスにある。そこから生まれるのが、革状素材「M-Tex」だ。Bell Living Labは、コーヒー由来の副産物をもとに、革代替素材だけでなく、ボード材や複合材などへの展開も進めている。

コーヒーパルプの乾燥物
コーヒーパルプの乾燥物
コーヒーパルプを発酵させるための前処理プロセス
コーヒーパルプを発酵させるための前処理プロセス

今回の共同研究で焦点になっているのは、コーヒーと酒造という異なる領域にまたがる発酵プロセスの共通性だ。新潟県の津南醸造では、麹菌(Aspergillus oryzae)と酵母の相互作用を最適化しながら日本酒を生産している。

一方、Bell Living Labの施設でも、セルロースシートを育てる発酵トレイの中で複数の微生物が働いている。津南醸造が微生物の働きを通じて米から香味とアルコールを引き出すのに対し、Bell Living Labはコーヒー由来の副産物から建材や革代替素材を生み出している。

こうした微生物を扱う生産技術という観点から、両者は、津南醸造が酒造りの現場で用いているデータ計測や微生物制御の手法を、M-Texの細菌成長管理に応用できないか議論した。温度、pH、湿度をより高い精度で管理できれば、生産速度の向上や品質の均一化につながる可能性があり、将来的な量産にもつながっていきそうだ。

シート形成のための発酵プロセス
シート形成のための発酵プロセス
発酵によって得られたコーヒーパルプ由来のシート
発酵によって得られたコーヒーパルプ由来のシート

今回の連携は、農業や食品の副産物を微生物の力で新たな素材に変えていく試みとしても注目される。酒造りの現場で培われてきた知見が、バイオマテリアルの生産管理に応用されれば、地域資源の活用と素材産業の高度化をつなぐ接点として位置づけられる。

今後の共同研究では、日本のゲノム解析技術を活用した高効率なセルロース生産菌の特定や、津南醸造の酒粕をBell Living Labの培地として活用するアップサイクルの検証、さらに日本市場への導入可能性に向けた検討が進められる予定だ。

※記事内の画像はPR TIMESより引用

【プレスリリース】津南醸造は、コーヒー廃棄物から「ヴィーガンレザー」を生み出すインドネシアの『Bell Living Lab』を訪問しました
【参照記事】【11月20日】Third Ecosystem × バンドン工科大学 インドネシア素材スタートアップ&日本企業 共創ピッチセッション開催
【参照レポート】Coffee Market Report – August 2025
【参照レポート】Mekonnen, M.M. and Hoekstra, A.Y. (2010) The green, blue and grey water footprint of farm animals and animal products, Value of Water Research Report Series No. 48, UNESCO-IHE.
【参照レポート】European Commission (2013) Best Available Techniques (BAT) Reference Document for the Tanning of Hides and Skins.
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