シンガポールの南洋理工大学(以下、NTU)は、新しい電池をつくるために、果物の皮を使って使用済みリチウムイオン電池からレアメタルを抽出する方法を開発した。
世界の食品廃棄物は約13億トン/年(2011年)、電子廃棄物は5,360万トン(2019年)に上る。こうした状況のなか、今回のNTUの食品廃棄物と電子廃棄物を使って新たな資源をつくるアプローチは、サーキュラーエコノミーの発展を促すものとなる。
通常、使用済みリチウムイオン電池は500℃以上の高温で処理されてレアメタルが取り出されるが、処理工程において有毒ガスが放出される。そのため現在、強酸もしくは弱酸の溶液と過酸化水素を使用してレアメタルを抽出する方法も検討されている。しかし、それには有害な二次汚染物質が生成されたり、危険で不安定な過酸化水素に依存したりする問題がある。
そこで研究チームは生分解性物質であるオレンジの皮に注目した。オーブンで乾燥させて粉末にしたオレンジの皮と、柑橘系の果物に含まれるクエン酸を組み合わせ、使用済みリチウムイオン電池から約90%のコバルトやリチウム、ニッケル、マンガンといったレアメタルを抽出することに成功した。これは、過酸化水素を使用する方法に匹敵する効率となる。
さらに、回収されたレアメタルから電池を作成したところ、市販の電池と同様の容量が確認された。また、工程上で生成される廃棄物はわずかで無害であった。研究者らは、この新技術をスケールできるとみている。
現在、研究チームは回収された材料からつくる新しい電池の性能を改良するべく、さらなる研究を行うとともに、生産規模拡大とプロセス中に酸を使用しない可能性を模索している。
NTUのダルトン・テイ助教授は、「重要なのはオレンジの皮に含まれるセルロース(炭水化物の一種)で、抽出プロセス中に熱を加えると糖に変換される。これらの糖は使用済み電池からのレアメタル回収率を高める。フラボノイド(植物に広く存在する有機化合物群)やフェノール酸など、オレンジの皮をはじめ天然に存在する抗酸化物質(他の分子を傷つける酸化作用を抑制する物質)もレアメタル回収に寄与している可能性がある」と述べている。
「電子廃棄物の量が増えるにつれて、環境に配慮された処理方法が必要となる。われわれは、生分解性物質を使った処理が可能であることを実証した。資源の少ないシンガポールでは、あらゆる種類の電子廃棄物からレアメタルを抽出する都市採鉱のプロセスが非常に重要だ。レアメタルを可能な限り使用し続けるこの方法は、資源枯渇や電子廃棄物と食品廃棄物の問題解決にも貢献する」と、NTUのマドハビ・スリニバサン教授は語る。
同研究は、シンガポール国立研究財団とシンガポールの国家開発省および国家環境庁から支援を受ける。リチウムイオン電池の市場規模が拡大し都市採鉱の重要性が高まっているが、食品廃棄物と電子廃棄物を使って使用済み電池を再生するという新技術開発のさらなる進展が期待される。
【プレスリリース】NTU Singapore scientists use fruit peel to turn old batteries into new
【参考サイト】GLOBAL FOOD LOSSES AND FOOD WASTE
【参考サイト】The Global E-waste Monitor 2020: Quantities, flows and the circular economy potential