スイスに本拠を置く国際オリンピック委員会(以下、IOC)はこのほど、オリンピックを含む事業において、CO2排出量よりも除去量が多い「クライメート・ポジティブ」を2024年までに実現すると発表した。
深刻化する気候危機に対して、IOCは2030年までに直接的・間接的な温室効果ガス排出を45%削減するというパリ協定に沿った目標を掲げており、その実現のため、2024年までに30%削減達成という中間目標を設定した。IOCの持続可能性・レガシー委員会は、運営陣による支援のもと、両目標達成のための行動計画を策定している。
温室効果ガス排出量削減に加え、IOCはこれまで排出してきた温室効果ガスも100%以上相殺する。これは主に、アフリカのサヘル地域の砂漠化への対処のために国連が支援するイニシアチブ「グレートグリーンウォール」の一部である「オリンピックフォレスト」プロジェクトを通じて実施され、この相殺により2024年までにクライメート・ポジティブを実現できるとみている。IOCは、米化学大手ダウとのカーボンパートナーシップを通じて、2017年から2020年にカーボンニュートラルを達成している。2016年から2019年までの4年間で、IOCの年平均排出量はCO2換算で約5.3万トンであった。
今回の発表は、オリンピックをクライメート・ポジティブにするというIOCのこれまでの取り組みに続くもので、2030年以降、オリンピックの各組織委員会(以下、OCOG)には以下の義務があるとしている。
- 直接的・間接的な温室効果ガス排出を最小限に抑えて、相殺する
- オリンピック開催後も、永続的なCO2排出実質ゼロのソリューションを実装する
東京2020と北京2022を含む今後の全オリンピックにおいて、IOCは以下のカーボンニュートラルへの取り組みを実施している。
- 東京2020は、直接的・間接的な炭素排出量をすべて相殺する。オリンピックの知名度を活用して、水素自動車やリサイクルされた携帯電話でつくったオリンピックメダル、国民が寄付したプラスチック廃棄物でつくった表彰台などの持続可能なソリューションを紹介する
- 北京2022の全競技会場で100%再生可能エネルギーの使用を目指し、ほとんどの会場で低炭素型冷凍システムを使用する。気候への影響が少ない技術の使用は、中国と冬季オリンピックにおいて初となる
- パリ2024のCO2排出を回避・削減する対策のなかでも特に、会場の95%が既存または仮設のため、同大会のカーボンフットプリントは、前回の夏季オリンピックの半分に相当する約150万トンになると予想されている。さらに、新しい恒久的施設は低炭素なものにする
- ロサンゼルス2028は、根本的な再利用アプローチを採用。ロサンゼルスの最良かつ象徴的なスポーツ施設の活用により、新たな恒久的施設の建設は不要だ。同大会は、大規模なライブイベントにおける新基準設定を目的として、計画全体に有意義な持続可能性対策を組み込むことを約束している
持続可能性は、オリンピック・ムーブメント(※)の将来に向けたIOCの戦略的ロードマップ「オリンピック・アジェンダ2020」の3つの重要な柱の一つだとしている。IOCは、その知名度を活用して持続可能性の課題とソリューションを強調しており、以下の取り組み事例を提示した。
- スイスのローザンヌにあるIOC本部のオリンピック・ハウスは、世界で最も持続可能な建物の一つであるとしている
- IOC本部は、ワールドワイドオリンピックパートナーのトヨタが提供する水素自動車を車両の一部として使用しており、同地方初となる水素製造・燃料補給ステーションを設置した
IOCは、他のスポーツ組織による気候変動への取り組みを促進し、国際競技連盟(以下、IF)と国内オリンピック委員会(以下、NOC)が組織運営とイベントに持続可能性を取り入れることを支援する。また、国連の「スポーツを通じた気候行動枠組み(Sports for Climate Action Framework)」の開発と実施における指導的役割を担い、3つのOCOGと26のIF、および7つのNOCを同枠組みへの参加に導いた。現在、世界の184のスポーツコミュニティが同枠組みに署名している。今後も、IOCはその影響力を活用して、気候変動への取り組みを利害関係者や一般の人々に促していく意向だ。加えて、再生可能エネルギー・水素・循環型経済などの分野で、革新的な低炭素ソリューションの開発を促進するとしている。
IOCのトーマス・バッハ会長は、「健全な地球があってこそスポートができます。オリンピック・ムーブメントのリーダーとして、私たちには気候を保護する責任と機会があります。この野心的な目標により、当委員会はパリ協定の2℃目標に沿ったものとなり、気候変動への取り組みを進められます」と述べている。
IOCの持続可能性・レガシー委員会の委員長であるモナコのアルベール2世大公は、「パリ協定に沿ってCO2排出量を削減するという野心的な取り組みは、当委員会が気候危機にどれほど真剣に対処しているかを明確に証明しており、スポーツが世界的な取り組みにどのように貢献できるかを示す説得力のある例です」と語っている。
※:国際オリンピック委員会が主導する、オリンピック精神を推進する運動。フェアプレーの精神・友情・連帯を大切にしながら平和な社会を築き、人類の調和の取れた進歩を導くことを理想としている
【プレスリリース】IOC TO BE CLIMATE POSITIVE IN 2024