今や、プラスチックは私たちの生活にあふれている。世界全体のプラスチック製造量は1960年代の150万トンから現在では年間約4億トンへと激増しており、海洋プラスチック汚染も深刻化している。
こうした状況の中、多くの企業や自治体がすでに様々な対策を始めているが、欧州科学アカデミー諮問委員会(The European Academies’ Science Advisory Council 、以下EASAC)は、現在の取り組みはプラスチック危機を回避するうえでは十分に効果的とはいえず、消費者の誤解を招くものもあると警鐘を鳴らしている。
EASACは最新レポート”Packaging Plastics in a Circular Economy” (サーキュラーエコノミーにおける包装プラスチック)のなかで、業界や欧州の議員はプラスチックの生産から使用後に至るまで、システム全体にある矛盾に対処するべきだと提言した。
環境や生物多様性、究極的には人間の健康リスクへのダメージを遅らせ、改善するためにも、バリューチェーン全体における抜本的な制度改革を求めている。具体的には下記7つの提言をしている。
- プラスチック廃棄物の輸出禁止
- 埋立地へのプラスチック廃棄ゼロ目標の設定、プラスチック消費と使い捨ての最小化
- 環境汚染を招くプラスチックメーカーや小売業者へ課税、リサイクルプラスチックへの減税
- 「バイオ」原料の代替品リスクの周知
- 効率的なリサイクルシステムの確立と高度な再処理技術の促進
- リサイクル性向上のため添加物や複数の樹脂混合を制限
- プラスチック税の導入やリサイクルプラスチックの含有義務化
注目すべき点の一つが、生分解性プラスチックへの切り替えは資源や環境の見地から理に適っていないと明言している点だ。プラスチックのほとんどは高い耐久性が求められるため、自然界で分解するという機能とはトレードオフがあり、結果として真に環境面で優れた生分解性プラスチックの実現は困難なままとなっている。海洋環境での生分解試験に合格できる製品は限られており、そういった製品でさえ数ヶ月はその形状をキープしたまま自然界に漂い、生物に摂取されるリスクを残してしまうのだ。
また、現在のバージンプラスチック素材には化石燃料の採掘などにより生じる環境・社会コストが含まれておらず、不当に安い価格で提供されているため、これは市場の失敗であり、リサイクルプラスチックに対する需要創出の妨げとなっていると指摘している。
EASACの Michael Norton教授は「循環型プラスチック経済に向けて取り組みをスピードアップするためにも、ヨーロッパの議員は規定やインセンティブを導入すべき。プラスチックグッズやパッケージの再利用やリサイクル率の劇的な改善を目指し、そして何よりもゴミが全く自然界に流れ出ないようにしなければならない」と語っている。
プラスチック汚染が深刻化するなか、一部の意識が高い消費者や企業の努力だけではもはや現在の危機に対処するには不十分となっている。政府や自治体が介入し、プラスチックのサーキュラーエコノミーに経済的な合理性が生まれるよう、法制度や政策的インセンティブによりシステム全体のルールを抜本的に改革する必要性が高まっているのだ。
【参照記事】”Plastic Crisis Requires Fundamental System Change”
【参照レポート】”Packaging plastics in the circular economy”