プラスチック汚染対策についての法的拘束力を持つ国際条約の制定に向けて、12月1日まで韓国・釜山で行われていた第5回政府間交渉委員会(INC-5)が閉幕した。最大の焦点だったプラスチック生産量の国際的な削減目標の設定で合意に至らず、交渉は2025年に開かれる予定の次回会合に持ち越された。

今回の交渉では、プラ生産量の国際的な削減目標を盛り込んだ条約の制定を求める国々による「プラスチック汚染対策に関する高野心連合(HAC)」に参加する100カ国以上の代表団が、国際的な生産規制を条文案に盛り込まない限り議長案には賛成できない意向を表明していた。これを受けて、交渉委員会のバジャス議長は、世界的な削減目標を設けるとともに、各国が生産量の目標達成のために行った対応を報告するという素案を示したが、プラスチックの原料となる石油の産出国などは生産量の規制を条約に盛り込むことに反対する立場を崩さなかった。

このほか注目されていた人体や自然界に有害なプラスチックや化学物質の禁止や、途上国などでのリサイクルの促進を支援する資金枠組みについても、目立った進展は見られなかった。日本政府はHACには参加しているものの、国際的な生産規制の盛り込みを求めたHACによる提案には賛同しなかった。

「ライフサイクルにわたる国際的ルール確立を」「有志条約への準備を」との声も

INC-5終了を受けて、野心的な国際共通ルールの制定などを求めるグローバル企業などで構成する国際プラスチック条約企業連合は「世界的な段階的廃止や持続可能なプラスチック生産水準といった重要な要素について、100カ国を超える国々が義務化への支持を明確に表明したことはかつてなかった。議長からの最新文書は、将来の交渉の基礎となる製品設計と廃棄物管理に関しても一歩前進している」などと評価。さらに、「再開会合において、各国政府は選択を迫られている。ほとんど影響力のない条約の交渉を続けるか。あるいは、プラスチックの全ライフサイクルにわたる強力なグローバルルールに基づき、包括的な資金調達メカニズムを備えた条約に合意するか。世界275社を超えるわれわれのメンバーは、世界中の政策立案者と協力しながら、ビジネスが必要とし、かつ大多数の国が望む条約を確保する用意がある」などとコメントした。

一方、オブザーバー参加していた国際環境団体も相次いで声明を発表。グリーンピース国際プラスチック条約代表団代表のグラハム・フォーブス氏は「条約交渉の遅延は、人類と地球にとって厳しい結果だが、プラ汚染を何も解決できないような実効性の低い条約が合意されるよりは良かった」とした上で、「次回の会合で、各国政府はプラ生産を削減するための世界目標と施策を含む実効的な条約に合意することが求められる。また、有害な化学物質の規制、使い捨てプラスチックの廃止、リユースに関する目標、適切な資金案を盛り込むことも必要だ。さらに、INC事務局は包括的で公正な交渉プロセスを保証し、プラ汚染に最も影響を受けるコミュニティが参加することを優先するべきだ」などとコメントした。

また、世界自然保護基金(WWF)の国際プラスチック政策リードのエイリック・リンデバーグ氏は「各国政府がプラスチック汚染をなくすための法的拘束力のある条約の制定に合意してから1000日以上が経過し、5回の交渉会議が開かれた。この間、8億トン以上のプラスチックが生産され、そのうち3000万トン以上が海に流出し、野生生物に害を与え、生態系を汚染し、生命を破壊している。(中略)拘束力のある措置を盛り込んだ有意義な合意を望む大多数の国々は、議決権を行使するか、有志条約を採択する準備をすべきことが明らかになってきている。同じことを繰り返しても、私たちが切実に必要としている解決策は見つからないということだ」などと警鐘を鳴らした。

プラスチック汚染対策の国際条約化をめぐっては、今回の政府間交渉第5回会合(INC-5)をもって参加国間で条文案に合意した上で、2025年中に開く予定とされていた条約締約国会議(COP)を開催することを目指して交渉が進められていた。

【プレスリリース】

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