プラスチック汚染対策についての法的拘束力を持つ国際条約の制定に向けて、8月15日までスイス・ジュネーブで行われていた第5回政府間交渉委員会(INC-5.2)が閉幕。最大の焦点だったプラスチック生産量の国際的な削減目標の設定で、前回2024年末の交渉会合(INC-5)に続いてまたも合意に至らなかった。参加国の間からは交渉会合のあり方を見直すべきだとする発言もあり、プラスチック条約をめぐる交渉は暗礁に乗り上げた格好だ。

8月4日から14日までの日程で開催される予定だったINC-5.2では、13日にバジャス議長(エクアドル)から新たな条文案が示された。プラスチック原料を供給する産油国や米国などが強く反対していたプラスチックの生産規制に関する条項が削除されたため、国際的な生産規制を支持するEUやアフリカ、島しょ国などが猛反発。15日まで会期が延長されたものの、合意できなかった。

13日に示された議長案は、条約について国際的に拘束力のある措置ではなく自主的な措置であるとした。また、これまでの議論で選択肢とされていた環境汚染につながりやすい使い捨てプラスチック製品の段階的な禁止や、人体に有害な化学物質の規制が削除された。さらに、条約の締約国会議(COP)での意思決定に過半数ルールを盛り込むことも見送られた。

15日に行われた最終の全体会合では、議長が後日再開する旨を表明したものの、具体的な期日などは決まらないまま閉幕した。

閉幕を受けて、国際的な拘束力を持つ野心的な条約を求める300社以上の企業でつくる国際プラスチック条約企業連合は声明を発表。この中で「残念ながら、各国間の合意は依然として得られておらず、これにより、プラスチック汚染対策の重要な措置がさらに遅延し、効果的な調和のとれた規制がもたらす経済的利益を享受する機会が失われている」と懸念を示した上で、世界の政策決定者らと協力して企業が求めるグローバルに調和した規制の実現を支援し、大多数の国々が望む方向性に向けて取り組む用意があると表明した。

今後の交渉の行方に関連して、オブザーバー参加していたWWFジャパン自然保護室 サーキュラーエコノミー・マネージャー 兼 プラスチック政策マネージャーの 三沢行弘氏は、閉幕後のメディア向けブリーフィングの中で「単にこのまま延長しても、全会一致にこだわる限り、次回でも野心的な条約はまとまらないだろう。われわれは、(国際的な拘束力を持つ)野心的な条約を求める国々に対して、別の交渉プロセスを求めていくことになるかもしれない」などと述べた。

日本政府の交渉姿勢について、同じくオブザーバー参加していた国際環境NGOグリーンピース・ジャパン グローバル・プラスチック・キャンペーンコーディネーターの大館弘昌氏は「今回、日本が加盟国間の合意形成に尽力した姿勢は評価できる。しかし、依然として議長案はプラスチック汚染の解決には程遠い内容で、将来的な規制強化にさえ反対する国もある。妥協点を見出すために立場の異なる国々が互いに歩み寄ることは重要だが、野心の低い国々に譲歩を重ねるだけでは、プラスチック汚染がもたらす危機的状況の解決にはつながらない。日本政府には、プラスチック汚染の規模に見合った実効力のある条約合意に近づけるべく、今後の交渉に臨むことを期待する」とコメントした。

【プレスリリース】
Our statement on the INC-5.2 outcome (Business Coalition for a Global Plastics Treaty)
States must choose new path as UN plastics talks collapse with no clear way forward(WWF)
【INC5.2】プラ生産削減、法的拘束力を含む条約締結に向けて粘り強い対話の継続をーー国際プラスチック条約は交渉難航、今回も合意ならず(グリーンピースジャパン)

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