中部経済産業局は5月26日、自動車産業のサーキュラーエコノミー(CE)移行に向けた中期的アクションプラン作成に関する調査報告書を公表した。この報告書は、中部地域の基幹産業である自動車産業のCE移行を目指し、2035年を想定した資源循環モデルの実現に向けた課題整理と具体的な取組の方向性を示している。特に「アルミニウム展伸材」と「駆動用モーター」が重点検討テーマとして設定され、それぞれの資源循環モデルとアクションプランが詳細に検討された。

背景には、自動車産業において、欧州のELV規則案(使用済み自動車に関する規則案)が発出されるなど、資源循環を取り巻く環境が急速に変化していることがある。現行の自動車リサイクル法では高い再資源化率を達成しているものの、その多くはカスケードリサイクルやサーマルリカバリーであり、水平リサイクルはほとんど進んでいないという課題認識が示された。中部経済産業局は、令和5年度にまとめた水平リサイクルに関する課題やアクションプランを踏まえ、自動車メーカーや静脈企業単独では対応が難しい課題について、動静脈双方の企業と議論を重ね、具体的なアクションを検討してきた。

今回の調査では、自動車メーカーとの意見交換を経て、「アルミニウム展伸材」と「駆動用モーター」が重点検討テーマとされた。これは、資源の重要性やリサイクルの難易度、経済安全保障上の意義などを考慮して選定されたものだ。

アルミニウム展伸材については、「素材」の資源循環という観点から再生資源の供給強化が目指された。2035年を想定した資源循環モデルでは、循環の鍵となる要素として、資源循環の可視化と環境性能に対する価値創出、部品リユースの促進、選別技術の向上、解体・破砕時における再生資源の適切な管理、そして再生アルミニウム6000系の製造・供給体制の確立が挙げられた。現状の課題として、再生アルミ展伸材を使用した部品に関する品質・耐久性等のデータ不足や、精緻な解体方法が確立されていないこと、高品質なスクラップに関する規格や品質管理ルールが存在しないことなどが指摘された。これらの課題解決のため、特に素材メーカーと静脈企業の連携により、再生アルミ展伸材規格と高品質スクラップ規格を連動させて策定することの重要性が強調された。具体的には、再生資源使用量の目標設定、易解体設計の推進、CEコマースの検討、トレーサビリティ確保のためのデータ管理体制構築などがアクションとして提案されている。

駆動用モーター(磁石)については、「部品」の資源循環という観点から部品レベルでの循環促進、特にリファービッシュ(再生修理)を中心としたビジネスモデルの構築が検討された。希土類元素を含む永久磁石は経済安全保障上も重要であり、その国内循環体制の確立が急務とされている。2035年を想定した資源循環モデルでは、使用済み駆動ユニットの回収から、診断、リファービッシュ、再製品化、そして長期利用を促進する仕組みが描かれた。課題としては、リファービッシュを前提とした設計がなされていないこと、モーターの長期利用に関するデータが不足していること、効率的な回収・診断・リファービッシュプロセスが確立されていないことなどが挙げられた。これに対し、駆動ユニットメーカー、リファービッシュ事業者、使用済み駆動ユニット回収事業者の三者間でのパートナーシップ形成を通じて、高付加価値なリファービッシュ部品の性能保証体制を構築することが提案された。具体的には、循環指標ガイドラインの策定、モーターの長寿命化設計と品質保証、CEコマース制度の活用、使用済み駆動ユニットの回収体制構築、マテリアルリサイクル技術の高度化などがアクションとして示されている。

中部経済産業局は今後、この報告書でとりまとめた内容を業界団体などへ提案し、サーキュラーパートナーズ(CPs)といった既存の産官学連携の枠組みとも連携しながら、自動車産業のCE移行に向けた取り組みを加速化していく方針だ。CPsは、経済合理性を確保した循環経済の実現を目指し、ビジョン・ロードマップ策定や情報流通プラットフォーム構築などを進めている。

【プレスリリース】自動車産業のサーキュラーエコノミー移行に向けた中期的アクションプラン作成に関する調査報告書をまとめました
【調査報告書】自動車産業のサーキュラーエコノミー
への移行に向けた中期的アクションプラン作成に関する調査事業 調査報告書(PDF)

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