三菱ケミカルグループは7月18日、コーポレートベンチャーキャピタル子会社の米Diamond Edge Ventures, Inc.を通じ、革新的な油化技術を持つ豪州のLicella Holdings Ltd(以下、Licella社)に出資したと発表した。今回の出資は、Licella社が開発した技術のグローバル展開と商業化を加速させ、三菱ケミカルグループ自身のケミカルリサイクル事業の拡大と原料多様化を目的とするものだ。

Licella社が独自に開発した「Cat-HTR™」は、水が液体でも気体でもない特殊な状態である「超臨界水」を使い、使用済みプラスチックやバイオマスを分解して油状の物質を生成する技術だ。この油は精製を経て、新たな化学製品の原料や、航空業界の脱炭素化の鍵となる持続可能な航空燃料(SAF)などを製造するために利用される。廃プラスチックを化学的に分解し、原料として再生するケミカルリサイクルの一種であり、物理的なリサイクルが困難な複合素材のプラスチックなども処理できる可能性がある。

三菱ケミカルはENEOSと共同でプラスチックの油化ケミカルリサイクル事業を進めており、茨城事業所にはケミカルリサイクル設備を新設している。この設備で採用されている英Mura Technology社の「Hydro-PRT™」技術は、今回出資したLicella社のCat-HTR™技術を基に構築されており、今回の出資は既存事業との技術的な親和性が高い戦略的な一手といえる。

Cat-HTR™プロセスの大きな特長は、プラスチックだけでなく木質残渣などのバイオマスも原料として扱える点にある。これにより、原料調達先の多様化と安定化が期待できる。三菱ケミカルは2025年3月に、国内の森林資源を活用してSAFなどを製造する事業の商用化検討を発表しており、この計画においてもLicella社の技術活用を想定している。

三菱ケミカルグループは、経営ビジョン「KAITEKI Vision 35」で「グリーン・ケミカルの安定供給基盤」の構築を注力事業領域に掲げている。今回の出資を通じてLicella社との連携を深め、将来的なケミカルリサイクル設備の大型化も視野に入れながら、使用済みプラスチックとバイオマス双方を原料とする油化技術の社会実装とリサイクル事業の拡大を目指す方針だ。

Diamond Edge VenturesのCEOであるカーティス・シックナー氏は、「Licella社のCat-HTR™プラットフォームは、リサイクル困難な廃棄物やバイオマスを化学品やSAFへ転換するソリューションであり、我々が目指す『グリーン・ケミカルの安定供給基盤』の構築に不可欠なイノベーションだ。日本で森林資源を活用したSAF製造事業の検討が進むこの重要な時期に同社と提携することで、低炭素社会とサーキュラーエコノミーへの移行が加速すると確信している」と述べた。

Licella社の共同設立者兼CEOであるレン・ハンフリーズ氏は、「Licella社にとって極めて重要なこの時期に、Diamond Edge Venturesおよび三菱ケミカルグループと提携できることを光栄に思う。今回の支援は、我々のCat-HTR™プラットフォームが商業的に有望であること、そしてリサイクル困難なプラスチックやバイオマスに対し独自の低炭素ソリューションを提供できる能力を証明するものだ。我々は化石資源の代替となるソリューションを提供し、三菱ケミカルグループのビジョン実現に貢献していく」とコメントした。

【プレスリリース】超臨界水を用いた油化技術を有する豪州Licella Holdings社に出資~油化リサイクル事業の拡大と原料多様化を目指す~
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